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三日目:蜜編 現在 26話

風は強いが雨は昨晩より弱く、雷も鳴っていない。
傘を差しながら小さな水溜りを飛び越えると、細い車道をタクシーが通り過ぎた。
「大学に行くんだろ?」
「そうだよ」
「何故、スーツを着る必要がある?」
ヴィンセントが僕に質問をしてくるのは珍しい気がした。
確かに大学に潜入しようとしているのだから、他の学生と似たような格好の方が都合が良いはずだった。だけれど爺さんと会おうとするならば、僕は正装でなければならないような気がした。爺さんに敬意を表している訳ではない。逆だ。

「警察官が犯人に逮捕状を突き付ける時、パジャマを着ているか?」
僕が言うと、ヴィンセントは愉快そうに笑った。それにしてもヴィンセントは昨晩から、ずっと僕の傍を離れない。一日目は気が付いたらいなくなっていたのに。悪魔と契約者の関係とは、本来そういうものなのだろうか。緑色のブレザーを着込む姿は高校生のようだ。

「お前って何歳なの?」
「悪魔に年齢を問う行為は、あまり意味が無いな」
「お前って年齢不詳だよな、悪魔って誰でもそんなモンなのか?」
「さぁな」

瞬間。
自転車を漕ぐ音が聴こえた。それはドップラー効果の実験でもするかのように正確なリズムで車輪を回転させて、その均一なリズムに合わせながら、黒いジャケットに白いワイシャツ、長い足にすらりとしたジーンズを器用に着こなした男が、背後から僕らを追い越して行った。大学の方向。違和感。ヴィンセントは何も言わなかった。

僕は歩幅を大きくした。濡れてしまわないように。忘れてしまわないように。何を?
雨粒が一回り大きくなった気がする。傘を叩く音が大きくなる。再び、雷が鳴る予感。


【M線上のアリア】 現在/26


暗雲を背景にして、大学は張り付いていた。
聳え立つ。他人事のように聳え立つ。聳え立つという表現が相応しい。
大半の学生にとっては、普段と何ら変わらぬ日常。単なる雨の日。だけれど僕の世界は変化している。暗雲が渦を巻いている。誰も知らない、気付かない場所で一人、渦を巻いている。僕は正門に足を踏み入れる。

大学。僕が落ちた大学。みく子が通う大学。エリカが通う大学。憧れの場所? 憧れの場所ではあった。少なくとも過去において。毎日を緩慢に過ごす僕にとって。ヴィンセントはブレザーのポケットに手を入れながら呑気に歩いている。高校生が見学に来たような姿であるが、別に見学に来た訳ではないし、悪魔の姿はほとんどの学生の目には映らない。契約者か継承者でもない限り。大学に相応しくない、スーツ姿の男と、ブレザー姿の男が歩いている。

午前中。正門前に学生の姿は少ない。桜並木が見える。無論、花は咲いていないが。
自転車。数分前に見た自転車に似ている。先程の男は此処の学生だったのだろうか。

大学の内部に入る。爺さんの研究室に行きたいが、何処に研究室があるのか皆目見当が付かない。大学は広い。幼稚園とは違う。その辺にいる学生に訊けば良いのだろうが、何故か戸惑う。彼らは缶ジュースなどを飲みながら笑っている。同世代。安穏。差異。劣等感。

僕は不似合いなスーツを着ている自分を感じて、急に恥ずかしくなった。逃げ出したくなった。こんな時、人間心理というものは、平面体であれば北へと、立方体であれば上へと、足を向けるらしい。正しくその心理に沿うように、僕は階段を昇っていた。三階。何故か誰もいない。

「……図書室か」

僕は扉を開けると、膨大な量の冊子に囲まれた、その部屋に入った。
そして不意に、何故か今頃になって、こう思った。「みく子は此処にいたのだな」
もしかしたら今だって、この大学の何処かに、みく子はいるのかもしれない。
図書室の隅には「本貸出システム」が設置されている。

僕は「本貸出システム」なる便利な機械に近付くと、それを眺めた。
機械の横には学生の文字か、その使い方の説明が、至極丁寧に書かれている。
「学生IDを入力してください」わざとらしく読み上げる。
90395。

「カサハラミクコ」

画面に出た文字を読み上げる。
それを見てヴィンセントが愉快そうにカラカラと笑った。
「お前は恋人の学生IDまで知っているのか」
「知ってるよ、みく子、楽しそうに言ってたからな」
「何を?」
「黒みく子」
「何が?」

90395。クロミクコ。
読み方を変えるとそうなのだと、何時だったか、みく子は楽しそうに語った。
クロミクコと呼ぶには最初の二文字は「96」であるべきだが、あまり気にしていなかった。
学生証を見せながら、それは絶対にクロミクコと読むのだと、みく子は楽しそうに語った。

みく子は黒色が好きだった。
黒色のビニール袋に描かれた、黒色の不細工なネズミの絵のように。
みく子は黒色が好きだった。
黒色の服に身を包んで、オレンジ色の長い髪を揺らす彼女が、僕は好きだった。

ところが今、みく子は白かった。
病的に。

画面上に映し出された、みく子の学生データ。
今までに借りた何冊かの本。
最近、借りた本。

「一般動物に見られる遺伝的病症」

爺さんの本。
今更、驚く事は何も無い。
僕はその真実を知る為に、此処に来た。

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