スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

三日目:蜜編 現在 39話

「……キリシマ?」

足下から聞こえた先生の台詞を、僕は反復した。梯子は想像以上に長く、もう相当な距離を昇った気がする。地下なのにこれほど長い梯子が存在するのは奇妙だ。否、先程まで下水は絶えず我々と同じ進行方向に流れていた。という事は、下水も、我々も、緩やかに下降していたという事か。足元の先生の姿を見る気にはなれない。声が反響している。

「ジョルジュの息子だよ。ニコラは彼を高く評価している。後継者を探しているのだな、ニコラは。だが、今になって霧島が絡んでくるとは思わなかった。霧島と笠原が死んだ時点で、あの計画は終わったはずだったのだよ。斉藤とは今でも続いているようだが、それ自体は驚異ではなかった。資金があっても能力がなければ、あの実験は成功しない。ところがここ数年で、霧島の息子が能力を開花させ始めている。それは驚異だ。みく子が最初に彼に近付いたのも、もしかしたら逸早く、その開花に気付いたからなのかもしれんな……恐らく今回も」

先生は演説のような口調で、矢継ぎ早に言葉を連ねた。その大半は独白のようだった。それは脳内の思考が外に零れただけにすぎないような文章の羅列であり、僕の反応など1ミクロンも期待していなかっただろうが、少なくとも僕にとってそれは反応するに充分な台詞だった。

「……霧島? 斉藤? 笠原? 死んだ? 一体、何の事です?」


【M線上のアリア】 現在/39


先生が僕の台詞に反応し、頭上を見上げたような気がした。先生が鉄製の梯子の次の段を握ると、鋭角的に錆び付いた、低音質な音が空間に響いた。ギギギ。
「……思い出したのではないのか?」
「思い出した? 何をです?」
そういえば先程も、先生は僕に向かって同じような台詞を発した。何処まで思い出したのか。先生は確か、そう言った。何処まで? 何を? 僕は霧島という名も、斉藤という名も、初めて聞いた。霧島や斉藤という苗字に親しい友人はいないし、今まで出逢った人達の中にも、その苗字に当てはまる重要な何かを知っている人物など思い当たらない。……否、違う。斉藤? その名は極最近、聞いた。何か重要な何かに関わっていた。一体、何処で聞いた?

(……特別ゲストぉ!?)
(そうよ、特別ゲスト、お嬢様ですから)
(フン、呼ばれても行くもんか、そんなパーティー)

……エリカ。昨晩、エリカが軽口を叩きながら、ひらひら舞わせていた小さな紙。パーティーの招待状。そこに書かれていた主催者の名前が、斉藤。「まさか……」口に出しかけて、すぐに打ち消す。猜疑する余地など無い。爺さんの研究に関係している斉藤と、今晩パーティーを開催する斉藤が別人だと考える方が難しい。先生の台詞から察するに、爺さんにとって斉藤という人物は、爺さんの研究のスポンサーなのだ。

そして先生の台詞を辿れば、斉藤という人物は昔から爺さんと繋がっていた、という事になる。斉藤という人物の資金を頼りに、爺さんは研究を続けた。その研究には元々、霧島という人物と、笠原という人物も携わっていた、という意味か。……笠原? みく子と同じ苗字。研究とは何か。恐らく「アクセプト」なるものに関する何か。思考しろ。僕は梯子に手を伸ばしながら、手持ちの謎を無理に繋げてみる。

僕は仮定する。
まず、みく子が十五歳の時に、みく子は「誤作動」した。それが何を表すのかは解らない。同時期に、みく子は研究所を脱出した。次に「霧島」「笠原」という人物が研究の鍵を握っていたが、何らかの原因で死んでしまった。それがみく子の脱出前なのか、脱出後なのかは解らない。ともかく、みく子を失い、重要な鍵を握る二人の人間が死んだ事で、爺さんの研究は頓挫した。だが爺さんは諦めずに「斉藤」の資金を頼りに、件の研究を続けていた。その研究が「アクセプト」と呼ばれるモノなのだろう。

実験の成功に必要な要素は二つ。
優秀な技術者。(すなわち「霧島」と「笠原」に代わる誰か)
それから、みく子。
爺さんは数年かけて、それを取り戻そうとした。

そして明日にでも、その一つを取り戻そうとしている。
みく子。
何故、みく子は自分から、爺さんの元へ行こうとしている?
爺さんは、既にそれを知っているのだろうか。
今、何時だ? パーティーの時間か?

そして先生は、爺さんがもう一つの要素も取り戻し始めている、と言ったのだ。
霧島。曰くジョルジュの息子。すなわち、優秀な技術者。
研究は最終段階に入っている、という事か。

そして何より一番重要なのは、ここまで仮定してみた全ては、あくまでも推測にしか過ぎず、やはり僕は何ひとつ思い出せなどしない、という事実だ。思い出す? そもそも、そんな記憶が存在した覚えも無い。似たような感覚を、ここ数日で何度か体験しているが、まさかそれと同じ訳はない。思い出すとは、どういう意味なのか。「思い出した訳ではないのか」

……痛ッ。
瞬間的な、頭痛。まさか。
もしかして僕は「食わせた」のか?
その線は、充分すぎるほどありえる。何を食わせた?
何時? どの段階で? まさか先程の図書室での失神は、それが原因か?
何故、僕は腹が減らない? 何故、空腹のままで三日間も、こうして動き回っていられる?
僕の体はどうなったんだ!

先生の声に過剰反応するように、僕は叫んだ。
「思い出す!? 何をです!? 先生は何か知っているんですか!?」
「否……思い出さないならば、思い出さないままが良い、記憶とはそういうものだ」
「冗談じゃない! 先生の言い方は、僕も重要な何かに関係しているような言い方だ!」
「落ち着け、蜜。もうすぐ梯子が終わる。ニコラの研究室に行けば、全て解るだろうさ」

何故。どうして僕が何かを思い出さない事が、爺さんの研究室と関係する? 僕が爺さんの研究室に潜入したいのは、みく子の問題を解決する為だ。僕は爺さんに会う為に大学に来たのだ。だが爺さんは、恐らくもう研究室にはいない。時計を見ていないので解らないが、此処に来る前に廊下の窓から見えた外の暗さや学生の動きから考えると、既に夕刻だった。爺さんはパーティーに出かけたはずだ。そして先生は、恐らくそれを承知の上だからこそ、研究室に潜入しようとしたのだ。そこで疑問。一体、何の為に?

……長い梯子の終わりが見えた。円形状の蓋が見える。
足下から聞こえる指示に従いながら、それを真上に押し上げる。
簡単に持ち上がる。「その為に配線を切っておいたのだ」と先生が付け加えた。
円形状の蓋から這い出ると、四方は高い壁に囲まれており、真上からは雨が降っていた。
まさか、再び外に出るとは。

「……外ですね」
「下水道から這い出て、いきなりニコラの部屋に到達する事はありえないだろう? それともニコラの便所にでも繋がると思ったかね? 此処は学生の研究室とニコラの研究室を分かつ場所だ。この壁の内側は精巧なセキュリティに覆われているという訳だな。ところで蜜。どれほど完全に防御された場所にでも、必ず抜け出る穴はあると教えたな。それが水と空気だ」
「それが下水道の意味ですか……」汚れたくったスーツを眺めながら言う。

「ところが最も肝心なモノが一つ抜けている、何だと思うね?」
「……何ですか」
「人間だよ。水も空気も、人間が必要とするからこそ、穴が存在する。その人間が密閉された空間から抜け出る穴が無いならば、本末転倒とは思わないかね? この壁の内側は、学生とニコラを分かつセキュリティが存在している。学生は出入り出来ない、一見すると完全なセキュリティだ。……だとすると蜜、もしも学生側の研究室で火災が発生したら、ニコラは一体、何処から抜け出すのだろうね?」
「……そうか」

例えば袋の入口を塞がれた鼠が、出口を求める。だが出口は無い。袋の中に煙を流されると、鼠はやがて窒息死してしまう。だが、人間ならばどうする? あらかじめ出口を用意した上で、入口が塞がれた場合に備えておく。自分が抜け出す為の出口を……!

「……避難出口」
僕の台詞が反射したように、先生が口元だけで笑った。
そして指を指す。四方を囲まれた高い壁の一角。張り巡らされた配線。
それから……。
先生は首から下げた鍵を手に取ると僕を見て「五分、待ちたまえ」とだけ言った。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

≪三日目:黒編 11話 | TOP | 三日目:黒編 12話≫


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。