スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

三日目:蜜編 現在 38話

下水道を歩き続ければ、そのまま無事に研究所に辿り着くだろうか?一昔前の泥棒コントじゃあるまいし、次にマンホールの蓋が開いたら「わぁ、此処は研究室だ」なんて事は無いだろう。先生は分岐する箇所を見付けても、躊躇無く下水道を歩き続ける。恐らく研究室に忍び込むのは、これが最初では無いと思う。やがて道は行き止まり、壁沿いに梯子が伸びているのが見えた。まさか此処が研究室の真下、という事はないだろう。一体、何処に出るのか。


【M線上のアリア】 現在/38


「蜜、先に登りたまえ」
先生は僕に場所を譲ると、梯子の傍から不細工に伸びている剥き出しの配線をニッパーで切った。小さな火花が散ったように見える。「……それは何ですか?」
「別に、大したモノではない。切らないよりは切っておいた方が安全なだけだ」
「……先生、爺さんの研究室に忍び込むのは、これで何度目ですか?」
今更、というか、無礼な疑問をしてみる。先生は表情を変えぬまま「四度目だ」と言った。
予想よりは随分と少ないが、四度も不法侵入を繰り返し、一度も失敗していない事実は驚異である。世界中が認めた完璧なセキュリティ・システムに穴があるならば、大問題でもある。

「完璧なシステムなぞ存在せんよ。ニコラ自身が誰より知っているはずだ。ウイルスを新種のワクチンが制圧し、同じワクチンが別種のウイルスに浸食されるようにな。絶対不可侵の完璧なシステムなど、生み出せるものか。そんなモノを人間が生み出してはいけないのだよ」

――アクセプト。先程、学務課で先生が呟いた単語を思い出した。
それを先生は「"実験体が誤作動した"事によって、実現出来なかった研究」と言った。
時期は七年前。僕達の年齢から換算すると、十五歳の頃。中学時代。
実現できなかった研究? アクセプト。その単語本来の意味は何だったか。聞き慣れない単語ではあるが、初めて聞いた響きでは無い。何処かで聞いた。否、読んだ。何処で読んだ?

「遺伝情報の欠損と振動が人体に与える影響」

……本だ。爺さんの著書。その文脈の中で何度か出てきた単語。
それは爺さんの著書全般に満遍なく登場する単語だが、その中でも特に顕著に登場するのが「遺伝情報の欠損と振動が人体に与える影響」だった。accept。意味は「受容」。

"欠損状態を受け入れよ"。
その文脈の際に繰り返し使われる表現が「be accept」だったはずだ。
似たような文脈は「一般動物に見られる遺伝的病症」 にも「繊維細胞」にも「オプシン遺伝子」にも必ず登場する。大半が「欠損」に関連する文脈の際に使われている。

「蜜、早く登りたまえ」

先生の声に押し出されるように、僕は梯子を掴んだ。冷えた鉄の感触。
……ならば"実験体が誤作動した"事によって、実現出来なかった研究、とは何だ?その研究を爺さんは「アクセプト」と名付けていたという意味か。先生はこうも言った。再びアクセプト出来る時期を、ニコラは窺っている。誤作動した実験体。恐らく、それはみく子。十五歳のみく子。十五歳のみく子の逃亡によって止まってしまった研究を、爺さんは今も続けている。その為に、いずれは再びみく子を取り戻さなければならなかった。

「……だからか」思わず声に出す。
その為に、爺さんはみく子を死なせる訳にはいかなかったのだ。例え行方が解らなくなっても生き続けて貰わなければならなかったのだ。10,884,591。通帳に振り込まれ続けた四四万円。みく子が決して手を付けようとしなかった金。みく子を死なせない為の金。

やがて爺さんは、みく子が日本にいる事を突き止め、遂に彼女を見付け出した。そして大学の非常勤講師になった。みく子が再びアクセプト出来る時期を見守りながら。……否、変だな。そもそも今の推理は変だ。エリカは小学二年の日に初めて日本に来た。当然、爺さんも一緒に、だ。その後、エリカは日本に住むようになるが、それも小学生の頃だ。もしも爺さんが、逃亡したみく子を探し出す為に日本に来たなら、それは僕達が中学三年生の頃になるはずだ。何故、爺さんは小学二年生のエリカを連れて、日本に来た?

その頃、日本には何があった? その頃、みく子は何処にいた? 研究所じゃないのか?
……爺さん一家が日本に来たのは、やはり単なる娘夫婦の希望なのかもしれない。それでも現在、みく子の居場所を爺さんが突き止めているのは事実だ。ならば何故、爺さんは彼女の大学を知る事が出来た? みく子の個人情報は高木先生が管理している、と言った。それは恐らく、大学内だけの話だろう。例えば区役所に行けば、みく子の住民票はあるのだろうか? ……考えた事も無い。もしかするとみく子の個人情報は登録されていないかもしれない。

思い返すと、我が家の郵便受けに、みく子宛の手紙が届いた事は無い。ダイレクトメールの類も。少なくとも僕は見ていない。携帯電話の料金通知は? ……多分、届いていない。別に不審がるような事でもなかった。僕の元にも手紙の類など届きはしなかったのだから。

「厄介なのは……」

梯子の途中で、足下から声が聞こえた。先生の声。
先生は独白に近い口調で、急旋回する思考を捕獲するように呟いた。

「霧島が絡んでいる事だ、……ジョルジュの息子がな」

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

≪三日目:黒編 10話 | TOP | 三日目:黒編 11話≫


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。