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一日目:ちこ編 03話

「まぁ、座ってよ」

心なしか静かなチーフの後について狭い事務所に向かい合うと
変な緊張感が生まれるもんで どーにも居心地が悪い。

悪い話なら早く切り出して欲しいのだけど、煙草に火をつけてのんきに座っている。

「あの。チーフ、あたしなんか・・・」

「んや、ちょっとな、 お前にお願いしたい事があるんだわ」

「ほぇ」 気の抜けた返事になっちまったw

「なぁ、ちこさぁ。 夜の部おまえチーフやんない?」

(!!!???)

「ぃや、急な話なんだけどな、新店舗開店のアシスタントでニ週間ほど此処に出られなくなるんだわ。 その間だけでいいんだけど」


突然のことすぎてどうしたらいいかわからん。。。
要するに、ニ週間だけこの【じゅごん】を守ればいいのか。

「学校どーすんですか。まだ学生ですよ、あたし」

「ほとんど行ってないだろ? そこで学生という盾は出しちゃいかん」

うまいいい訳が見つからないまま なんだかうまく丸め込まれてしまった感は否めない。
あきらかに人選ミスだとは思うのだが、明日からチーフに任命されてしまった。

引継ぎやら雑務でいつもより遅い帰宅になって、ふらふらとそのままベッドに倒れると、低い天井を見上げた。

(明日からか、、まぁどーにかなんべな・・)

ふっと意識が遠のいた瞬間。


「あぁぁ!!! みく子と再来週に約束しっ!!!」

急いで携帯を取り出しメモリを探す。

「ぁ、、、消えてる。。。。」

焦って色々いじってみても消えたメモリは出てこない。

やっぱりあの時 無理をしてでも話を聞いておけばよかった。

今になってみく子の表情が気になる。 落ち着かないまま睡魔に襲われたけれどすっきりしない毎日が続いてしまった。

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一日目:ちこ編 02話

バイト先へ向かう道の一つ目の路地を曲がる時、みく子と別れた場所を振り返ると
みく子の知り合いだろうと思われる人たちが集まりかけていた。
さっきまでの何か考えているようなみく子の表情はいつものみく子に戻っていた。
(大丈夫みたいだね)
ちょっと安心したあたしはバイト先へと急いだ。

バイト先の【じゅごん】はここから急げば十分の距離に位置する。
花屋【ふろーら・しょうだ】の三軒隣のビルの4Fで
昼は喫茶店、夜は和風ダイニングバーになるこの店の二十一時?深夜まで働いている。
ビルの中にはカラオケやらビリヤード・ダーツバーなんかも入っている。

そういえばみく子は花屋さんでバイトしてるって言ってたっけ。
あたしは、みく子の断片しか知らないことに気づいた。

それから知ってるのは。。。 早足と同じ速度で記憶を回転させる。

蜜くんという男の子と付き合っている事。
バイト先が花屋で志津さんとるどさんは面白い事。
路上で知り合ったたくさんの人たちの事。

ほんっとみく子は知り合いが多いと言うか、顔が広い。
あの人懐っこさだからこそ出来る 特技といっていいくらいだもんなぁ。


「おはよーござまーぁっ」

「やっぱギリで来たかっ」

珍しくチーフがキッチンで出迎えてくれた。

「んにゃっ まだ一分前!!!」

とっさに戦闘態勢に身構える。 いつもなら氷の一個くらい飛んでくるのに、、

「おぇ??」

「おえ??じゃねーの。ちこ、ちょっと事務所においで」

なんかおかしい。。あたし、なんかやらかしたか!?

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一日目:ちこ編 01話

私がみく子と出会ったのはニ年ほど前になるだろうか。
彼女から少し離れた路上で、たまに歌っていた頃だ。

離れていても良く通る声で 彼女も歌っていたんだ。


コンビニへの近道になっている彼女の前をいつもゆっくり歩く事にしていた。
オレンジ色の髪にきれいな顔立ち。透き通るような歌声に人垣が出来ている。
時々立ち止まってみると、人懐っこい笑顔も見えた。

ちょっとした挨拶をするようになり、時々ジュースの差し入れなんかして
みく子と少しずついろんな話をするようになった。


「ミックスジュースは奇跡の味よね」

などと真面目な顔で突然言ったりするのがちょっと面白い。

ある時、みく子にたずねてみたことがある。
どうして歌を歌うようになったの?と。
みく子は少し考えるそぶりをしてから真っ直ぐ私の目をみて言った。

「もし私がつなげた声で、誰かが少しだけ笑顔になってくれたら
  それはとっても幸せな事だとおもうのよ。」

その声は、少しの迷いもない芯のあるきれいな声だった。


きっとその思いが浮かび上がっているからこそ、みく子の周りには人が集まってくるのだろう。


日常はとても緩やかに また確実に変化してしまうもので、
バイトや生活に追われることも多くなり、
歌うためだけにこの場所にくることも少なくなっていった。

けれど みく子はいつもここで歌っていて、自分が歌わない日でもみく子の姿をのぞきに来る事も多かった。

ニ週間ほど前だっただろうか、久しぶりに歌い、片付けをしているとめずらしくみく子から話しかけてきた。

「ねぇ、ちこ?」

「ん??」 片付けの手を休めずに声だけで答える

「うぅん、また今度にするわ。バイト遅れそうなんでしょ?」

「うんもぅヤバイのよ。ごめん!次、再来週・・火曜に来るからその時でいい?」

「火曜日ね。わかった、たぶん居ると思うから。ほら!いってらっしゃーい!」


その時は まったく気づかなかったんだ。
次にあうのがこんな風になるなんて。

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一日目:蜜編 過去 07話

どうして自分が、今、みく子の部屋のベッドにいるのかは解らないけれど、
どうして自分が、今、みく子と一緒に、裸で抱き合っているのかは、よく解っている。

声がカワイイ女の子だとか、歌が上手な女の子に会った時に、
「この子が喘いだら、一体どんな声になるのかな?」なんて下品な事を考えるんだ。
それで今、僕はこう考えている。

ああ、こんな声だったのか。


【M線上のアリア】 過去/07


緩やかな曲線を描く乳房を舐めると、みく子は息を吐いた。
淫猥な何かをしたかった訳ではなくて、僕はみく子をもっと知りたかった。
例えば指に触れた時、彼女はどんな風にして、指を絡ませてくるのだろう、だとか。
柔らかな太股を爪先で静かになぞった時、彼女はどんな表情を見せるのだろう、だとか。

あんなにも快活で元気の良い彼女が、その瞬間に甘える時、僕は興奮した。
もしかしたらこれ以上、彼女は僕無しでは生きられなくなるのではないか、と思った。
どうしてそんな期待をしてしまうのかは解らない。彼女の卑猥な声が、きっとそうさせるんだ。

「恋人がいるんだと思ってたよ、ずっと」

ベッドに倒れ込んだまま、天井を見上げて僕は言った。
みく子は笑い声とも泣き声とも付かない声で、やはり笑っていた。

「どうして、そう思ったの?」
「そう思わざるを得ない歌を、唄っていると思ったから」
「へぇ、そりゃ中々もっともな指摘ね、意外とスルドイのね、蜜クン」
「いるの、恋人?」

「スープ、飲む?」と言って、みく子は立ち上がった。
カーテンを閉めない部屋には、月明かりと街路の明かりだけが差し込んでいた。
それを浴びた彼女の肢体は、やはり驚くほどに綺麗で、まるで写真の中の人みたいだった。
オレンジ色の髪だけが、暗闇を否定するように明るく、揺れている。

「いないよ恋人は、別れたから」
「何時頃?」
「そうね、最近ね、すごく最近」

「ふぅん」と僕が言ったと同時に、みく子はコンロに火をかけた。
別にスープは飲みたくなかったし、そんな事より話を進めたかったのだけれど。
僕は彼女の後姿を眺める事に満足して、それ以上の詮索はしなかった。

インスタント・スープは便利だな。
容器に粉を入れて、熱湯を注ぐだけで完成してしまうんだから。
僕等の気持ちも、それに伴う行動も、それと同じなのだとしたら、きっと僕は悲しい。
何で僕とみく子は、さっきまで抱き合っていたんだろう?

雨はほとんど止んでいた。
パラパラと屋根を伝って、滴が落ちる音は聞こえる。
それからコンロが、火を点している音。
沸騰。

「浮気されたんだ」

みく子がスープに口を付けて、最初に言った台詞。
その頃には、みく子は普段通りのみく子で、あの調子で冗舌に話した。

「浮気されたの、酷いと思わない?
 それを隠してるつもりだったのか知らないけどね、知ってたからね。
 相手の女の子はどんな子なのか、アタシ全然知らないけどね、まったく呆れちゃう!」

みく子が明るい口調で言うので、僕は思わず笑った。
それから人生初にして本日二回目の「全裸でスープを飲む行為」を試みた。
今回はベッドに座っているので、幾分か気持ちはラクだった。
みく子に(少なくとも現時点で)恋人がいないという事実も、随分と気持ちをラクにした。

みく子は笑っていた。
ほとんど普段通りに、笑って話していた。
だけれど次の一言を言った瞬間だけ、みく子の顔は笑っていなかった。

「変わってしまうモノなんて、全部嘘」

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一日目:蜜編 過去 06話

鍵を差し込んで、扉を開いた。
みく子の部屋は、小さなアパートの二階の隅だった。
家具は少なく、雑誌の一冊も散らばってなく、ほとんど生活感が漂っていなかった。
きっと普段は恋人の家に入り浸っているのだろう、なんて勝手な妄想を、僕は働かせた。


【M線上のアリア】 過去/06


「シャワー、先に浴びちゃって、タオル出しておくから」

そう言うと、みく子は浴室の明かりを点けた。
薄暗い部屋に、浴室から洩れるオレンジ色の光が、伸びている。
僕は言われるままで浴室に向かい、水で重たくなったジーパンを脱ぎ、靴下を脱いだ。

置いた瞬間ベチャリと音がして、床の上には水が流れた。
零れた雨水だ。雨水は室内に入った今も雨水で、何処にも向かう事は無かった。
キュッキュッキュ。

シャワーの蛇口をひねると、温かい湯が流れ始める。
この瞬間、僕が何処に向かって流されているのかはよく解らないけれど、
温かい湯は温かく、それまでの疑問を全て、理由も無く洗い流してくれるような気はした。

「はい、スープ、飲んで」

浴室から出ると、バスタオルに身を包んだ僕に、みく子はスープを出した。
インスタントのスープは湯気を立て、緩やかに波を立てていた。
「じゃあね」と言い残し、みく子は浴室の扉を閉めた。

「じゃあね」も何も、ここはみく子の家だし、僕はバスタオル一枚だ。
よく考えるに(よく考えなくとも)バスタオル一枚という姿も、この場合いかがなものか。
まぁ、僕が着ていた服は、まさに今、全自動洗濯機の中で回転しているはずなのだけれど。

何となく座るのも申し訳ない気がして、僕は立ったままスープに口を付けた。
温かいな、これはコンソメ・スープだろうか。
あんまり考えた事は無かったけど、そういやコンソメって変な言葉の響きだよな。

静かだ。
窓の外から雨音が聞こえる。
雷は止んだようだ。
電気を付けていないので、部屋は暗いままだ。
キュッキュッキュ。

みく子が蛇口をひねった音。
が、聞こえる。

ザーザーザー。
これは雨音か? それともシャワーの音か?
ほんの扉一枚向こう側で、みく子はシャワーを浴びている。
液体が上から下に流れるように、僕が飲み込んだスープが喉を経て胃に落ちるように、
みく子の上から降り注がれる温かい液体は、オレンジ色の髪の毛を経て、細い首筋を通り、
鎖骨で一度止まり、そこから分散し、一方は美しく伸びる腕から、指先の先の先の先へと、
もう一方は穏やかに膨らむ乳房を登り、その中心を経て、深いくぼみへと落ちていくだろう。
それでもまだ落ちきらず、ひたすらに落下点を探している。

僕はスープに口を付けた。
幸運な事に、それはまだまだ温かかった。
みく子がシャワーを止める音が聞こえて、僕はその残りを飲み込んだ。

「体、冷えてない?」

みく子の声が聞こえて、僕は振り返った。
浴室の扉を開けて出てきたみく子は、下着姿にTシャツ一枚だった。
全自動洗濯機が回転する音だけが、部屋中に響いている。
ゴゥンゴゥンゴゥン。

雨音は、もうあまり気にならなかった。

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一日目:蜜編 過去 05話

みく子には恋人がいた。
僕がそれを知ったのは、みく子の言葉からではなくて、みく子の歌からだった。
それはみく子の歌の節々から感じられる程度の存在感に過ぎなかったけれど、
僕にとっては大きすぎる存在感で、次第にみく子の歌を聴くのが辛くなった。

それでも彼女が屈託のない笑顔で歌うもんだから、僕は寂れた飲み屋通りの路地まで、
ほとんど毎日、彼女の歌を聴きに行くのを欠かさなかった。
曲と曲の合間に、みく子はよく会話をはさんだ。みく子を囲む十数人と、みく子は会話した。
もちろん全員が声を発する訳ではなくて、黙って話を聞いている者もいれば、
話の途中で立ち去ってしまう人もいるし、みく子と友達同然に話し込んでる者もいる。
僕は只、みく子の話を黙って聞いている一人に過ぎなかった。

「今度ねぇ、花屋でバイトしようと思ってんの」

みく子はカラカラと笑いながら、そう宣言した。
周りの男連中が「へぇ、何処で?」などと、食い付くように質問した。
花屋か。
みく子に似合っているような気がしない事もないが、
みく子は花を売るというよりも、みく子自身が花みたいな子だからな、と僕は思った。
みく子の恋人は、どんな男なんだろう? 花に水を与えられるような男なんだろうか?
もしも僕がみく子の恋人ならば、燦々と浴びせる太陽みたいになれたら良いのに、と思った。

雨が降ってきた。


【M線上のアリア】 過去/05


「きゃあ、雨だ雨だ、今日はもうおしまい!」

慌ててギターをケースにしまうと、みく子は突然の解散宣言をした。
十数人は一斉に立ち上がり、短く声を掛け合うと、一斉にその場から散った。
何となく立ち上がるタイミングを逃した僕は、突然の雨の下に一人だけ取り残された。

「通り雨だろ……」独り言のように呟くと、僕はゆっくりと立ち上がった。
雨に濡れようが、今更関係ないんだなぁ。あとは自分の家に帰るだけなんだから。
溜息混じりに歩き始めようとした瞬間、見慣れた何かが、視界の端に引っかかった。
小さな酒屋の隅(それは先程までみく子が座っていた場所の近く)に、カバンが置いてある。
それはみく子が普段、たすき掛けにしている大きなカバンだった。

酒屋の屋根のおかげで、辛うじて雨を逃れてはいるが、
持ち主に忘れ去られたカバンはほとんど捨て猫のように、ほとんど濡れてるように見えた。
僕はカバンに近付くと、それを拾い上げようとして、だけれどすぐに躊躇した。
みく子のカバンだ、と意識した瞬間、手が動かなくなった。

ザーザーザー。

ゴロゴロゴロ。

カランコロン。

次第に強さを増す雨の中で、みく子のカバンは、みく子自身だった。
雨足は次第に近くなり、遠くでは雷まで鳴り始めた。
風に倒された空缶が転がっている。

バシャバシャバシャ。
いや、近くなっているのは雨足だけでは無い。
路地の向こうから、水たまりを蹴るように走ってくる、誰かの足音。

「ひゃあ! 忘れ物! 忘れ物!」

曲がり角から現れたのは、ズブ濡れのみく子だった。
みく子はギター・ケースを抱えたまま立ち止まると、僕の存在に気付き、呼吸を整えた。

「あれ? 蜜クン、まだいたの?
 ああ、そうそう、コレ、このカバン忘れちゃったの!
 途中で気付いて走ってきたからさ、疲れちゃ……ゲホンゲホン」

台詞を言い切るまであと少し、というところで、みく子は咳き込んだ。
風邪をひいてるからではなくて、単に走って来たからだろう。
咳き込みながら、みく子は恥ずかしそうに笑った。

「それより蜜クン、ズブ濡れだよ? どうしたの?」
「……自分だって」

「アタシはいいの、カバンを取りに来たんだから」と言いながら、みく子は笑った。
酒屋の隅に置き忘れたカバンを大切そうに抱え上げ、手を当て「ごめんね」と呟いた。
瞬間、僕の中の血液が心臓に溜まって、そのまま止まりそうになった。

「……カバンをさ、見てたんだよ」
「ん?」
「カバンをさ、見てたんだ、君のカバンだよ」
「うん」

みく子は濡れたまま、僕の話を聞いていた。
僕は何故だか、どうしても何故だか、泣きたい気分になった。
僕はカバンを見ていただけなのに、そのような気分になっている僕を、奇妙に感じた。

「……そうしたら、何処にも動けなくなってしまった。
 雨が降っていてもあんまり関係なくてね、あとは家に帰るだけだし。
 だけどそれでも、それなのに、僕はココから動けなくなってしまったんだよ」

ザーザーザー。
これは夏の終わりの雨か? それとも秋の始まりの雨だっけ?
どちらだったのかよく解らないけれど、とにかく雨はしばらく止みそうになかった。

「この近くなんだ」

みく子はカバンを肩からかけると、最初にそう言った。

「え?」
「この近くなんだ、ワタシん家」
「うん」
「あのね蜜クン、ズブ濡れだよ」

それからカバンをたすき掛けにすると、彼女は僕を見て言った。

「家、来る?」

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一日目:蜜編 過去 04話

「好きな人がいるのよね」

ほら来た、と僕は思った。
エリカからの悩み相談なんて、九割がこの台詞から始まる。
まるでスター・ウォーズの冒頭、あの壮大なオープニング・テーマに乗せて、
英文が画面奥に向かってスクロールするように、エリカの台詞はスクロールされていった。

「好きな人がいるのよね。
 でもどんな人かまだよく解んないの、でも素敵なのよねぇ。
 大学のキャンパスで見かけたんだけどさ、もうホントすっごいカッコイイんだもん。
 あの人、彼女いるのかなぁ……ちょっとアンタ、話聞いてる?」

今回が何番目のエピソードかは知らないが、
今回でエリカの恋が終わる訳ではない事だけは、今からよく解っていた。


【M線上のアリア】過去/04


休憩中は休憩中らしく、しっかり休憩するべきなんだ。
それを何でか、エリカは自分の恋の話を、やたらと聞かせたがる。
聞かせたところで有益な進展がある訳ではなく、とりあえず話す事で満足している。

僕はといえば早くバイトを終えて、みく子の歌を聴きに行きたかった。
あの日から、ほとんど毎日、彼女の歌を聴きに行っている。
彼女の周りには十数人が集まり、同じように彼女の歌に耳を傾けている。

もしかしたらみく子にとって、僕は大勢の中の一人に過ぎないかもしれなかった。
単に「飯を奢ってもらった事がある人」に過ぎないかもしれなかった。
たまたまペルシャ猫の前を通り過ぎた、名も無き人みたいに。

「ねぇねぇ、どう思う? 彼女いると思う?」
「知らないよ、本人に聞いてみたら?」
「それが出来ないから訊いてんの」

エリカは毎度の如く頬を膨らませると「使えない男だ」と言い放った。
使えない男とは何事だ。失敬な。意外と結構、使えるわ。

「アホ、意外と結構、使えるわ」
「じゃあ蜜、本人に直接、訊いてみてよ」
「顔も名前も知らないのに、どうやって訊くんだよ」

エリカは暫し静止して考え込むと、正解はこれしか無いというように、
椅子から身を乗り出して、人差し指を突き出しながら言った。

「顔はカッコイイ」
「いや、そんな事言われても」
「名前はロシュクン」
「は? 何て?」
「名前はロシュクン」

何だそのパソコンで一発変換できないような名前は、と思ったが、
何かこう、何者かによる巨大な圧力を感じたので、それ以上深く詮索するのは止めた。
色々、大人の事情なのだ。

「へぇ、変わった名前だね」
「帰国子女なの!」
「あ、そう」

どうして女は、美男子と帰国子女に弱いのか。
美男子な上に英語を喋る事が出来るというコンボに惹かれるのか。
それは例えば「昇竜拳を出しながらの竜巻旋風脚」みたいなモノなのだろうか。

「そもそも何処で、その帰国子女を好きになったの?」
「ああ、元々、お爺ちゃんの教え子なの」
「ああ、お前の爺ちゃんか……」

そうなると、美男子で、帰国子女な上に、天才という事だ。
昇竜拳を出しながらの竜巻旋風脚のコンボに、サマーソルトキックのオマケ付き。
そりゃ最強のストリートファイターだ。

「でもね、お爺ちゃんをダシに使いたくないのよね」
「へぇ、変なトコで一途なんだな」
「内緒にしたいの」

まぁ、まだ話した事もない恋の相手に、内緒も何も無いだろうけれど。
エリカは恋の中で恋をして、それを愛と錯覚しながら、恋を育んでいるのか知らんけど、
とりあえず休憩時間はそろそろ終わりだし、僕だって、みく子の事を考える時間が欲しい。

恋に恋して恋を育んでいるのは、お前だけではないのだ。

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一日目:奏湖編 03話

「お疲れ様でした?♪」
バイトを二十二時に終え、私服に着替える。

「ん?、じゃあいつもので!」先輩に向かって元気にオーダーする私。
はぁーっと小さく(私には大きく聞こえたけど)ため息をついて答える先輩。
「はいはい。フィッシュ・バーガーとバニラ・シェイクのコンボね。
まったく、飽きないねぇアンタも。」

んー、食べるのは私じゃないんだけどね。「コレがいい!!」って譲らないんだもん、みく子さん。

作りたてのフィッシュ・バーガーとバニラ・シェイクを持って、私はいつもの路地へ向かう。
まぁしょっちゅうってワケにはいかないんだけど、夜番になる時は大体差し入れ付きでみく子さんの歌を聞きに行く。


やっぱりイイ声してるなぁ。それにキレイだし。


今日はまだ始めたばかりらしく、人もそんなに集まってはいなかった。
「ハイ、どーぞ!」と、紙袋を渡すと、瞳をキラキラさせて「ありがとぉうう!」となんとも嬉しそうな答えが返ってきた。
「じゃあまぁ、休憩ってことで。(笑)」と言って、みく子さんはすばやくフィッシュ・バーガーを取り出す。
みく子さんが食べている間、(でもお喋りは参加してるんだけど)声をかけられた。
「ねぇ、今度ここに集まってる人たちで飲み会するんだけど、来ない?」
あ、確かこの人、みく子さんの友達で、同じ大学の志津さん。

「行ってもいいんですか?」恐る恐る訊くと「駄目だったら誘わないから(苦笑)」と突っ込まれた。
「そっか(笑)じゃあ行かせてもらいます」
そこで連絡先を交換して「詳しいこと決まったらまた連絡する」と言って、志津さんは他の人と話し出した。

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一日目:奏湖編 02話

今日は二十二時あがりだ。

バイトとはいえ仕事中なのに、時計が気になって仕方ない。いつもとは違う理由で。


昨日知り合ったみく子さんの歌を、聴きに行く約束をしているのだ。
今日一日、ずっとそのことを考えて過ごしていた。
高校の時から路上で歌っているってことは、常連のファンなどいるのだろうか。

今は夕食時のピークを過ぎたので混んではいない。
時計が二十二時を指すかどうかというところで、退勤して急いで私服に着替える。
「なぁに?デートでもあるのぉ?」
バイト先の先輩からそう冷やかされつつ、急いで飲み屋通りへ向かう。
そういえば今日、バイト先の数人で飲み会があるらしい。
まぁまた今度顔を出せば問題ないだろう。

昨日教えられた場所に着くと、ギターの音と女の人の歌声。そして人だかり。


遠巻きに確認すると、やはりみく子さんだった。
寂れた飲み屋通りで、みく子さんの歌声は際立っていた。




やっぱり、思ったとおりの、思った以上の歌声だなぁ。



みく子さんを取り囲んでいる人達はきっと、この声に、この歌に逢いたくて此処に来るのだろう。
曲が終わって、周囲の人達とみく子さんが話している。
私はすっかり聴き惚れて、ぼうっとその光景を見ていた。

すると、みく子さんと急に目が合い「あ???!!ホントに来てくれたんだ!」と
大声で言ったもんだから、そこにいる全員が一斉に私を見る。

きゃぁあ?!恥ずかしくて死にそう(汗)
「・・・・・・ぁ、はぃ・・・・・・。」

みく子さんはお構いなしに「こっちおいで?!」と、手を招いている。
私の前に、みく子さんとの道が出来た。
しょうがないので前に進み出る。
「昨日ねぇ、大学でナンパしたの、この子。」
と笑って周りの人達に私を紹介した。
「もぅ?みく子っぽいなぁ(笑)」「へぇ?じゃあ同じ大学だわぁ」とか、色んな声が漏れる。
「んじゃあそろそろ曲いくよ?。もうちょっと聴いてくれるかなぁ??」
みく子さんが言った。


その日は雑談もあわせて一時間くらい。
たっぷりの期待は充分満たされた。
ギターをケースにしまいながら「今日はありがとね。来てくれて嬉しかったよ。」とみく子さんが言った。
「いやいや、こちらこそ。きれいな声で、歌も上手くて、感動しちゃった。」
えへへ、とみく子さんが笑った。
「時間とかもあんまり決めずにやってるからさ、暇ならまたおいでよ。」




それから私は、定期的にこの路地に足を運んでいる。
みく子さんの歌を聴きに来ている人たちとも顔見知りになり、大学内で声をかけられたりするようになった。
みく子さんのおかげで私の交友関係も広がっていて、なんだか面白い。

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