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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:蜜編 過去 10話

月は地球の引力を振り切るか?
常識的に考えれば振り切る訳は無くて、だけれど人類の発展と進歩なんてのは、常識を超えた部分で行われてきたはずで、誰も地球の引力を振り切って、人類が人工衛星を飛ばせるようになるなんて思わなかったんじゃないかな。
史上初の人工衛星『スプートニク』に乗せられた、一匹のライカ犬の名前を知っているか? 僕は知らない。残念だ。もし名前を知っていたら、その名を呼んで星空に呼びかけるのにな。僕らの進化は、引力を振り切った、その先にある。
エリカと大喧嘩した帰り道、僕はそんな根拠もない事を、一人で考えたんだ。


【M線上のアリア】 過去/10


「ただいま」
鍵を開けて扉を開くと、真っ暗な居間が僕を出迎えた。居間と呼べるほど立派な広さでも無い。みく子は帰ってきていない。当然だ。本当ならば今はまだ、僕は居酒屋で働いてるはずの時間だ。みく子は唄っているだろう、何時もの路地で。今夜の野良猫の餌は何だろう。靴を脱いで居間に上がり、ソファに腰掛ける。オレンジ色のソファ。普段であればみく子の特等席。今は主が不在のソファに、僕は腰を下すと、煙草に火を点けた。
煙を吐き出すと「ああ、煙草も辞めなきゃイカンなぁ……」何ともなしに、独り言が零れる。

居酒屋のアルバイトを辞めてしまった。ほんの数十分前の出来事だ。エリカと喧嘩をする。よくある事だ。よくあった事だ。それでも今夜のエリカの言葉に、血が昇ってしまった。
(蜜はエリカの【----"devil ate it" 404 NOT FOUND----】なのに!)
そんな台詞、エリカはどんな気持ちで言ったんだ? 最低の気分だ。煙草を吸い込むと余計に不快感が増す。この一本で、本当に最後にしよう。当分、煙草を買う金も無くなる。

……僕の頭の中に、その台詞は強烈に染み込んでしまった。
洗い流しても簡単には落ちない程の、強烈な疑心と不信を焼き付けてしまった。子供の頃から一緒に過ごしてきた相手が、自分をそんな風に思っていたのだと知ったら、厭になったし、何だか全てが馬鹿らしくなった。僕が【----"devil ate it" 404 NOT FOUND----】ならば、それらしく、一生を此処で過ごすのも良いだろう。あの日、エリカが誘わなければ、どちらにせよ僕は此処から出ないままだったし、ならば僕を此処に戻したのもエリカだ。

「あれ? ただいまぁ?」
不意に、扉が開く音と同時に、可愛い疑問符が聞こえた。
みく子が玄関先で「あれ? 蜜クン何で家にいるの?」と、如何にも驚いているのだと伝えるに相応しい、素っ頓狂な声を出した。僕は笑った。「居酒屋、辞めちゃった」
「え??」
「当分、家にいると思うよ」
「それは良いけど、どうして急に辞めちゃったの?」

みく子はギター・ケースを床に置くと、長袖のTシャツを脱ぎながら僕に訊ねた。僕はみく子の美しく健康的な、細いラインを眺めた。「あれ、ちょっと痩せた?」
「いやいや、着替え見ないでよ、見てもいいけど」
「え、どっち?」
「質問に答えてね、蜜クン、どうして辞めたの?」

みく子はジーパンを脱ぐと、下着姿で部屋着用のTシャツを探した。下着姿で靴下だけ脱がないのはエロイな、と僕は思った。みく子の下着の趣味は意外と子供っぽいよな、などと考えながら、その芸術的とも呼ぶべきラインを観察する事に、僕は没頭した。「話、聞いてる?」

「あ、聞いてる」
「あのね、仕事辞めちゃうのは良いけどね、理由は言わなきゃ駄目よ。蜜クン、今アタシ達は一緒に暮らしてるんだから、お互いの負担は分け合わなきゃ駄目よ、経済的な意味でもね。君の問題を聞かせてね。それとも蜜クン、アタシのヒモにでもなるの?」
「……なぁ、【----"devil ate it" 404 NOT FOUND----】ってどういう意味だと思う?」
「何、急に?」

みく子は眉をしかめて、僕の質問の意味を租借した。「それが辞めた原因?」
「喧嘩したんだ、店で」
「誰と?」
「……幼馴染と」
「ああ、幼馴染の女の子、一緒に働いてるんだっけ?」

あまり積極的に、エリカの話題に触れた事は、ほとんど無かった。みく子の前でエリカの話をするのは、何だか違う気がしたからだ。別にみく子がそれを聞いて嫌がる事は無かっただろうけれど、それは禁句のような気がしていた。ずっと。恐らく。自分自身に対して。

「……それで、幼馴染の女の子に、そう言われて怒っちゃったの?」
「うん」
「若いなぁ、君は」と、みく子は愉快そうに、まるで自分は何歳なんだと言い返したくなるような感想を漏らしながら、「あ、アタシの特等席に座ってる!」と、今更のような指摘を叫んだ。

「ちょっと! アタシのソファ! ほらどいて!」
「いいじゃん別に……これでも僕、落ち込んでるんだぜ」
「うるさいな、君が落ち込むのは自由、ずっと家にいても良いよ、でもそれとこれとは別問題。そこはアタシの場所なの。早くどかないと罰ゲームだよ。ほら今すぐどいた」
「罰ゲームって何?」
「今すぐ働け!」
「ごめん、今すぐどきます」

みく子はご満悦の表情でオレンジ色のソファに腰掛けると、床に座る僕の頭を撫でた。
「君がどれだけ傷付いたか知らないけどね、君が此処にいたいなら、そうしなよ」
「だけど、金ないよ」
「あるんだなぁ、貯金が。意外と貯め込むタイプなんだなぁ」と笑って、みく子は貯金通帳を見せる素振りをした。見せる素振りだけで実際には見せなかった。生活費はお互いのバイト代をみく子が管理していたから、貯金があるという話は事実だろうけれど、そこまで余裕を見せるほどの貯金があるとも思えなかった。「そんなに貯金、ないでしょ?」

「あのね、蜜クン、大切なのは貯金の額じゃないんだなぁ」
「どういう意味?」
「君が毎日、笑って過ごしてるかどうかって事! 青信号を待てるかどうかって事!
幼馴染なんでしょ、その女の子? 何時かは仲直りしなきゃ駄目よ、幼馴染なんだから。
【----"devil ate it" 404 NOT FOUND----】、どういう意味で言ったのか解んないけどね。だけどきっと、君の事がずっと大切だったんだよ」

そこまで言うと、みく子は座った体勢のまま、ギター・ケースに手を伸ばした。ギターを取り出すと、細い指で弦を弾く。「幼馴染か」独り言のように呟くと目を閉じて、みく子は唄い始めた。とても柔らかい声で。

窓を見る。月が引力に導かれるように、そこに浮かんでいる。浮かんでいる。振り切る事は無く、何度も形を変えて、それでも月は一定の距離を保ちながら、そこに浮かんでいる。満月。否、少し欠けている。みく子の歌声は、星空の中を靴下を履いたままで歩くようだ。柔らかく。

「……どう、良い曲でしょ?」唄い終えると、みく子は笑った。
「何て曲?」
「昨日作ったばっかりの曲。あのね、"幼なじみ"って曲」
「君にも幼馴染、いた?」
「ん、そうね、本ばっかり読んでるような男の子だったな」

みく子は六弦を弾いたように笑った。

「初恋?」
「さぁ、どうだったかなぁ……」

確かめるように、もう一回。

「どうだったのかな」
「初恋?」
「どうだったのかな」

それは確かめるだとか、思い出すだとか、忘れてしまうだとか、そういう類の表情とは少し違うようにも感じた。みく子は古いページを探すように数秒間、目を瞑り、再び目を開いた時に、「幼馴染だったよ」とだけ、呟いた。

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