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一日目:蜜編 現在 07話

悪魔は含むように笑っていた。
悪魔はオレンジ色のソファに座りながら、中指でサングラスの位置を直した。暗闇でサングラスをかける意味も解らないが、立派なレザー・ジャケットを着ている意味も解らない。悪魔? どう考えても単なる不法侵入者ではないだろうか。あとは変質者か何か。そうでなければ立派なレザージャケットを着ている癖に、下半身は全裸でいる意味が解らない。

目の前に座る人間を悪魔だと認識する為に必要な手段は、世の中に何個あると思う?実は一個も無い。それが悪魔だと実証する術など一個もない。でなければ中世ヨーロッパでの魔女裁判など、幾分かマシな結末になっていたはずだ。悪魔と人間を見分ける方法など無い。

「……悪魔?」
「イエス、お前達が求める限り、俺はその名で呼ばれるのさ」
「……悪魔、お前が本当に悪魔なら、ズボンくらいは履いたらどうだ」
「おっと、これは失敬、このジャケットに相応しいズボンの記憶が無かったのものでね」

悪魔は確信犯のように小刻みに笑うと、一瞬目を閉じて(と言ってもサングラスの下の目は暗闇では見えなかったが)、指を鳴らすと何事も無かったかのように立ち上がった。恐らく、僕が瞬きをした、ほんの半瞬。悪魔の下半身には、三本ラインのジャージが身に付けられていた。ドンキホーテで五百円くらいで売っているような、ピンクのジャージだ。

「これで不満は無いかね?」


【M線上のアリア】 現在/07


「いや……うん……まぁ」

不満が無いとか、そういう問題ではなくて、CG映画か手品でも見ているような気分だったし、そもそも目の前の男が何を目的にしているのか、解らない。いきなり悪魔ですと名乗られて「はい、そうですか」と思える訳が無い。だけれど目の前で一瞬にして三本線のジャージを出されたら、もしかしたら悪魔なのかもしれないなぁとも思えるし、もしかしたら腕の立つ変質者のマジシャンなのかもしれないなぁとも思える。どちらにせよ胡散臭い存在には変わり無い。

「僕を食いに来た、と言ったな」
「イエス、正確に言うと、お前の記憶を食いに来た」
「記憶を食う? どういう意味だ? アンタは僕を殺しに来たのか?」
「とんでもない。 真っ先に家畜を殺す馬鹿が何処にいる。 飼育しに来たのさ」

飼育? 見下すような言葉に一瞬、腹が立ったが、非常に悪魔らしい発言だ。悪魔的に正しい発言だと言える。もしかしたら本物なのかもしれない。悪魔が実在する、しない、という論点は、今は問題では無い。重要なのは、今、悪魔と思わしき人物が目の前にいて、僕に何かをしようとしている点であるし、それに対して僕はどう対処すべきか、という点である。
悪魔は立ち上がったまま、腕組みをして、僕を見下ろしている。

「……襲い掛るような真似はしないんだな」

悪魔は声を出さずに呼吸だけで笑い「悪魔はそんな真似はしない」と言った。数歩、歩み寄ると、僕の顔面に手を伸ばす。人間の手とまるで同じだ。爪が少しだけ伸びているような気はするが、特異な部分はない。悪魔は人差し指を立て、それを僕の額に当てると、こう言った。

「契約を結ぶんだよ。それで始めて、俺はお前の記憶を食える」
「……契約?」
「悪魔は紳士だ。俺達は記憶を食う代わりに、お前達に報酬を与える」
「……報酬?」
「記憶の味に応じて、お前の望みを何でも叶えてやるよ」

なるほど。
フランス料理にはフランス料理としての価格が、マックス・ドックスにはマックス・ドックスとしての価格があるように、悪魔にとっては、記憶にもそれ相応の価格がある、という意味か。記憶を食う?
「一気に食う訳ではないのか」と僕は言った。

「一気に食う訳が無いだろう。お前が死んでしまう。先程も言ったが、これは飼育だ。
お前は生き続けて、新たな記憶を増やし、俺に記憶を提供し続けて貰わなければ困る。
それが契約だ。解るかね、羊?」

「よく解ったよ」と言う寸前に、僕は笑った。
なるほど、紳士ぶってはいるが、何と都合の良い契約だ。この男は間違いなく悪魔だ。
生かさず、殺さず、飼い続け、最後には残さず食ってしまうんだろう、悪魔よ。それもいい。
僕は改めて笑い始めると「よく解った、記憶を食ってくれ」と言った。

「随分、物分りが良いな」

人差し指を額に当てたまま、悪魔が言った。
そうだな、このまま餓死していくのも良いけれど、記憶を食われて生き延びるのも良い。
世界を変えたいのだよ、みく子。君が笑える世界はどんな世界だ? 世界を変えてやる。

「まずは何を望む? 俺はそれに相応しい記憶を食ってやる」

どんなにグルメ家ぶってる貴婦人だって、肉を食う瞬間は、醜い欲を満たそうとしている。下品な欲を剥き出しにした表情をしている。悪魔だって同じだ。悪魔は、(まるで頭部をメスで切開したように)人差し指を動かすと、僕の脳みそを掻き分けた。そしてまた小刻みに笑った。

「ククククク……お前もか」

お前もか?
どういう意味か解らないが、悪魔は食料を探している。
そして我慢するように「早く望みを言え、もう待ちきれん」と呟いた。

「そうだな、まず……」

悪魔が記憶を食う瞬間を、僕は見なかった。
見てしまったら、これから先、記憶を食われる度に、思い出してしまいそうだったから。

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