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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:蜜編 現在 33話

「結果は……三平、不合格!」

サイコ師匠が右手の握り拳を天高く掲げて宣言した時、タイミング良く雷鳴が鳴り響いたが、別にそれほど格好良い場面では無い。るどん嬢が「えぇぇぇぇ!」と大袈裟に驚く。
「ホンマですか師匠! こう言っちゃ何ですけど、三平、結構面白かったと思うんですけど!」
まぁ、私には及ばなかったけどね、という雰囲気を醸し出しながらも、だが必死にるどん嬢が食い下がる。別に食い下がってもらわなくても結構なのだが、何とも言えない恩義は感じる。

「……三平、お前ウチの学生じゃないやろ?」

サイコ師匠が握り拳を降ろし、再び腕組みをしながら僕の目を見る。
「え!?」るどん嬢が慌てたように僕とサイコ嬢を交互に見て、更に僕を二度見する。
「……何時から気付いてたんですか?」
「最初からや」
「まさか……嘘でしょ?」
「嘘や」

「どないやねん!」るどん嬢の甲高いツッコミが、部室に響いた。


【M線上のアリア】 現在/33


「商売柄……まぁ商売言うても落研の事やけど、ウチにいる学生に関してはアタシも結構詳しいんよ。営業中……まぁ営業言うても落語見せに色んな教室に出没するだけやけど、色んな学生に会うしね、学祭みたいな大きい行事が近くなると、それこそ色んな営業に回るしね」

サイコ師匠はアーモンド型の大きくな目で、僕を見たまま動かなかった。るどん嬢は状況を把握できない様子で、サインペンを握り締めたまま固まっている。僕は椅子に深く腰掛けたまま、別にどうでも良い事で訴えられた被告人のように、サイコ師匠の声に耳を傾けている。

「最初は落研に入りたい子がモジモジして部室の前に立ってるんかなぁ思ったんやけどね、三平、お前、本当は別の用事でウチの大学に来ただけやんな。しかもそれ、あんまり人に言えない用事やんな。じゃないと今、此処に座ってる事自体が変やんな」

「どういう意味ですか?」るどん嬢が口を挟む。
「桂三平なんて学生、ウチの大学におらんよ。そんなオイシイ名前の学生がいるん知ってたら、アタシ真っ先に落研に誘いに行ってるわ。名前だけで笑い取れるなんてオイシイやんな。でも実際、お前みたいな学生、ウチにはおらんねん。見た事もないわ。不法侵入者やんな」

サイコ師匠は胸元に挿していた扇子を手に取ると、その先端で僕を指した。否定する事は出来ない。事実、実際、僕は不法侵入者だ。学生では無いのに大学をウロウロしていたし、この後は爺さんに会って何らかを問い詰めようとしていた。立派な不法侵入者であろう。

「師匠、名前の段階で気付いてたなら、何でわざわざ入部試験なんかしたんですか?」
「面白そうやから」
「えぇ!?」

るどん嬢が派手に引っ繰り返ってみせたところで、雷が鳴った。バラエティ番組であれば一旦CMに入るような場面。ところが今はバラエティ番組では無いので残念ながらCMは入らない。サイコ師匠は扇子で自分の肩を叩きながら話を続ける。

「三平が面白くなかったら、このまま他所に連絡するトコやったけどね。見逃したるわ」
「……何でですか?」僕は口を挟む。
「面白い奴に悪い奴はおらんから。そんだけよ。別にお前、犯罪者でもなさそうやしね」

サイコ師匠が扇を広げ、愉快そうに笑った。特に笑う場面でも無いような気がするが、サイコ師匠的に今の場面は、遠山の金さん的に言うと「一件落着」の場面なのであろう。その証拠に、るどん嬢が「よ! 名奉行! 名伯楽! 名女王様!」などと、本当に言葉の意味を理解しているのか疑問になるような合の手を入れている。ともかく一件落着を表しているらしい。

「……あの、僕、どうすれば良いですかね」
「どうするも何も、何か人に言えない用事があって来たんやろ? まぁ大体、想像付くけどな。大方、彼女と喧嘩別れでもして連絡が付かないから大学まで会いに来たとか、彼女が浮気してるっぽいから大学まで様子を見に来たとか。……うわ、いやらしいな三平!」
「本当だ、いやらしいな三平!」

目の前で二人の女性から「いやらしい」と侮蔑されても、当たらずとも遠からずなので反論が出来ない。いや、爺さんに会いに来てるんだけど、原因はみく子だし、みく子が他の男と一緒に爺さんに会いに行くと言い出したから、此処に来た訳だし、否定したいが否定は出来ない。

「まぁまぁ、別に何しに来たのかなんて、アタシらに言わなくても良いよ。あんまり言いたくないんやろ? 一人で部室の前でオロオロしてたもんなぁ。……うわ、三平、カッコ悪っ!」
「本当だ、カッコ悪っ!」

……サイコ師匠に言われるのは許せるが、るどん嬢に言われると何か腹立つな。とりあえず大喜利がサイコ師匠なりの裁判だった、という事はよく解った。考えてみると恐ろしい裁判だ。もしも無罪でも面白くなければ有罪なんて、現代の魔女裁判にも等しいでは無いか。

「時間取らせて悪かったね、もう行き、三平……あ、ちょっと待ち」
どっちだよ、と華麗なツッコミを入れる事も無く、僕は椅子を立ち上がりかけて止まった。サイコ師匠は机の引き出しを乱雑に探ると、何かを取り出して僕に向けた。カメラだった。

「証拠写真や。アタシの趣味やけどね。これでウチにいる間、悪い事は出来んからな」

台詞と同時に、フラッシュとシャッター音。
至れり尽くせりだな。まるで抜かりの無い人だ。恐ろしい。るどん嬢が立ち上がり、僕の横に来て肩を組んだ。「師匠、もう一枚!」「無駄に使うフィルム無いわ」流石だ、酷い。

「大学内の事……例えば彼女の事が知りたいなら、学務課にでも行ってみ。ある程度の事なら教えてくれるはずや。黙っていれば不法侵入者とは思われへんやろ。三平、まだ若いしな。学祭で必要な情報を調べたいから、とでも言えば大丈夫やろ。田所教授がいなければな」

本当に至れり尽くせりな師匠だな。
まだ若いしな、と言われても大学生なら実際に同年代なんだけど。
僕は立ち上がり、一礼すると扉に手をかけた。出口に「落語研究会へようこそ」の文字。

「三平」サイコ師匠の声。
「……はい?」
「竜宮城で乙姫様が"嘘でしょ!?"を連発。 何があった?」

部室の扉を閉める寸前。
サイコ師匠が悪戯っぽい声で言った。
数秒の間。
思考の中の、それしか無い部分を摘み上げ、僕は口を開く。

「……実は浦島は偽名で、乙姫を救う為に竜宮城に忍び込んで来た」
「……ははっ! 何やよう解らんけど、合格!」
「おあとがよろしいようで」

背後から、音声。
三味線の音が聴こえる。太鼓。それから拍手。恐らく観客の拍手だと思う。
扉の前で、最後にもう一度、振り返る。
旧型のラジカセの再生ボタンを押した姿勢で、サイコ師匠が笑っていた。
るどん嬢がわざとらしく舌を出し、手を振っている。

太鼓囃子に雷鳴が重なる。
幕が降り、暗転。

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