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三日目:蜜編 現在 25話

みく子が会いたがっているのは二人。
悪魔と、爺さん。
みく子は爺さんと会う事に、何らかの解決策を求めようとしているのだと思う。だけれど、それが絶対的な解決にならない事を、みく子自身が知っているのではないか。だから求めている。悪魔を。絶対的な解決を。対価として得られる、完全な解決を。

みく子はどうして、僕に電話をかけて来た? 僕が悪魔と契約した事を、みく子は知らないはずだ。知りようが無い。知りようがな無いからこそ、電話をかけた。みく子は不安なのだ、きっと。だから言った。言わなければ不安に潰されそうだから、他人が聞けば妄想と思うに違いない願望を、僕に話した。だけれど残念ながら、僕は悪魔を知っている。今も、風呂場を出たら、君の大好きな特等席に、それは座っているはずだ、みく子。
ああ、腹が減った。


【M線上のアリア】 現在/25


風呂場を出て、タオルで髪を乾かしながら、黒色のビニール袋を手に取る。オレンジ色のソファに足を組んで座っているヴィンセントが「金でも引き出すのか?」と問うが、その前に何故、この悪魔はブレザー姿なのかを此方から先に問いたい。「何だよ、その格好は?」
「学校に行くんだろ」
「ああ、大学にな。お前の格好は高校生みたいだ」
「イエス、意外と似合うだろ?」
特に返事をせずに、黒色のビニール袋から預金カードを取り出す。とりあえず現金を引き出さなければ。飯も食えない。四四万円に手を付ける気はない。差し当たり、数日分の食事代を。

「恋人が貯めた金を使うのか、羊」
「今回の件が終わったらな、すぐに働いてやるよ」
「何がどうなったら終わりなのだ? お前の言う"今回の件"とは?」

ヴィンセントは両手を口の前で組みながら、得意の六四符調で笑う。
何がどうなったら終わり? みく子が救われたら終わり。みく子が救われるとは? 解らない。
みく子が此処に帰って来たら終わり? また路上で歌を唄えたら終わり? また野良猫に餌を与えに行けたら終わり? 終わりって何だ? 僕が望んでいる終わりって何だ? 解らない。

「悩め、羊、それは極上の記憶になるぞ」

ヴィンセントは足を組んだまま動かず、僕はそれ以上の会話を拒み、再び袋を手に取った。昨夜も確認したが、見た目より意外と大きな袋の中には、他にも色々と入っている。その中に円盤状の物体。数枚。「……何だ、これ?」
「MOディスクだな」
ヴィンセントの発言を無視して、僕はパソコンの電源を入れる。……みく子の私物だ。しかも黒色のビニール袋に入れた私物だ。勝手に見て良い代物では無い。パソコン。起動音。

何故、MOディスクなのか。理由は簡単。一般的には取り扱いにくいから。
何故、取り扱いにくい媒体を選ぶのか。簡単に見られたくない何かが入っているから。
ところが此処は我が家で、此処にあるのは我が家のパソコンだ。MOディスクを差し込む。
勝手に見て良い代物では無い代物を、見ようとする。

「……なるほどね」

画面には、半年毎の、みく子の細かな身体データが記載されていた。
身長・体重・視力・聴力といった身体測定的な情報に始まり、赤血球・白血球・リンパ・更に細かく胸腺・脾臓・リンパ節・パイエル板・扁桃・虫垂・赤色骨髄、それから骨格・内臓・表皮……細胞が形成するであろうあらゆる部位までの綿密な情報、少なくとも僕が目で追っても一割程度しか、見慣れた単語が載っていない情報群が、所狭しと記載されていた。

定期健診? それは半年毎に一度、定期的に行われている。一枚のディスクに四年分。僕が見ているのは、十六歳時のみく子らしい。その数値の意味は、僕が見ても解らない。少なくとも此処にあるという事は、異常が無かった事を表している。何故か? MOディスクが五枚しか無かったからだ。一枚のディスクに四年分。要するに、二十一歳から先のみく子のデータが無い。

最近のMOディスクを持ち出したのだ、みく子は。
僕はパソコンの電源を落として立ち上がるとクローゼットに向かった。まだ一度しか着た事のないスーツを取り出すと、悪魔が好みそうなシャツを着て、わざと真赤なネクタイを選んだ。
みく子の変化は、数日前に突然現れた訳では無い。少なくとも半年以上前から、それは現れていて、みく子の内部で蠢いていた。白化など、それが解りやすく表面に現れたに過ぎない。

みく子は崩れていく。
それを止めようとしているのか、変えようとしているのか、それとも全て受け入れようとしているのかは解らない。だけれど一つだけ解っている事はある。みく子は不安なんだ。だから電話をした。僕に電話をした。悪魔にさえ救いを求める心境の最中に、みく子は僕に電話をした。

……悪魔? 誰が? どちらが?
僕は傘を手に取ると、靴を履き、部屋の扉を開けた。
ヴィンセントが音も無く、オレンジ色のソファから、穏やかに立ち上がる。
台風当日。
僕は部屋を出ると、鍵を閉めて、傘を差すと、大学への道を歩き始めた。

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