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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:サク編 06話

「お寺、どこ行きたい?」
 昼休みの初めにみっこが僕の机に近寄って聞いてきた。僕の机の端を両手で掴んで座る。机から顔がひょっこり出てるような態勢が妙に可愛らしくて、僕は目を逸らした。
「お寺?」
「修学旅行の」
 ああ、と僕はみっこの言いたいことを理解する。そうだ、修学旅行の計画を立てなければならない。修学旅行は京都だった。もうずっと前から京都なのだろう。正直な話、特に京都に行きたいわけでもなかった。だからと言って、別にどこかに行きたいわけでもなかった。何となく修学旅行だというから京都に行って、まぁ楽しい旅行にはなるだろうとは思う。おそらく教師陣としても毎年同じ場所に行き同じことをすれば一定の安全は確保できるし、生徒もそれなりに納得してくれるから、京都に行くのだろう。その計画を立てなくてはならない。バスの時間までピッシリと決めて寺院を回るなんて笑ってしまう。先生から配布されたガイドブックに軽く目を通してあるけれど、またバスの到着時間を求めるのが大変で、それなのに十分置きくらいにはバスは走っているのだ。色々調べて十分のタイミングを合わせるより、行き当たりばったりで臨んだ方が楽しく過ごせるんじゃないかと思う。今日の五時間目はその計画のためにオリエンテーションという名目で道徳の授業を取り潰し、班員でガイドブックの時刻表を吟味しなくてはならない。
「お寺なんてどこ行っても同じ気がするけど……」
「そんなことないよ」
「そんなことあるって。みっこはどこ行きたいのさ」
 うーん、とみっこは考えて、「金閣寺?」と小首を傾げた。「それ、一番メジャーだから知ってるだけでしょ?」僕がからかうように言うと、みっこは悪魔的な笑みをみせて、えへへ、と笑った。
「だけどね、サクちゃん。銀閣にも行きたくない?」
「まぁね。有名だもんね」
 「でもね」と言いながらみっこは自分の机に戻ると、机の中から京都のガイドブックを取り出してきた。先だって先生に配布されていたものだ。今は班長であるみっこが所持している。中をパラパラとめくると薄い冊子のくせに、全てのページに「見所!」と文字が楽しげに踊っている。「見所!」を見て回るのに、何回修学旅行に行かなければならないのだろう。これだけを配布して「半日で行ける範囲を選べ」というのは、みっこのように修学旅行を心から楽しみにしてそうな生徒にとってみれば逆に酷なことだと思う。
「見て」みっこがガイドブックから京都の全体の地図を広げた。
「何?」
「金閣寺と銀閣寺はちょっと遠いんだ。駅から離れてるし。これ、両方行っって、最後は二条城に行かなきゃダメって先生言ってたでしょ?」
「うん、言ってた。ちょっと無理だよね。無理して二つ、行ったとしても他行けなくならない? 清水寺とか」
 僕はみっこの持ってきたガイドブックを手に取りながら言った。
「でしょ? これって可哀想ね」
「可哀想? そう? まぁどうせなら両方見たいもんね」
 金閣寺と銀閣寺。両方行けないなら、強いて言うなら僕は金閣寺を選ぼうかと考えていた。金閣寺と比べると銀閣寺は寒々としていてカラカラのお爺さんを連想してしまう。縁側で緑茶を飲むお爺さんだ。確かにそれも味があっていいとは思う。でも見た目の華やかさ、見る人にとってのサービス精神、エンターテイメント性なら間違いなく金閣寺だろう。クラスメイトのほとんどがそう考えると思う。ただ、金閣寺からして駅から考えると少し遠い。まるで卒業旅行に来た修学旅行生を試すかのような位置に建っている。割合駅の近くにある清水寺には僕でも興味をそそられるし、祇園の辺りだって色々ありそうだ。でもその辺で時間を潰していたら、帰りの時間も考えるとかなり厳しい距離に金閣寺はある。これは本当にバスの時間をキッチリ決めてかからないといけないぞと考えていると、「うん、それは両方見たいけど、可哀想っていうのは」とガイドブックの横から僕の顔をじっと見た。
「選ばれなかった方は可哀想だと思う」
 みっこはそう言った。それから「あ、そろそろ五時間目始まるね」と言いながら、自分の席に着いた。僕の机にガイドブックが残される。まぁどうせ五時間目は班員がまとまって修学旅行のことを相談するのだから、僕が持っていても差し支えはないだろう。僕は五時間目を告げるチャイムを聞きながら、ガイドブックを開いた。おそらく、僕の班では「選ばれなかった方」になるであろう銀閣寺。桜の季節の哲学の道とやらが載っていた。修学旅行は五月だ。もう桜なんて咲いていない。銀閣もやっぱりくすんだ灰のような色をしていて、やっぱりお爺ちゃんと縁側と緑茶が似合いそうだった。
 五時間目を告げるチャイムが鳴ったと同時に、廊下で待っていたかのように担任が入ってきた。初老の物静かな先生で、怒ったところは見たことがない。ただ眼光が鋭く、生徒の不届きを見るとき眉をひそめる表情は影で「千里眼」と呼ばれている。名前は竹島。この学校の中で僕が一番好きな先生だ。生徒を決して特別扱いしない。そして蔑ろにもしない。ただ、一人の人間として見てくれる。素っ気無い人間だと多くの人に思われているようだけど、他の先生のようにベタベタしてなくて、街で全くの他人に道を尋ねて親切に教えてもらったようなさっぱりとした温かさがある。ああ、そうだ銀閣寺が似合うタイプだろう。
「席につけー」
 語尾を伸ばして先生が静かに言った。教壇をノックするように、コツコツと指で叩く。それが先生の授業の始まりの合図だ。その音を聞いて、教室の方々に散らばっていた生徒達が磁石の玩具のように自席に着いた。
「竹さん、何か機嫌よさそうね」みっこのひそひそ声。
「そりゃ京都好きだって豪語してたからね。よく似合うよ」
「そうね」
 みっこが右手で口を押さえてクスクスと笑う。
「今日は昨日言った通り、みんなに修学旅行の計画を立ててもらいます」
 先生が説明を始める。自由行動は駅前のホテルに泊まって二日目だということ。最後には二条城に立ち寄って、常駐してる先生に確認を貰うこと。自分は二条城の常駐にはなりたくないこと。清水の音羽の滝を飲みすぎて腹を壊さないようにすること。珍しくいつもより饒舌で面白い。みっこを見ると微笑を浮かべながら、表が書かれているプリントを机の上に出していた。それは班長だけに渡される自由行動についての計画書だ。「昨日配布したそれに」と言いながら先生がみっこの机を指差す。「自分達の行く場所と、移動方法、それから時間を書いて、この時間が終わるまでに提出です。分からないことは聞いてください。バスはいいんですけど、特に歩く時間が予想出来ないかもしれません。はい、じゃあ始めてー」
 机を動かして、班を一塊にする。全部で六人だ。
「音羽の滝って何?」
 僕が班員の顔を見回して聞いた。
「サクちゃん、知らないの?」
「知ってるといいことある?」
「たぶんね。清水寺にチョロチョロって流れてる小さな滝が三本あるのよ。それ、一本一本意味があって、飲むとご利益があるの。えっと、確か学問と恋愛と、健康か長寿だったかな」
 ふーん、と僕は興味なさげに頷いた。それはポーズだ。みっこ。恋愛を飲みたいなとチラリと思って、自分の考えに内心恥ずかしくなってしまった。それとも学問を飲んで成績を上げて、もっといい高校を狙うべきだろうか。みっこと同じ高校。このままでは行けないことは確実だ。みっこは何を飲むんだろう。健全な中学生が好きな相手がいないなんてことがあるだろうか。みっこだって例外じゃない。急に不安になった。考えてみれば、みっこと一番親しいと自負している自分はただの自意識過剰かもしれない。みっこには恋愛を選んで欲しい。だけどそう望みたいのは、みっこの意中の相手が僕の場合だけだ。みっこは誰にだって優しくて温かい。みっこと一番親しいのは、たぶん、もしかしたら、僕かもしれないけれど、もしみっこが実は好きな人とは話せなくなってしまうようなタイプだったとしたら、僕と親しげに話すのは僕のことを好きじゃない格好の証拠になってしまう。でも、もしみっこも僕のことを好きだったとしたら、それは、両想い、ということになる。両想いだったら何が起こるのか、僕には分からないけど。でももしそれを望みながらみっこが恋愛の滝を飲もうとしてくれるなら僕は飛び上がるくらい嬉しいだろうと思う。何だか考えれば考えるほどわけが分からなくなってしまった。みっこは何を飲むつもりなの? その質問が聞けなかった。墓穴を掘るような気がして。
 しかし、班員の男子がハンドブックの清水寺のページを開きながら、口を開いた。
 視線が固まっている。緊張しているのだ。
「笠原は、何を飲むの」
 震えた声だったが、ナイス質問だった。今日のクラスのMVPにしてあげたいと思った。ここでみっこだけにその質問を投げるのは明らかに不自然だ。とても勇気がいる冒険だ。僕は恐ろしく思った。ライバルにはライバルの臭いが分かる。でも、そんなことは気にしていられない。みっこの返答を待つ。
「うーん……」
「うん」
「健康かな」
「ええ……」
 僕と彼が言葉を合わせた。思わず二人で目を合わせてから「それはないよな」と確認しあう。
 その後ハッと気付いて目を逸らした。
 一番無難な答えだ。
「何で? 他はいらない?」
 彼が果敢に攻める。
「うーん、いらないこともないよ。でも、私、これでも病弱で病気だったから」
「え、そうなの?」
 それは僕にとっても初耳だった。みっこはいつも溌剌としてて、風邪だって笑顔で跳ね返しそうな気がする。実際、みっこが学校を休むなんてことは滅多にない。僕より少ないくらいだろう。僕は季節の変わり目は必ず風邪をひくから。健康そうな肌や、元気を塗ったようなオレンジ色の髪。僕の好きなみっこはいつだって明るい。
「昔の話よ。もう治せたから」
 付け足すようなみっこの慌てた感じと、「健康以外はいらないの?」と聞かれたみっこが「いらないことはないよ」と言ったのをいつまでも覚えている。それに少しだけ疑問と希望を見つけて、僕はそれをいつまでも覚えている。

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