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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:サク編 08話

 何かを忘れている。
 まぁ僕が忘れることなんて日常茶飯事なのだが、いつもと少し違う。思い出さなくてはならない、と焦る感情がある。最近は普通、忘れてもいい記憶を悪魔に渡すのだ。だからこんなことはない。「忘れてはいけないこと」に自分が分類した記憶を、食われている。いや、どちらかというと「思い出さなくてはならない」と感じている。おそらく、先ほどの記憶。土の上で僕が虚脱状態になってしまった以前の記憶。僕は何をしていた? 分からない。さすがだ。時系列を追ってみて、そこがぷっつりと切断されている。レールが突然切断されている線路みたいだ。
 だが、この感情。そして悪魔の性格。そしてそれ以前に僕は何を感じていたか。類推は出来る。たぶん、僕は自分を試している。もし思い出せたら、という実験だ。もし思い出したら?
 もし思い出したら、みっこに対するこの処置は正しいと言えるだろうか。
 もし思い出せたら、自分の何が変わるのだろう。
 たぶん、それを試そうとしている。
 家に帰ってから、豪雨が降り始めた。ああ、台風だとどこかで聞いた気がする。ペンキを投げるみたいに、横殴りの雨がガラスを塗っている。圧倒的な水音。轟音。と、外を見て、洗濯物が干しっぱなしなのに気付いた。舌打ちする。もう放っておくことにした。いずれまた晴れたら、Tシャツも乾くだろう。辟易した。腹が減った自分にだ。こんなことなら帰ってくる時に何か買っておけば良かった。コンビニまでは歩いて五分。
「明かりくらいつけろよ」
 一瞬びくっとして、すぐにびくっとした自分を悔しく思った。振り返ると部屋の入り口の方に壁に背を預けている悪魔がいた。どこかのバイカーのように全身黒い皮で統一された服装をしている。それが暗闇で怪しく反射した。どこからこんな服を取ってきたのかまるで分からない。僕が遭遇しているはずなのだけれど。確かにこの背丈でこのルックス。ハーレーなんか乗ったら様になりそうなところがまた頭にくる。
「悪魔が明かりを要求するな」
「悪魔は影が好きなのさ」不気味に笑う。
「お前、さっき大学で、食ったろ」
「食った」
「何を?」
「馬鹿かお前。お前はタンを食べたら、家畜に対して舌を食べましたと釈明するのか? しかも舌の形、食感、味まで事細かに説明するのか? まるで意味がないだろう。それに加え」
 そこで悪魔は面白がるように一拍置いた。こちらをうかがうように、上からの目線で舐めまわす。息が洩れるように酷く人を馬鹿にした笑い方で少し笑った。
「それに加え、何だ?」
「お前が望んだことだ」
 僕は歩き始めた。本当はその記憶の代償に食べ物くらい出してもらうかと思った。しかし止めておく。少し頭にきたということもある。悪魔の嘲笑が横から聞こえて、そして後ろに遠ざかった。「数時間前の、お前がな」悪魔が勝ち誇るように言う。僕が望んだ? さきほどの考えは、たぶん的を射ている。自分を試そうとしているのだ。どうすれば思い出せる? 靴を引っ掛けるようにして外に出た。既に骨が曲がってる傘を持っていく。
 外は災害もいいところだった。
 どこから飛んできたのか、トタンが風を帆のように受けて僕の目の前を酷い破壊音を出しながらぶっ飛んで行った。僕はそれを無心に見届けた後、傘をさして歩き出す。風を受ける方向を考えて傘を傾けなければ、この古い傘も今日限りの命になるだろう。たちまち僕の下半身は傘をさしているにも関わらず、ずぶぬれになった。くそう、やっぱり食事くらい悪魔に頼めば良かったかもしれないと深く後悔する。
 閃光。まるでフラッシュを焚いたかのように強烈なものだった。
 閃光。閃光。閃光。閃光。閃光。
 閃光!
 辺りに雷鳴が轟く。まるで神様が怒ってるかのように。神様が怒る? 僕は鼻で笑った。悪魔と契約している僕はたぶん神様に怒られる存在なのだろう。いつ、この古ぼけた傘に雷が落ちてくるか分かったもんじゃない。日常的に悪魔と接して、記憶を渡して、悪魔の腹を満たしている。こういう人間がいるから、神と悪魔の争いは終わらないのだ。全知全能のくせに悪魔の存在すら止められない。
 全知全能のくせに、あの時、僕を助けてなんてくれなかった。
 辺り一面が暗転した。鋭い閃光だったから余計に暗く感じる。なるほどな、あいつが好きなのはこれなのか、と思った。悪くない。
 コンビニに辿り着く。辿り着いたと言っていい。下半身はもちろん、Tシャツに染みこんで上半身だって濡れ始めている。こんな人間でもコンビニは受け入れてくれる優しい場所だ。
 傘を傘立てに差し込む。溝鼠みたいになっている自分の姿を顧みて少しだけ申し訳なく思って、軒先で自分のジーンズを絞った。水滴がポタポタ落ちる。靴の中に水が入っていて気持ち悪かった。
 もう無駄かな、と思い返して首を上げる。さっと買って、さっと帰った方がまだ親切かもしれない。そして気がついた。コンビニのごみ箱の向こう。辛うじて雨を凌げている建物の隅。そこに店内からの光を受けて、雨の中へ影を伸ばしている人間がいた。女性? あの髪。やめておけ。何も見なかったことにしておけ。僕の理性がつまづく。携帯で何かを話している。雨に遮られて声はことちらには届かない。風雨が強い。それなのに、女性の声はなんて細いんだ。そんな。雨さえ撥ね退けるような、あの頃とはまるで雰囲気が違う。
 女性の目はひたすらに、アスファルトに落ちる水滴を見ているようだった。そこに悲しみの全てがあるように目が暗い。肌は白い。イメージチェンジだとしても、白すぎる。まるで病的だ。これは一体どういうことなのだ? そして聞こえた。一瞬だけ全ての雑音を押しのけて。まるで空が雷鳴の轟音のお詫びに、一瞬の静寂を投げかけてきたかのように奇跡的に。女性の唇が動く。そのヘアースタイルのせいで表情はよく見えない。形の良い唇が動いた。唇の動きだけが先行するかのように、声が僕へと、僕の脳へと届くのはずいぶんの後のように感じた。
 女性は言った。
 みっこは言い放った。

「……もう一度、あの日の悪魔に会いたい」

 ああ――
 あああ――
 ――戻ってきている。
 やはり。神様はやはり僕を憎んでいる。あの日の僕を憎んでいる。戻ってきているのになぜ? なぜ? なぜ? 何でだ? 何でだ! 何でなんだよ! 神様に救いがあるなら、僕の間違いを教えて欲しい。僕は何が間違っていた? 僕の何が悪い? ただ純粋だったのだ。いや、違う。きっと誰だってそうする。あの日? みっこの言うあの日とはいつの話だろう。あの日の記憶が完全に戻ってきているのか? いや違う。まだ完全には戻ってきてはいないだろう。あの日は最後なのだから。どこから戻るにせよ、あの日は最後になるだろう。それでなければ成立しない。それならばもっと昔の話か? みっこの頃の。だが、それは消えていないはずだ。なぜ今さら? 必要になった?
 雷に打たれたように、僕は呆然としていた。
 みっこが折りたたみの携帯をパタンと閉じて、ポケットに入れた。
 こちらを見た。
「……サクちゃん?」
 驚いて、それから少し笑う。
 ああ、昔、公民館で見た笑顔に近い。戻ってきている。今の白いみっこと、昔のみっこが僕に向ける笑顔がぶれる。涙を流しそうだった。しかし、戻ってきていない。まだ遠い。
 あの日は重いから。
「うん」
 僕は、それだけ答えた。

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