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二日目:アリエス編 02話

うちの大学は交通の便でいえば不便でしかない。
今日だって電車が十分くらい遅れたからどうなるかと思ったさ。
運よく道路がすいてたからいいものの
どうにかならないだろうか。

大学に行くと耳に入ってくるのはみく子ちゃんの話題ばかりだった。
昨日は研究室でくっちゃべってただけでみく子ちゃんにはノータッチ。
こんなことならもっと絡んでおけばよかったんじゃないかと思う。
残念だ。

ただココでひとつ問題があるんだ。
みく子ちゃんはあのオレンジ色の髪ですごく有名だ。
だから僕はみく子ちゃんを知っている。
重要なのは僕はみく子ちゃんを知っていること。
問題なのは僕とみく子ちゃんは知り合いじゃないということ。
どうしたものか。

そんなことを考えてるうちに講義室に着いてしまった。
パワポ(パワーポイント)がヒドイことで有名なT教授の講義だ。
何がひどいって黒地に白字なんだよ。
いまどき中学生でもそんなのやらないって。
決して間違ってることを教えてるわけじゃないのに怪しい感じがする。
そんな理由もあってこの講義には友人が居ない。
それだけじゃない。
この講義を受けてるのは十数人しか居ないんだ。
それ故。
凹む。

次の講義には友人が数名参加していた。
はずである。
四人が机に伏せていたのは内緒にしておこう。
僕は後ろに座っていた北兎に尋ねた。
「そういえばさぁ、みく子ちゃんって知ってる?」
「へ?何それ?」
僕は驚いた。
北兎はあれだけ目立っているみく子ちゃんを知らなかったんだ。
僕はみく子ちゃんに関して知ってることを適当に話した。
「オレンジ色の髪でさぁ、最近イメチェンした・・・
 やけに色白になって・・・
 昨日も・・・ext」
それだけで北兎はみく子ちゃんに夢中になってくれた。
よくわからないけど
僕はそのことに満足してしまった。
我ながら全く意味がわからない。
そしてみく子ちゃんとの関係に進展が無いことに気づいてしまった。

午後は相変わらず半ばどうでもいいことで盛り上がったと思う。
内容を覚えてないところからすると本当にどうでもよかったんだろう。
そして今僕は思い出してしまった。
提出しなきゃいけないものがいくつかある気がする。
みく子ちゃんのことばっかり考えてる場合じゃないじゃないか。
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二日目:志津編 01話

記録的な暑さが、突然秋に摩り替わった頃、彼女は大変身していた。
溌溂としたオレンジのストレートヘアが揺れていたのは、つい二、三日前のことだ。

「お志津・・・」

聴きなれた声に振り返って、私は息を呑んだ。

「み、みく子?」

綺麗なストレートヘアは、白っちゃけたパーマで見る影もない。
いや、それよりも、鈴木その子も真っ青の真っ白い顔!

「どうしたの?」

やっとの思いで言葉を引き摺り出してはみたものの、どうかしたと聞いたところで仕方が無いのだけれど。

「別に・・・」

歯切れの悪い返事が返ってくる。

「あの、お志津。私、暫くバイト休むので、店長に伝えて・・・」

はぁ?
おいおい、そんなこと自分で連絡せんかいっ。

「あぁ、そぅ・・・」

心とは裏腹に請け負ってしまった。

みく子は、それだけ言うとペコリと頭を下げて、さっさと行ってしまった。
ぽかんと見送っていると、少し離れた所で待っていた男前の男子と一緒にどこかに行っちゃった。。。

って、おーいっ!

何?あの親しげな雰囲気は?
みく子って、確か蜜くんと付き合ってたよね?
蜜くんも男前だったよね?
でも、さっきの男子は別の人だったわよねぃっ。

なんで、あんな女がモテるのよっ。
鈴木その子も裸足で逃げ出すような、真っ白お化けじゃないのよっ。

これは・・・・・事件かも?

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二日目:ロシュ編 04話

ミクに電話を掛けてみたが、何回コールしても出ない。
留守電にもならない。

「ミク、どうしたんだ」
かなり心配になってはいたものの、学校へ行けば会えるんじゃないかと思って、キャンパスへ向かう。

ニ限目はミクと同じ履修の流通科学の講義だ。
その講堂に入ると、ミクはちゃっかり一番後ろの席に座っていた。

ミクの横の席に座りながら
「ミク、昨日は何?大丈夫か?今朝から何度も電話してただろ?どうした?」
と、オレは聞くと

「うん。大丈夫。何でもないの」
ミクはこっちを見て、力いっぱいの笑顔を見せて、作ったようなトーンの高い明るい声で答えた。

でも、目は腫れて真っ赤だった。
白さが増したミクの白い肌に真っ赤に充血した目は、かなり痛々しかった。


「どう見ても大丈夫じゃないだろ」
オレはちょっと怒ったように言った。

「ううん、ちょっと大丈夫…」
ミクがそう言いかけた時、教授が入ってきて、講義が始まった。

「後で話すね…」
「今、話せよ」
「う…ん…」

しばらく、ニ人の小声でのひそひそ話が始まる。

「実はね、昨日また、蜜クン…、あ、彼氏とね、大ゲンカしたの」
「うんうん」

「一回目は仲直りしたのね…」
「うんうん」

「でも… ロシュと一緒…に ノートン教授に会い… に行くって… 言ったら…」
ミクの小声がだんだん泣き声になってきてる。

「でね… ぐすん…
 すごく… 悲しくなって… 蜜クンち… 彼んちから… 出たの…
 ぐすん…」
ミクは、もう完全に泣きモードに入ってる。
 
「分かった、分かった、ちょっと出よう」
自分のノートとミクのノートをバッグに入れ、一緒に講堂から、こっそり外に出た。

講堂を出るなり、ミクは大泣きになった。
細い肩がぶるぶる震えている。

オレは思わず、ミクの震える肩を抱き寄せ、明るいオレンジ色になった髪を撫でてやった。
抱きしめたミクからは、懐かしい柑橘系のコロンの香りがした。

「えーーーん」
堰を切ったように、ミクの涙は溢れ出した。


オレはミクを抱きかかえたまま、キャンパスから出た。
ミクは、ずっと泣いていて、普通に歩くことさえ出来ない。

校門の前でタクシーを拾い
とりあえずオレの家に向かった。

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二日目:しのめん編 02話

三年前のあの時から
僕は密かにみく子の事を想っている。

なるべく彼女と同じ講義に出席するようにしたりと
今時の中学生でもしないような微妙な努力を続けている。
しかし、ここ最近は実家の稲刈りの手伝いで大学に来ていなかったので、彼女にももちろん会っていない。


今日のニ限目にある流通科学の講義に出席する為
僕は自分の指定席でもある講堂の一番隅を確保しながら彼女を待った。
しばらくすると周りの学生が、ひそひそと会話を始めた。


「病的に白いよね…」

「なにあのパーマ、似合ってねーよ」

「でもさー、アレでモテてるんだから、なんだかねー」


僕は目が悪い分、その他の感覚が鋭い。
聴覚も鋭いので周りのひそひそ話が充分に聞こえてしまう。

誰の事を言っているんだろう?と思いながら
その話題にされている視線の先へ、講堂の一番後ろへ僕は視線を移した。


そこにはみく子が座っていた。


どこかしら心ここにあらずな、みく子。
周りの「病的に白い」の意味はさっぱり解らなかったけれど、アバンギャルドなパーマが僕の目を惹いた。


「革新的過ぎるだろ、それ」


思わず遠距離からツッコミをしてしまう。
そんな遠距離射撃をしていると、みく子の隣に馴れ馴れしく男が座ってきた。
僕は聴覚に集中した。


「…ミク、昨日はナニ…してただろ?…」

「うん。…」


(おいおいおい、朝から何しゃべっちゃっているんだ、あのニ人!
 「ナニしてただろ?」って何だよ!
 いや、それに対してめちゃくちゃ良い笑顔で「うん」ってなんだ
 認めるのか、認めちゃうのか、僕の、僕だけのみく子!)


僕は興奮冷めやらぬ気持ちで、さらに聴覚を研ぎ澄ませる。


「どう…て…いだろ」


なぜか男の方が怒りながら言っている。


(何を怒っているんだ!こっちだって童貞だ!)


急にみく子と話をしている男と、友達になれる気がした。


「う…ん、ちょ…い…ぶ…」


(ちょ?ちょいぶ?チョイブってなんだ?
 ちょっとした大人のおもちゃ的なアレか?
 どうしちゃったんだ、僕のみく子!
 君はもっと穢れのない子だったじゃないか!)


あまりの興奮に立ち上がろうとすると教授が入って来た。
僕は講堂の前へと向き直りながらも、聴覚だけは講堂の一番後ろに向けた。

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二日目:しのめん編 03話

「流通は、歴史的、人間社会の基盤、災害時、グローバルな社会経済の面から見ても、二十一世紀における重要なキーワードであり…」

教授が流通科学の講義をしている。
でも僕の意識は教授とは反対側に向かっていた。


キュィンキュィィィィン。


僕の聴覚が集中力を高めていく。
別に機械音は鳴っていないけれど。


「後…ナスね…」


(チョイブの次はナスか!
 あれか!あんなこととかかっ!!!)


と思った途端、鉄の臭いを鋭い嗅覚が捉えた。
僕はすぐにポケットティッシュを取り出すと鼻に宛がう。
そう、鼻血だ。

幸い鼻血は処置が早かったので、誰にもバレる事なく事なきを得そうだ。
鼻血の処置をしながら聞こえてきたのは


「蜜クン、彼氏、大ゲンカ、仲直り、一緒に、イク」


途切れ途切れのワードではあるが、こんなの、組み立てれば何を話しているのかはスグに解るってものだ。
大学ノートにワードを書き込みながら思考を巡らす。


(まずは「蜜クン、彼氏、大ゲンカ」だ。
 これは蜜クンという人が彼氏と大ゲンカしたって話だな。
 となると残りの「仲直り、一緒に、イク」は…読めたぞ!

 蜜クンという人が彼氏と大ゲンカしたけども仲直りして、ヤって一緒にイった。と。

 お、男同士?これ男同士!?)


鼻にティッシュを詰め込みながら、改めて聴覚を集中させる。


「でね…すごく…蜜クン…出たの…」


(ちょ、ナニが出たの??って、待て、待て、待て。なぜに泣くんだみく子?
 その事をみく子が知っているって事は蜜クン=彼氏って事か?
 ちくしょう、蜜クンめ。
 いや、どこの誰かは知らないけど、みく子を泣かすなんて…許せん!)


次第にみく子の泣き声は大きくなってきている。
隣に座っている男がみく子を外に連れ出したようだ。
みく子の大きな泣き声が講堂の外から響いている。

しばらくしてから僕は、講義を抜けてニ人を追いかけた。
僕のモノクロにしか写らない目に飛び込んできたのは
校門の前でニ人が乗り込んだタクシーが発車するところだった。

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二日目:しのめん編 04話

タクシーが走り去った校門をモノクロに見つめていた。

僕が稲刈りの手伝いをしている間に、僕のみく子を取り巻く環境が急変している。

これは由々しき問題だ。
次のタクシーを捕まえて「あのタクシーを追ってくれ!」とでも言おうか。
いやいや、少し冷静になろう。

ぽん。

鼻に詰めていたティッシュを抜き取った。
鉄の臭いが嗅覚を刺激してくる。


「まずはみく子に何があったのかを調べる必要があるな」


妙な使命感を感じながら、僕は図書室へと歩き出した。

図書室にはそこそこの学生が調べ物や読書をしている。
空いていた隅の席に腰掛けると、僕は大学ノートを広げた。


「蜜クン、彼氏、大ゲンカ、仲直り、一緒に、イク」


今持ちえている情報を整理すると、この蜜クンっていうのがみく子を泣かした張本人で、どうやら、みく子の彼氏みたいだ。


「大ゲンカをしたけれど、仲直り…」


呟きながら大学ノートに追記をしていく。
フと、少し離れた窓際の席に座っている学生が気になった。
空いている窓の傍で分厚い本を難しい顔をしながら読んでいる。
本のタイトルは…「一般動物に見られる遺伝的病症」だ。
色は解らない僕の目も、視力は人の数倍は見える。
難しい本を読んでいるな。と思いながらノートに視線を戻す。

そもそも、みく子はなぜ泣いていたんだろう。
彼氏と大ゲンカしたが、仲直りしたんだろう?
それならあんなに悲しそうに泣く事は無いじゃないか。


(まてよ…?)


「一緒に、イク」


(このワードは、もしかすると、彼氏以外の誰かと【何処か】へ【行こう】としたって事か?
 それで逆上した彼氏に…許せん!)


大学ノートに大きく「彼氏=蜜クン=許せん」と書いた。

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二日目:タイキ編 01話

この街で、人を車に乗せて運ぶのが僕の仕事だ。
数年前までは弟と同じ会社で、大学や会社にパソコンを卸していた。
だが、出来る弟と比べられるのが嫌で、それも辞めてしまった。
もっとも、弟はバイトという立場ではあったのだが、昔から何でも器用にこなす奴だった。
我が弟ながら、そういう所がうらやましかった。

そんな弟から珍しく電話があり、一緒に呑んだのが昨日。
話題は、弟が路上で声をかけた女の事だった。

「石橋を叩いて渡るって言葉がぴったりな性格だ。」
「良い意味で慎重、でも君には消極的って意味が正しいね。」
そんな事を言われ続けた僕のコンプレックスなど、弟は気にも留めてないのだろう。

僕なら、同じ状況でも話しかける事は無い。やはり少し羨ましい。

「で、そのみく子だっけ。
 結局今日は帰ったんだ。」

「そうだよ。
 俺じゃ涙止められないんだ。
 仕方ないだろう。」

「じゃあ、今頃彼か、元彼のところか。」

「…そうだな。
 いいんだよ!俺は前みたいな歌声が聴けるならそれで!」

「お前色々出来るのに、そういう所だけ不器用だよな。
 で、今日のヤケ酒の相手が僕というわけか。」

「オレンジ色の髪は、もう見られないのかなぁ。」

弟が見送ったらしい女、みく子に興味が沸いた。
オレンジ色の髪が、今はアバンギャルドなパーマになってる事と、通ってる大学くらいしか手がかりは無い。

興味本位に、一目見られればいいなと思った。
大抵の場合、僕のこういう考えは、そのまま何事も無く終わってしまう。

ただ、興味本位が仕事の車をある場所へと向けさせた。
大学の校門前。

見られるはずが無いのは解っているが、期待が軽く速度を落とさせる。

不意に、男と女が校門から出てきた。
女は泣いている。

アバンギャルドなパーマ。
広告らしきものがプリントされている服。
ギターは持っていないが間違いない。女は、みく子だ。

僕は、手を挙げる男の仕草を確認すると、車を止めた。

「お客さん、どちらまで?」

会ってしまった緊張が、それを隠すように言葉を発せさせた。

「…オレの家でいいか?」
「ん…。」
「じゃぁ運転手さん…。」

行き先を聞いた僕は、「はーい」と適当な返事をした後、車を走らせた。

昨日の弟の話から推測するに、この男のほうは、彼氏か、元彼のどちらかなのか。いや、もしかしたらもっと別の誰かなのかも知れない。

元々耳はあまり良くないほうなので、聞き耳を立てても断片しか聞き取れない。

「蜜クン…シュと一緒…イク…悪い事かな。」

「…っくりでい…落ち着いて話…。」

「さっき話…んちか…出たの。」

「そこまで聞い…っけ?」

断片しか聞けないから、頭が混乱してくる。
僕は急いで目的地に行くことにした。

学生がよく住むマンション地帯の一棟に車を止めると、料金を受け取った。
僕はみく子達の姿をバックミラーで確認しながら、ゆっくりと車を発進させた。

男の手は、みく子の腰に回っている。

弟よ。聞き取れたキーワードから思うに、みく子は元には戻らないんじゃないだろうか。
一緒にイクだとか、くりでいいとか、んこ出たとか、支離滅裂な上に、見知らぬ運転手がいるタクシー内でそんな猥談だ。いや、断片だったから解らないけど。

ただ、今回の話で弟と意見が合う所を一つだけ発見出来た。
偶然にせよ、僕のタクシーにもう一度みく子が乗るような事があれば、降りられたっていいから、弟と同じように叫びたい。
そのパーマは無いだろうって。

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二日目:タイキ編 02話

みく子を乗せて数時間後、僕は携帯電話を取った。
みく子を乗せた事を、弟に報告する為にだ。
一人で居る時間がある。それがこの仕事のいい所だ。
すぐにそれをしなかったのは、みく子の隣には男が居たからだ。
弟が言ったらしい、「どちらにも本音を伝えるべきなんじゃないかな。」の結果があれなのだとしたら、何だか伝える気分じゃなかった。

でも、あの呑み具合からするに、弟も少なからずみく子を愛しているに違いない。
だから、報告はしておこうと思った。

運転しながら(本当は禁止だが)、携帯電話を手に取る。
メールを、右手で打ちながら、路地裏に入った。


「件名:事件です!
本文:ちょっと前に、みく子らしき女の子を乗せたよ。
   マジで叫びたくなるくらいのパーマネント具合だな。」


間髪入れずに、メールではなく電話で返答が帰ってきた。

「もしもし、マジで乗ったの?」

「どんだけ必死だお前。大学はどうした。」

「長い間行ってない。バイトが忙しくて。」

「お前な、正社員になるのに大卒の資格がいるから通ってたんだろ。」

溜息混じりにそう言うと、弟は「へへっ」と笑って返してきた。
何でも出来る奴だと思ってたのに、ここ数年の弟は不器用極まりないように思う。
みく子の話も、ファーストコンタクトでの押しが弱かったのではないだろうか。
更にこう続ける。必死すぎる所はやはり愛なのか。

「俺の事はいいのだよ。それより、みく子は本当にあなたのタクシーに御乗りあらせられたのでございますか?」

「乗ったよさっき。なんか泣いてたけどな。」

「やっぱり話した通りだろ。俺程度じゃ、泣き止む事は無いだろうからな。心配だよマジで。
 せっかくパーマ直せって叫んだのに。」

「そこは関係ないだろう。でも隣に…」

出かかった言葉を、すぐに飲み込んだ。
「元通りに歌えるようになればそれでいい」なんて格好付けてはいるものの、もしかしたら弟もみく子をどうにか色々したいと思っているかも知れない。
自分の言葉が生んだかも知れない事の顛末を、知ってしまうのは酷すぎる。

「隣に?誰か居たの?」

「あ、あぁ、いや、今花屋で店長らしき人物が電話しながら半笑い。笑える顔してる。『ふろーら・しょうだ』だって。お前知ってる?」

誤魔化すのに必死だ。悟られまいと、すぐに次の言葉を続けた。

「俺はもう会う事は無いだろうけど、お前同じ大学なんだっけ?
 もう一回会えよ。あのままじゃ、みく子、元に戻らないんじゃないか?」

何故、もう一度会えと言ったのか、僕自身も解らなくなってきた。
でも、きっとそうすれば弟の望むものが手に入ると思った。

少し考えているような沈黙の後、弟は的外れというか、自分の気持ちを誤魔化すような返答をした。

「わかった、もう一回パーマ直せって叫ぶよ。
 骨は拾ってくれ。」

「後で電話くれよ。呑みくらい付き合ってやる。
 その代わり、今日中に探し出せよ。」

「おう!待ってろ!あ、でも呑みは明日にして。
 もしかしたらみく子、また深夜に歌ってるかも知れないから。」

「了解。」

電話を切った後、車の速度を上げた。
そもそも、僕自身には、みく子が色白になった理由も、アバンギャルドなパーマをかけた理由も解らなかったし、解らなくてもいいと思った。
弟、蓮火がみく子に向かってもう一度叫ぶと言った。それだけで充分だろう。
何かあっても、弟がそれで成長すればいい。
骨くらいは拾ってやろう。昨日の居酒屋に、予約の電話でもしようかな。

そう思いながら大通りに出ると、無線が入った。

「斉藤様より送迎予約です。明日、夕刻にパーティー有り。
 十八時から十九時にかけて、遠距離のお客様を送って下さいとの事です。
 ニ号車から十五号車まで、明日は忘れずに向かって下さい。」

眉間に皺を寄せながら、いつも通りの声で答えた。

「了解。」

弟よ。どうやら明日は行けそうにない。

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二日目:蓮火編 04話

兄貴のタクシーにみく子が乗った。
信じられない偶然だと思う。まるで作り出されたかのような。
驚きながらも必死で兄貴と電話した後、一度家に帰って大学へ向かった。

本当はみく子と同じ大学に通っていた事を、何故あの夜に言ってしまわなかったのか。
歳をとる毎に、全てが曖昧になっていく。
バイトも中途半端で、それでもそこそこ出来て、一緒に働いていた不器用だった兄貴は「これ以上迷惑をかけたくない」というわけの解らない理由で辞めてしまった。その原因が俺なのか、質問してもいつもはぐらかされるから、いつからか質問しなくなった。
本当は、大学を出た後に、どこか別の地へ行ってしまおうと思っていたんだ。
バイト帰りに呑んで、帰りに路地で出会ったみく子の歌に、どれだけ助けられたか。
曖昧だった視界がクリアになっていくような、そんな歌声だった。

いくら感謝しても、足りない。
兄貴は何か勘違いをしていそうだが。

みく子を探すついでに、借りっぱなしだった本を返す事にした。
『現代IT概論』
これが昔の俺には必要だったのか疑問が浮かぶ。
少なくとも今の俺には必要ない。

図書室に入り、「本貸出システム」へと向かう。
借りた本を返すのに、このシステムを一度通さないといけないのが不便で仕方ない。

しかし「本貸出システム」の端末前に男が座っており、何やらつぶやきながら使用していた。

少し待ったが、「彼の名前は…」とかつぶやきながらニヤリと笑ったのが気味悪く、早くここを立ち去りたくなった。

「すいません、端末使いたいんですけど?」

彼はそそくさと図書室から出て行った。

「あんな男がこの大学に居たかなぁ。」

そうつぶやきながら本を返却する手続きを済ませる。
男が誰か、なんて解るはずがない。
俺は殆ど大学に来ていなかったんだから。

借りていた期間が長すぎて注意を受けた。
聞き流しながら考える。
俺が解るのは、帰国子女のロシュくんくらいだ。
バイトで、ロシュくんがノートン教授の特講を受けている事を知って、興味を持った。話しかけたら、笑って答えてくれたのを憶えている。
思えば、同じゼミだったのに殆ど話せずにいた。彼は俺を憶えてくれているだろうか。
彼くらいの人物がみく子の彼か元彼だったら、きっとみく子は前のように歌えるようになるんだろうな、と考えながら、係員に答える。

「以後、気をつけます。」

さて、ここからが本題だ。

「変わる事は、悪い事なのかな?」

あの夜の、みく子の言葉を思い出す。
図書室を出た後、小さな声でつぶやいた。

「もう一回、叫んでやる。待ってろ。」

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二日目:しのめん編 05話

図書室と言えば「本貸出システム」だ。
思い出したように、僕は「本貸出システム」の端末前に移動した。
これは学生IDを入力すれば最近借りた本や、現在借りている本の返却日などが解るシステムだ。

僕は軽やかにみく子の学生IDを入力した。


「90395」


ピッ。とかいいながら端末にみく子が最近借りた本の一覧が表示された。
その本のタイトルの一つに目が止まった。


「一般動物に見られる遺伝的病症」


なんだっけ?ついさっき見た気がする。
目を閉じて思考を巡らす。


(そうだ!窓際の席のっ!!!)


勢い良く振り向いたものの、先ほどそこで「一般動物に見られる遺伝的病症」を読んでいた学生はいなかった。
すぐに端末に向き直り、本検索を開始する。
本のタイトルに「一般動物に見られる遺伝的病症」を入力し検索を実行する。

その本は数日前から借りられていた。同じ本はニ冊と無い。
さっきの学生とみく子は接触しているかもしれない。

この「本貸出システム」にはセキュリティ的に甘い部分がニつある。
一つはその学生本人でなくても、学生IDを知っていれば
その学生IDの学生が借りた本が参照出来てしまう事。
もう一つは、本の貸出番号の一部が学生IDになっている事だ。
多分、誰もそんな事気にしていないけれど。

僕は画面に表示されている貸出番号から、学生ID部分を抜き出し端末に入力した。


「91039」


「サク。彼の名前はサクか」


にやりと笑った顔が端末の画面に映りこむ。


急に後ろから「すいません、端末使いたいんですけど?」と言われて慌てて図書室を後にした。

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二日目:しのめん編 06話

その後、僕はサクという名前の学生を探した。

図書室のある棟をぐるりと回っても見付からず、諦めて再度図書室に戻ってくると、さっきと同じ場所にサクという名前であろう学生は座っていた。
さっきと同じ難しい顔で「一般動物に見られる遺伝的病症」を読んでいた。

向かいの席に腰掛けながら聞いてみた。


「サク君だよね?」


するとサクという名前であろう学生はページをめくるのを辞めて僕の方に顔を上げた。


「えっと…んー、ごめん。君誰?」

「まぁ、僕の事はどうでもいいじゃないか」


明らかに不審がっている。
しばらく無言の間が空くと、彼は僕を無視するようにまたページをめくった。


「ねぇ、サク君。君、みく子さんとここで会わなかった?」


さっきよりも早く、でも顔は上げずに目だけを僕に向けて来た。これは何か知っていそうだ。


「君、本当に誰なの?」

「だから僕の事はどうでもいいんだ。僕はみく子さんに何があったのかを知りたいんだ。」

「……」


急に彼は「一般動物に見られる遺伝的病症」のページをめくり出し、とあるページを開いて僕に見せた。
そのページには「アルビノ」と書かれている。


「ただの憶測に過ぎないけどね」


そう言うと彼は儚く笑った。


僕は大学ノートに「アルビノ」と書いて図書室を後にした。
歩きながら、講堂でのひそひそ話を思い出す。


「病的に白いよね…」


「病的に白い」と「アルビノ」が頭の中で交差する。


(みく子はもしかして、それが原因で彼氏と何かあったのか?
 確かに前と比べると顔が薄くなったな。
 白黒の中でより白に近付いたというか…)


そう考えながらキャンパスを歩いていると、ビックリパーマにみく子のような薄い顔色の人物が走り去って行く。


「志津さーん!志津さぁーーーーん!!!」


その人物に「志津」と呼び止められた人物が振り返り
何やら関西弁で「学務課」がどうとか言っている。
その後、ビックリパーマが「志津」と呼ばれている人の首根っこを掴んで連れ去った。


(あれも「アルビノ」なのか?)


それにしても、みく子に何があったんだろう。
突然アバンギャルドなパーマを当てていた。
それは確かに革新的過ぎるほどのパーマだった。まるでちょっと開花した花のようなパーマ。


(花……花?………)


(そうだ!花屋!!!)


僕はみく子がバイトしていた花屋の事を思い出すと
自然と花屋のある方向へと向かっていた。

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二日目:しのめん編 07話

大通りから外れた、静かな裏通りに『ふろーら・しょうだ』という花屋がある。
そこがみく子のバイト先だ。

いつもは店員さんがいるのに今日は誰の姿も見えない。
そっと店内に入ろうと入り口で足を上げたら、積み上げてあったレンガを一つ落としてしまった。
その瞬間、店の中に電話の着信音が鳴り響く。


「はい、ふろーら・しょうだです」


(ヤバイ!誰かいた!)


何がヤバイのか解らないけど、少し離れた路地へ逃げ隠れた。

しばらく隠れて様子を伺っていたものの、みく子は現れない。
店の人がいるのなら直接聞けば良い気がした。

再びゆっくりと花屋に向かう。
その横を女の子が駆け抜けて花屋に入っていった。


(あれ?どこかで見たような…)


その女の子を追いかけるように花屋に向かっていく。


「ぅわわわ????っ」


女の子が躓いた。
原因はさっき僕が落としたレンガだ。
再び走って逃げようかと思った。
しかし、とある会話が僕の鋭い聴覚に聞こえてくる。


「大丈夫ですか?」

「あれ?蜜くん…」


体中の血液がぐるりと回った気がした。
「蜜クン」と呼ばれた男を遠目に確認した。
見つけた。きっと今あの花屋の前にいる男がみく子の彼氏、蜜クン。


「…許せん!」

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二日目:志津編 02話

私がバカみたいにみく子と知らない男子の後ろ姿を眺めていると、

「志津さーん!志津さぁーーーーん!」

また、後ろから声がする。
そして振り向いたら、白っちゃけたビックリパーマに真っ白い顔のるどんが・・・・。

あれ?
るどん?

えいっと振り向く。

「あーもー、何回呼ばせるんですかぁ」

てか、走ってこなくていいってば。
ひーはー息を継いでるるどんに周りの目が集まる。
いや、私たち二人に、と言ったほうがいいか。
我が校落研始まって以来の漫才コンビ。
学祭の宣伝で走り回っているから、顔だけは売れてる(はず)。

「どうしたん?」

るどん相手に標準語は要らんわ。

「どうしたん?やなくて。学務課で探してますよ」

「は?」

「学務課で、大河志津を探してます」

「へ?」

「今度は、何やったんですかっ」

「えーっ?!」

なんにもしとらんわっ。

るどんに首根っこ掴まれて学務課へ行くと、田所教授が仁王立ちで待っていた。

「大河」

「はひっ」

「今日、笠原みく子に会ったか?」

「はぇ?」

「会ったのかと訊いてる」

「さっき会いました・・・・・が?」

クソ真面目な田所教授の顔がさらに真面目さを増す。
つまり、怖い。

「様子はどうだった?」

「あの綺麗なオレンジの髪はチリチリになってて、顔は・・・いえ、たぶん全身真っ白けでした」

「そうか」

「みく子がどうかしましたか?」

「この頃、ゼミの講義に出ていないんだ」

あの真面目なみく子が、ゼミの講義に出ていない。
おまけに昼間のバイトも休む?

「あーっ!・・・ちょっと失礼しますっ」

私は慌てて廊下に出ると携帯でバイト先の花屋に電話した。

『はい、ふろーら・しょうだです』

「てんちょ???、志津です???」

『今度は何?』

店長は、半分笑いながらいつもの受け答えをする。

「それ、やめてくださいってば。じゃなくてー、今日はみく子が休むって」

『あ、そう』

全然平気な声に、少しイラッとくる。

「私も行けるかどうか判らないんですけど・・・ぉ・・・」

『なんやとー!なんで二人とも休むんやー!』

やっと普通になった。

「だから、店長一人で店番してね。遅くても良ければ行くけど?」

『判った。今日中やったら来い』

店長の不機嫌な答えに萎えながら電話を切って、学務課の部屋に戻る。
田所教授は学務課の課長となにやらお話中。

「るどん、私ら、帰れそう?」

小声で訊いてみる。

「判らん。るども見たけど、みく子凄かったよねぇ」

「うん。ほんで、蜜くんと違う男子と去って行ったんやし」

「ええーっ!」

「しーっ!しーっ!」

「あ、ごめん。なんで?蜜くんと喧嘩でもしたんかな?」

「さぁ?でも、あの成りやったし、なんかあったと思う」

こそこそ話してると、いきなり田所教授が話しかけてきた。

「二人とも」

「きゃぁっ!」

ビックリしてるどんと手をとりあって叫んでしまった。

「もう、帰っていいぞ」

「はいっ!さいならっ!」

二人で学務課の部屋から転がるようにして出ると、一目散に学務課が入ってる建物を出た。

落研のほうはるどんに任せて、私は花屋へ向かった。
頭の中は、変わり果てたみく子のことで一杯になっていた。

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二日目:志津編 03話

とにかく花屋へ行かなくちゃ。

花屋のバイトは午後から閉店まで。
朝一番に店長が問屋から花をごっそり持って帰って、箱から出してバケツに入れるところまでは済んでいる。
私は、本日入荷の花だけでなく、萎れるまであと三日くらいの花をそれぞれに取り合わせて花束のサンプルを作るのが仕事。
花屋の本当の仕事は、重労働だから出来るだけ店長がやってくれる。
ま、自分の店だし。
オーナーと呼んで、とか言われたときは爆笑してしまったけれど、本当にオーナーなのよね。
でも、「てんちょ?」と呼んであげることにしてる。
みく子も、面白がって「てんちょ??」と呼んでた。
滅茶苦茶忙しくなるときは、相方のるどんも強制的に連れてくるけど、今はそういう時期じゃないし。

大通りから外れて、静かな裏通りに『ふろーら・しょうだ』はちんまりと店を開けている。

って、店の前がいまいち可愛くないじゃないかっ。

「お?はよ?ございま?すっ」

急いで駆け込んで、鞄を置いて前掛けをして、また店の前に走り出たところで躓いた。

「ぅわわわ????っ」

いだい。
こんなところにレンガを一個落としてるのはどいつじゃ??!
店長を叱ってやろうとしたとき、

「大丈夫ですか?」

若い男性の声が。。。。。

あら。。。。。

「あれ?蜜くん・・・」

「あ、なんだ、志津さん」

とたんに大笑いする蜜くんに助け起こされても、あんまり感動的ではないよな。

「こんな所で、なんで?」

変な所で見慣れない人を見たら、やっぱり訊いてみるでしょ。

「これからバイト」

ふぅ?ん。
蜜くん、この近くでバイトしていたのか。

「お志津??」

店長が店の中から呼ぶ声がした。
みく子のことを蜜くんに訊きたかったのにっ。

「じゃ、また」

蜜くんは、あっさりと行ってしまった。
店長のあほ?。

「てんちょ?のあほ?」

そのまま言ってしまった。

「なんや?今頃判ったんかいな。それより、このガーベラ、なんとかしてよ」

オレンジ色のガーベラ。。。
みく子の艶々の髪を思い出した。
それから、今朝見たへんてこパーマと真っ白い肌。

「そやそや、てんちょ、みく子な、今日すんごい変やってん」

「ほうほう。聞いたろやないか」

「みく子て、オレンジ色のサラサラ艶々の髪で、愛想が良くて可愛かったやんか」

「うん、そやからバイトに雇たんや」

「でもな、今朝はオレンジ色が白っぽく見えるくらいのパーマかけててな、顔も鈴木その子もビックリなくらいに真っ白やってん」

「鈴木その子て、お志津、お前年齢詐称しとるやろ」

「やかまし」

「見てないから実感沸かんけど、相当変になってるみたいやなぁ」

「もう、ビックリするで。ほんで、バイト来るの遅れたんは、学務課に呼び出されててんよ。みく子がゼミに出てないからって田所せんせが訊きに来てたみたいやねん」

「ふぅん。どないしたんやろな。みく子は真面目な子ぉやのに。誰かと違て」

「うっさい」

「ほれ見てみぃよ。バイトが店長に『うっさい』言うか?普通。有り得へんやろに」

店長が面白そうに笑った。

笑い事なんか?

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二日目:蜜編 現在 08話

瞼を開くと、辺りはオレンジ色だった。
二日酔いのような頭痛を感じて、僕は目覚めた。小さな窓からは太陽が差し込んでいる。
朝日? 否、方角から察するに、夕陽。点けっ放しのテレ・ビジョンからワイドショーのショッピング番組が流れている。時間が戻ったような感覚。まさか。戻る訳が無い。頭痛を遮るように考える。最後の記憶は何だ? みく子が部屋を出た。辺りは夜だった。悪魔。悪魔。悪魔?

僕は悪魔に会った。記憶を食われた。事実だ。
司会者が笑顔で新型のアイロンを紹介している。半日以上、寝ていたという事か。初めて記憶を食われた反動だと思いたい。毎回こうだと厭だな。酒のように、繰り返す内に馴れていくものだと信じたい。時間は戻らない。みく子が部屋を出て行ったのは事実だ。悪魔に出逢ったのも事実。でなければ目の前に置かれた、ピンク色のジャージを説明出来ない。
悪魔、お前は一体、どんな格好で帰ったんだ?


【M線上のアリア】 現在/08


悪魔に何を願ったのかは覚えている。叶ったのかは、まだ解らない。何故なら今、僕は此処にいる。最初の願いは、とても些細なものだ。僕以外の人間なら、誰でも叶えられるような。

「僕を此処から出してくれ」

僕は、そう言った。
悪魔は「そんな願いで良いのか」と呆れるように笑った。不登校児でもあるまいに、社会人であれば誰でも出来る事。それが僕には出来なかった。僕は、みく子がいなければ、この部屋から出る事すら出来ないんだ。最初の願いとしては上等だ。それが最初の願いだ。

最初の願いは、些細であれば些細であるほど良い。記憶を食われるリスクを把握しておく必要がある。例えば最初の願いで「みく子を救え」なんて漠然とした巨大な願いを頼んだとして、悪魔がどれだけの記憶を要求するのか見当も付かない。確かに僕は、このまま昨日、餓死する事さえ覚悟していたけれど、みく子を救える確信を感じる前に死ぬ訳にはいかない。
記憶を食われてアッサリと廃人になる気など無い。

「僕を此処から出してくれ」

僕の願いに対して、どの記憶が食われたのかは、まったく解らない。思い出そうとしても、恐らくは無駄だ。食われたならば。一週間前の晩飯を覚えているか? 覚えていない。只でさえ記憶なんてのは、それほど脆弱なモノだ。ところが記憶を食われるという事は、それとも違う。別物だ。それは「思い出す」「忘れる」という次元の問題では無く、欠落するという事だろう。

欠落か。欠落した何かを取り戻したいのか、みく子。ならば僕は、何かを失おう。ところで僕は何を失ったんだ? 何も失っていない気がするな。本当に一週間前の晩飯の記憶を食われたのだとしたら、心底、気がラクだ。悪魔、お前は僕の「どの部分」を食ったんだ……?

途方に暮れて、僕はベッドに横になった。何にもする事は無い。悪魔に記憶を食われようと。夕暮れ。みく子の世界は、この数時間で幾分か変化したのだろうか? 首を斜めに動かすと、オレンジ色のソファが目に入る。みく子の場所。昨夜、悪魔が座っていた場所。夢だとしたら、随分とありがたい夢だ。みく子が扉を開けて「ただいま」なんて言うんだ。今は、それも夢だ。
壁にかけた時計を見る。音も無く秒針が進んでいる。午後七時。……午後七時?

「……やべぇ! バイトだ!」

僕は跳ね上がるようにベッドから身を起こすと、急いでジーパンを履き、鍵を持って家を出た。どうしてこんな時間まで呑気に寝転んでいたんだろう? 完全に遅刻だ。緑色のスニーカーの紐が解けている。結ぶのも面倒だ。何を考えているんだ、僕は。また店長に怒られるな。

走って十分。歩いて二十分。のんびり歩いて三十分。
横断歩道を渡り、線路を挟み、コンビニ、こんな場所にコンビニなんてあったかな? まぁ良い、そこを曲がり、商店街に入り、花屋を越えて、そうだ、みく子のバイト先の花屋を越えて、その先に飲み屋通りがあって、僕のバイト先がある。『呑処 お松』だ。もう完全に遅刻だ。
……ところが今は、まだ商店街の入り口だ。

「……面倒くせぇ! 歩くか!」

独り言を吐き捨て、僕は走るのを止めた。どうせ遅刻は遅刻だ。
花屋の前を通る。みく子のバイト先の花屋だ。随分と遅くまで開いている花屋だ。
もしかしたら意外と、みく子が呑気な顔をしてアルバイトに精を出しているかもしれないな。
今、何処にいるんだろうな、みく子。

「ぅわわわ?!」

感傷を素手で鷲掴みにするような、叫び声。
花屋の店先から飛び出すように走り始めた女の子が、豪快に転んだ。
花屋のエプロンにミニ・スカート。漫画的なニー・ソックス。颯爽としたツイン・テール。
僕の目の前で膝を擦っている。

「……大丈夫ですか?」

半ば呆れ気味に言った。こんな平坦な場所で転ぶなんて変だ。不自然にも店先に一個だけレンガが落ちている。一個だけレンガが落ちているのも変だ。それに躓くのも変だ。変な事を三個足したら、こんな現象が起きるのか。それも変だ。ツイン・テールの女の子は僕を見る。

「あれ? 蜜くん……」

「あ、なんだ、志津さん」変な現象の元凶が志津さんと知って、僕は笑った。納得。それならば確かに有り得る。志津さんは、みく子のバイト先の先輩だったはずだ。みく子と一緒にいる時に何度か話をした事があるが、毎回、志津さんと話す度に変な事件が起きていた。

例えば志津さんがUFOらしき発光体に拉致されそうになる、だとか。
例えば志津さんがFBIらしき黒服達に、いきなり職務質問をされる、だとか。
おおよそ常識では考えられない、漫画的な出来事が、志津さんの周囲では発生する。
平坦なはずの花屋の店先で転ぶなんて事くらい、志津さんにかかれば、ほんの序の口だ。

「こんな所で、何で?」

志津さんが猫目をクリクリさせながら質問するのが、可笑しくて仕方が無い。
貴女の方こそ、こんな所で、何で? と問い返してやりたいが、それは如何にも嫌味だろう。
貴女の方こそ、こんな所で、何で転んでるの? と言いかけた台詞を飲み込んで、真面目に答える。

「これからバイト」

僕は爆笑している内心を必死で隠して、努めて冷静な表情で言った。
まぁ、バイトと言っても、大幅に遅刻しているけどな。
みく子もいないようだし、此処でのんびり会話をしている場合ではない。
店内から志津さんを呼ぶ男性の声が聞こえた。恐らく店長の声だろう。関西弁だ。

「じゃ、また」

短く言い残して、僕は『呑処 お松』へ走った。

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二日目:しのめん編 08話

目の前にいる。
みく子を泣かした張本人が。

僕は大学ノートを鞄から取り出して開いた。
そこには大きく「彼氏=蜜クン=許せん」の文字。

視線を花屋の前に戻す。
背の高い男は大笑いしながら女の子を助け起している。
女の子と普通に接する事が出来るなんて羨ましい。


(ん?)


あまり嬉しくなさそうに起されている女の子、さっきビックリパーマに首根っこを捕まれて連れて行かれた人だ。
確か、名前が「志津」だったかな。


「あれ?…志津…志津?」


ニ、三度呟きながら考える。
僕はあの「志津」という人を知っている気がする。
首根っこ捕まれて連れて行かれる以前から。

思考を巡らせる。
薄っすらとみく子の姿を思い出した。
そうか、みく子を介して出来た友達、だったかも知れない。


(みく子?…みく子…!!!)


思考を戻せ、顔を上げろ。
僕は今、何を成し得たくてココにいるんだ?
再度大学ノートを見る。


「彼氏=蜜クン=許せん」


大きく呟いた。
それからゆっくりと大学ノートを鞄にしまいゆっくりと花屋へ。
いや、あの背の高い、みく子を泣かした張本人「蜜クン」の方へ視線を戻した!


「てんちょ?のあほ?」


花屋の中からそう聞こえた。
花屋の前には誰もいない。


「なっ?き、消えた!?」


振り返っても誰もいない。
なんて事だ、みく子の事を考えるあまりに背の高い男を見失ってしまった。

僕は再び大学ノートを鞄から慌しく出すと
「彼氏=蜜クン=許せん」と書かれている部分に矢印を引いて「背が高い」と書き足した。

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二日目:ちこ編 04話

やっとチーフ代理も今日でラスト一日。

突然の予約やらで忙しくてみく子に会いに行く事も出来なかったけど、約束は守れそうだ。

今日の行動は必死で考えた。 途中で抜け出して、とにかくみく子に会いに行くんだ。

まだ居ない時間かもしれないけど、じっとみく子からの連絡をまっているよりましだもの。

「神田くん、三十分だけちょっと抜けるね。うまく言っといて」

高校生だけどしっかりした仕事で安心して任せられる男の子だ。

誰にも言わないで抜けるのはヤバイだろうと思い、神田くんだけにはいい訳をしといた。

一度だけうなずくと 小さく手を振ってくれた。


ダッシュでいつもの場所へ向かう。

まだ明るいうちにここを通るのは初めてかもしれない。

ふろーら・しょうだの前を通りすぎようとするとにぎやかな声が聞こえた。

「てんちょ?のあほ?」

「なんや?今頃判ったんかいな。それ・・・・・・・」

そういえばみく子のバイト先の志津さんも関西の言葉とか言ってたなぁ
とにかく楽しいところなんだって話してくれたっけ。
ここだったりして? こんな近くにいたら逆にすごいぞ。


細い路地を入りいつもの場所へ。 やっぱり居ない・・・

周囲を見渡してみても 知ってる顔はなかった。

タイムリミットが迫っている。

急に薄暗くなった道をまたダッシュで戻っていく。


ふろーら・しょうだへ続く通りを今度は店へと向かって走っていると
大学ノートを広げてブツブツとなにか話している男の人が見えた。

「、、つクン、、、許せん 背が高い っと。。」

つくん。。何が許せんのだろうか? 恋敵か? 
それにしてもお父さんっぽい大学生だなぁ。。。

大学ノートには、みく子が通う大学と同じロゴが入っている。

そういえば みく子も同じノートを持っていたっけ。
ちょっとおしゃれ目でいいな と思っていた物だった。



そーーっと店に戻り、すまんっ と手を合わせると 神田君は優しく笑ってくれた。

閉店二十分前にはチーフも出張から戻り、ご褒美にガーベラの花を一本もらった。

このガーベラはみく子のオレンジ色の髪を思い出すなぁ。

結局、みく子に会えず 約束をすっぽかした事になってしまった、。

チーフ代理も任務遂行できたし、明日、またみく子を探して謝ろう。

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二日目:蜜編 現在 09話

午後七時二十分。
完全に遅刻した足を交互に一歩、一歩と呑気に進めると、飲み屋通りが見えた。さて何と言って謝ろうか。遅刻の理由のストックには事欠かない。今日は「秋場所中に半月板が損傷した」で行ってみようか。本来であれば休場も止む無し。横綱昇進危うし。

従業員専用の扉に手をかける。瞬間、突風が吹いた。前髪が揺れる。その隙間。
店の正面に飾られた赤提灯の端が、大きく一度、風に流される光景が見えた。……赤提灯? この店の正面に赤提灯なんて飾られていたか? 見間違いかもしれない。改めて右手に力を込めると、扉を開ける。

「すいません! おはようございます! 遅刻しました! 理由は半月板の損しょ……」
「あれ? 蜜くん、久し振り、何してるの……?」
「……はい?」


【M線上のアリア】 現在/09


カヨリさんが一年振りに再会した友人でも見るような目で、僕を見た。カヨリさんは何時も通りの和服姿で、生ビールの樽を運んでいる最中だった。白く細い腕に握られた、鉛色の生ビールの樽。淫靡と言えば、淫靡な光景のようにも見える。僕は先程の台詞も理解せぬまま「あ、良いッスよ、僕がやりますよ」などと、如何にも定刻通りに出勤した従業員のような口調で近付くと、カヨリさんの手から生ビールの樽を奪った。

「あ……ありがとう。というか蜜くん、どうしたの?」
「え、何がですか?」
「いや、急にウチに顔を出すなんて。いや、別に変な意味じゃなくってね」

カヨリさんが歯切れの良くない口調で言うので、僕は怪訝な表情をした。急にウチに出勤するも何も、従業員が出勤日に出勤するのは、当たり前だ。店が回らなくなる。変な意味も何も、僕としても毎月給料が欲しいし、あ、タイムカード。

僕は生ビールの樽を事務所裏の床に置くと、タイムカードを探しながら間抜けな顔で「いやはや、秋場所で半月板を損傷して、遅刻してしまいました」などと、何度か使い古した遅刻の理由を、改めて披露した。大体、この理由を言うと、カヨリさんは笑って許してくれる。ちなみに半月板を痛めるのが何場所かは季節によって異なり、春場所にもなるし、時には千秋楽にもなる。今回は秋場所が正しい。

「タイムカード、タイムカード、……あれ? カヨリさん、僕のタイムカード無いですよ?」

僕が振り返ると、カヨリさんは困惑した表情で立っていた。困惑どころか、軽い恐怖の表情にも見える。どういう事だ? まさか今日は僕の出勤日じゃなかった? いや、それにしては様子が変だ。カヨリさんは目を離したくとも離せなくなってしまったような面持ちで、僕を見ている。そう、昨夜、悪魔を発見した時の、僕のように。瞬間、通過する、頭痛。……痛ッ!

「……何だ?」

僕は思わず額に手を当てる。昨夜、悪魔が触れた部分だ。二日酔い。違う。穴に落ちたような痛み。何だ。欠落。残像すら見えはしない。暗闇。空虚。記憶を食う瞬間の悪魔。

「……痛ッ!」
「……大丈夫、蜜くん、やっぱり様子が変よ?」
「……カヨリさん、もしかして僕、今日は出勤じゃなかった?」

額を押さえながら、誤魔化すように問う。我ながら、何だこの汗は。額が濡れ雑巾で拭き散らかしたかのように、濡れている。乾いた雑巾は何処だ? カヨリさんが僕に駆け寄る。それが見える。カヨリさんが和服の袖を捲くりながら、僕の額に手を当てる。

「やっぱり! すごい熱! どうしたの!?」

……熱? 熱で済むなら安いもんだ。遅刻の言い訳としては。カヨリさんは僕を事務所のソファの上に寝かせた。慌てるように厨房に入り、数十秒後に戻って来る。ビニール袋に氷が入っている。それを僕の頭に乗せる。

「ごめんね、これから忙しい時間だから、これくらいしか出来なくて。
あとで薬、買ってきてあげる。それまで少し、此処で寝ていて。熱に魘されたのね。
それにしてもエリカちゃんが帰った後で良かったわ。蜜くん、どうして急に、ウチなんかに?」

カヨリさんは随分と冗舌に話した。エリカ? そういえばエリカと長い事、会ってない気がするな、と僕は思った。以前は毎日のように会っていたのに。何で会わなくなったんだっけ……?

激痛。
エリカの顔が、よく思い出せない。そんな訳は無い。エリカの事は昔からよく知っている。小学二年生の春の日から知ってる。生意気なクソガキだ。金持ち。お嬢様。高飛車。泣虫。弱虫。エリカ。エリカ。エリカ? どんな顔だった? 僕は何時からエリカに会ってない? 痛い。

欠落。激痛。それから間抜けに落ちるような、二度目の失神。

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二日目:蜜編 現在 10話

記憶喪失という単語はよく聞くけれど、記憶欠落という単語は聞いた事も無い。喪失と欠落は何が違う? 似たようなもんだと思うけれど、少なくとも「記憶喪失」には、再びそれを取り戻せる希望のような何かを感じる。欠落には? ……どうだろうな。やはり取り戻せるんじゃないかという気がするよ。喩えば、跡形も無く、誰かに食われたんだとしてもな。

それとも、そうか、取り戻すのではなく、新たに手に入れる……?


【M線上のアリア】 現在/10


「蜜くん、来てんだって!?」

朦朧とした頭の中、鼓膜を通して脳髄へ、下手したら脊髄に響くまで、聞き覚えのある威勢の良い声が届いた。張りのある、空気の上をクロールで泳ぐような声。僕は一度固く目を瞑り、その反動を確かめるように、ゆっくりと瞼を開いた。

「あ! 起きた起きた! カヨリ、蜜くん起きたよ!」

玩具売り場のサルの玩具でも見るように、楽しそうに笑う。
「あら、ホント?」と言いながら、事務所の奥からカヨリさんが近付くのが見える。
二人は並んで、顔を揃え、僕を覗き込む。カヨリさんは心配そうに。もう片方は愉快そうに。

「起きてんでしょ、ほら!」

男勝りにも思える口調だが、外見には驚くほど色気がある。黒髪。和服。エグイ色の口紅。
相変わらずだ……相変わらず? まぁ良い。接客業に、その色はマズイんじゃないですか。

「……その色はマズイんじゃないですか、デンコさん」

僕が声を出すと、色を指摘された片方の女性は「え、何!? 色!?」と言った。大きな声だ。だけれど不快では無い。頭を動かすと、冷たいモノが落ちてきた。氷を入れたビニール袋だ。カヨリさんが「あらあら」と言いながら、拾い上げる。

「蜜くん、薬買っておいたから飲んでね」

氷を拾い終えた後で、カヨリさんは和服の袖を弄ると、頭痛薬の箱を出した。四次元ポケットみたいだ。デンコさんが笑いながら「久し振りに顔出したと思ったら、来るなり倒れるなんて、蜜くんらしいわ」と言って楽しそうに笑った。……久し振り?

カヨリさんとデンコさんは、この『呑処 お松』を仕切る二人組だ。店長はデンコさんという事になっているが、ほとんどの時間、デンコさんはフロアに出て働いている。現場主義という奴だ。その分、店の経理だとか雑務だとかは、ほとんどカヨリさんが仕切っている。
そこで改めて言いたいが、ほとんどの時間を現場で過ごすデンコさんの口紅の色がエグイ。おおよそ接客業に適した色とは言い難い。ところがこれが客に好評なのだから困る。

「あ……?」何かを思い付いたように、デンコさんが呟いた。
「はい、蜜くん、お水……」とコップ片手に近寄ったカヨリさんを押しのけると、デンコさんは「口紅か!? 色ってアンタ、この口紅の事を言ってるのか!?」と、寝たままの僕に迫った。

「……はい、そうでフ、口紅でフ」

右手で両頬を鷲掴みにされながら、僕は返答した。いや、返答させて頂いた。
「よし坊主! いい度胸じゃないか! この色を忘れられないようにしてやろうか!」
デンコさんは叫ぶと、勢い良くソファを跨いで、僕の上に馬乗りになった。

「コラコラ! 何しようとしてんの!」とカヨリさん。
「接吻だよ!」とデンコさん。
「病人に何て事しようとしてんの!」とカヨリさん。
「接吻だよ!」とデンコさん。

病人に接吻してはいけない決まりはないが、とにかく何なのだ、この状況は。僕は二人の、ある意味「平成の黙示録」とも呼ぶべき対決を他人事のように見上げながら、壁の時計を見た。午後八時十分。あれから一時間近くも寝ていたのか。何て事だ。仕事はどうなっている。

「コラ! やめなさい!」
「うるさい! この坊主に解らせてやるんだ!」
「ああ! そんなに顔を近付けて! コラ! 本当にやめなさい!」
「大人の女の色気、なめんなよ!」
「……あの、すいません」

僕の声に、二人の動きが止まる。
羽交い絞めにされたデンコさんと、羽交い絞めにしているカヨリさん。
僕は二人を見上げたまま「あの、今日の僕の出勤、どうなってますか?」と訊ねた。

「蜜くん、それ本気で言ってんの?」

デンコさんが半笑いで言った。
カヨリさんが「ほら、蜜くん、熱があるから……」と、何故か付け加えた。
それから次にデンコさんが言った台詞は、ある種の予感通り、僕の脳髄を強烈に叩いた。

「アンタ辞めたよ、一年前に」

続けて、やはり付け加えるように、カヨリさんの台詞。

「エリカちゃんと大喧嘩して」

悪魔よ、聴こえるか。
記憶喪失という単語はよく聞くけれど、記憶欠落という単語は聞いた事も無い。喪失と欠落は何が違う? 似たようなもんだと思うけれど、少なくとも「記憶喪失」には、再びそれを取り戻せる希望のような何かを感じる。欠落には? ……どうだろうな。やはり取り戻せるんじゃないかという気がするよ。喩えば、跡形も無く、誰かに食われたんだとしてもな。

悪魔よ、僕はお前が見逃した、小さな隙間を見付ける事にするよ。

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二日目:蜜編 現在 11話

『呑処 お松』を出たのは八時三十分を回った頃だった。店が混み始める前に、挨拶もそこそこに僕は事務所を出た。デンコさんはフロアに戻る前に「薬飲んどけよ」と言い残した。裏口の扉を開ける瞬間に「本当に忘れたの?」とカヨリさんが言った。僕は首を左右に振り、曖昧な返事をした。「あれからエリカちゃんと会ってないの?」扉を閉める瞬間に、追いかけるように、もう一言。「エリカちゃん、今も随分心配してるみたいだけど、蜜くんの事」
やはり僕は何も言わなかった。


【M線上のアリア】 現在/11


どうやら重要な記憶が欠落している。思い出せないのではなく、落とし穴に落ちたまま奈落の底で蒸発でもしたかのように、それは無くなっている。だけれどそれは消滅したのか? いや多分、形を変えて何処かを彷徨っている。何時か存在した路上の水溜りが跡形も無く消え、やがて雲を生み、再び雨となって降り注ぐように。なんて事を考えていると雨が降って来た。

この町に台風が近付いているらしい。直撃するのは明日だ。小雨は次第に音量を上げた。傘があればその音を楽しむ事も出来るだろうに、今の僕にとってそれは単なる雑音にしか過ぎない音量だった。僕はコンビニに逃げ込んだ。よく知る町の中に潜む、見覚えの無いコンビニ。何時の間に出来たんだか知らないが、何処にでもある普通のコンビニは、何処にでもいる普通の店員の挨拶によって僕を出迎えた。雑誌コーナーに足を運ぶ。立ち読みがしたい訳では無い。だけれど立ち読み以外にするべき事も思い付かないので、僕は立ち読みをした。

僕の人生は、その大半が、そのような意味の無い理由によって過ごされていると思う。週刊アスキーなどという別に読みたくも無い雑誌を拾い上げると、文字を読む訳でもなく、僕は考えた。居酒屋のアルバイトを辞めた? 何時? 一年前に。エリカと大喧嘩して。デンコさんとカヨリさんが言うに、僕はそうだったらしい。そう言われてみれば、そのだったような気もするが、どうにも肝心の部分が思い出せないので、どうして辞めたのか納得出来ない。

悪魔の仕業か。
そう関連付ける事は簡単だった。昨夜、悪魔が食った僕の記憶が、たまたま今日の僕にとって「この部分を食われたな」という事が非常に解りやすい部分にあった。恐らくそういう意味だ。悪魔は「此処から出せ」という僕の望みに対して、僕が外に出たくなくなった理由そのものを食った。だから僕は今、此処にいるのだろう。だけれど具体的に「どの部分を食ったのか」に関しては、やはり完全に欠落している。エリカが関係している事は予想できる。

僕はエリカと大喧嘩した、らしい。その日を境にバイトを辞めて、家から出なくなった、らしい。その時、みく子は何をしていた? 思い出せないな。恐らくみく子の事だから、その日も弾き語りでもしていたんじゃないだろうか。何処からが悪魔に食われた記憶で、何処からが単に忘れた記憶なのか、判別が付かない。記憶なんて黙っていても掌の砂のように自然と零れ落ちるものだ。みく子。もしもこのまま記憶を食われ続けたら、食われ続けなくとも、やがて僕はみく子を忘れてしまうのかな。みく子。ナントカ教授に会いに行くと言って消えた、みく子。誰に会いに行くと言っていたかな、と僕は考えた。昨夜の会話は頭が混乱して、実際あまり理解していなかった。大体、話が飛びすぎなんだ。バイオロイド。大学の友人。電話。ナントカ教授。

ノートン教授?

みく子は「ノートン教授に会いに行く」と言わなかっただろうか。言ったはずだ。僕の中を記憶にも似た血液がドクンと一回、波を打って流れる。ノートン教授? 聞き間違いじゃなければ、それはエリカの爺さんだったはず。爺さんの研究の為に、小学二年生の日に、エリカは初めて日本に来た。その年の半年間を日本で過ごし、すぐにアメリカに帰り、その一年後に改めて日本に住んだ。僕の住む団地の近所に、厭味なくらい巨大な豪邸を立て、移住して来た。

読む事も無く、週刊アスキーのページをパラパラと捲る。みく子は「ノートン教授」の元へ行った。馴染めない呼び名だ。僕に言わせれば「エリカの爺さん」だ。みく子は爺さんの元へ行った。……どうしてそんな食い方を? 偶然にしては繋がりすぎだ。悪魔の記憶の食い方には、何らかの意図がある気がする。そして悪魔の食い方には、一定の法則がある。悪魔が食った部分は丸ごと欠落するが、それそのものが無かった事になる訳ではない。その記憶を共有する人間は、当然その事実を覚えている。それから僕自身の記憶も、断片的ではあるが、ところどころが鮮明に残ったままだ。これは一体どういう意味か?

悪魔にも好き嫌いがある。恐らく記憶であれば何でもペロリと食っている訳ではない。同じ部分でも食う部分と残す部分がある。子供が食パンを食べる時に、わざとパンの耳を残すように。大人がステーキを食べる時に、添え物のニンジンを残すように。悪魔にだって好き嫌いはある。食べられた記憶は欠落したまま取り戻せない? 否、取り戻せなくとも再び手に入れる事は出来るんじゃないか。悪魔が食った記憶は「僕が外に出なくなった原因」だ、恐らく。

それは「バイトを辞めた事」だし、「エリカと喧嘩した事」だ。どうして喧嘩した? 恋人がいる事を伝えると、エリカは怒った。怒ったエリカが何かを言った。何と言った? 解らない。エリカの爺さんの元に、みく子が向かっている。世界的に有名な爺さんだ。そう簡単に会える爺さんではないだろう。大学の友達と一緒に会う? 誰だ? 悪魔よ、みく子は爺さんに会えるか?

「会えるさ、お前が望むなら」

背後から声がした。僕はページを捲る手を止めて、慌てて振り返る。そこには古着のオーバーオールに身を包み、ニット帽を目深に被りながら、リップ・クリームを吟味する悪魔の背中があった。「おい、どっちが良いと思う?」新製品の二本のリップ・クリームを手にして、悪魔が僕に尋ねた。「この季節は唇が荒れちゃうよな」

「何やってんだ」
「リップ・クリームを選んでるのさ」
「何時から」
「お前がココに来てから、ずっとさ」
「出るぞ」
「おい、肉まんおごってくれよ」

僕は週刊アスキーを乱暴に棚に戻すと、足早にコンビニを出た。悪魔が僕の背中を追いかけながら「肉まんおごれよな」と言った。無視して歩き続ける。歩き続けたところで、残念ながら目的は無い。信号機が赤になり、呆気なく悪魔と肩を並べて立ち止まってしまった。悪魔はわざとらしく僕の肩を組むと、馴れ馴れしく耳元に口を近付けた。

「どうだ? 記憶を食われる法則でも見付けた頃か?」

悪魔は笑いながら言うと、何処から出したのか解らないが、湯気の立つ肉まんを頬張った。

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二日目:蜜編 現在 12話

世界はクール・ダウンする。
昼間の内に溜め込んだ太陽の熱は月の上昇と共に緩慢に奪われて、それが真上に来る頃には音さえ少なくなる。それでも飲み屋通りの片隅には、雑談と、喧騒と、歌声が響いていた。先日までの話だ。今は何も聴こえない。遠くからタクシーのクラクションが聴こえるが、何かを呼び止める為の音では無い。僕と悪魔は肩を並べて、赤信号の横断歩道を小走りで渡った。やがて小さな公園が見えると、その錆びたブランコの上に腰をおろした。なので世界には今、悪魔が漕ぐブランコの音だけが鮮明に響いている。


【M線上のアリア】 現在/12


悪魔は片手で肉まんを食べながら、ブランコを漕いだ。何処から出しているのか知らないが、どうせ誰かの記憶の中から出しているのだろう。ピンク色のジャージを出したのと同じように。否、もしかしたら腕の立つマジシャンなのかもしれない、やはり。仮にそうだとして、僕が記憶を食われたのは事実だ。腕の立つマジシャンの正体が悪魔なのかもしれない。先刻から数えて五個目の肉まんを食べながら「記憶を食われる法則に、気付いたか?」と悪魔は言った。

「法則? さぁね、悪魔に律儀な法則なんかあるのか」と、僕は恍けて答えた。悪魔が質問する意図が見えなかったからだ。ところが悪魔は「何だ、お前は意外と勘の鈍い奴なんだな」と面白そうに笑った。自分が出題したなぞなぞに答えられなかった小学生を馬鹿にするような、見下すような笑い方だった。なので僕は思わず「何個かの法則には気付いた」と言った。

「ほう、何に気付いた?」
「悪魔にも好き嫌いがある。記憶を食べる部分と、残す部分がある」
「ほう、よく気付いたな。だがそれは個人の好みだからな、あくまでも俺の好みだよ」

そう言うと悪魔はブランコを漕ぐのを止め、食べかけの肉まんを地面に捨てると、それを足で踏み付けた。砂にまみれた肉まんが無残に転がった。悪魔は笑いながら「昨夜は試食だ」と言った。「試食?」

「そうさ、お前の願いに対して、非常に解りやすい部分を食った、気付いただろ?」
「……僕が外に出たくなくなった理由か」
「そうさ、あの部分を食えば、お前は外に出るはずだからな、事実、今、お前は此処にいる」
「……悪魔の好みって何だ?」

悪魔は答えた。甘美な記憶。切なく、苦しく、歯痒い記憶ほど甘美なものは無い。誰かを愛し、それが叶わない事。誰かを憎み、それが癒されない事。何ひとつ上手くいかない事。嘘。猜疑。怠慢。それらの記憶は甘美だ。それ以外の記憶は味が落ちる。幸福な記憶は論外だ。一際、酷い。だから俺は幸福者に近付かない。価値が無いからだ。お前の記憶は美味いぞ。自分じゃ何も出来ないくせに、世界を変えたがっているんだろ? 甘美だ。笑えるくらいな。

「……笑えるくらい?」
「頭痛かったろ、目が覚めた時。試食なのにあんまり美味くて食いすぎちまった」
「……痛かったね、二日酔いみたいなもんかと思った」
「イエス、良い喩えだな。まぁ、次第に馴れてくるはずさ、俺達は長い付き合いになる」
「……長い付き合いね」

悪魔の法則。悪魔は甘美な記憶を好む。甘美とは、人間の感覚とは正反対。切なく、苦く、辛く、歯痒い記憶を、悪魔は好む。食われた記憶は欠落する。思い出す事は不可能だ。悪魔は記憶を食った代償として、記憶を食われた媒体の願いを叶える。それが契約だ。しかし悪魔が叶えられる願いとは、どの程度まで可能なのか?例えば、僕は明日、みく子を救えるか?

「悪魔、僕は明日、恋人を救えるか?」

「どんな方法で?」と答えて、悪魔は笑った。笑いながら再び、ブランコを漕ぎ始めた。錆びた音が世界に広がり始める。「漠然としてるな、その願いは」悪魔は言いながら、夜空の月を眺めた。雨上がりの夜空は雲が多く、その隙間に月が浮んでいる。台風前の、束の間の静寂。

「お前は、ある日突然 "自分を月に連れていけ" と願うのか?
月に行った後はどうする? 呼吸が出来なくて、すぐ死んじまうんじゃないのか?
月に行ったら、どうやって過ごす? 地球に帰りたくなったら、どうやって帰ってくるんだ?
イメージが足りなさ過ぎやしないか? 貧困で漠然とした願いが叶うとでも思っているのか?
充分な知識を蓄えておけよ、それが記憶になる。俺はお前の、その記憶を食うんだからな」

視線を月から、僕の目に移して、悪魔は付け加える。

「月に行きたいなら、ロケットを出せ。宇宙服を出せ。宇宙食を用意しろ。
帰りの燃料を積んでおけ。無線は必要か? 耐熱版が損傷した時に、修理出来るのか?
それくらいは考えておく事だ。じゃなければお前は月に行っても、すぐに死んで終わりだぜ」

そう言って、面白そうに笑った。

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二日目:蜜編 現在 13話

台風前の月は穏やかに見えるが、それは気のせいかもしれない。
月に行きたい、とは思わない。僕が感じるそれは恐らく、退廃的な思考以外の何物でもないから。地球から月まで。380000km。僕とエリカの距離。互いに振り切れなかった引力の距離。僕がみく子を救うなら、更に何万km、世界を彷徨う必要がある? そこに引力はあるか?

月に行くなら、まずロケットを望め。宇宙服を望め。宇宙食を望め。行きたいと願うだけで行けるなら便利だけれど、行ったところで死ぬだけだと、悪魔は言った。正論。僕がみく子を救うには、何を望めば良い? 救ったところで死ぬだけか、悪魔。アルビノ。みく子は、世界は白く染まるだけか? 失敗したバイオロイド。みく子。世界に色を付ける為に、僕はどうするべきだ?

「お前の力は完全か?」僕はポツリと尋ねる。
「どういう意味だ?」
「お前の記憶を食う力、願いを叶える力は完全か、という意味だ」
「完全だ」

そう答えると、悪魔は六四符的に「ククク」と笑った。
「何が可笑しい?」
「いや、人間共は遅かれ早かれ必ず、我々にその質問をするんだな、と思ってさ」
「お前の力が完全ならば、やっぱり今すぐ僕の恋人を救う事も可能なんじゃないのか?」
「ノー。それは無理だ」


【M線上のアリア】 現在/13


悪魔は静かにブランコを揺らしながら、「完全と対価は、まったく別の意味だ」と言った。
「どういう意味だ?」
「あくまでも代償だ、言ったろ?」悪魔は演説でも始めるように、咳払いをする。

「それを奇跡と呼ばせる悪魔もいるがね、俺はその呼ばせ方が好きじゃない。
俺が叶える願いは、お前の記憶の代償だ。それは等価値だ。
例えばお前が "鳥になりたい"と願ったとしよう。俺はその願いを叶えない。何故ならお前の記憶の中に、お前が鳥に生まれ変わるのに等しいだけの記憶など存在しないからだよ。俺がお前を鳥に変えた瞬間、お前は死んでしまうだろうね。記憶が一個も残らないからだよ。心臓の動かし方さえ忘れてしまう。それでも対価として、まだお前の記憶は足りない。お前は俺に借金しながら死んでいくようなもんさ。お前の記憶は全然足りない」

瞬間、悪魔は指を鳴らす。
すると手の中に、小さなハーモニカが現れた。
吹くのかと思いきや、それを吹く訳でも無く、悪魔は話し続ける。

「例えば、お前が"一流ミュージシャンになりたい"と願ったとしよう。
それも俺は叶えない。今のお前の中に、その願いに値するだけの記憶が無いからだよ。お前が俺にそれを願うなら、同等の価値を持った記憶を用意しろ。それは経験とも呼べる。毎日ギターを練習して、作曲でもして、ボイス・トレーニングにでも励んでみれば良い。それは願いと等価値の記憶になる。準備が出来たら、改めて俺に願うといい。お前が積み上げた経験という名の記憶を食って、俺はお前を一流ミュージシャンにしてやるよ。でもそうなってる頃には、わざわざ俺に願わなくとも勝手に一流ミュージシャンになってるだろうがな」

悪魔は愉快そうに笑うと、ハーモニカを口に当て、音を出した。
それは綺麗な音色だった。「昔食った奴の、記憶の中の音色だ」と悪魔は言った。
音を止めると、悪魔は話し続ける。

「じゃあ俺の力は、一体何の為にあるのかって?
記憶と代償は等価値だ。だから仮にお前が一流ミュージシャンになってるとして、必要に迫られて"俺を一流プロ野球選手にしてくれ"と願うなら、俺はその願いを叶える。お前は強靭な肉体を得て、160kmの剛速球を投げ、バックスクリーンに飛び込む特大のホームランを打てるようになる。その代わり、お前は音楽に関する一切の記憶を失うという訳だ。解るだろ?」

悪魔はハーモニカを、僕の目前に突き出した。
そして僕の目を真っ直ぐに見て、繰り返すように「解るだろ?」と言った。

「改めて言うぞ。記憶と代償は、等価値だ。そこに優劣は無い。
お前が俺に差し出す記憶と、俺がお前に与える報酬は、等価値でなければならない。明日、お前が恋人を救えるか? 無理だ。漠然としすぎている上に、巨大な願いだ。お前は死ぬね。それでも対価として、お前の記憶は足りない。まだ未熟なのだよ、お前は」

続けて高笑いして、一言。

「誰かを救うには、あまりにも未熟すぎる」

そこまで言うと、ハーモニカを吹きながら、悪魔はブランコを揺らした。僕は何も言えず、その姿を眺めた。記憶の対価。それは等価交換。未熟な記憶では、相応の報酬しか得られない。それは経験と同義。僕の経験では、みく子を救う事が出来ない。

「……分割払いってのはどうだ?」
「はははッ!」と発声練習でもするように、悪魔は笑った。
「よく思い付いたな、確かに悪魔の中には、記憶の分割払いを認めている奴もいる」

「だが、」と悪魔は言葉を続ける。

「俺は記憶の分割払いは認めない。リスクが大きいのでな。
支払いの利子で、お前はパンクするかもしれないよ。お前が支払いを終えるまで生きている保障も無い。俺はそういうリスクを背負うのは嫌いだ。俺の契約では、分割払いは認めない。一括でお願いしたいね」

「どうしても、僕に成長しろと言うんだな」
「解りやすいだろ、記憶とは成長に応じて増えていくものさ、それが健全だ」
「だけど、今は時間が無い。僕は今すぐに恋人を救いたいんだ。どうすればいい?」
「短期間で一気に成長しろ。出来るはずだ。それまでは細かな記憶を切り売りするがいい」

悪魔は立ち上がると「行け、そろそろ行動するべきではないのか?」と笑った。
「……僕を助けてくれるのか?」
「別に。面白いだけさ」
「面白い?」
「一人じゃ何も出来ないくせに、世界を変えたいんだろ?」

言いながら、僕にハーモニカを渡す。冷たい。銀色。

「悪魔、お前は僕の味方か?」
「別に。それに悪魔にも色々いる。悪魔は俺だけでは無いからな」
「悪魔、僕に恋人を救う事が出来ると思うか?」
「それが面白そうな世界なら、俺がお前を導いてやるよ、お前が俺に記憶を提供する限りな」

僕は悪魔のハーモニカを、ジーパンのポケットの中にいれた。
それから自分が何処に行くべきかを考えた。深夜。台風直前。月。引力。
「悪魔よ、僕が何処に行くべきかを教えろ、それが次の願いだ」僕は悪魔に、そう言った。

「イエス、良い願いだ」

悪魔は僕の額に人差し指を当て、メスで切開するように、その指を動かした。それから記憶を吟味して、静かに笑った。笑った後で、こんな事を言い出した。

「……ならば相応の記憶を食うぞ、おっと、その前に」
「……何だ?」
「そろそろ人格を持って呼んでもらいたいね、単に"悪魔"と呼ぶのではなくて」
「……人格?」

悪魔は何度も笑う。

「羊、俺達は共生関係に入った。悪魔と人間の契約関係ではあるが。ならばお前は、俺を人格として認めなければいけない。生物は名前を呼ばれて、初めて本当の意味で生き始めると思わないかね? 羊、お前と俺を分かつ為の名前だよ。名前が俺の命になる」
「……名前?」
「名前を呼べ、羊、それが我が命だ」
「命?」
「名前を呼べ、羊、それが我が命だ」

僕の額を切開しながら、もう一言。

「我が名は"ヴィンセント"だ、決して忘れるな」

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二日目:奏湖編 04話

私とみく子さんが一緒の講義は、実は一コマしかない。
そりゃあ学年も学科も違うんだから、しょうがないんだけどさ。
後から知ったことだが、志津さんもこの講義をとっているらしい。

私とみく子さんが出逢ったあの日は、志津さんはお休みだったみたい。
落研の先輩にでも捕まっていたんだろう。

学食でカツカレーを食べていると、志津さんからメールが入った。
「今日三時限目出る??例の話したいんやけど」

私はメールを返す。
「はい、出ますよ?。じゃあちょっと早めに行きますね」

十分ほど早めに着くと、志津さんがいちごポッキーを食べつつみく子さんと話していた。
「あー、こっちこっち!」と手招きしている。
二人の後ろの席に着くと振り返って志津さんが、いちごポッキーを差し出しながら
「えっとねぇ、来週の金曜日、七時半に『呑処 お松』前に集合ね。
予定、大丈夫そう?」と言ってきた。
来週の金曜日はバイトもないので大丈夫です、と伝えると、志津さんは手帳に(カナちゃん ○)と書き込んだ。

志津さんは「なんでお酒飲めない私が幹事やらにゃならんのだぁ?!」と吼えている。
みく子さんは「飲み会、楽しみだなぁ?。お志津、幹事ありがとね☆」と、お得意の小悪魔スマイルで志津さんの顔を覗き込んだ。
志津さんは、うっ、と息を呑んで、まぁ、いいけど、と小さく答えている。

話しているうちに教授が来てしまったので、そこでおしゃべりは中断した。


講義が終わると、志津さんとみく子さんはバイトへ行ってしまった。
お花屋さんのバイトかぁ・・・可愛くていいなぁ。
二人がたまに話しているのを聞くけど、店長さんもいい人そうだし。
今度寄ってみようかな。



飲み会の日―――――


七時半ごろには『呑処 お松』の前に見慣れた顔が集まっていた。
「はーい、じゃあ中に入るよ?!!」
人数が多いので幹事も大変そうだなぁ。

私は人の流れに乗って真ん中より奥側に座ることになった。
近くには知り合いが居なかったので、人の話を聞いているうちに結構飲んでしまった。
目の前には日本酒(冷)と白ワイン、カシスオレンジのチャンポンセット。
ふわふわしてなんだか楽しい。

隣の人が「ごめん、モスコミュール頼んでー」と空いたグラスを持ち上げながら出入り口付近の人に頼んでいる。
それに続いて「あー俺、このピンクのやつ頼んでー」 「ピンクのやつってなにー?じゃぁ私こっちの黄色とオレンジのやつー」と注文が飛び交う。
みんなも結構酔っているわ。

頼まれた男の人が「え?えっ?」と焦っている。どうしたんだろう?

「おい、早く頼めよー!」
「そうだ、頼め頼めー!あははー。」

ちょ、酔っているとはいえどうなのよその態度はっ!

「おい、注文ぐらいさっさとしろよ!」

「え、えっと…」

「ピンクのやつだって!」

「ぁ・・・ぇ・・・?」

あの人困っちゃってるじゃん。そんな捲くし立てないで自分で頼めばいいのに。

「もしかして、ピンクが解らねーの?」

「………」

瞬間、騒がしかった場が静まる。
え、そうなの?だからそんなに焦ってたの?

「おいおい!あいつ色がわから…」

「ピーチフィズですねー」

ピッという電子音と共に女の店員さんが現れ、次々とオーダーを入力して戻って行った。

かぁっこいー!!
なんてかっこいいんだ、あの店員さん!女の子だけど惚れそうだ。

さっき騒いでいた男は、店員さんの登場に面食らっていたが、すぐに調子を取り戻して隣と話している。

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二日目:奏湖編 05話

飲み会も終盤に差し掛かった頃、志津さんがウーロン茶のグラスを持って隣に来てくれた。
「カナちゃ?ん、どぅよ?」
・・・答えようが無いですよ、その質問(笑)
そういえば、と、私はさっきの人誰ですか?と志津さんに訊いてみた。
「ん?しのめんくん?」とグラスを口に付けつつ教えてくれた。

「同じ大学で、ウチらと同じ学年やね。」

「ほぇー。じゃあ大学で見かけているかもしれませんね。」

「そうだねー。」

しのめんさんが本当に色が分からないのか、とは訊けなかった。
志津さんがそれを知っているのか分からなかったし、第一失礼だ。

それから「花屋のバイト、羨ましいです」とか「いやいや、意外と体力勝負よ?てんちょ?が急に注文受けてきたりするし」とか、別の話をしていた。

向かいに座ってるコが「ねぇねぇ?、クレヨンに生まれ変わったら何色になりたい?」と訊いてきた。
なんて唐突な(笑)

「俺は赤かなー」

「えー?ピンクじゃない?エロいからー」

「私はやっぱり純潔な白よね♪」

「金!俺金がいい!」

色んな所から、まさしく色々な意見が飛び交う。

「ねー、みく子はやっぱりオレンジでしょ?」

「私は、もっと白に…ううんなんでもない」

みく子さんは少しだけ寂しそうな顔をしてから 、いつものように微笑んでいた。

少し不思議に思ったけど、次の出来事でかき消されてしまった。

「お前はー?」

「…っえ?」

さっきピーチフィズを頼んだ人が、しのめんさんに訊いた。
しのめんさんは何かを考えているふうで、すぐに答えなかった。

「やっぱりお前、色が解らないんだろー!?」

「……」

なっ!なんてデリカシーのないヤツなんだお前はっ!!

「そうだよ」

「うっそだろー?じゃぁさ、俺のTシャツ何色??」

「…」

「適当に知ってる色言えって!」

「……緑?」

「はー?お前の目にはこの黄色が緑に見える訳?」

私は我慢できなくなって、あの男を張っ倒してやろうと立ち上がる直前、



「ちょっとあなたね!」


・・・・・・あ、さっきのかっこいい店員さん。

しのめんさんとあの男の間に割り込んできた。

「色が解らない事がそんなに可笑しい?」

「は?」

「私達が普通に感じている色だって、本当に全員が同じように見えているとは限らないのよ」

「何言っちゃってる訳この子?」

「じゃぁ、あなたが着ているそのシャツを見た全員が、あなたが思っている黄色と同じ色だっていう確証はある?」

彼女は、その場にいる私たちがのめり込んでしまうほど、巧みに演説した。

彼女の話を聞いているうち、私は全く反省した。
訊かずとも、口に出さずとも、私はしのめんさんを傷つけていたのかもしれない。
しのめんさんが、本当に色が分からないのか、知りたがっていたんだ。心の中では。


その後、お店の偉い人が止めに来るまで、彼女は話し続けた。

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二日目:奏湖編 06話

一連の騒動は、飲み代を半額にしてもらうことで決着がついた。
みく子さんはバイトや研究で疲れていたんだろう。途中から眠ってしまった。
あの酔っ払った男は、いつの間にかそそくさと居なくなっていた。

店を出て、たむろしていると、さっきの店員さんが少し離れたところで、私服で携帯を見ていた。

自然と足が彼女へ向かって歩き出していた。

「さっきはすみませんでした。」
自分のことではないのに、謝罪の言葉が出た。

「?何であなたが謝るの?あなたは悪くないでしょ?」
その通りではあるんだけど。

「いや、うん、そうなんだけどね。。。」
言葉が続かない。

しばらくの沈黙の後、彼女が
「・・・あたしこそごめんね。ちょっと気が立っていたの。
でも言い方が悪かったわ。
私、エリカっていうの。あなたは?」

「ううん、いいの。奏湖っていいます。」

「またお店、来てよね。あいつ抜きで(笑)」

二人で笑った。


それ以来、私の所属しているサークルの飲み会で、幹事をやるときは『呑処 お松』をつかうようにしている。
エリカとは少しずつ仲良くなっていった。
同じ大学の先輩(みく子さんたちと同い年)だと、後々知ることになるが、エリカが「敬語は絶対に使わないでよね!」というのでタメ語で話している。
友達なんだから、とエリカは言うのだ。
彼女のそういうところが好きだなぁと思う。

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二日目:奏湖編 07話

季節は秋。
鰯雲の秋空が高く感じる。
今日は、朝からバイトをして夕方、いつもの路地へ向かっている。
みく子さんはいるだろうか。


路地に入ったところで、なにやらしゃがんでいる女の人を見つけた。
でも髪の色がみく子さんじゃない。誰だろう?

その女の人は、ケースからギターを取り出しているようだった。
この人も歌を唄う人なのだろうか。

「っんしょ!」と、元気よくストラップを肩にかけて、女の人は振り返った。
「あ」

意外と近くにいたのでばっちり目が合ってしまった。
このまま通り過ぎるのはいかがなものか。

「あれぇ、初めての子だねぇ。
アタシこれから歌、歌うんだけど、聴いてかない?」

そんな人懐っこい笑顔で言われちゃあ、なおのこと素通りできない(笑)
「あ、ハイ、いいですよ。」
芸の無い返事をして、彼女に近づいた。




それからゆっくりとアルペジオでギターを弾き始める。
キレイな旋律。

歌声は、今日みたいな秋の夕暮れにぴったりのアルト。
ちょっとだけ、淋しい。
でも素敵。



曲が終わって、彼女が話しかけてきた。
「ふぅ。どぉだった?気に入ってくれたかなぁ?」

「はい!綺麗な声なんですねぇ。曲も良かったです。」

「そう?嬉しいなぁ。ありがと♪」



「あれ?二人とも知り合いだっけ?」
私の背後から、みく子さんがギターケースを持って現れた。

「今知り合ったの!ね??」と彼女が私を見る。
勢いで「はい」と答えてしまった。

みく子さんは大きな目を更に大きくして私と彼女の顔を交互に見ていた。
その様子が面白くて、私たちは笑ってしまった。

「で、名前なんていうの?わたしはちこ。」と彼女が自己紹介をした。
「あ、私は奏湖っていいます。みく子さんの大学の後輩です。」

それから少し、三人で話した。
みく子さんとちこさんは、この路地で知り合ったらしい。
ちこさんはたまに、歌うだけでなくみく子さんの歌を聴きに、ココへ来ることもあるそうだ。

「じゃあ、会っていたかもしれませんね」と私が言うと、ちこさんは
「そうだねぇ。この前の飲み会は行けなかったからなぁ、私。」と言った。
そっか。そういえば見なかったような気もする。


「あぁッ!」

急に思い出したから、大きい声出しちゃった。

「・・・どっ、どうしたのっ!?」とみく子さんとちこさん。

「ぁ、いや、写真出来ているので、取りに行かなきゃと思って・・・。それをすっかり忘れていたんです。」

我ながら恥ずかしい。大声出すほどのことか。


「そっか、奏湖ちゃん写真部だっけ?」と、みく子さん。
ちこさんが小さい声で「へぇ?そうなんだ。」と言った。
「そうなんです?。」ちょっとだけ照れくさい。

写真部といっても、自分で現像したり、高い一眼レフを使うような人はごく一部だ。
学園祭で展示はするけど、他の活動は主に飲み会と言ってもいいだろう。

「たまに私も撮ってもらってるんだ?」
みく子さんがちこさんに言う。
「みく子さんは画になるから」と私は言った。

普段、人物は撮らない。空や花など、風景ばかりを撮っている。
撮られるのを嫌がる人が多いから。
でもみく子さんは「全然いいよ?」と撮らせてくれるので、お言葉に甘えているのだ。
出来た写真はもちろん本人に渡しているが、いくつか承諾を得て学園祭に出させてもらうことになっている。

時計を見ると十八時四十八分。
写真屋さんは十九時に閉店だから、ダッシュすればまだ間に合う。
私は二人に別れを告げて、駅前の小さな写真屋さんへと向かった。

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二日目:しのめん編 09話

なんだか雲行きが怪しくなってきている。
僕はあれからずっと『ふろーら・しょうだ』がある路地にいる。
ここで待っていればまた「蜜クン」に会えると思ったからだ。

というか、いつまで僕はあの背が高い男のことを「蜜クン」と読んでいるんだろう。
バカバカしい。みく子を泣かせるようなヤツなんだから「ミックン」で充分だ。
僕は得意げに大学ノートを開き修正を加えた。


「蜜クン(ミックン)」


ふん。と大学ノートを閉じた。

そう言えば『ふろーら・しょうだ』からは、忙しそうではあるもののずっと楽しそうな関西弁が聞こえていた。


「志津さん・・・だったっけ。」


元々友達付き合いというものが解らない僕が、みく子を介して沢山の人と友達のようにはなったけれど、その一人一人を僕はあまり覚えてはいない。
「志津さん」もそのうちの一人だとは思う。

でも、なんだろう、何か思い出せそうな気がする。
あれは確か──。



   ※


「みく子?、あんたほんとに顔広いよね」

「そうでもないよー。みんながみんなと繋がってるからだよ」

「そうかもしんまい」

「じゃぁ、私行くね。またね志津ちゃん」


そう言って軽く手を振ってみく子は行ってしまって、僕はその姿をぼーっと見てたんだ。


「ちょっと!そこのおまいさん」


急に声をかけられてオドオドしながら見上げると、そこにはさっきまでみく子と話していた女の子がいた。


「んふー(にやり)」

「な、なんですか?」

「ホの字だねぇい」

「!!!」

「あの子を狙ってるの一人やニ人じゃないんだよー?」

「…」

「ま、精々頑張ってみることだわねぇい!」


バチンと背中を叩いて、その子は誇らしげにどこかへ行った。


「別に君がモテてる訳じゃないのに…」


そう小さく呟いたら、その子が鋭く振り返ったのが印象的だった。


   ※


そうか、あの時僕の背中を叩いた女の子だ。
「志津さん」と言うんだったな。

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二日目:ロシュ編 05話

タクシーに乗ってオレの家に着くまでミクはずっと泣いていた。
家に着く頃、涙はやっと止まったが呼吸にしゃっくりみたいなクセがついていた。
そんなにつらく悲しいことがあったのか。

家に入るなり、ミクは
「泣き過ぎちゃった… ちょっと洗面所貸して」
と言って、すぐ洗面所に入った。

しばらくして、洗面所から声がする。
「ねー、シャワーも借りていい?」

「え?いいけど」
と答える間もなく、シャワーの音が聞こえる。
シャワーの音混じりにミクの歌声が聞こえる。

ビートルズの…
ああ…なんていうタイトルだったけか?

透明感のある綺麗な歌声だ。
路地裏でストリートミュージシャンをずっとやってるらしい。でも、見られるの恥ずかしいから絶対来ないでって度々言われている。

「ねぇ?」
シャワーの音に混じって、ミクの声が聞こえる。

「なに?」
オレは、バスルームのドアに背をもたれながら答える。

「ううん。何でもない」
「何でもないって何さ?」

「なんかさー」
「うん」

「ロシュ、変わんないねー」
「なんだよ。それ。」


急にシャワーの音がしなくなった。

しばしの静寂…


「ミク?」

答えがない。


「おい?大丈…」
急にバスルームのドアが開き、裸のミクが抱きついてきた。

「だって、ロシュ、昔と全然変わんないんだもん。」


オレとミクは、その日の午後の講義はすべて休み
半日、ニ人でベッドにもぐって過ごした。


「ね、ロシュ…」
ミクは、タオルケットにくるくる丸まったまま
顔を半分出して、まん丸の大きな瞳でこっちを見ながら言った。

「なに?」
タバコくわえ、火を点けながら答えた。

「今度ね、ノートン教授のトコ行きたいの」
「ミクがノートン教授のトコ?」

「うん」
「そりゃあ意外だな」

「前からちょっと興味があったの」
「そうなんだ。それは知らなかったな」

「うん、この前ね、ウチの大学でノートン教授の特講受けてる人がいるって聞いたから」
「え?誰に?」

「ん…ヒミツ。」
「なんでヒミツだよ」

「ヒミツだから。」
ミクは小悪魔みたいにクスリと笑った。


ミクのこの悪戯っ子っぽい微笑は、必殺だ。
これが出るともう何も言えなくなってしまう。


「だから…、行きたいのぉ」
「ああ、分かったよ。今度に教授に会うし、教授が何というか分かんないけど、一応話してみるよ」

「いきなり行っちゃダメぇ?」
「世界的な大先生だぜ。いきなりはマズイだろ」

相変わらずの小悪魔ぶりだ。
逆に言えば、この小悪魔ぶりがミクの魅力でもある。


その後、ミクを家まで送り
オレはそのままの足で家庭教師のバイトへ向かった。



即日、ノートン教授のアポが取れ
ミクとニ人で会いにいくことになった。

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二日目:蓮火編 05話

学内に知り合いは少ない。
数人の教授と、少し話をしたロシュくんくらいだ。
彼等に会えれば、みく子の居場所がもしかしたら解るかも知れない。

もっと知り合いが多ければ。
バイトばかりして、大学に来ていなかった事を少し後悔した。

廊下を曲がると、ゼミの教授に会えた。

「ラッキー!教授、みく子さん、知りません?」

「ラッキー?それでみく子さん?
 あぁ、最近イメージが変わった学生だね。
 彼女なら、もう帰ったよ。あの頭は目立つからね。
 校門から出て行く所がすぐに解る。」

「ありがとうございます!」

何故こんなに必死になってるのか、自分でもよく解らなくなってきていた。みく子に会って、また叫んで、一体何になるんだろう。それとも、別の事を叫ぶつもりなのか。
考えて、考えすぎて、動けなかった。
そんな自分が嫌で、それでみく子の歌に惹かれたんだ。
なら、考えるな。動け!

意を決したように走り出す。
不意に教室から一人の男が出てきてぶつかった。
分厚い本が落ちる音がした。

「すみません!」

必死に叫んで、振り返らずに大学を後にした。
思い当たるところ、と言っても、みく子とはあの路地で話をした事しかないから、近くを走り回るしかない。
大通りを走ったが、居ない。
少し外れて、路地裏へ入った。

『ふろーら・しょうだ』が見えた。
昨日兄が通った路地はここだったようだ。
店長らしき人物が、オロオロして人を待っているようだった。

いつのまにか風が強くなっていて、今にも降り出しそうな空模様。

大通りに戻ると、信号機は赤に変わろうとしていた。
乱れた呼吸を整えながら、立ち止まる。
さて、どうしようか。雨が降れば、きっと今日中には見つからない。
そんな気がした。

不意に、左側から声が聞こえた。

「あれ?蓮火さん?」

アバンギャルドなパーマ。いや、みく子がそこに居た。

「…さんは要らないから。」

「信号待ち?」

「そう、信号待ち。」

「じゃ、私も!」

みく子が、隣に立った。
いざ本人を目の前にすると、本当に何を言っていいか解らなくなった。
俯いた俺の耳に街の雑音が響く。

「また、歌えそう?」

しまった、と思った。
俺が言った言葉は、何もかも聞き出そうとするような意味を持っている。
そんな気がしたからだ。

「ううん。まだ。」

彼女の答えがそれだけだった事に少し安心した。

「ただね。」

そこからの声は、静かに、しかし固い意志を持っているようだった。

「あれから、きちんと会って話をしたの。」

「良かった…え?どっちと会ったの?彼?元彼?」

「ふふ。ヒミツだよ。それで…。」

「それで?」

「もう、決めたわ。」

信号が青に変わった。

「そうか。良かったね。」

動こうとしない俺に、みく子が尋ねる。

「渡らないの?」

「それでもまだ歌えないの?」

質問を質問で返す。
遠くで、車のクラクションが鳴った。
その時、一瞬だったけど、雑音が消えた気がした。
小さなみく子の声がクリアに響く。

「これから、いや、明日になるかも知れない。
 もっと先になるかも知れない。
 いつになるかは解らないけど、取り戻しに行くわ。」

青信号は点滅に変わった。

「行くね。」

みく子は、横断歩道を渡り、向こう側の路地へ入った。
まだ後姿は見える。
信号が赤に変わった後、みく子が振り向いた。
手を振っているのが見える。
止まっていた車が動き出し、辺りが雑音で満たされていく。

「あ、忘れてた。」

そう呟いた時、信号が赤から、もう一度青に変わった。
信号待ちの車が止まり、もう一度俺とみく子の間の障害物が無くなる。

「もう一回言っとくぞ!」

ありったけの声で叫びながら、手を振り返す。

「とりあえず、そのパーマだけは直せよ!」

このニ度目の叫びはみく子の心に届いただろうか。
本当に伝えたかったのがこの言葉なのかは解らない。
俺自身、この叫びに込めたモノが解らない。
だけど、みく子は微笑んで路地の先へ進んでいった。
それだけで充分な気がした。

みく子が進んでいった方向をしばらく眺めた後、もうすべき事が無いような気がして、家に帰る事にした。
家に着いたら兄貴に電話しよう。

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二日目:蓮火編 06話

みく子の姿が見えなくなってから、しばらく空を見つめていた。
変わらず、未だに降るのか降らないのかよく解らない空模様。
雨音は嫌いじゃない。雨粒が地面に落ちて弾ける音を聞いていると、心が落ち着くから。
雨に濡れるのも嫌いじゃない。冷たくなりながら、自分の体温をリアルに感じられるから。
どうせなら、降り出せばいいのに。
そういえば台風が近付いてるんだっけ。

どうでもいい事を考えていたら、叫んだ後の高揚が静まってくる。
俺はまた歩き出した。

信号を渡らずに引き返す。

先程通った道を引き返すように歩いた。
単純に、俺の住むマンションがそちらにあったというのも理由だが、みく子の為に取った行動をふり返りながら、思考をみく子に向けておきたかったからだ。

大通りを外れ、裏通りへ。
少しだけ、先程と状況が変わっている。
店長らしき人物しか居なかった『ふろーら・しょうだ』の店先には、大学生くらいの女の子が立っていたし、近くには見た事のある男が姿を隠しているようだった。

図書室で会った男だ。

思わず、『ふろーら・しょうだ』の道向かいに足を運んだ。
さっき図書室で言った俺の言動に、みく子に会いたいという焦りから悪意が込められていたら、少なからず彼は俺を恨んでいると思ったから。

この裏通りを通って、信号でみく子と会って、また戻ってきた。
たったこれだけの間にも、人は動いて、状況は変化する。

「変わらないものはないよ。」

そうつぶやいて、少し俯いて立ち止まった。

「変わる事は、悪い事なのかな?」

あの夜、みく子のその質問に答えた。
でもそれは咄嗟に出た言葉で、俺の本心ではなかったんじゃないか。
いや、もうそれを考えても仕方ない事だ。
みく子は微笑んで、歩き出したんだから。
それで充分じゃないか。

また歩き出そうとした時、車が近付いてくる音がした。
思わず顔を上げる。
運転している男の顔に見覚えがあった。

ロシュくんだ。
彼の顔は、俺ではなく『ふろーら・しょうだ』へ向いていた。
俺には気付かない。いや、もう忘れているのかも知れないな。
俺の横を通り過ぎるのとほぼ同時に、声が聞こえた。

「エリカ!その人っ!みく子と居った人っ!!!」

全力で振り向いた。
ロシュくんの車の助手席。
そこに座っている女の子が、声の主に手を振っているのが見えた。

走り去る車を眺める。
混乱する頭を全速力で整理する。

つまり、もしかしたら、ロシュくんが、みく子の、元彼?

みく子は、蜜クンという彼氏と、ロシュくんの間で揺れていたのか?

「もう、決めたわ。」

つい少し前の、みく子の声が聴こえた気がした。

もしみく子がロシュくんの方へ向かったら?
図書室で、彼くらいの人物がみく子の彼か元彼だったら、きっとみく子は前のように歌えるようになるんだろうな、と考えていた。
だけど、ロシュくんの車の助手席には、みく子じゃない女の子。

マズい。今からみく子が、何かしらの気持ちを元彼、ロシュくんに伝えるとする。
既に彼女が居る事なんて知ったらどうなるだろう。

ショックでみく子が、更に白くなってしまうかも知れない。
アバンギャルドなパーマにアグレッシヴさがプラスされるかも知れない。
ラメなんか入ったら、白さは更に攻撃的になってしまう。
よしんば七色に光ってしまうかも知れない。

そんな事になったら、あの歌声はもう絶対戻らない。

その場から走り去り、俺は自宅へ戻って、ベッドに入った。
雨音を聞きながら、自分に言い聞かせる。

「落ち着け。」

そもそも、ロシュくんが元彼だなんて決まったわけではない。
たまたま、みく子と一緒に居ただけかも知れないんだから。

だけど、俺にはそれを確かめる方法があった。

携帯電話を手に取る。
メールを送る準備をする。
送信先は、兄貴。


件名:今日の昼
本文:みく子を乗せた時、隣に男が居ただろ。
   ハーフっぽい男前じゃなかった?


返事は返ってこなかった。
疑問が残ったままで、胃が痛くなってくる。
ベッドに寝転がり落ち着こうとしたが、混乱した頭は更に混乱してくる。
何時間そうしていただろう。疲れて考えるのを止めたら、雨音が聞こえた。
ついに雨が降り出したようだ。雨音は俺を眠りへと誘う。
整理出来てない頭の中、ただ願うように呟いた。

みく子。七色にだけは光らないでくれ。

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