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三日目:サク編 04話

 人が過去を思い出すのはなぜだろう。
 もちろん生きていく上で、必要なことはある。直前の記憶を次々と失っていったらまるで生活が出来ないだろうと思う。ただ、ずっと昔の、もう十年にも届くような過去を思い出すのはなぜなんだろう。そんなもので苦しまなければならいのはなぜなんだろう。綺麗な思い出だけを集めていけないのはなぜなんだろう。そんな過去が影響力を持って、未来まで変えてしまうのは何でなんだろう。思い出は僕に何をして欲しいのだろう。指針だろうか。足枷だろうか。
 種を買ってきて、一度家に戻った。
 郵便受けには叔父さんからの手紙が来ていた。いつものことなので内容は見ない。見なくても内容は分かるからだ。家に帰ってくる途中で、種をどこに撒こうか考えていた。下宿先の周りに撒いて、もしも花が咲いた時、自分一人でその花を眺める姿を想像して酷く白けた。その時、自分は何を思うだろう。違う、違う。花というのはもっと違う場所で咲くべきだ。
 僕は花が咲くのに相応しい場所を考える。
 やはり大学だろうか。
 大学の大きな正面入口から入ると、そこは桜が十本程度植えられている桜並木になっている。もちろん今の季節に桜などない。人はそこに植えられているのが桜の木だったってことに、春にしか気付かないものだ。花は人の意識とは関係なく咲くし勝手に散るけれど、それを綺麗だと感動して、綺麗だったと儚く思うには人の意識が要る。花が綺麗に咲こうとしているのかどうなのか、僕には分からない。だけど、花の綺麗さを感じるには人が必要なのだ。僕一人だけじゃ虚しいだけだ。多ければ多い方がいいと思う。その点大学なら多くの往来があって、花を綺麗だと思ってくれる人も多いだろう。
 僕は花屋から帰ってきて十分後、自転車に跨って大学に向かった。そういえば僕はここ数日講義という講義を受けていないけれど大丈夫だろうかと心配しながら、また講義ではない理由で大学に向かっている。
 歩道に人が多くなった。大学の正面入口が目の前だからだろう。そろそろ昼なので、昼食をどうにかしようかと彷徨っている大学生が多いのだろう。自分を含めて、僕の周りにも真面目に授業を受けて勉強をしている大学生なんて見たことがない。みんな暇つぶしに大学に来ているだけだ。僕はなぜこの大学に来たのだろうか。ここが良いと思った特別な理由なんてない。ただ何となく自分のレベルに合った場所を探していたらこの大学が存在し、僕の人生の先にあるような気がした。なかなか無差別なカリキュラムを組む大学なので、勉強への意欲次第では面白いことが学べる。だからここに来てしまって気付いたことだが、レベルに関係なくここに望んで入学した学生も多いみたいだ。
 そして僕は再び、みっこに会った。
 中学の時は学力のレベルがかなり離れていた。みっこが上だ。僕らは仲が良かったものの、結果的に仲が良いだけで終わってしまったから、当然みっこは自分のレベルに見合った高校を受験して受かった。受験生の僕がそのことについてどれだけ悲しんだか、誰にも分かりはしないだろう。でも学力の差はどうしようもない。学年順位中の下のしがない男が、学年順位トップに近い彼女には追いつけない、と僕はそこでまず一つ色んなものを諦めた。振り返れば僕の歴史なんて諦めの歴史みたいなものだ。それでも惰性でも僕は、ここまで続けて生きてきた。このまま僕はどこまで行けばいいのだろう。
 桜並木の下に着いた。桜の枝の下に自転車を置いて、降りる。人は多かったが、僕を目に入れるような人はあまりいないだろう。
 下を見ると土が露出していて、砂利が少し多めだが、比較的軟らかそうな土だった。少し湿っているように見えて、それが余計に栄養面でも心配がなさそうに見えた。僕はバッグから種の封筒を取り出す。このバッグは教科書を入れるために買ったのだが、その役に立っているとは言い難い。最近は講義へも平気で教科書を確信的に忘れていく。あってもなくても講義は受けられるし、あってもなくても内容が理解出来るわけでもない。
 種の封筒上部を破る。中を見ると予想とは違って黒くて細くて針のようなものが出てきた。種というからもっと丸くて可愛げのあるものだと思っていた。考えてみれば僕には朝顔の種、ヒマワリの種くらいしか種に関する知識はない。あとは食用にしているものくらいか。僕はその一つを指でつまんで桜の根元の真下に投げた。それは当然だけど、無言のままポトリと落ちて、落ちた時にはもうどこに落ちたか判別出来なくなってしまった。この虚しさは何だろう。未来に向けて、何を投げる行為というのは本当はこんな虚しいことなのだろうか。そうかもしれない、と僕は実感として思う。
 もう一つ投げる。無言で落ちる。「ここに落ちたよ! 頑張って咲くよ!」くらいは言って欲しい。せめて落ちた瞬間に芽を出すとか、そういう手がかりとか手ごたえが欲しい。だけど無言だ。泣きたくなってきた。僕は封筒の中に手を突っ込んで種を取り出すと、バラッと地面に向かって投げる。あの花屋の男性も「バラッと撒けばいい」みたいなことを言っていたから、これで別に間違いはないだろう。手から離れた種は分散して地面に落ちた。僕は一歩右に動いて、もう一度繰り返す。そうして豪快に種をぶん投げていたら、数回繰り返したら種が底を尽きた。これだけか、と思う。
 みっこと話したことは僕に決定的な打撃を与えた。みっこの変化が分かったから。
「悪魔。その辺にいるだろう」
 寸秒も空けず、「いる」と真後ろから声が聞こえた。こいつ、と憎らしく思う。振り返ると、そこにはまた別の服装をスマートに決めている男が立っていた。細かいことに髪型まで昨日と違う。それどころか、長さからしてまるで違うんじゃないか。
「いつから見てた?」
「最初からだ」
「暇人なのかお前は」
「我々のような存在は常に多忙だ。契約者を監視する権利と義務があるからな。お前こそ、人前で呼ぶとは何事だ。人前で出てくるなと言ったのはそちらだぞ」
「そんなの勝手だ。他の人からはどうせ見えないんだろう」
「見える人間もいる。まぁ、いい。用件は何だ。まさか二人で種撒きをしろとでも?」
 言いながらゆっくり僕の持つ封筒を指差す。
「種はもう終わった」
「ほう、それはそれは、珍妙な行動を。何をしている? 意図が見えんぞ。花を誰かに見せたいのか? あの女にでも? そんなロマンスを期待するような人間でもあるまい」
「黙れ。みっこは関係ない」
「やれやれ。馬鹿者め。あの花屋に行けとは確かに言ったが、ただ種を買ってくるだけだとは、どれだけ腰抜けだ。教えてやろう。あの花屋は、その女のバイト先なのだ。お前の会った男は店主をしている」
「それが何だ。それを教えて、僕がどうしたら満足だったんだ。そんなロマンスを期待するような悪魔かお前は」
 悪魔は少しだけ押し黙って、「まぁ、いい」と言った。何がまぁいいのか。僕は種が入っていた封筒をクルクルと丸めて、自分の自転車の籠に入れてあったバッグの中に押し込む。そして小さいことに気付く。「お前、花屋の時から見ていたのか」
「言っただろう。最初からだ」
「最初から、ね」
 僕は悪魔の目の前に立った。僕より背が高い。それからがっしりとした体に、言ってしまえば男前の顔をしている。日本人には見えない。人の記憶を食い、それに見合った奇跡を起こす悪魔。僕は中学の頃に出会った。最初から? まさか最初からずっとではないだろうな。そう不安に思ったが、その可能性だって十分にありえる。長い期間の中で、そして僕の宛てのない憎しみの中でタメ口さえ当たり前のように使っているが、相手は何と言っても悪魔なのだから。この男は確実に人の記憶をなくし、そして見事な奇跡を起こす。もっと善いことに使おうとすれば僕は誰かに称えられたかもしれず、もっと悪いことに使おうとすれば僕は誰にも気付かれないまま大悪党にだってなれるだろう。
「お前の力は完全か?」僕はぽつりと尋ねる。
「どういう意味だ?」
「お前の記憶を食う力、奇跡を起こす力は完全か、という意味だ」
「完全だ」
 そして悪魔はその後に、当然だろうと付け加えた。完全。ならば僕の契約も完全なはず。同情も酌量も欺瞞も打算もなく、手抜かりも間違いもないということだろう。そんなこと僕自身分かっている。やはり、そういうことなのだ。みっこ。それならば僕は何のために、こんなことをしているのだろう。
「悪魔、一つ、賭けをしよう」
「賭け?」
「ああ。この種を撒いた記憶を一切合財僕から消してくれ。いつ撒いたか、どこに撒いたか、何を撒いたか」
「ほう、それはなかなか美味そうな記憶だが、なぜそんなことをする?」
「その食べられた記憶を思い出せなかったら、お前の勝ちだ。だが、思い出したら、僕の勝ちだ」
「無理だな。俺に食われるということは、言っただろう。完全なのだ。前後の記憶からの連想さえ利かん。お前が勝つことは絶対にない。だいたいそんなことをして何になる?」
「いいからやれ」
 僕は悪魔に背を向けた。別に正面を向いていたって出来る。
「命令は気に食わんが、では容赦なく頂くぞ」
「余分なところは取るなよ」
 悪魔が僕の後頭部を掴んだ。それなりの量になるようだ。自分の記憶を食われるシーン。それはとても残酷だ。だから僕は悪魔を見ないようにしている。悪魔が記憶を食う表情。一度だけ見たことがある。長い期間の間、一度だけだ。それが僕を捕え縛っている。それは本当に、ああ、これは悪魔なんだな、と認めざるを得ない残酷な顔をしていた。美味そうに、人のものをぶち壊すシーン。そしてその顔を見ながら、記憶を失っていく。失っていくのが分かる。それは急激な変化だからだ。失っていく。何かを、もしかしたらとても大事なものかもしれないものを、自分が望んで失っていく。失っていくことが分かる。
 それなのに、失っていくものが思い出せなくなるのだ。
 あの時のことを思い出すから余計に。
 吐き気がする。

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