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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:サク編 03話

 今日の講義には博物館経営学がある。
 僕は奇石博物館という博物館が好きだった。実家の近くにある。世界各地から集めた珍しい石の数々が薄暗い室内に展示してある。薄い板状でゆらゆらと曲がるコンニャク石、光ファイバーの原理で石の下の像が浮かび上がってくるように見えるテレビ石、それからトンボや恐竜の化石、発光する石などが所狭しと並んでいる。実際、所狭い。全ての展示物を見終わると、見てきたばかりの石を取り扱うショップが唐突に現れ、珍しいテレビ石などを陳列して少年少女の心をがっしり掴む構造になっている。何よりも驚くべきはその人口密度で、少なくとも僕が何回か足を運んだ限りでは来館客とは数えるほどしか擦れ違わなかった。それでも長らく続くあの施設の経営状態が非常に気になる。
 そういう意味で博物館経営学は好きだった。だがどうも僕は頭が悪いみたいで、講義の内容を説明することが出来ない。テストはそれなりに出来るのだけれど。いや、本当です。
 結果的に言うと、僕はその講義を無視した。講義に行かないなんてことは日常茶飯事なので、別に心も痛まない。
 しかし、僕は一体何がしたいのだろう。
「何してるかな僕は」
 一人ごちる。僕は大学にも行かず昼間から街を徘徊した。いつも通る大通りをどうにかこうにかしながら、静かな裏通りに入る。何だかアウェーの空気で精神がピリピリした。気をつけろ、ここはおそらく他人の領域だと僕は自分を戒める。「あった……」ちんまりとしたあまり可愛くない花屋が目の前に唐突に現れる。それが『ふろーら・しょうだ』だった。
『ふろーら』は何となく分かるが、『しょうだ』にはどういう意味があるのだろう。それが僕には分からない。だいたい悪魔から伝えられた情報が少ないし、他の様々な人が書いた、ほら、あの、色んな情報にもまだ目を通していない。ここが何だっていうんだ。今は誰がいるのだろうか。みく子に関係があるというのだろうか。知らないのは僕だけだろうかと不安になってくる。
 悪魔が言った通り、遠目で花屋を見つめている自分にはっとして、それから苛々した。僕は何をするめに来たのだろうか。花屋の奥の方で人影が動いた。それが男性だったこともあって、多少安心して花屋へ足を向ける。忙しそうに働いている、働くことが生きがいのようにキラキラしていた。僕はこういう人を見ると申し訳なくなって平伏したいような気持ちになってくる。だがその男性は花屋というよりも北斗神拳継承者のような筋骨隆々の体をしていた。なるほど、花屋は軽いものから重いものまで持ち運ぶのだろう。これは仕事だけで鍛えられましたと言わんばかりだった。ますます申し訳なくなる。
 男性は今は懸命に鉢植えを運んでいる所だった。
 そして鉢植えを床に整理して立ち上がると、突然額をぺチッと叩く。
「うわわ、またアカがなくなっちまった!」
 どうやら花の色のことを言っているらしいが、なぜか僕には別の意味に聞こえた。おそらく花の色から配置まで考えているのだろう。僕はそのままどうしようかと思った。「みく子のことを知っていますか」とでも尋ねればいいのだろうか。人の良さそうな男性に見える。もしかしたら何か知っているのかもしれない。ただ、それを聞いて僕はどうする。そんなことを考えていた。そうして随分と店の前で立ち尽くしていると、男性がこちらを見て気付く。当たり前だ。ずっと花屋を見つめている自分はさぞかし怪しく映るだろう。「いらっしゃいませ?」しかし男性は優しく声を掛けてきてくれた。
「あ、はい……」
 我ながら花屋に行っておいて「はい」もない気がする。答えてしまったからには少しだけ店内に足を運ぶ。思ってみれば花屋に来るのも初めての経験だ。どうしていいのか分からない。好きな花を選ぶべきなのか、それとも、店員に勧められるままに花の香りを楽しめばいいのか。
「何か探しとる?」
 僕のそんな直立不動の態勢を見て察してくれたのか、男性が声を掛けてきてくれた。関西弁だった。誰が何と言おうとこれが関西弁でいいじゃないか。正直に言えば、関西弁はよく分からない。僕にはそう聞こえたが、それが正しい関西弁とは限らない。これは確かに関西弁だと自分を信じていこうと思う。信じたいものを信じるしかないじゃないか。
「いえ、別に……」
「そう、でも花屋が好きなんやねんね?」
「そういうわけでもないんですけど」
 悪魔に聞いたんですけど、この店はみく子に関係があるのですか? 僕はその言葉をぐっと堪えた。これ以上、踏み込んではいけない。ここの店にではない。みく子に踏み込んではいけないのだ。みく子には、既に僕とは離れた世界がある。僕がそれに近づくわけにはいかない。だいたい店をじっと見ていたり、そんなことを聞いてはただの怪しい人間に思われるだろう。
「そういうわけでもないのに、入っちゃったんやろ。分かるで。花はそういう魔力を持ってるんやで。君も何だか花に癒されたそな顔しとるで」
「そうですか?」
「そやそや。そやで」
 癒されたそうな顔。僕が? そんな顔をしているだろうか。もう癒されるということが何なのか分からなくなってしまった。僕には目的がある。契約がある。だけどそのために精神も記憶もぼろぼろだ。それが正しいと思って信じてきた。だけど最近ではその信念も揺らいできている。何のために僕は生きているのだろう。この空白感を埋めて欲しいということが、癒して欲しいということなら、そうだろう。僕は癒して欲しいのだろう。この心を。この精神を。僕の未来を。僕の過去を。みく子を。
「花、買ってき」
 男性が静かに言った。見透かされたような気持ちになる。
 その優しい目線はやっぱり花屋にぴったりだと思わざるを得なかった。
 僕は何かを言おうとして、口を開いて、そして言葉を選ぶ。
「じゃあ……じゃあ何がいいと思います?」
 それだけを尋ねた。
 僕が花に癒されると言った本人だ。何か的確な選択をしてくれそうな気がしたからだ。
「それは知らん」
「……知らんですか」
「自分が見たいものが一番いいんやよ。何の花が好きや?」
 僕は多少考えた。別に花は好きでもなかったが、綺麗だと思うのは何だろう。悲しいくらい連想力がなかった。花は四季によって移り変わる。四季。春。春は桜だろう。確かに桜は綺麗だと思う。だが桜はさすがにないに決まっている。
「……コスモス、かな」
「静かで綺麗な花やね。似合うで」
「あります?」
「ない」
「……そうですか。僕帰っていいですか」
「まぁ待ち。花はないが、種はある。時期はごっつ遅れとる、せやけどもしかしたら咲くかもしれんで」
 花がないのに季節はずれの種を売ろうとするとはさすがに関西人だと思った。必要なわけでもないが、別に不必要なわけでもない。「いくらです?」と聞くと、手もみをしながら「さすがお目が高いで、ワンコイン、五百円や!」と嬉しそうに答えた。僕は何だか自分の意思で選んだのに乗せられたような気持ちになって、無言で財布から五百円を取り出す。その行動を見た男性がすかさず店の奥の方まで行って、カラフルで四角い封筒のようなものを持ってきた。あれにコスモスの種が入っているのだろう。
 五百円を渡すと、力強くそれを渡してくれた。
「まいどおおきに! 場所はどこでも、バラッと撒けば芽が出るかもしれんで」
 それが花屋の言うことかと僕は思ったが黙っておく。種まきなんて小学生の頃の朝顔以来のことだ。封筒の中に入っている種がどういう形で、どういう色なのか少し考えた。男性が店先まで付いてきてくれる。癒しとか何とか上手くいいながら、はめられてしまった気持ちになる。この丁寧さといい、なかなかの商売上手だと思う。やはり花屋にしておくには勿体無い。
「じゃあ」と僕は店を出る。
「"純潔、真心、調和"」
「え?」
「コスモスの花言葉や。頑張り。花はきっと咲くで」
 実はいい人間なのだろうと思う。
 みく子の話を聞いてきたのに、全く関係なく種など買ってしまった。僕は本当に何をしに来たのだろう。結局あの店とみく子がどういう関係なのか、僕には未だ分からない。そのまま家に向かう。でも、それで良かった。口走らなくて良かった。きっと聞いていたら、この種は手に入れられなかった。遠目から見ていてなんて文句は勝手に悪魔に言わせておけばいい。
 花はきっと咲くだろう。その言葉が温かかった。種を撒けばいつか芽を出し、芽は育ち花をつけるだろう。
「収穫には立ち会えないかもしれないが、出来るだけ多くの種を撒こう」
 それはあのゴルバチョフの言葉だという。僕はその言葉が好きだ。
 どこに種を撒こうか。
 どこかに種を撒こう。
 僕は開花には立ち会えないかもしれないけれど。

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