ロシュ編
蜜編
サク編
蓮火編
アリエス編
黒編
しのめん編
奏湖編
ちこ編
志津編
タイキ編
ゆん編
なつめ編
卵茶編
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
■ロシュ
みく子の元カレ。
二枚目、頭脳明晰、スポーツ万能で浮気者。
みく子と別れてエリカと付き合いながらも、みく子に未練がある人。
■蜜
みく子の現彼氏。
みく子のアバンギャルドなパーマを見て怒った。
世界を救いたいと思ってる人。
■サク
みく子の初恋の人。
みく子のことだけを考えながらも、人生に絶望してる。
悪魔と契約なんかしちゃってる人。
■蓮火
みく子の知り合い。
路上ライブで知り合い、アバンギャルドなパーマを見て
「とりあえず、そのパーマだけは直せよ!」と路上で叫ぶ人。
■アリエス
みく子と同じ研究室の学生。
先輩には卵茶もいる。
教授にいろんな意味で愛されてる人。
■黒
みく子のチャット友達。
るどんとビリヤードしたりもする。
みく子と実際に会ったことはない人。
■しのめん
みく子の友達。
どう見ても二児以上の父親としか思えない老けた大学生。
色の識別が出来ない人。
■奏湖
みく子の元後輩。
大通りにある24時間営業のマックス・ドックスの元気な店員さん。
みく子のライブポスターをそこら中に貼りつけた人。
■ちこ
みく子のストリート友達。
みく子と同じようにストリートで歌ってる。
昼は喫茶店、夜はダイニングバーじゅごんで働いている人。
■志津
みく子の友達。
「ふろーら・しょうだ」でバイトしてる。
落研で「るど」と漫才コンビを組んでる人。
■タイキ
蓮火の兄。
タクシードライバーをしている。
弟の蓮火のことをいつも考えてる人。
■ゆん
みく子の友達。
普段はたまにメールでやりとりしてる。
みく子のライブのポスターを作った人。
■なつめ
みく子の高校の同級生。
高校時代はみく子の生演奏を聴いたりしてた。
現在は立派に社会人をしている人。
■卵茶
みく子のゼミの先輩。
みく子とはよくメールをする仲。
後輩にはアリエスもいるがどちらからも先輩扱いを受けていない人。
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二日目:タイキ編 01話

この街で、人を車に乗せて運ぶのが僕の仕事だ。
数年前までは弟と同じ会社で、大学や会社にパソコンを卸していた。
だが、出来る弟と比べられるのが嫌で、それも辞めてしまった。
もっとも、弟はバイトという立場ではあったのだが、昔から何でも器用にこなす奴だった。
我が弟ながら、そういう所がうらやましかった。

そんな弟から珍しく電話があり、一緒に呑んだのが昨日。
話題は、弟が路上で声をかけた女の事だった。

「石橋を叩いて渡るって言葉がぴったりな性格だ。」
「良い意味で慎重、でも君には消極的って意味が正しいね。」
そんな事を言われ続けた僕のコンプレックスなど、弟は気にも留めてないのだろう。

僕なら、同じ状況でも話しかける事は無い。やはり少し羨ましい。

「で、そのみく子だっけ。
 結局今日は帰ったんだ。」

「そうだよ。
 俺じゃ涙止められないんだ。
 仕方ないだろう。」

「じゃあ、今頃彼か、元彼のところか。」

「…そうだな。
 いいんだよ!俺は前みたいな歌声が聴けるならそれで!」

「お前色々出来るのに、そういう所だけ不器用だよな。
 で、今日のヤケ酒の相手が僕というわけか。」

「オレンジ色の髪は、もう見られないのかなぁ。」

弟が見送ったらしい女、みく子に興味が沸いた。
オレンジ色の髪が、今はアバンギャルドなパーマになってる事と、通ってる大学くらいしか手がかりは無い。

興味本位に、一目見られればいいなと思った。
大抵の場合、僕のこういう考えは、そのまま何事も無く終わってしまう。

ただ、興味本位が仕事の車をある場所へと向けさせた。
大学の校門前。

見られるはずが無いのは解っているが、期待が軽く速度を落とさせる。

不意に、男と女が校門から出てきた。
女は泣いている。

アバンギャルドなパーマ。
広告らしきものがプリントされている服。
ギターは持っていないが間違いない。女は、みく子だ。

僕は、手を挙げる男の仕草を確認すると、車を止めた。

「お客さん、どちらまで?」

会ってしまった緊張が、それを隠すように言葉を発せさせた。

「…オレの家でいいか?」
「ん…。」
「じゃぁ運転手さん…。」

行き先を聞いた僕は、「はーい」と適当な返事をした後、車を走らせた。

昨日の弟の話から推測するに、この男のほうは、彼氏か、元彼のどちらかなのか。いや、もしかしたらもっと別の誰かなのかも知れない。

元々耳はあまり良くないほうなので、聞き耳を立てても断片しか聞き取れない。

「蜜クン…シュと一緒…イク…悪い事かな。」

「…っくりでい…落ち着いて話…。」

「さっき話…んちか…出たの。」

「そこまで聞い…っけ?」

断片しか聞けないから、頭が混乱してくる。
僕は急いで目的地に行くことにした。

学生がよく住むマンション地帯の一棟に車を止めると、料金を受け取った。
僕はみく子達の姿をバックミラーで確認しながら、ゆっくりと車を発進させた。

男の手は、みく子の腰に回っている。

弟よ。聞き取れたキーワードから思うに、みく子は元には戻らないんじゃないだろうか。
一緒にイクだとか、くりでいいとか、んこ出たとか、支離滅裂な上に、見知らぬ運転手がいるタクシー内でそんな猥談だ。いや、断片だったから解らないけど。

ただ、今回の話で弟と意見が合う所を一つだけ発見出来た。
偶然にせよ、僕のタクシーにもう一度みく子が乗るような事があれば、降りられたっていいから、弟と同じように叫びたい。
そのパーマは無いだろうって。
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二日目:タイキ編 02話

みく子を乗せて数時間後、僕は携帯電話を取った。
みく子を乗せた事を、弟に報告する為にだ。
一人で居る時間がある。それがこの仕事のいい所だ。
すぐにそれをしなかったのは、みく子の隣には男が居たからだ。
弟が言ったらしい、「どちらにも本音を伝えるべきなんじゃないかな。」の結果があれなのだとしたら、何だか伝える気分じゃなかった。

でも、あの呑み具合からするに、弟も少なからずみく子を愛しているに違いない。
だから、報告はしておこうと思った。

運転しながら(本当は禁止だが)、携帯電話を手に取る。
メールを、右手で打ちながら、路地裏に入った。


「件名:事件です!
本文:ちょっと前に、みく子らしき女の子を乗せたよ。
   マジで叫びたくなるくらいのパーマネント具合だな。」


間髪入れずに、メールではなく電話で返答が帰ってきた。

「もしもし、マジで乗ったの?」

「どんだけ必死だお前。大学はどうした。」

「長い間行ってない。バイトが忙しくて。」

「お前な、正社員になるのに大卒の資格がいるから通ってたんだろ。」

溜息混じりにそう言うと、弟は「へへっ」と笑って返してきた。
何でも出来る奴だと思ってたのに、ここ数年の弟は不器用極まりないように思う。
みく子の話も、ファーストコンタクトでの押しが弱かったのではないだろうか。
更にこう続ける。必死すぎる所はやはり愛なのか。

「俺の事はいいのだよ。それより、みく子は本当にあなたのタクシーに御乗りあらせられたのでございますか?」

「乗ったよさっき。なんか泣いてたけどな。」

「やっぱり話した通りだろ。俺程度じゃ、泣き止む事は無いだろうからな。心配だよマジで。
 せっかくパーマ直せって叫んだのに。」

「そこは関係ないだろう。でも隣に…」

出かかった言葉を、すぐに飲み込んだ。
「元通りに歌えるようになればそれでいい」なんて格好付けてはいるものの、もしかしたら弟もみく子をどうにか色々したいと思っているかも知れない。
自分の言葉が生んだかも知れない事の顛末を、知ってしまうのは酷すぎる。

「隣に?誰か居たの?」

「あ、あぁ、いや、今花屋で店長らしき人物が電話しながら半笑い。笑える顔してる。『ふろーら・しょうだ』だって。お前知ってる?」

誤魔化すのに必死だ。悟られまいと、すぐに次の言葉を続けた。

「俺はもう会う事は無いだろうけど、お前同じ大学なんだっけ?
 もう一回会えよ。あのままじゃ、みく子、元に戻らないんじゃないか?」

何故、もう一度会えと言ったのか、僕自身も解らなくなってきた。
でも、きっとそうすれば弟の望むものが手に入ると思った。

少し考えているような沈黙の後、弟は的外れというか、自分の気持ちを誤魔化すような返答をした。

「わかった、もう一回パーマ直せって叫ぶよ。
 骨は拾ってくれ。」

「後で電話くれよ。呑みくらい付き合ってやる。
 その代わり、今日中に探し出せよ。」

「おう!待ってろ!あ、でも呑みは明日にして。
 もしかしたらみく子、また深夜に歌ってるかも知れないから。」

「了解。」

電話を切った後、車の速度を上げた。
そもそも、僕自身には、みく子が色白になった理由も、アバンギャルドなパーマをかけた理由も解らなかったし、解らなくてもいいと思った。
弟、蓮火がみく子に向かってもう一度叫ぶと言った。それだけで充分だろう。
何かあっても、弟がそれで成長すればいい。
骨くらいは拾ってやろう。昨日の居酒屋に、予約の電話でもしようかな。

そう思いながら大通りに出ると、無線が入った。

「斉藤様より送迎予約です。明日、夕刻にパーティー有り。
 十八時から十九時にかけて、遠距離のお客様を送って下さいとの事です。
 ニ号車から十五号車まで、明日は忘れずに向かって下さい。」

眉間に皺を寄せながら、いつも通りの声で答えた。

「了解。」

弟よ。どうやら明日は行けそうにない。

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二日目:タイキ編 03話

外の雨粒の数は、時間が進む毎に多くなっている。
それでも、昼勤務の僕はそろそろ交代の時間だ。
弟は今頃、どこかでみく子を探しているだろうか。

不意に携帯電話が鳴った。常務からだ。

「タイキ、悪いがそのまま続けてくれるか。
 台風の影響で十二号車交代の運転手が来ないんだ。
 雨は儲け時だから。」

小さな会社だから、これくらいは聞いておかないと居心地が悪くなる。
引き受けた時の愛想笑いを察知されたのか、常務は小さく「残業代多めにするよ」と言った。

近場を往復しながら、雨に濡れた客を拾って運んでいく。
雨音の激しさに反比例するかの如く、次第に客は少なくなっていく。
そろそろ終わりだろうと思った頃、無線が入った。

向かう先は近くのマンション。
そこには一度、女子大生を送った事がある。
そういえば、あの女子大生は可愛かったな。あの娘が乗ってくれればいいのに。そんな事を考えながら、僕は車を走らせた。

高級そうなマンションのエントランス前。
まるで執事の様に背筋を伸ばしたオジサンが乗り込んできた。
いや、名前を確認して顔を見ると、どうやら大学生くらいのようだ。

「お客さん、どちらまで?」

いつもの調子で行き先を聞き、僕はいつも通り「は?い」と答えた。
その行為を、まるで操作されているようだと言われた事がある。
そんなつもりは無いのになぁ。

目的地に着くまで、客の話に聞き耳を立てる。
みく子を乗せた時から、今日は何故か癖になっているようだ。
まぁ、大学生一人だから、黙って目的地まで行くパターンだろう。

「Are You Ok?」

少し躊躇いながらバックミラーを覗く。
大学生は窓の外を見ながら、酷く疲れた表情をしていた。
長時間集中した弟が、同じような状態になったのを見た事がある。
あれは大学の試験終了後だったか。
五感を集中させて難解な問題を解いた後、放心状態で思考が口から漏れるらしい。
弟はその力を主にカンニングに使った。

僕同様、彼も今日は長い一日だったのだろう。
仲間が居る。そう思うと、少し微笑んでしまった。
だが僕の笑みは、次の瞬間に凍りつく。

「エリカ様…みく子…チョイブ男…」

驚いた。まさか彼の口からもみく子の名前が出てくるとは。
大学生が放心しているのをいい事に、僕は車の速度を落とした。

「蜜クン…彼氏…許せん…」

彼の言葉はまだ続く。

「ロシュ…エリカ様の彼氏…許せん…
 仲直り…一緒にイク…
 アルビノ…ひつじ…」

まだ聞いていたかったが、その前に目的地に着いてしまった。

「着きましたよ。」

放心状態の大学生に声をかけ、僕は料金を告げた。
彼が一万円札を差し出したので、僕は困った顔をした。

「えーっと、お釣りが・・・」

大きなお釣りの計算をしていると、彼の言ったキーワードを忘れてしまいそうだ。

「あ、八千三百二十円なんですけど、お釣り良いです。ありがとう。」

彼はそう言うと、マンションに向かってしまった。
キーワードを憶えるのに精一杯で、追いかけられなかった。

溜息を消すように、車のアクセルを踏む。
帰りにコンビニへ寄り、缶コーヒーを買った。
支払いは一万円札。

あの大学生は、明らかにみく子と関係している。

手に持ったお釣りを眺める。

弟と同じ大学だろうか。
弟に見つけてもらって、お釣りを返してもらいたい。

八千三百二十円を財布に入れる。

「あ、缶コーヒー代。」

財布から百二十円を取り出し、手に残ったお金と一緒に売上金に入れた。

明日、弟に電話しよう。
呑めない侘びも含めて。

みく子といい、「一緒にイク」、大学生の間で流行しているんだろうか。

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三日目:タイキ編 04話

朝だというのに薄暗い日。昨日は長い一日だった。
今日もそろそろ仕事の時間だが、雨は降り続いている。

ボケた頭を掻きながら、「今日、休みにならないかな。」と呟いた。
会社からの連絡を期待しながら、携帯電話を手に取る。

弟からのメールに気付く。送信時間は昨日の夜。完全に無視して寝てしまっていた。

そうだ、昨日のキーワードを伝えなければ。

あの大学生。乗車時に名前を聞いたな。確か…。

「志野山!」

弟への答えと同時に、忘れないようにキーワードを送る。


件名:気付いてたのね
本文:知ってたのか。
   隣に乗った男はハーフっぽかったよ?♪
   あと、昨日の夜はみく子に関係ありそうな大学生を乗せた。
   名前は志野山…だと思う。
   呟いてた言葉を送っておく。
   ここまで来ると結末が気になる。
   何か解ったら連絡くれ。

   雨の夜空にちりばめられた言葉達(キーワードですぅ♪)
   蜜クン 彼氏 許せん
   ロシュ エリカ様の彼氏 許せん
   仲直り 一緒にイク
   アルビノ ひつじ

   ところで、大学生の間で『一緒にイク』は流行中か?


『雨の夜空にちりばめられた言葉達』は、低血圧の弟への気遣いだ。
これだけお茶目にすれば、弟のテンションを柔らかく上げる事間違い無しだろう。

送信後にすぐ電話の着信音。

「はい、バニーテレフォン!」

弟と僕の二人だけの間で流行中の、お笑いネタを朝から炸裂させた。
相手は常務だった。

「あ、いえ、何でも無いんです。
 …あ、あ?そうですか!
 十時から。了解です。」

斉藤さんの送迎は、台風の為キャンセル。
代わりに、『ふろーら・しょうだ』から斉藤さん宅へ、花束を送迎するらしい。花をタクシーで送迎て。
余程必要なんだな。

続けて電話が入る。着信相手を慎重にチェックした。
今度こそ弟から電話だ。
先程の常務の所為で、余裕が無く、普通の出方をした。

「ふぁい!おはよう!」

「なんだふぁいって。
 それより、あのメールの内容は何だ。
 謎々か?」

「いや、僕はもう解らなくていいんだ。
 そもそもみく子は、お前の問題だろうよ。
 出来る限りの情報を与えてるだけだ。」

「おっけい、解った。
 じゃあ、朝一番俺をバイト先まで送ってくれよ。」

台風なのにバイトだって?
辞めたとはいえ、相変わらずあの会社は人使いが荒い。
謎の答えは、弟が掴めばそれでいい。そう思いながら、仕事に向かった。

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三日目:タイキ編 05話

弟を送った後、予定通り『ふろーら・しょうだ』に向かう。
人ではなく花を送る事になるとは、タクシードライバーになって以来初めての事。

そういえば、昨日『ふろーら・しょうだ』の前を通りかかったな。
店長さんらしき人は何やらオロオロしていらっしゃった。
あれは今日の花束作りの所為だったのだろうか。

不意に、歩道の女の子が上半身を乗り出て手を挙げた。
驚いて停車したら、彼女は「乗ってもいいですか?」というような目でこちらを見ている。
急がなければならないが、止まったものは仕方ない。
行き先を聞いてから、乗せるかどうか判断してみよう。

後部座席のドアを開く。

「すいません 大通りまでお願いしますっ」

勢いの良い声に、断る事を忘れてしまった。

「ふぁはい 大通りですねー」

我ながら間抜けな声だ。そう思いながら、行き先が同じ方向だった事に胸を撫で下ろす。
大通り付近で働く大学生は多い。
彼女もその一人なんだろうか。

それにしても、最近は若い人をよく乗せるなぁ。
若い人は、こちらから話しかけないと話さない人が多い。
一人考え込んでしまう僕にとって、それは有難いこ…

「とまってくれて助かりました」

は、話しかけられたー?
完全に安心し切っていた僕は、心にあった言葉のパーツを繋ぎ合わせた。

「いいんですよー 最近大学生とか若い方を乗せることが多くてー
 この後花屋さんに行くから 丁度よかった」

台詞としては、まるで用意されていたかの如く言えたのが救いだ。
本心が出る時、決まって僕の声は間抜けな感じになってしまう。
後部座席の女の子は「へぇ?」というような返事をした。
「大変ですね。」の意味が込められていたように思えて、少し嬉しかった。
心の中で「ありがとう。」と言っておいた。

大通りで停車し、女の子を降ろした後、裏通りへ。
一台で十束乗せる為、残りの二台の到着を待つ。

『ふろーら・しょうだ』の店先に立ち、挨拶をしようとした瞬間、何かに躓いた。
何故こんな所にレンガが…。くすりと笑いながら、人が近付いてくる。

「ああ、花を送って頂くタクシーの方?
 今日はよろしくお願いします。」

店長らしき人物は、関西弁でそう言うと、最初の十束を僕のタクシーに積み込んだ。
目的地は近く。小高い丘の上の、風見鶏の付いた屋根の大きな屋敷。
そこが斉藤さん宅だ。

大きなアーチ型の鉄柵の門の前に着いた僕は、その門の横に取り付けられているインターホンのボタンを押した。

「はい。どちら様でしょう。」

気品のある声だ。家屋の佇まいも宮殿のようで、その声のイメージは「マダム」と呼ぶに相応しい。

「ご依頼の花を届けに伺いました。」

「まぁ、ありがとうございます。あ、それと…。
 ごめんなさいね。お願いしてキャンセルした送迎だけど、やっぱり頼めないかしら。
 お時間は夕方で。多少人数が減りましたので、タクシー数台で構わないのだけど。」

後ろから来た二台と本部へ連絡し、引き受ける事にした。
花を運びその場を離れようとした瞬間。
先程のマダムの優しい声と間逆の、激しい雷音が響いた。

台風は近付いている。

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三日目:タイキ編 06話

だらしなく、何故か垂れたように見える目尻。心持ち上目遣い。
一筆書きで書けてしまえそうな山形のその目の形は、僕の高校時代の仲間内で「エロ目」と呼ばれていた。
この日の夕方の僕の目は、常にその形をしていたことだろう。

花を届けてから、送迎の約束時間までを難なくこなした僕は、確認の為に本部へ連絡を取った。
どうやらお迎えだけで今日の仕事は済みそうだ。
送った後は交代の時間。今日の、最後の仕事に取り掛かる。

まずは最初の目的地、帝都ホテルへ。
先に二台の同僚が到着していた。
同じグループらしきお客さんが、列に並んでいる。
グループの先頭には、さもお偉いさんのような方々が並んでいる。
ただ待つのも暇なので、こういう場合はどのお客さんが乗るのか、列の人間関係を見ながら予想をする。これも変な癖の一つだ。

「僕のに乗るのは、えぇと…な、なんだって!?」

其処に立っていたのは、女性二人。
一人は、胸の大きく開いた、マロン色のベロアのロングドレス。
もう一人は、薄紫色をした、肩のないシルクのロングドレス。
正にパーティーに相応しいそのドレスの共通点。
それは、「大きく入ったスリット」であった。

もう一度言おう。ドレスの共通点。
それは、「大きく入ったスリット」であった。

死角になるほうの右手で、僕は小さくガッツポーズをした。
ガッツポーズの後、そのまま手を動かしながら「叶姉妹かよ!」とつっこんでみた。
男心だ。察してくれ。
後は祈るのみ。頼む順番そのまま変わらないで…。

僕の車がその二人の前に止まる。
後部座席のドアを開けながら、小さく「ビンゴ?」と囁いた。

「え?」

女性二人の、囁き声に対する当然の疑問。

「あ、いえ、気になさらないでください。」

僕はバックミラーが気になって仕方ないですがね。
悟られてはいけない。集中するんだ!
「それでは、出発しま?す」と間抜けな言葉を発した後、僕はバックミラーをチラ見した。

「パーティーの出席が急に決まっちゃって。
 運転手さん、今日急に決まったんでしょう?
 私、最近寝不足なのに困っちゃう。ねぇ、まりモさん?」

「私も昨晩は四十枚もホットケーキ焼いて疲れてるのに。
 そういえばあめ湯さん…」

「お二人とも大変ですねぇ」と笑いながら、僕の目は既に「エロ目」であった。
なんだろう。外は台風なのに、ここだけ暖かい。そんな感じだ。
みく子の歌声を聴いた弟も、こんな気分だったのか?いや、違う気がするな。

斉藤さん宅に到着すると、大きな門が開かれていた。
ゆっくりと噴水のある庭を通り過ぎ、その邸宅に相応しい玄関前に停車した。

車を降りる二人に、心底残念そうな声で「ありがとうございました?」と言った。
次の指示を受けて大学駅へ向かう。

「また女の子なら、今日はもの凄い女の子率ですな!」

一人、テンションが空回りする男の姿。
傍から見ると悲しくなってくると思うの。でもいいの。

到着して、辺りを見回す。どうやらここは僕一台らしい。
駐車スペースに車を停め、お客さんを探す事にした。
しかし、雨中の駅前は混雑している。

「斉藤様のパーティーに出席されるほのか様はいらっしゃいますか??」

大声で叫ぶと、一人の女性が傘を差して近付いてきた。
僕の大声で注目を浴びてしまった彼女は恥ずかしそうにこう言った。

「私です。よろしくお願いしますね。」

ニコッと笑った彼女は、黒のワンピースに、黒のボレロ、それにピンクのコサージュを付けていて、トドメにヒールといった出で立ちの素敵な女性だった。
後部座席の扉を開き、運転席に移動する途中、死角になる方の、今度は左手で小さくガッツポーズをした。
第一陣は既に到着している。急がなくては!
だが、アクシデントは起こるべくして起こるのか。
それを起こしたのは、僕だった。

「いや?今日はついてるわ。」

しまった。先程集中力を使いすぎ、心の中が口から漏れた。
弟よ、お前はその力を主にカンニングに使ったが、僕は煩悩にその力を…すまん。ていうか、本当にごめん。

「え?何がですか?」

それは当然の疑問。

「あ、いえいえ、台風だというのに、斉藤様のお陰で仕事が、ね。
 そういえば斉藤様のお宅は豪邸でした。
 あのパーティーだと、集まる方も相当な職種の方ばかりなんですかねぇ。
 失礼ですが、お客様は…」

「私ですか?水彩画家をしております。」

「あ?そうなんですか、画家に大切な事ってあります?」

「画家に限りませんけど、何事にでも感動する気持ち、ですかね。」

必死で誤魔化した。明るい人で助かった。
話し続けるタクシー運転手。パーティー前に気を悪くしなければいいが。

斉藤さん宅に到着。あぁ、無常。
先程と同じ様に玄関前に停車し、後部座席の扉を開く。

「ありがとう。」

彼女はそう言うと、大きな扉に向かって歩き出した。

「いえ、こちらこそ。」

後姿を見送りながら、そう呟いた。
しばらく、そのまま停止。
一体どんなパーティーなんだろうかと、内容が気になって仕方なかった。

パッパー!

同僚のクラクションで我に返る。
斉藤さん宅を後にし、会社に戻りながら溜息をついた。
困った事に目が「エロ目」のままだ。
そのまま今日の仕事は終わりだった。

余韻に浸りながら家に辿り着き、シャワーを浴びながら今日の出来事を思い出す。
酷い雨だったが、今日は女の子や花を送ってばかり。こんな日があってもいいな。
あんな人達が集まるパーティー。
きっと楽しいに違いない。

「あ、そういえば。」

ようやく弟の事を思い出し、シャワーを終えてベッドに倒れ込んだ。
僕の能天気さと全く正反対に、弟は今真剣に悩んでいるかも知れない。
みく子の事を少しは解ったんだろうか。
携帯電話を手に取った瞬間、窓の外が光り、雷音が響いた。

ベッドから降り、カーテンを閉じる。

「答えは見つかったか?」

そう呟いて、携帯電話を机の上に置く。
そうだ、今更僕が何を言っても、きっと終着点は変わらない。

もう一度ベッドに倒れ込もうとした時、携帯電話の着信音が激しく鳴り響いた。
それは、弟からのメールだった。

携帯電話を手に取る。内容を見て、僕は小さく笑った。
僕には意味が解らなかったが、これが弟なりに掴んだ答えだろう。
メールの内容を静かに声に出した。

「みく子は大丈夫。」

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六日目:タイキ編 07話

「石橋を叩いて渡るって言葉がぴったりな性格だ。」
「良い意味で慎重、でも君には消極的って意味が正しいね。」
そんな事を言われ続けた僕のコンプレックスなど、弟は気にも留めてないのだろう。

そういえば子供の頃。何でも器用に出来たのは僕の方だったっけ。

今日は同じ場所へ色々な人を運んだ。なんなんだあの路地は。

流石に疲れて、大通りのバス停に車を止め、休んでいた。何処へ行っても、何故か行き先がこの近くの路地だった。
この前の斉藤さん宅のパーティーの時に乗って頂いた、あのセクシービューティーも今日、その客の一人だったっけ。

僕は一本目の煙草に火を灯けた。
煙草を吸いながら、弟からの電話の事を考えていた。

「みく子のライブかぁ。」

会社を辞めた理由が、バイトで入った弟と比べられたくないからだった。
そう、大昔、僕が小学校四年で、弟が小学校ニ年だった頃。
あの頃は僕の方が何でも出来た。
いつも泣いていた弟を、僕が元気付けてあげたもんだ。

次の学年に進級した頃、弟は確かこう言った。

「僕、お兄ちゃんになりたい。
 そしたら、何でも出来るようになるよね?
 思い切って、行動出来るようになるよね?
 神様に、お願いしていいかなぁ。」

何で今思い出すかは解らないけど、たまに昔をこうやって振り返ってしまう。
可愛かったなぁ。それが今や、立場が逆みたいだ。

あの問いに、僕は無責任に「うん。そうすればいいよ。」って答えた。
いつの間にか可愛げが無くなっていったっけ。
そういえば、その後に弟が更に続けたっけな。

「そしたら、僕が居なくなっちゃう。
 お母さん、悲しむかな。」

「じゃぁ俺がお前になるから大丈夫だ。」

「せいかくこうかんだねー♪」

嬉しそうな弟を見て、安心したのを憶えている。
なんか、子供らしい可愛いやり取りだったような気がするな。

「変わる事が、悪い事かどうか、か。」

僕が妥協して、弟は努力して、その結果が今なのだろう。
努力して変わった弟が、変わってしまって泣いていたみく子を放っておけなかったんだろうな。
だから、変わらずに小さくなっていった僕は、みく子に興味がないのかも知れない。

「あいつ、みく子の歌聴けたかな。」

自分達に対する小さな結論を出すと、煙草の煙を吐き出した。

「いい結果、出てるといいな。」

煙草の煙が空気に溶けて消えていくのを見ながら、窓を開けた。
人と一緒に、黒猫が歩道を歩いていて、タクシーの横で立ち止まった。

その時、歌声が聴こえた。

空に、響いて溶ける声。

弟から聞いていたイメージだけ、だが、オレンジ色の髪の毛を揺らすみく子の声とは少し違う気がする。
何ていうか、もっと、悟ってるっていうか、そのイメージより大きく皆を包むような。
例えば、それは人に合わせて色を変えてしまうような。

「これ、もしかしてみく子の声なのか?」

「ニャー…」

猫に返事をされた。
その歌声を聴きながら、僕はニ本目の煙草に火を灯けた。

「…この歌声なら、大丈夫そうだな。」

「ニャー…」

またも猫に返事をされた。

「変われる事は、きっと素晴らしいんだよな。」

同時に携帯電話が鳴った。

「はい。あぁ、常務。
 バニーテレフォン?忘れて下さいよそれ。
 え?今日も交代の人来ないんですか?
 台風の影響?もうその人クビにしましょうよ。」

弟よ、僕が今からまた、あの頃みたいに、お前の目標になれるように、努力するのはいい事だろうか。

「残業?う?ん。」

変わっていこう。努力して、何でも出来る人間に。

「やります。やりますよ。」

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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