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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:蜜編 現在 36話

田所教授。
高木先生の此処での名前。大学での名前。偽名。何の為にそんな事を? 解らない。何故、この大学にいるのかも解らない。何故、あれから姿を現さなくなったのかも解らない。これが何の為の再会なのかも解らない。その中で解っている事が、たった一つだけある。目の前に座っている人物が高木先生に間違いない、という事実だ。先生はキーボードから指を離すと、体の向きを変え、足を組み直した。「蜜、もう一度訊く。何故、お前が此処にいる?」

この時、僕の警戒心は随分と和らいでいた。油断している、と言っても良い。それは自覚しようとも自制は出来ない感情だった。僕は先生が好きだった。再会の感動が先立って、警戒などしようはずが無かった。爺さん、要するにノートン教授に会いに来たと言おうとして、少し躊躇した。先生は爺さんを知っているし、爺さんの研究に関わる失敗の責任を取らされる形で僕達の前から姿を消したのだと信じていたからだ。爺さんの名を出しかけて、そこで止まった。そもそも僕が学務課に来たのには、別の目的がある。

「探してる学生がいるので、大学に忍び込みました」

順序が逆だが、嘘では無い。大学に忍び込んだ結果、探し出す必要がある学生の存在を知った。三男。僕が探し出さなければいけない男。三男に辿り着くには、最初にみく子の出身校を知っておかなければならない。先生は「忍び込んだ」という僕の発言を特に不審がる様子も無く、右手の指を顎に当てたまま耳を傾けている。「学生を探している?」

「はい、出身校が解れば探し出せると思います」
「……どういう意味だ?」
「探してるのは男です。顔も名前も解りません」
「……お前の言っている意味が、私には解らないのだがな?」
「出身校さえ解れば、全て解るはずなんです。その手がかりもあります」

先生は親指の爪を噛む素振りを見せながら、眉間に皺を寄せた。
計算式を解き明かそうとする研究者の表情で僕を眺めると、息を吐くように話し始めた。

「……解らんな。
お前が何をしようとしているのか、どうしても私には解読出来ない。
もう少し砕いた説明を願いたいな。その学生を探し出して何がしたいんだ?
報復染みた子供の喧嘩なら、他所でやりたまえ。蜜、お前は子供のままなのか?」

成程。先生は僕が校外で学生同士のトラブルにでも巻き込まれて、その報復に来たとでも考えているのだろう。仮に先生の予想通りのトラブルが起きていたとして、後から学生を探し出して報復するなど餓鬼の考え方だ。ところが当たらずとも遠からず。トラブルに巻き込まれている部分は当たっている。

「蜜、何がしたいんだ?」
「報復ではありません……いや、似たようなモンかもしれないけど」
「子供の喧嘩ならば、お前と言えども、見過ごす気も、手を貸す気も無いのだがな」
「救いたいんです」

咄嗟に、恥ずかしい台詞が口から零れてしまった。
だが本心だから仕方が無い。僕は救いたいのだ、みく子と、みく子の世界を。
「救いたいんです、恋人を。僕が探してるのは、恋人と同じ出身校だった男です」
「ほぅ……」先生は短く声を漏らすと、姿勢をパソコンに向け、キーボードに手を添えた。

「言ってみろ、恋人の名前を。
何があったのか事情は知らんが、それで全て解るのだな?」

事情は知らないと言いながら、全てを把握したような表情で先生は言った。恐らく先生は、男同士の喧嘩に恋人が巻き込まれたなんて、まるで昭和の青春映画のような事態でも想定しているのかもしれなかったが、それで別に構わなかった。大切なのは三男の正体を知る事だ。

「笠原みく子です。学生IDは90395……」

僕は告げた。
それは至極自然な話の流れだった。
それまでの会話からすれば、至極当然の発言だった。
ところが先生の反応は、異常だった。

「……何故、お前が笠原みく子を知っている?」


【M線上のアリア】 現在/36


先生の指は止まったままだった。
何故、お前が笠原みく子を知っている? 先生は今、そう言ったのか?
会話として不自然だ。
直前まで恋人の話をしていたのだから、笠原みく子は恋人の名前だと、容易に推測出来る。
それを「何故、知っている?」と訊き返す意味は? それが指し示す理由は一つ。
何故、「みく子」という「特別な存在」を、「お前が知っているのか?」、と先生は言ったのだ。

「……笠原みく子は、僕の恋人です。ですが二日前の夜に家を出ていきました。
詳しい内容は言えませんが、彼女が出て行った原因の一つに、僕が探している男が関わっているような気がしたんです。だから探しています。他にも何個かの原因が考えられますが、今は言えません。とにかく、僕が探している男は、彼女の同級生のはずなんです」

「……そうか、蜜、お前がみく子の恋人なのか」
ところが先生は僕の台詞の中盤以降をまったく聞き流したかのように、キーボードに手を乗せたまま、モニターを眺めて独り言染みた台詞を呟いた。それから、酷く意味深な台詞。
「お前は何処まで思い出したんだ?」
「……え?」
「まさか、お前とみく子が恋人同士になるとは予想していなかった」

(バイオロイド。失敗。爺さんの研究。みく子。)
ああ、先生は何かを知っている。当然と言えば当然だ。僕とエリカが小学生だった頃、先生は爺さんの研究に携わっていた。ああ、どうしてそんな簡単な事に気付かなかった? 先生は何を知っている? 恐らく、ほとんど全てを。みく子に関わる、ほとんど全てを。みく子が爺さんに会いたがったのは、爺さんの研究と、みく子の変化が密接な関係にあるからに他ならない。やはり、そうなのだ。

「先生……みく子は一体、何なんですか?」
「まさか、知らないのか?」
「いや……知っています。失敗したバイオロイド。彼女はそう言いました」
「ふむ、一応は知っているようだな。だが、その認識は正解とも言えるし、不正解とも言える」

先生は人差し指を立てると、一点のキーボードを押した。
「みく子はな……」
N。
そのまま指を離さない。
モニター上を、羅列した一種類のアルファベットが疾走する。
羅列は止まず、次第に画面上を埋めていく。

N.
NN.
NNNN.
NNNNNNNN.
NNNNNNNNNNNNNNNN.
NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN.
NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN.


「ニコラの嘘を、本当に変えたのさ」


指を離した瞬間に発した先生の声は、聞き取るには小さすぎて。
もしも出来る事ならば、僕はこれ以上、もう何も聞こえないフリをしたかった。
もしも出来る事ならば、何も知らずに済むならば、生きる事は随分とラクなのに、と思った。

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