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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:蜜編 現在 43話

「……魂を?」

僕の問には答えずに、先生は演説を続けた。
視線は水槽を泳ぐ真黒な金魚に注いだまま、記憶の水面を人差し指でなぞるように、思いのほか穏やかな表情で、先生は話した。金魚は水中で、止む事無き旋回を続けていた。
透明の羽のような尾びれが揺れて、今にも、嗚呼。


【M線上のアリア】 現在/43


「はじめ、霧島はその書類の存在を、暫くの間、誰にも言おうとしなかった。彼は研究資料を一人で解読しようとしたらしい。だが、無理だった。戦後に紛失した情報が多すぎたのだな。その内、書類の存在はイタリア当局の知るところとなる。霧島は呼び出された。だが当局は、その件に触れようとしなかった。只、研究所員の立場から外された。除名されたのだ」

「除名?」
「平たく言えば、社会的抹殺だな。その数十年後に、私も同じ道を進む事になるがね」
先生は声も発さずに、唇の端だけで自嘲気味に笑うと、「だが霧島は、」と言葉を続けた。

「書類を持ち出したまま、逃亡する。何処に?日本に。その研究の発端が日本にあった事を、霧島は突き止めていたのだ。そして日本の研究施設に向かった。当然、彼はその後の人生を、イタリア政府から追われる身として過ごす事になったのだが……」

「本望だったかもしれんな」と言った時、先生は声を出して小さく笑った。
「"魂を受け入れる"という語列は、彼にとって魔法の言葉だったのだろう。霧島……ジュアンは、その魔法に魅了され、その魔法に殉じた。最後の瞬間までな。彼のあんな最期を、一体誰が想像したと思う? だがジュアン自身は思っただろう、あれこそが"アクセプト"だと」

「だが、」連続する否定。
「あれは"アクセプト"では無い。実験体の断末魔に巻き込まれて、死んだだけだ」
先生は余分な記憶の扉を開けてしまった人のように、言葉を重ねた。話が見えてこない。

「先生……"キリシマ"は既に死んだのですね?」
「ああ、少し話が前後してしまったな」苦笑しながら、視線は水槽から動かない。
軽く咳払いをして、静かに演説を再開する。

「日本の研究施設で、霧島はニコラと出逢う。なぜニコラが日本の研究施設に、と思うかね? 戦後の日本は、そうだったのさ。日本の研究施設からは、有能な研究員以外、大半の者達が追い出された。日本に存在するアメリカ人の研究施設、と言っても過言ではなかった。日本の研究資料は、全てアメリカの手に渡った。当然、戦時中の研究も全てだ。ニコラはその施設の所長だった。重要な施設ではなかったがね。そこに突然、霧島が訪れた、という訳だ」

金魚は水槽の中で、何度目かの優雅な旋回を見せた。
水中に気泡すら残さない、それは随分と優雅な旋回に見えた。
瞬間、先生は苦々しい表情を浮かべると、まったく意外な一言を放った。
「口先ニコラ」

「……え?」
「口先ニコラ。当時のニコラを悪戯に評したニックネームだ。彼は口先では立派な理論を語るものの、まるで結果が伴わない研究員だった。当時のニコラが所長になれたのは、彼の口先のなせる業だし、辺境の施設の所長に過ぎなかったのも、彼の口先のなせる業だった」
「爺さんが、口先だけ?」
「結果が伴っていなかったのだから、その評価も仕方がない。ニコラ自身も、そこに気付いていたのだろう。だが霧島……ジュアンに出逢った時、ニコラの運命は大きく動き始めたのさ。ニコラは霧島がイタリアから持ち出した書類と、日本に残されていた研究資料を合わせると、独自の研究を開始した。無論、政府には極秘で。何の為の研究だと思うね?」

「……何でしょうね。元々、それは戦争の為の研究だったんですよね?」
「そうさ、元々、それは戦争の為の研究だったのに」
「……だったのに?」

「実に馬鹿らしい事に、」と前置きして、先生は"その台詞"を繋げた。
それは最悪な台詞だったが、予想していた台詞でもあった。
今更、予想外の出来事など、存在しない気がした。


「死なない人間を作ろうとしたのさ」

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