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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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一日目:蜜編 現在 06話

部屋の電気を消す。
みく子がいなくなった部屋は静かだ。そして広い。
リモコンを手に取り、テレ・ビジョンの電源を点すと、下品な笑い声。

何が真実なのかなんて知りたくもないし、知る事さえ出来ないんだと思う。
みく子がいなくなった部屋で最初に考えたのは、これから何をするべきかという宛の無い感傷だった。みく子はいない。恐らくもう帰って来ない。部屋の隅に、みく子が好んで座っていた、オレンジ色の小さなソファがある。みく子が買ったソファだ。そこはみく子の特等席だった。僕はそこを見ないようにした。みく子がいない事を改めて確認させられるようで厭だったから。

ベッドに寝転んで、天井を見上げてみる。僕は何をしている? みく子がいなくなったのに。何にもしていない。みく子がいなくなった事実に対して、「みく子がいなくなったな」と、感傷的なナルシズムに耽っているだけだ。まだ一日も経っていない。何から数えて? 解らない。

寝返りを打とうとすると、オレンジ色のソファが目に映った。僕は顔を背ける。すると壁に貼られたポスターが見えた。外国のバンドのボーカリストが座っている、何の変哲も無いポスターだ、みく子が貼ったポスターで無ければ。僕は目を閉じた。すると何処からか、みく子の香りがした。香水ではない。石鹸の香りか。薄目を開けると、視点の定まらない枕元に、一本の糸。長い糸。窓辺の月明かりを浴びて金色に見える。たった一本。みく子の髪の毛だった。

まだオレンジ色の長髪だった頃の、みく子の髪の毛。
僕はそれを摘み上げると、唇に当てた。何だ、この部屋は、みく子だらけじゃないか。
そう思うと、また泣けてきた。
テレ・ビジョンの中で、名も知らぬタレント達が、また下品に笑った。


【M線上のアリア】 現在/06


僕に何が出来るかなんて解らない。きっと何も出来ない。
特に一年前にアルバイト先の居酒屋を辞めてからの僕は、まるで駄目だ。
この部屋から出る事も億劫だ。それでもみく子と一緒にいれば、週に何度か外に出て行く事もあったのだけれど、これから先の自分を想像すると、自分を嘲笑したい気分になる。一生、この部屋から出ようともせず、死んでしまうのではなかろうか。みく子を助ける事も出来ず、世界に影響を与える事も出来ず、餓死か? 餓死くらいが相応なのではなかろうか、そのうち僕は死ぬんだろうな。この虚無的な感傷に浸ったまま。何で此処にいるんだ?

何で此処にいるんだろう。良いのか、みく子を追わなくて。先程から台所の蛇口がポタポタと水滴を漏らしているのがウルサイ。止めるのも億劫だ。とにかく僕は動きたくないのだよ。誰とも関わりたくない。誰かと関わる事で、面倒な事情に巻き込まれたくない。傷付きたくない。

蛇口の水滴を止めにいく時に、もしかしたら水道管が破裂して怪我をするかもしれない。ならばこのままの方が良い。馬鹿らしい。数秒前まで、このまま餓死する事を夢想していた自分が、水道管の破裂に怯えているなんてな。馬鹿らしい。なぁ、みく子、何処へ行ったんだ?

変えたいな、みく子、世界を変えてしまえば、君は笑えるだろうか。
何にも出来なかったな。情けない。一緒に泣いただけだ。いや、僕が先に泣いた。
何にも出来なかったな。何にも出来ないのかな。本当に何にも出来ないのか、僕は?
くだらない命だ、僕の命なんて。誰の為にもなりはしない。ああ、変えたいんだ、世界を。


「相変わらず、虫の良い話だな」


突然、声が聞こえた。
僕は慌てて部屋を見渡す。男の声だ。誰だ?
みく子が部屋を出て行ってから、誰かが入ってきた記憶は無い。

「自分じゃ何も出来ないくせに、世界を変えたがっているんだろ」

暗闇の中で、男は笑って、そう言った。
僕は体を起こすと、異常に高鳴る心音を抑えるように「誰だ!」と叫んだ。
男は低い声で六四分音符を刻むように笑い、僕の叫びを吸い込むように「慌てるな」と言った。

「俺は、お前のような人間の元に現れる。
誰とも関係を築こうとせず、己の殻を破る事もせず、何の手段も持たず、
そのくせ世界を変えたいと思っているような、お前のような傲慢な人間の元にな」

暗闇の中で、男が何処にいるのかを、僕は見た。
部屋の隅。みく子の場所。彼女の特等席。そこに男はいた。
男はオレンジ色のソファに腰掛け、手と足を組んで、僕を眺めていた。

「こんばんは、羊。俺は悪魔だよ。お前を食いに来た」

蛇口の水滴が、またポタリと落ちた。
だけれどその小さな音は、僕の耳には届かなかった。

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