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二日目:黒編 07話

みく子は色々な事を話してくれた。

元彼のロシュの事。

ノートン教授という人に逢いに行く事。

・・・ノートン教授って言うとあの大学の。。。

みく子が実は近くに住んでいるんじゃないかと思ったが

僕は口にださなかった。

ネット友達と言う関係が崩れてしまいそうで嫌だった。


「色々あったんやなぁ?。
 そういや明日の夜っていうか今日の夜か。
 ちょっと変わったバイト行くねん。」

「ちょっと変わったバイト?」

僕の発言にみく子は興味深々だった。

「そそ
 普段はそんなバイトはせんと思うから
 思い切って応募してみてん。」

「どんなバイト?」

「ドアマン!
 ドアマン言うても、アトラクションとかの怪獣ちゃうで!?
 映画とかでパーテー会場とかの入り口にいる
 あのドアマンやで?」

「黒ちゃんが?(笑)」

みく子がバカにするように言ったので
僕はちょっとムッと腹を立てたように

「なんやそのカッコ笑みたいな発言は?
 失礼な!
 俺めっちゃ紳士やっちゅうねん(笑)」

「これはこれは失礼しました(笑)」

漫才みたいなノリが面白くって
お互いに笑いあった。

「さて、そろそろ寝たほうがいいんちゃう?」

夜も遅かったので僕は終了のサインを送った。

「それもそうだね(笑)
 ごめんね起こしちゃったみたいで」

「いいよいいよ(笑)
 ほな・・・・おやすみぃ?」

「はぁい
 おやすみなさーい
 んじゃ黒ちゃんばいばーい」

「ちょいまち!」

僕はみく子を引き止めた
僕は昔からある言葉を使い分けていた。

「俺、昔から[バイバイ]と[またね]って使い分けてるんやん。
 また逢いたい時は[またね]で
 [バイバイ]ってもう逢えへんみたいやん?
 子供っぽいかもしれんけど
 なんか寂しいから使い分けてるねん」

「そっか・・・ごめんね。
 じゃぁ・・・またね!黒ちゃん!」

「またね?」

理解してくれたみく子は言い直してくれて
ささいな事でも僕は嬉しかった。

「もう一眠りするか・・・起きたらシャワーでいいや。」

真っ暗な部屋で僕は独り言を放ち
パソコンの電源を切って
もう一度布団に横たわり
深い眠りについた。

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二日目:黒編 06話

何時だろうか

つけっぱなしのパソコンから

ブオーン ブオーン


音声チャットの呼び鈴だ!

寝ぼけた身体をたたき起こし、僕はパソコンに向った。


「送信者は・・・みく・・・子・・・から?」


急いで僕はマイクをつけ、受信ボタンをクリックした。

「あ・・・やっと繋がった!」

みく子の綺麗な声が

0と1の配列になって僕の耳に入ってくる。


「あぁ、ごめん。
 帰ってきてそのまま寝てたみたいさ。」

僕は半分寝ぼけた声で答えた。

それを聞いて、起こした事を悪く思ったみく子が

申し訳なさそうに

「ごめーん(笑)
 寝てたんだぁ。。。悪い事しちゃったなぁ。。。」

「大丈夫大丈夫
 んで?どったの?」

僕は何も気にせず話を進めた。

「最近、お話してないからしようと思ってさぁ…」

みく子が拗ねたような声で言ったので

それがちょっと可笑しかった。

いや、それ以上に歯がゆい気持ちになった。


「俺はお前の彼氏か(笑)」

「えへへー(笑)」

否定しとこうよ。

心の中でそう思いながら

僕は話を進めた


「否定しとこうよ。」


あっ口にでてた。

「えへへ(笑)
 んでね、今日いろんな事あったんだぁ?」

屈託のない笑いと共に会話は続けられた。

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二日目:蜜編 現在 23話

通帳を開いたまま、四秒間は停止していたと思う。
思考と空気と心臓が同基準で停止した後で、現実を正確に認識し始める。認識する為に必要な時間が、四秒。それでも認識は追い付かず、疑問を伴ったままの言語が口から零れ落ちる。「何で?」呼びかけた訳でもないのに、ヴィンセントが無言で通帳を覗き込む。笑う。
預金通帳に記載された、僕らの残額。

10,884,591。


【M線上のアリア】 現在/23


一千万円。クイズ番組の賞金で耳にした事はあるが、実物を見た事は無い。
僕とみく子の通帳に記載されている残額。そんな金額を稼いだ覚えは無い。正直、この通帳の中身を見るのは初めてだった。みく子が全て管理して、袋を開ける事を許さなかったから。

最初のページを見ると九百万円近い金額が、この通帳に移されている。それを振り込んだのは、みく子自身。そこからは毎月、僕の給料と、みく子の給料が振り込まれる。労働の証だ。それから、それとは別に、毎月四四万円、誰かが振り込んでいる。計算上、僕とみく子が稼いだ金額以上を、みく子は引き出していない。四四万円には手を付けない状態にしている。

恐らく意図的に、みく子はそうしている。僕が仕事を辞めた(らしい)一年前から今月まで、収入はみく子の花屋のバイト代のみだったが、その際も足りない分は、それまでに稼いだ僕らの拙い預金を計算して引き出している。四四万円に手を付けるような引き出し方はしていない。

四四万円は毎月、何処から振り込まれている?
振り込み主を見る。通帳には「JNL」と記載されている。見覚えは無い。
個人の名前か。それとも企業の名称か。みく子は花屋以外にも、何か別の仕事をしていた?
「それは無い」思わず口に出す。第一、時間が無い。みく子は大学に通い、花屋で働き、路上で唄った。それ以外の時間は? みく子は我が家に帰ると、よくパソコンを触っていた。ネットで仕事を? いや、その線も無いだろう。パソコンで何をしていたかと言えば、ネットで仲良くなった人達と、文字で会話をしていたくらいだ。四四万円を稼ぐ事はないだろう。

ライブチャット系? まさか。考えてもみろ。通帳最初のページには、みく子自身が九百万円を移動している。それは以前から四四万円の支払いが続いていた事を意味する。昨日今日、突然振り込まれるようになった金額では無い。もしも四四万円が毎月、尽きる事なく振り込まれていたのだとしたら、それは何年前から?

生まれた時から。

僕とみく子が稼いだ分を細かく貯金し、僕とみく子が出逢う前から、みく子が自分で貯金し続けていたのだとしたら、まったく手を付けずに貯まった四四万円。それは生まれた時から。
「失敗したバイオロイド」
独り言。誰がみく子を生んだ? 四四万円? どういう意味だ? 冗談じゃない。みく子は悪魔に何を望んだ? 恐らく、きっと、自分の体を普通に戻す事。それは予想に過ぎない。悪魔に会っても、契約はしなかったかもしれない。それでもみく子は、現在、悪魔に会いたがっている。それは何故だ? 一体、誰がみく子を、そんな体で生んだ? ……JNL。

(ノートン教授にね、会うの……どんな手段を使ってもよ)

核心めいた、一つの単語が、僕の頭に浮かんでしまった。嗚呼、呟きたくは無い。呟きたくは無いが、それは零してしまわないと一秒後にも破裂してしまうような、悲しすぎる確信で、僕はそれを零す為に、零してしまった。……James Norton Laboratory。

「……ジェームス・ノートン・研究所」

黒色のビニール袋に描かれた不細工なネズミが、僕を見て笑っていた。

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二日目:蜜編 現在 22話

商店街の小さな路地を曲がると、飲み屋通りに入る。
そこを奥に進むとゴミ捨て場があって、生臭い空気を気にせず更に突き進むと、小さなビルの裏手に出る。そのビルの現在の用途は不明で、昔は不動産関係のビルだったのが、何故か中華料理屋になり、途中から百円ショップに変わり、それを何度か繰り返した後、現在は、「よく解らないビル」と表現する他に適切な語句が見当たらないビルと化している。

そのビルの裏手の、鉄製の階段の下に、野良猫達が集まっている。
何故か野良猫達は夜ともなると此処に集まり、ニャオニャオと発声しては、喧嘩とも愛撫とも付かぬ集団興奮状態と、その傍観を繰り広げている。傍観を決め込む猫は年寄りなのかもしれないな、と僕は思いながら、その傍らに傘を差し出す。年寄り猫は特に反応しない。雨音。

「こんな事をする為に、此処まで来たのか?」
「そうだよ」
「雷が鳴っている中を?」
「そうだよ」
「ククククク……お前も随分とめでたい男だな」
「そうだな」

雷鳴は既に小さく、遠くなっていたが、雨足は変わらず地面を叩き付け、アスファルトの上を這うようにマンホールまで駆け抜け続けていた。今夜、騒ぎ立てる野良猫達は、普段よりも大人しく見える。そう何度も此処に来ていた訳では無いが。それが豪雨のせいなのか、それともみく子が来ないせいなのかは解らない。単に腹が減っているだけかもしれない。

「ごめんな、餌は無いんだ」
僕は立ち上がると、野良猫達を眺めた。数。減っていないような気がする。むしろ増えている気さえする。黒猫。何匹かの黒猫。僕を見たまま動かない。否、隣の男を見ているのか。

「……悪魔って誰にでも見えるのか?」
「見えないだろうな、少なくとも普通の人間には」
「普通の人間には?」
「一般的な人間。悪魔と契約する必要のない人間。羊には為り得ない人間」
「僕とお前がこうして話しているのを、見える人間もいるのか?」
「契約者には見える。霊能者には見えない。継承者には見える。あまり見られたくないがな」

詳しく解らないが、悪魔が見える人間と、見えない人間がいるらしい。当然と言えば当然だ。僕にも昨夜までは見えていなかったのだから。契約者には見える。当然だ。霊能者には見えない。若干意外な気がする。だが悪魔とは恐らく、僕らが想像する幽霊のようなオカルトめいた存在では無く、正しく目の前に存在するように、レイン・コートを着込んで退屈そうに笑っている単なる年齢不詳の暇人だから、霊能者には見えないのかもしれない。……継承者?

「継承者?」
「血。羽。刻印。以上。その話は、あまり好きではない」
「へぇ」

黒猫は、僕から目を離そうとしない。

「猫には、お前が見えているか?」
「……さぁな」

傘が雨を弾く音が聴こえた。
否、もしかしたら猫達は、耳を傾けているだけかもしれない。
動かず、騒がず、傘が奏でる雨音に、耳を傾けているだけかもしれなかった。
毎晩、聴いていた、誰かが唄う歌の代わりに。

雷鳴は既に小さく、遠くなっていた。


【M線上のアリア】 現在/22


「……家まで付いてくるのかよ!」
「雨、降ってるからな」
「何? お前、普段、何? 野宿してるの!?」

家の扉に鍵を差し込みながら、僕は叫んだ。
ヴィンセントが帰る素振りを見せず(何処に帰るのかは知らないが)、黙って歩いていたら、案の定、我が家まで付いて来たからだ。「帰れよ!」扉を開けながら追い返すように叫ぶ。深夜も既に一時半を回っている。二時が近い。我が声ながら近所迷惑だ。「野宿などしていない」
渋い声で言いながら、ヴィンセントは部屋に入ろうとする。何だコイツ。

「大丈夫」
何が大丈夫なのか解らない。これじゃ単なる、渋い声の迷惑勧誘員じゃないか。しかも意外と腕力があるようで、必死に扉を閉めようとしてもビクともしない。靴を捻じ込んで扉を閉められないようにしていやがる。迷惑だ。半ば、勝手に入り込む。「馬鹿! レイン・コート! 雨!」

ヴィンセントが強引に上がり込んだせいで、床が濡れている。……最悪だ。絶望的な落胆だ。狭いながらも楽しい我が家。僕とみく子の城が、無愛想な悪魔に浸食されていく。僕は急いで重くなったシャツとジーパンと靴下を脱ぐと、バスタオルを探した。ヴィンセントは濡れたまま、オレンジ色のソファに座ろうとする。

「馬鹿! そこ座るなよ! 勝手に座るなよ!」
「は?」
「せめて脱げ! レイン・コートを脱いでからにしろ! いや、座るな!」
「……イエス」
「……あぁあぁあぁ! 座ってんじゃねぇか! イエスじゃねぇよ! 座るな! 立て!」
「……イエス」
「……立ってねぇじゃん! お前のイエス、いちいち腹立つな! 返事だけじゃねぇか!」

ヴィンセントは濡れまくったレイン・コートのまま、オレンジ色のソファに座ると、そこから微塵も動こうとしなかった。最低だ。悪魔の所業だ。僕は雑巾を取り出すと、玄関から居間まで、脈々と続くヴィンセントが零した水滴を拭き、自分の涙も拭きたくなった。「笑えるか、羊?」

「はぁ!?」
「笑えるか、と訊いている、お前は笑えるか、羊」
「泣きたい気分だね」
「ほぅ、それは良い報せだ、笑える為に泣け、羊」
「お前が帰れば今すぐ笑えるよ」

床を拭きながら、散らばった雑誌などを片付ける。腹が減った。頭痛は大分、収まった気がするが、単に頭痛より空腹が勝っているだけかもしれない。みく子の声を思い出す。

(ちゃんと……食べてね)

「人の心配してる場合じゃないだろ……」独り言を呟いた後で、記憶の追尾。

(預金通帳、部屋にある、使って)

"部屋にある"。
大して広くも無い我が家では、部屋とは、此処を指す。すなわち、居間。
玄関に対して、部屋。それだけの違いを表す単語。此処以外に部屋なんて無いんだから。

生活費は、全てみく子が管理していた。僕は働いていなかった(らしい)のだから当然だが、(先刻まで一年間ずっと働いていたと思っていたが、)まだ働いていた時期も、みく子が管理していた。僕らは共通の預金通帳を作って、お互いの給料を、そこに振り込むようにしていた。通帳は何処にある? 大体、見当は付いている。

みく子は大切なモノを、何故か黒色のビニール袋に入れていた。大切なモノは、全てだ。
あろう事か不細工な怪物の絵が描かれていて、散々馬鹿にしたら、それはみく子の直筆によるネズミの絵だったと知り、その後、吐くまで怒られた。怒られすぎて、吐いてしまった。

しかし、あの絵を正確にネズミだと判別できる人間の方が異常で、それがみく子オリジナルのキャラクターなのか、それともサンリオか何処かが版権を持っているキャラクターなのか知らないが、怪物というか、宇宙人というか、少なくともカワイイとは言えず、何も知らない人達に向かって「これはウルトラセブンの第二十五話に出て来たネズミン星人です」とでも言ったら簡単に信じてしまうような、怪奇で不気味な絵だった。

「ネズミーらぶ」
油性マジックで書かれた、みく子の手書きの文字。それをどうして、みく子がそこまで大切にしているのか解らず、本人に聞いても「忘れちゃった」という曖昧な返事しか頂けず、その割、このネズミらしきキャラクターの名前は覚えていて、どうやらネズミーマウスというらしい。

「何を探してるんだ?」
「通帳」
「何だ、その変な絵は」

ヴィンセントの問を無視して、僕は黒色の袋を取り出すと、中を見た。
通帳。印鑑。その他諸々。やはり全て入っている。
僕は袋に手を入れて通帳を取り出すと、残額を確認する為に、そのページを開いた。

「……何だ、これ」

ヴィンセントのレイン・コートからは、まだ雨水が滴り落ちていた。
だけれど、もう、あまり気にならなかった。

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二日目:蜜編 現在 21話

商店街の信号機付近に落雷したらしい。
停電。しかし突発的な影響は少ない。深夜。午前一時。
人の気配のほとんど無い道路では大した騒ぎにはならず、豪雨だけが、現状を騒ぎ立てる。それでも騒ぎにはならない。豪雨は騒ぎ立てる為だけに騒ぎ立てているからだ。音は無い。否、音は音によって掻き消されている。

雑音が僕らの苦悩を、全て掻き消してくれたら良かったのに。
雷雨が僕らの原罪を、全て跡形も無く洗い流してくれるなら良かったのに。
「みく子……?」
通話は既に切れていて、もう何も聞く事が出来なかった。
かけ直しても繋がらず、不細工なコール音だけが、虚しく響いている。
僕は地面に落とした傘を拾い上げると、それを差す事もせず、上空を見上げた。
何も見えない。月も見えない。

「ククククク……」

「……知っていたのか?」僕はゆっくりと問う。
背後。睨むように振り返る。レイン・コートに身を包んだ悪魔。ヴィンセント。

「俺は何も知らないさ」
「嘘を言うな」
「本当だ、面白いくらいにな」
「何が面白い」
「言ったろ? 悪魔は俺だけでは無いと」


【M線上のアリア】 現在/21


僕はヴィンセントを気に留めず、歩き始めた。ヴィンセントは退屈そうに背後から付いてくる。何も話す事は無い。誰かと話したい気分ではない。それが悪魔ならば尚更。「何処へ行く?」
「関係ない」
「お前の家は向こうだぞ」
「付いて来るな」
商店街の停電は続いている。暗闇。それでもオレンジ色の街灯は明るい。路地を曲がる。

どうして、みく子が悪魔の存在を知っている?
二日間、立て続けに非現実的な現実に遭遇し、しかも受け入れなければならなかった。
バイオロイド。悪魔。契約。対価。漫画か映画の中で羅列されるような、夢想的な単語。

「何なんだよ、お前達は」
「……呼んだか?」
「何なんだよ、悪魔って、何でみく子が、お前を知ってるんだ」
「俺を知っている訳ではなかろう。俺はお前の恋人の事は、知らないよ、いや……」
「何だよ」
「知らないと言えば嘘になる、だが、俺と契約した訳ではない」

"あの日の悪魔"。
あの瞬間、みく子は確かに、そう言った。
みく子は悪魔に会った事がある。そう考えた方が自然だ。仮にそうだとしたら、みく子は何時から、何年前から、悪魔の存在を知っていた? そして確実に解る事は、今のみく子は、その悪魔に会っていない。仮に契約を結んだとして、今は結んでいない。……契約破棄?

突如、現れ始めたアルビノ。白化。
それは本当に、数日前に突如現れたモノなのだろうか。
本当はずっと前から、何年も前から、みく子はそうだったのでは無いか?

「ヴィンセント、もし仮に僕が契約破棄を望んだら、僕はどうなる?」
「……契約破棄?」
「お前が僕の記憶を食う事を拒否するのさ、そうしたら僕はどうなる?」
「どうなる、とは?」

瞬間、僕は次の質問をするのを躊躇った。
躊躇ったが、質問しなければ、次の疑問を解決する事が出来なかった。
一瞬、目を瞑る。「……例えば体が白くなる、とか、そういう事はあるか?」

「それは無い。契約破棄の罪として、何らかの罰を課す事は無い。何故なら繰り返すが、記憶と代償は等価値だ。我々は契約において同等の関係だ。罰として体が白くなる事は無い。我々の契約者の体が白くなるならば、契約者が自ら悪魔に望んだ結果か、望む前から元々そのように生まれてきたか、そのどちらかだ」

契約破棄の結果、体が白くなる訳では無い。
みく子の白化が、自ら望んだ結果? それは有り得ない話だと思う。
みく子は自分を失敗したバイオロイドだと言った。その一因としての、白化なのだと思う。
それが現れたのは数日前、突如。

みく子は、望まずとも元々そのように生まれてきた。
失敗したバイオロイドとして? 解らない。だが、恐らくはそうだ。
僕が出会った頃のみく子は白かったか? 確かに色白ではあったが、今ほどでは無かった。
……白化を抑えていた? どうやって?

「……記憶の対価として得た代償が、効果を失くす事は有り得るか?」
「どういう意味だ?」
「……例えば失った記憶が戻るとか」
「有り得ない。我々は記憶を完全に食う。それを思い出す事は無い。体験しただろ?」
「……確かに思い出せない。だが、記憶を取り戻した気分にはなった」
「それは羊、お前の勝手だ、取り戻した気分に浸るのはな」

ヴィンセントはレイン・コートのポケットに手を入れて、緩慢に笑った。
それから、わざと思い出したフリでもするように「……ああ、だが、しかし」と付け加えた。

「第三者の手によって記憶を取り戻すなら、それは例外だ」
「……どういう意味だ?」
「例えば俺が食った、羊、お前の記憶をだよ。それを別の羊が取り戻そうとする。何の為に? それは知らぬ。だが、悪魔が食った記憶を、まったく元の状態に戻す方法は一つだ。別の羊が悪魔と契約して、自分の記憶の代償として、お前の記憶を取り戻す。たったそれだけだ」
「……そうすると、どうなる?」
「お前の記憶はまったく元の状態に戻るよ。非常に喜ばしい事だ。だが、そうなった場合、俺とお前の元々の契約はどうなる? お前は俺から得た代償を完全に失う。それが契約破棄だ」
「……何処かで誰かの記憶は食われているのに?」
「当然」

悪魔らしい方法だ。結局、悪魔にとって人間の記憶など、単なる食い物にしか過ぎない。
僕は仮定する。みく子の白化は、僕と出逢う前から、もう何年も前から、もしかしたら生まれた時から、とっくに始まっていた。「あの日の悪魔に会いたい」みく子が呟いた核心的な言葉。

僕は仮定する。第三者がいる。
悪魔と契約し、みく子を深く知っている、別の誰かがいる。
もしも別の誰かが、みく子の記憶を取り戻そうとしているのだとしたら?
何処にいる? 解らない。僕は何処へ向かうべきだ? 解らない。だけれど、とにかく。
僕は未だ停電の復旧しない商店街を、歩き続けた。


七度閃光。


遠くで、雷鳴。

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二日目:蜜編 現在 20話

エレベーターが一階に到着すると、エントランスから外の風景が見えた。
雨。
一時間前は止んでいたのに、豪雨と呼ぶべき豪雨。
台風前夜。いや、既に台風は上陸しているのかもしれない。雷鳴。
「本格的に降ってるじゃん……」
誰に言う訳でも無く呟くと、横から傘を差し出された。女性従業員の手。
「どうぞ、お使いください」

「あ、どうもありがとう」受け取る瞬間、彼女の手を見る。男性的な手。いくら警備員を兼ねているとは言え、女性の手がこんなに骨格的になっていると、少し心配してしまう。変質した手。二度閃光。遅れて雷鳴。両手で傘を持ちながら入口まで歩く。外を歩きたくない。

タクシーで帰るか。財布を確認するが、金が入って無い。一年前に居酒屋を辞めたというのは本当だったのか、と妙な部分で納得してしまう。一年間の記憶があるのに、一年間まるで仕事をしていなかった記憶が無いのは、変な感覚だ。どの部分の記憶が抜けているせいなのかも解らない。その間、僕は何をしてたんだ? 三度閃光。少し遅れて雷鳴。

腹が減った。考えてみるに起きてから何も食べてない。
エリカに何か食わせてもらえば良かった。今更、何か食わせてくれと戻る訳にもいかず、タクシーに乗る金も無く、僕は自動ドアの扉を開けた。圧倒的な水音。轟音。野良猫。「野良猫」思わず口を吐いた。野良猫達はどうしているだろう? みく子が餌を与えていた野良猫達。

みく子が家を出て、丸一日。その前から唄っていなかったのだとしたら、何時頃から餌を与えられていない? 否、野良猫なのだから、餌を期待されても困るが。それに加えて台風。僕は傘を開くと走り出した。金は無い。餌は買えないぞ。今晩の僕の飯はどうする? 解らない。

四度閃光。

遅れて、雷鳴。


【M線上のアリア】 現在/20


家に帰れば冷蔵庫の中に、少しは何か入っているだろう。あとはカップラーメンの一個や二個くらい。貯金通帳、持っていったのかな、みく子。何時頃、帰って来るのかな。走る。何考えてんだ。少し吐き気がした。みく子は帰って来ない。足冷たいな。傘が役に立ってない。

野良猫。生きてるかな。たった一日くらいで死んでる訳がない。そんなの解らない。
呼吸。運動不足。酸素が足りない。休め。豪雨。何処に向かってるんだ、今。解らない。
血液供給。全身。欠乏。苦しい。頭が朦朧とする。何処に行ったんだ、みく子?

「……はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」

何だこれ。僕の呼吸音。必死になって走っちゃって、空気を求めてる。情けない。醜い。
無様だ。無様な醜態だ。何の為にもならない事をしているならば、僕は驚くほど愚かだ。
それでも走れ。走ってくれ、僕の足よ。……何処へ? 野良猫の元へだよ。解ってるだろ。
何をする為に? 見守る為に。餌も与えられないのに? 餌も与えられないのに。悪いか?

「……はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」

台風は明日上陸予定なんて言ったのは誰だ? 明日……日付が変わって今日か。
古新聞でも古雑誌でも捨ててないかな。野良猫が今夜の雨を凌げれば、何でも良い。
そうだ、傘があるか。
これは同情か? 同情かもしれないが、それの何が悪い? 心配だ。僕は気になるんだ。
台風で、世界がどうなってしまうのか、ではなくて、僕達がどうなってしまうのか、をだよ。
とても苦しいんだ。胸が張り裂けそうだ。酸素が足りない。休め。走れ。休むなよ。走れよ!

「……はぁ! はぁ! はぁ! はぁ! ……?」

ポケットの中で何かが揺れている。携帯。豪雨に紛れて着信音。聴こえない。
エリカか? 何か忘れ物でもしたか? 携帯を取り出す。ディスプレイが濡れて読めない。
親指。通話ボタン。「もしもし?」

「……もしもし」

みく子。
六弦を弾くような声。
豪雨の隙間からか細く聞こえる声は、みく子のそれだった。
心臓が一瞬、恐らく確実に止まった後で波打って、その勢いで僕は言葉を発する。

「……みく子?」
「うん……」
「……本当に、みく子か?」
「うん……蜜クン、元気?」
「……元気も何も、一日会ってないだけじゃないか」

何となく、僕は笑った。
こんな時に笑ってしまう僕を、僕は後悔した。
みく子の声は細く、細く、今にも雨に流されてしまいそうだった。

「そう……良か……のね……めんね……」
「何? ごめん、よく聞こえない」
「ちゃんと……食べてね」
「ああ、ご飯?」

台風の影響か、電波か、轟音か、みく子の声は聞き取り辛く、それはもしかしたら当然の事かもしれなく、何故、今、みく子が電話をかけて来たのかも解らず、それでも、今、この細い糸が切れてしまったら、もう再び繋がる事はないような気がして、僕は宛の無い中空を何度も手で掴み、切れてはいけない糸を握るように携帯を握りしめていた。五度閃光。空かさず、雷鳴。

「預金通帳、部屋にある、使って」
「部屋? みく子の金は?」
「大丈夫だか……」

数秒、鮮明。重なるように追尾する雑音。声が遠ざかる。

「もしもし!?」
「……しもし?」
「みく子、何処にいる?」
「ううん」

閃光。閃光。閃光。閃光。閃光。閃光。閃光。
雷鳴。
心拍。
嘔吐感。

「あのね、蜜クン……」
「……何?」
「……く……すると……もう?」
「何?」
「……悪魔は存在すると思う?」
「え?」

暗転。
爆発音。
停電。
点滅する赤信号。

「……どういう意味?」

頭痛。
脱力感。
焦燥。
圧迫する精神性。

雑音。
何も聴こえない。
不可視。

「……………………」

野良猫よ、この台風を乗り越えられるか?

残酷な台風だ、きっと。

夜は長い。






「……もう一度、あの日の悪魔に会いたい」






その瞬間、みく子の声は、閃光よりも深く、鮮明に聴こえた。

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二日目:ゆん編 06話

「なんでっ?」

思わずテーブルを叩いてしまう。
手にしていた箸が落ちた。
何を言ってるんだ?
歌は彼女の生きがいで
歌う彼女はあんなにキラキラしていたのに。

「ゆんちゃんも聞きに来てくれるよね?」

さっきの涙はどこかに消えていて
みく子は笑顔で訊ねて来る。

「みく子のライブが最後なんて嫌だよ…」

混乱した私がそう言うと
彼女はそうだね、とだけ言って微笑んだ。
寂しげな表情がたまらなく妖艶で綺麗で
それを見せられた私は何も言えなくなってしまった。


沈黙のままラーメンを食べ終えた。
美味しかったね、そろそろ行こうか、
そんな当たり障りのない会話をしながら
みく子の後ろをノロノロとついて出口に向かう。
店の外では嵐が勢力を増していて
雨と風にすべてが押しのけられていた。


雨の下、みく子は傘をさすとこちらを振り向いた。
そして私にこう言った。

「変わるのはいけないことかな、ゆんちゃん」

真っ直ぐな視線がこちらに向かう。
そのアイラインを涙が縁取り始める。
強がりな瞳は泣くまいと震えている。

「みく子がどんなに変わったって
 私はずっとみく子のこと好きでいるから!」

気付くと私はみく子を抱き締めて叫んでいた。
空が光って、雷鳴が響いた。

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二日目:ゆん編 05話

「ゆん…ちゃ…」

いつだっただろう。
静かな真夜中に消え入ってしまいそうな声で
みく子が電話を掛けて来たのはいつだっただろうか。
そんなに前じゃないしそんなに最近でもない。
はっきり覚えていない。
ただあの快活な凛としたあの声が涙を零すのが
大きな衝撃だったことだけが記憶に残っている。
彼女が私に弱音を言ったのは後にも先にもこのときだけだ。


電話口でみく子は多くを語らなかった。
ひたすら泣いていた。
夜の闇と同じように静かに深く泣いていた。
そして発したただ一つのことは

「いつか歌えなくなるかも知れない」

彼女が路上で歌っているのは知っていたし
一度だけ、たった一度だけ聞きに行ったことがある。
歌うみく子は本当に素晴らしかった。
生きることに喜び、たくましく奏でる彼女に
聴衆は魅了され、辺り一帯がきらきらとして見えた。
一段ときらきらしているみく子に嫉妬した。
愛されているみく子に、愛することを知っているみく子に
嫉妬した私自身はその場で一人醜かった。


それ以来私がライブに足を向けることはなかったけれど
歌がみく子にとってどんなに大切なものかは感じていた。
その彼女が唯一私にもらすほど不安に思ったことは
自らの歌声を失うことだった。


大きな不安の前に私はあまりにも力不足で
歌えなくなったってみく子はみく子だよ、
そう励ますことしか出来なかったように思う。
いつもはきらきらしているはずのみく子の
予想もしなかった泣き言に私は少し安心した。
やはり私は醜かった。


みく子が落ち着いて電話を終えてから
私たちは二度とその話に触れなかった。
私はそれを一過性の漠然とした不安だと思っていた。


しかし彼女の中ではずっと続いていたのだ。
終わっていなかった。
みく子は再び繰り返す。
ふたつの食べかけのラーメンを挟んだ向こう側で彼女は言う。

「さよならのライブをしようと思うの」

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二日目:ゆん編 04話

「いらっしゃいませー!」

ずぶ濡れになってたどり着いたのは三十分後。
外の嵐などお構いなしの元気な店員さんが快い。
しかし店内を見渡しても覚えのあるオレンジ色がいない。
代わりにアバンギャルドなパーマをあてた
透き通るほど真っ白な女性がこちらを見て微笑んだ。

「ゆんちゃん、こっちこっち」

張りのある魅力的な声はみく子のそれと同じである。
…これがみく、子…?
動揺を悟られないように平静を装う。

「みく子、お待たせっ」

向かい合わせの席につくが目が泳いでしまう。
顔を上げなきゃ。
目を合わせなきゃ。
あたしは上手く笑えている…?

「久しぶりー!ゆんちゃん変わらないね」

ふふふと笑うみく子は
ずっと会いたかったんだあ、と伏し目がちに言った。
そうだね、とだけ返すと静寂が広がる。


おまちどおさま、とラーメンが運ばれて来て
ようやくあたしは言葉を紡げた。

「ずいぶん急だったね。びっくりした」

「ふふっ、来てくれてありがとう」

笑顔。
ふぅふぅ冷ました麺をすすって飲み込んでから

「ゆんちゃんは、元気?」

真っ直ぐの視線をもってあたしに問い掛ける。

「珍しいこと聞くのね。どうかしちゃったみたい」

「気になるじゃない、可愛い友達なんだし」

気になるのはあなたのことよ、そう言いかけて止めた。
変なパーマはどうにかなるにしても
心底に心配になるほど深く深く白かった。
でも散々周りに不審がられたであろうことを
あたしの口からまた訊ねるのは嫌だった。


「あたしは元気だよ、大学では相変わらずだけどね」

「そっか、良かったあ」

心から安堵したようにみく子は微笑んだ。
そのように見えた。
そして、

「私ね、さよならしようと思うの」

そう呟いた彼女の頬を流れる涙は
いつの間に、どこから来たのだろう。

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