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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:蜜編 現在 27話

「お前の学生IDは無いのか?」

呑気な声でヴィンセントが言った。
「ある訳ないだろ、僕は大学生じゃないんだから」
「フン、面白くないな」
この大学に通うのは、僕の夢だった。少なくとも、或る時期において。
どうして夢だったのか? 僕はエリカと一緒の大学に行きたかったのだと思う、多分。それは実に漠然とした願望だった。稚拙な約束にも似た信頼に沿った展望だった。僕とエリカは互いに干渉しないフリをしながら密接した道を歩み、自由恋愛を謳歌し、それでも最終的には互いの元へと互いが帰ってくるのではないかと信じていた。そんな幼い頃の話だ。

実際には、僕はみく子と出逢った。
エリカには信頼に値する恋人が出来た。僕は長い間、エリカに対する感情を振り切る事が出来なかったかもしれない。それでも、僕はみく子と出逢った。みく子が何故、僕のような男の傍にいたのか。みく子ほど男女問わず沢山の人間から必要とされる女性が、僕のような男の傍にいたのか。そして何故、出て行ったのか。今ならば理由が解る気がする。

僕は変わろうとしなかったからだ。
変化を嫌悪し、何よりも恐れていた彼女にとって、変化しない僕は、居心地が良かったのだ。過去から抜け出さず、現在を受け入れようともしない僕は、彼女にとって何よりも居心地の良い場所だったのだ。ならば何故、僕らの部屋を出て行った?

変化したくなくとも、変化してしまう自分がいたから。
変わるのか。止めるのか。全てを受け入れるのか。どちらにせよ、今のままではいられない。みく子は決断したのだ。何らかの答は出ている。悪魔に救いを求めるのか。爺さんに救いを求めるのか。それとも両方に救いを求めるのか。そして僕は考える。それは正しいのか?

僕は仮定する。
変化の原因は、第三者に由来する。
名も姿も知らない第三者が存在すると仮定する。

欠落の原因は爺さん。ジェームス・ノートン。失敗したバイオロイド。
解決の原因は悪魔。みく子は過去に何処かで、悪魔に会っている。
変化の原因は第三者。みく子は悪魔と契約していたのではないか?

契約破棄。
悪魔は契約として記憶を完全に食う。
代償として何かを叶える。
食われた記憶を取り戻す事は不可能。

不可能ではあるが、たった一つだけ方法がある。
誰かがみく子の記憶を、取り戻したいと願ったとしたら?
第三者が悪魔と契約し、自分の記憶の代償として、みく子の記憶を取り戻す。
その場合においてのみ、悪魔は第三者から食った記憶と等価値の記憶を、みく子に戻す。
しかし……。

みく子が自分の契約で得た代償は、その効果を完全に失う。
みく子は変化している、今も。


【M線上のアリア】 現在/27


「これでどうだ?」
ヴィンセントが本貸出システムを眺めがら、何も無い机上を指で弾いている。
「何が?」
「お前の学生IDだよ」
「は?」
画面を見ると、僕の個人情報が勝手に登録されている。

「何やってんだお前」
「形だけでも大学生にしてみようかと思ってな」
「僕は願ってないぞ、そんな事」
「別に、面白そうだからやってみただけさ、消そうか?」
「いや……」

消されるのは勿体無い気がしたので、否定した。別に学生名簿に登録されたと言っても、存在しない学生のデータなど、誰も検索しようとは思わないだろう。存在すれど存在していないようなものだ。それに学生IDの番号が気に入った。91032。クイルミツ。

「悔いる蜜」
読み上げて自嘲気味に笑う。
「この番号に勝手に登録しても大丈夫なのか?」
「空いている番号だったからな」
「そりゃ好都合だね」

みく子が最近、借りた本。
一般動物に見られる遺伝的病症。
爺さんが発表した論文の中では、割と初期の論文だったはずだ。爺さんの本は大抵の図書館に置いてあるが、目を通そうと思った事は一度も無い。読むのが面倒くさい。この図書室にも何冊か置いてあるはずだ。「……ヴィンセント、次の契約だ」

「別に構わんが、腹も減っているしな」
「……僕は漫画が大好きでさ、よく読むんだよ」
「それがどうした」
「もしも世の中から全ての漫画を取り上げられたら悲しいね」
「意味が解らんな」

ヴィンセントは図書室の椅子に座り、足を組む。

「僕が今までに読んだ全ての漫画の記憶を食えよ」
「……不味そうだな」
「その代わり、此処にある爺さんが書いた論文を、僕に全て記憶させろ」
「……野比のび太みたいな発想だな」

ヴィンセントは不満気な表情をすると、腕を組んだ。
我ながら都合の良い交換条件だと思っている。何故なら今までに読んだ漫画の記憶を全て食われたら、また新鮮な気持ちで同じ漫画を読めるのではないか、と思ったからだ。その上、爺さんの論文まで記憶出来るなんて素晴らしいではないか。僕は膨大な量の漫画を記憶している。列記とした等価交換ではないか。僕にとって都合の良い交換条件ではあるが。

「羊、お前はドンドン狡猾になっていくな……」
「要らないか、僕の漫画の記憶は」
「不味そうだ……だが、お前が漫画を読んで感動した記憶を食うのは悪くない」

僕は知っている。
悪魔が記憶を食う際の、穴を知っている。
悪魔は記憶を完全に食うが、そこから得た経験は消えていない。
過去と現在と繋ぐ道の途中に穴を空けるだけで、道が途切れる訳では無い。
平坦な道にポッカリと穴を空けた状態になるだけで、その道が消えてしまう訳では無い。

契約の仕方に寄るだろうが、例えば小学生時代の記憶を食われたとして、小学時生時代に習った足し算や引き算を忘れる訳ではない。只、教わった記憶が無くなる。現在の自分から失われるのは「小学生時代の記憶」なのだ。当時の思い出を失う。現在は失われない。そこで奇妙な現象が起きる。例えば小学生時代からの同級生Aという親友が存在するとして、記憶を食われた後も親友Aとは親友で在り得る。ところが何年前に出逢ったのか解らなくなる。

僕が居酒屋を辞めた原因になる記憶を食われたとして、居酒屋の存在そのものが無くなった訳でも、居酒屋までの道や、居酒屋にいる人達や、居酒屋で働く知識そのものを失った訳でも無かったように。ところがエリカの顔が解らなくなったように。それは悪魔が残した穴だ。絶対条件。決して契約の仕方を間違えてはいけない。契約の仕方次第で、穴は小さくて済む。だが、間違えると過去は大きく陥没し、現在にまで影響するはずだ。僕は息を深く吸い込む。
告げる。

「漫画を読んだ記憶だけを食え、それ以外は食うな」
「偉そうだな、羊」
「契約は等価。関係は平等だ。食うならば与えろ。与えぬなら食うな」
「イエス、与えよう。此処にあるJames Nikola Nortonの論文の、全ての知識を与えるぞ」

膨大な量だ、死ぬなよ、と呟くヴィンセントの声が聞こえた気がした。一瞬。
壁時計を見る。午前十一時八分。次に目覚めるのは何時頃か。午前中。多分、無理だ。
ああ、確かに前回までとは、まるで違う感覚。血液が逆流する感覚。嫌悪感。罪悪感。
僕は甘く見ている。甘く見ていた。大切な何かを一瞬で、圧倒的に無に帰してしまう力。
奪われていく。奪われていく。隅々まで跡形も無く破壊され、破壊された事実さえ無くなる。
穴が空く。穴が。穴が。穴が。あなあなあながあく。あながあく。あなが。あなをあけられる。

空いた穴に墜ちるような、失神。

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