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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:蜜編 現在 31話

図書室を出ると無人の廊下と直線的に配列された窓が見えた。
それにしても何故、三階はこうも無人なのだろう。人の気配どころか音が無い。一応、雨が窓枠に当たる音だけは聴こえているので、時間が止まってしまった訳では無い事は解る。行先は一つしかないが、方法が解らない。爺さん……すなわちジェームス・ノートン教授の研究室へ行く道が解らない。デパートの各階に貼られているような、学内の構造が描かれている便利な地図は無いのだろうか。若しくはやはり、そこら辺の学生に直接訊いてみるしかない。

まず三階の廊下を一通り歩いてみると、想像以上に距離が長い。爺さんの研究室らしき部屋は無い。学生の姿も見えない。もしかして三階は普段、図書室以外は利用されていないのではないだろうか。呪われているのではないだろうか。学生達によって夜な夜な怪しい宴が開催されているのではないだろうか。だから昼間は静かなのではないだろうか。永遠に続くように思える直線。細い廊下。暗い照明。無音に近い雨音。何でこんなに照明、暗いんだ。怖い。

学生と擦れ違う事も無く、階段が見えた。来た時とは逆側の階段。上へ行くか、下へ行くか。迷わず、下へ。とにかく一旦、元に戻りたいのだ、僕は。此処から四階に進むのは怖いのだ。踊り場に近付くと二階から声が聴こえてきたので安心した。そのまま一階に降りずに、二階を覗き見る。「おお」。思わず声を出してしまった。人が歩いている。三階が無人だった事が嘘のように、学生達が普通に歩いている。相変わらず学内地図のようなものは見当たらないが、研究室の事なら此処で訊けるかもしれない。スーツ姿で二階を歩き回りながら、めぼしい学生を探す。出来るだけ温厚そうで、物腰柔らかそうな学生を探す。何人かと擦れ違う。

「中々、いないもんだな」独り言。
僕と同年代の学生しかいないはずだが、僕が質問しやすそうな学生は見当たらない。只でさえ人見知りの僕であるから、出来るならば向こうから「どうしました? 何か質問したいような顔をしていますね?」なんて話しかけて来るくらいの相手が望ましいのだが、そんな学生が存在する訳が無い。大抵の学生は僕に気付きもせず、たまに此方を見るとしてもスーツ姿が珍しいのか横目で流し見る程度で、向こうから話しかけてきたりはしない。何という無関心社会。僕は立ち止まり、腕組みをして考え込んだ。すると背後から、扉を開く音。

「どうかしたん?」

慌てて振り返ると、扉を開いたまま、一人の女性が僕を見ている。どうやら僕が立っているせいで教室から出られないらしい。「あ、すみません、考え事を……」小声で言いながら避ける。いや、ちょっと待て。今なら訊けるんじゃないか。この流れで「ノートン教授の研究室って何処ですっけ?」と訊けば済むのではないか。ところが先に声を発したのは女性の方だった。

「考え事?……ああ、そういう事か、まぁ、入り」

落ち着いたローズの口紅の端が、緩やかに笑った。
女性は強引に僕の腕を掴むと、そのまま教室に引きこんだ。
意味も解らず引きこまれる僕の耳に届いたのは、以下のような女性の台詞だった。

「はい、入部希望者、一名様ご案内!」


【M線上のアリア】 現在/31


そこは小さな教室だった。教室というよりは部室。部室というよりは部屋。乱雑に配置された机と椅子に、積み上げられた数冊の本。紙と鉛筆。旧型のラジカセとカセットテープ。僕の手を掴んだままの女性は、机上のカセットテープを手に取ると「聴いてみる?」と首を傾げた。

「何ですか、それ」
「五代目古今亭志ん生」
「何ですか、それ」

女性はカセットテープをラジカセに差し込みながら「そうか、君は素人か」などと呟いて、再生ボタンを押すと「素人でもいいんよ、大切なのは笑いが好きか嫌いかだから」と付け足した。素人? 何の話かは解らないが大切なのは好きか嫌いかだけならば話は早い。僕はこの空気が苦手だ。苦手という事は嫌いという事だ。今すぐ部屋を出て行こうとすると、扉はすでに閉められていた。「何しとん?」女性は僕を見る。こんな事をしている時間はないのだ。

「いや、あのですね……」
「とりあえず聴いとき、入るか入らんかは、ゆっくり考えたらええわ」
「いや、あのですね……」

ノイズ交じりのカセットテープが再生される。古い音。
三味線の音が聴こえる。太鼓。それから拍手。恐らく観客の拍手だと思う。
気の良さそうな男性……緩やかな語り口の、男性の声が聴こえる。これは何だ? 否、これが何かは解っている。この状況と、この感覚は何だ? 女性は椅子に座り、ラジカセの音声に耳を傾けながら、もう一方の椅子を僕に差し出す。「ここ、座り」。言われた通りに座る。

「この人は昭和の有名な噺家なんよ」
「……へぇ」

僕は部屋の中を見渡す。小さな部屋の中には、何枚かのポスターが貼られている。そのどれもが渋い。着物を身に付け扇子を手にしたご老人の白黒写真。それが数枚。小さな本棚には「古典」と冠の付いた題名の背表紙が数冊。そして閉じられた扉には紙が貼られており、手書きの文字で、こう書かれていた。「落語研究会へようこそ」。なるほど。何故、出口側の扉に「ようこそ」と書いてあるのか解らない。いや、解る。今のような状況になった時の為か……。

「……落語研究会だったんですか」
「せやで? 何やと思っとったん? 風俗?」
「いや大学に風俗あるのはおかしいでしょ……」
「おお、良いツッコミ! だけどもっと声張った方がええわ」

えぇぇぇぇ……。
女性は活き活きとした表情で、僕のツッコミにアドバイスをした。部室(というか部屋)には僕と女性しかいないが、他に部員はいないのだろうか。落語研究会? 何処かで聞いた覚えがある。確か花屋の志津さんが大学で落語をやっていなかったか。いや、あれは漫才だったか。どちらにせよ、こんな場所で鉢合わせたら何かと面倒だ。急いで立ち上がろうとした瞬間、大袈裟な音を立て、部室の扉が開いた。

「わ?! 遅れてすいませぇ?ん!」

泣きそうな表情の、真白な顔をした女が現れる。……みく子? まさか。それにしても物凄いパーマだ。爆発的なパーマ。それを真白な顔の上に乗せている。……みく子? いや、だから、まさか。それにしても何故、これほどまでに外見的にキャラが被っているのだろう。謎だ。

「遅い! 何してたん? アレは? 志津は?」
「師匠、志津さんをアレ扱いするのはあんまりです」
「アンタ達、学祭のネタ大丈夫なん? 全然アタシに見せないけど」
「大丈夫です! もちろん大丈夫。そら大丈夫ですよ……大丈夫だといいなぁ……」

次第に落ち込みながら、ビックリパーマを頭に乗せた女の子は僕の存在に気付いた。
元気よく顔を上げると、興味津々の表情で僕を指差す。

「師匠、アレは!?」
「いや、お前もアレ扱いするなよ!」
「おお、良いツッコミ! 毎回それくらい声張りや!」

しまった、思わずツッコんでしまった。時、既に遅し。ビックリパーマの女の子は満面の笑みで僕に近付くと「お笑い好きなん? お笑い好きなん?」と連発した。完全に食い付かれた。僕はこんな場所でお笑い談義に花を咲かせている場合ではないのだ。早く爺さんに会いに行かなければ。夕方にはパーティーに出かけてしまうはずだ。壁時計を探す。ところが無い。

「この子はるどん。あ、私は部長のサイコね。よろしく」

頼んでもいないのに自己紹介されてしまった。しかも何だか気に入られて、このまま入部するような流れになっている。逃げられない。ビックリパーマの女の子が横から小声で「ちなみに部長は、師匠と呼ばれてます」と付け足す。師匠……要するにサイコと名乗った方の女性が、切り揃えられた艶やかな黒髪を右手で触りながら「んで、君の名前は?」と問う。

「ああ……桂三平です」適当に思い付いた偽名を口にする。
「ちょ、桂一門やん!」予想以上にサイコ師匠が食い付いた。失敗した。
「いや部長! 名前は林家一門です!」
ビックリパーマ……要するにるどんと呼ばれた方の女性が食い付く。もうどうでもいい。
サイコ師匠が立ち上がり愉快そうに笑う。何だ、この展開。

「じゃあ、三平、入部試験をするよ」

サイコ師匠がラジカセに人差し指を当てる。五代目古今亭志ん生が「その瞬間」と言った瞬間、安穏と流れ続けていたカセットテープを停止した。途端に部室は静かになり、代わって雨音だけが静かに流れ始めた。何だ、入部試験って。

「今から大喜利を始めます」

サイコ師匠は僕とるどん嬢に一冊ずつスケッチブックを手渡した。それから自分もスケッチブックを手に取ると、サインペンでサラサラと何かを書き始めた。隣でるどん嬢が固唾を飲み込む。だから何なんだ、この展開は。窓の外から、ほんの小さな雷鳴が聴こえた。僕は何をしているのだ。何だ、この必要以上の緊張感。

「今から出すお題に、三平とるどん、思い付いた方から順に答えなさい。
 もしも三平がるどんより面白い答を出せたら、晴れて入部を認めてあげるわ」

言い終えるとサイコ師匠は、スケッチブックを机の上に乗せた。それからバラエティのクイズ番組でお笑い芸人が回答を見せる時のように、自らの口で「じゃん!」と効果音を発すると、スケッチブックの表面を見せた。そこには以下のように書かれていた。

 問
 竜宮城で乙姫様が「嘘でしょ!?」を連発。
 何があった?

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