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三日目:蜜編 現在 34話

落語研究会の部室を出ると、廊下から学生の姿は減っていた。
窓の外は相変わらず雨が降っており、周囲には壁時計さえ見当たらないので、今が何時なのか見当が付かない。図書室を出たのが二時頃だったと考えて、既に結構な時間が経過してしまったのではなかろうか。爺さんは研究室を出てパーティーに向かってしまっただろうか。否、そもそも。ヴィンセントが姿を現さない。昨夜から付き纏っていたくせに、図書室で話したのを最後に、奴は姿を消したままだ。記憶を食って満腹になると用は無いという訳か。

今、仮に研究室に辿り着けたとしても、内部に侵入する事は不可能だろう。僕は爺さんが開発したセキュリティ・システムを、悪魔の代償で突破しようとしていた。難しい問題では無い。内部に侵入するに相応しい、等価値の記憶を提供するだけだ。ところが未だにヴィンセントが現れない。「ヴィンセント、いるんだろ?」小声を発してみる。反応はない。雨音が虚しく響く。廊下の向こう側から、学生の笑い声。


【M線上のアリア】 現在/34


目的を見失ってしまった。
とは言え、この場に立ち尽くしても何も始まらない。とりあえず爺さんの研究室を探し出してみるべきだろうか。重要なのは「みく子が爺さんに会うより先に、僕が爺さんに会っておく」という事だ。みく子が何をしようとしているのかは解らない。僕に出来る事は、みく子が進もうとしている道を知っておく事だ。それが正しい事ならば認め、もしも間違った事をしようとしているならば止める。みく子は不安なのだ。何故? 自分の体が日に日に変化していくから。何故、変化する? 記憶が戻りつつあるから。何故、記憶が戻りつつある? みく子は僕が知らない時期に、きっと悪魔と契約していたから。

(お前なんかに! みっこを語られたくないんだよ!)

図書室にいた男。そうだった。三男と名付けた男。みく子の急激な変化の裏には、恐らく三男が関わっている。台詞から察するに、三男はみく子の中学時代までの同級生に間違いない。三男は今、同じ大学に通っている。それをみく子は知らなかった。……否、忘れていたのか。少なくとも直接、三男に繋がるはずの記憶を忘れていた。だから気付かなかった。

僕は仮定する。
……三男は取り戻そうとしたのではないか? 何を。記憶を。みく子の記憶を。
三男は何故、現在、悪魔と契約している? みく子が過去に悪魔と契約していたのだとして、それを三男は知っていたか? 何故、みく子は三男に気付かなかった? 忘れていただけか? それとも……記憶を食われたのか。三男に繋がるはずの重要な部分を。

僕は知っている。
悪魔が記憶を食う際の、穴を知っている。
悪魔は記憶を完全に食うが、そこから得た経験は消えていない。
過去と現在と繋ぐ道の途中に穴を空けるだけで、道が途切れる訳では無い。
平坦な道にポッカリと穴を空けた状態になるだけで、その道が消えてしまう訳では無い。

契約の仕方に寄るだろうが、例えば小学生時代の記憶を食われたとして、小学時生時代に習った足し算や引き算を忘れる訳ではない。只、教わった記憶が無くなる。現在の自分から失われるのは「小学生時代の記憶」なのだ。当時の思い出を失う。現在は失われない。そこで奇妙な現象が起きる。例えば小学生時代からの同級生Aという親友が存在するとして、記憶を食われた後も親友Aとは親友で在り得る。ところが何年前に出逢ったのか解らなくなる。

僕が居酒屋を辞めた原因になる記憶を食われたとして、居酒屋の存在そのものが無くなった訳でも、居酒屋までの道や、居酒屋にいる人達や、居酒屋で働く知識そのものを失った訳でも無かったように。ところがエリカの顔が解らなくなったように。それは悪魔が残した穴だ。絶対条件。決して契約の仕方を間違えてはいけない。契約の仕方次第で、穴は小さくて済む。だが、間違えると過去は大きく陥没し、現在にまで影響するはずだ。

三男を探し出す方法は無いか。
今、爺さんの研究室に侵入するのは不可能だ。ヴィンセントが現れない。ならば今、何が出来る? 三男。容姿も名前も知らない。悪魔と契約している事だけは知っている。否、それから「みく子の同級生に違いない」という事も。みく子の出身校は何処だった? 小学校。中学校。そのどちらか。高校は入らない。みく子を「みっこ」の名で呼ぶのは中学時代の同級生まで。

みく子の出身校を調べる。
みく子と同じ出身校で、現在この大学に通っている男を調べる。
もしも同じ出身校の男がいたとしたら、恐らくそれが三男だ。だが、どうやって調べる?

(大学内の事……例えば彼女の事が知りたいなら、学務課にでも行ってみ)

「学務課ね……」独り言を呟いて、僕は笑った。
落語研究会の部室を出る直前、サイコ師匠が言った台詞。それは爺さんの研究室を探し出すよりも、無茶な大喜利に答えるよりも、随分と簡単なお題だ、と思った。廊下を歩く僕の目の前、その数歩先、白い紙に筆文字で「学務課」と書かれた表札が見えていたからだ。

恭しくネクタイの位置を直し、スーツの裾を軽く払ってから、学務課の扉を二度、ノックする。扉に手を伸ばし、静かに開ける。「失礼します」学生らしい声で室内に足を踏み入れた瞬間に見えたのは、パイプ椅子に腰をかけたままの、白衣を着た男の背中だった。

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