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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:サク編 09話

 もう会うことはないと思っていた。
 むしろ会ってはいけないと考えていた。会うならば、もう少し後、みっこから僕に会いに来てくれるまで僕は待つべきだと考えていた。図書室での一件以来、僕は確信していたことがある。それはみっこの表情。僕に向ける笑顔。感情。それらの機微を大切に抱えている昔の記憶から引き出して比べてみた。そして昔のみっこと、今のみっこが抱いている感情がセロファンの重ね合わせのようにオーバーラップしてきたことを感じていた。
 戻ってきている。
 やっとだ。僕の自己満足の結果が出る。別々の高校に行き、そして大学を選ぶ時、僕はみっこを意識しなかった。本当は離れない方が良い。死に物狂いで勉強したって、みっこの周りにいた方が良い。もし今の状況になった時、みっこの近くにいた方が良い。実際、あの日からの中学生活の中ではそう思っていた。実際少しの期間勉強に命をかけた。すこしでもみっこの近くに行けるように。みっこと同じ高校を選べるように。でも、数ヶ月経っただけで、分かってしまったのだ。
 悪魔の力は、完全だ。
 僕は抗えない溝の中に埋没して、自分の進路に迷った。たぶん、僕は自己満足だったのだと察した。でも借りは返そう。そう考えて惰性で生きてきた。借りは返そう。そんなの言い訳だ。もしかしたら、もしかしたら。もしかしたら遠い未来で。再会することがあれば、遠く離れた先でみっこ自身が僕との再会を望むようなことがあれば、自己満足も救われることがあるのではないかと心の底では考えていたのだ。だからこそ計らずもみっこと大学で再会して、期待を裏切られたように感じたのではないだろうか。彼氏と楽しそうに歩いているみっこを見て。もう戻らない変化を見て。
 約束はいつ叶えられる?
 そんな機会はきっとない。
「サクちゃん、久しぶりね」
 雨が邪魔するので、みっこの語調は少し強い。
 その意図があろうとなかろうと、まるで空元気のようだった。
「そう、だっけ。この前図書室で会ったばっかりだと思うけど」
「そうだっけ?」
 みっこが少し笑う。でも悲しさを瞳の奥にこすり付けてしまったような、寂しい笑い方だ。
「でも、何だか凄く懐かしい気がするの。最近色んなことを思い出すのよ。特に中学生くらいから前のこと。だから、何だかサクちゃん、凄く懐かしい。高校バラバラだったのに、大学で再会するなんて凄いわよね」
 はは、と僕は笑った。鼻の付け根がツンとして、僕は雨を拭うふりをして鼻を押さえた。
「僕も驚いた。みっこ、全然変わっちゃってるんだもん。何かあったの?」
「んー、色々ね」
 僕は少し笑って、待った。
 みっこが続きを話してくれるのを待った。もし、昔のみっこがオーバーラップしているのなら、こうして待っていれば、みっこは必ず話してくれる。僕が真剣だと分かれば、そんな煙に巻くような言葉で僕の疑問に答えたりしない。そんな演技を僕の前でしない。そう信じた。昔のみっこを感じられると、僕は信じた。みっこが僕の目を見ている。僕の真意を推し量っているようだった。
「……私」
「うん」
「昔病気だったって、話したことあったっけ」
 少し間を置いて、自信のないようにみっこが尋ねる。
「あるよ。嘘だと思ってた」
 僕は答えた。
 修学旅行の計画を立てるとき、清水寺の音羽の滝でみっこは何を飲むかという話題になった。今思えばとても幼稚で、そして歯がゆいやり取りだった。僕はそこで「恋愛」を選んで欲しかった。僕との恋愛が結実して欲しいとみっこが考えていれば嬉しいと思った。僕との恋愛なんて、勝手に僕が考えた妄想だ。結実なんて馬鹿らしい。そして、みっこは「健康かな」と言った。そして「病弱だったから」と言った。その頃のみっこは元気一杯でとても信じられなかったけど。その頃? では今は?
「その影響なの」
「え、今さら? だって、治せたって……」
 電気が生まれる。
 神経を伝達する。一瞬で伝播する。考えた。なぜ昔の話をみっこは今始める?
 その頃? では今は? みっこの姿を正面から見た。薄暗い中でも、その白さは際立っている。病弱。病弱。病弱。電流に動かされて心臓が一度だけ、全身に血液を強く運んだ。それから沈黙する。血液の全てが雨と同じように地面に落ちていく。嘘だ。嘘だろう。雨の音がやけによく聞こえた。それが自分の中から聞こえているような気がした。この結論に達する前に、抱く感情は何だろう。怖れだ。そこから先を考えたくない。でも思考は持続する。悪魔。完全に欠落させるのは悪魔だけだ。なぜ悪魔は現れた? いつ現れた? 思考は持続する。もう治せたから。みっこはそう言った。治せたから? 何だそれ。治ったでもなく、治したでもない。病気が治るのは、そんな可能不可能の問題なのか。過ちを犯した。まさか。僕は。こんな結論なんて残酷だ。あんまりだ。僕はそんなつもりだったんじゃない。図書室でみっこは分厚い本を読んでいた。何を読んでいた? アルビノ? まさか病弱? まさか。そんなことがありうるのか? ありうる。あいつなら、ありうる。
 悪魔の力は、完全だ。
 ――僕は過ちを犯した!
 時を止めるように空が光った。
 なぜ、この考えに至らなかった?
 あの頃からは、予想も出来なかったからだ。あの頃のみっこからでは予想できようはずがない。僕は今まで何をしていた? やはり自己満足だけだった。僕は自分の欲望を叶えるために、みっこを苦しめ始めているのではないか? 自分の欲望。それだけ。まさに悪魔と契約する人間としては打ってつけじゃないか。一歩よろめく。視界が歪んだ。
「そんな……そんなことって……!」
「サクちゃん? サクちゃん、どうしたの? 大丈夫!?」
 僕は一体何のために、ここまで来た?
 心のどこかで、みっこを救うと思ってた。離れていてもみっこの切れ端を少し救うと思ってた。違う。真実は違った。結局自己満足だけだった。
 僕は僕を救いたいだけだった。
 凄まじい音が、天を割って僕に降って来た。
 先ほどよりも近い。僕の近くに近い。
 いや、もう雷に打たれてしまった方が楽になれる。
「それって……昔の病気が……、再発したってこと?」
「誰にも言わないで」
 みっこは目を伏せた。
 その返事が意味するものは、イエス。
 イエス。
 否定と肯定。あいつは否定と肯定をはっきりする。隠すことはあまりないように思う。必要なければ話さない。それだけだ。人を馬鹿にする。人のことを愚かだと思っている。こんなに一生懸命になってみたって、達観したような顔をして人を馬鹿にする。人の成す事全てが間違っているような顔をする。その上で、その間違いを利用して食事する。なぜ今になって再発したのか。
 僕が、悪魔とその契約したから。
 残酷だ。手に入れようとしたものは手に入らず、しかも形を変えた。
 口を開いた。言葉が出てくる前から喉が震えた。
 まだ涙が出ていないのが上出来だった。
「……くるしい?」
「……サクちゃん? サクちゃん、ごめんね。話さなきゃ良かった。サクちゃん、優しいもん。サクちゃんのせいじゃないのよ。私が悪いの。大丈夫、苦しくもないよ。今までと変わらないの」
 僕は首を振るった。違う。違うんだ。優しいのはみっこなのだ。何も知らない。僕のために何も知らない。それなのに僕に気を使ってくれる。僕のせいなんだ、と叫びたかった。神様は僕を憎んでいる。きっと懺悔を望んでいるのだ。いまさら。いまさら、何て言えばいいんだ。苦しくもない病気なんてあるものか。苦しくないのなら、先にきっと何かがある。それをみっこは言わないだけだ。
「それにね、私、決めたの」
「……何を」
「昔の体に戻った方が、きっとアクセプトは容易なの」
「え?」
「変化は悪いことなのかな」
 アクセプト? どういう意味だ? 僕には意味が分からない。大学の授業? いや違う。昔の体に関係がある。僕は知らない。まだ僕が知らないことがある。みっこの周りにあるものは、当然僕だけではない。みっこは人に囲まれている。昔からそうだ。そしてきっと悪魔だけではない。みっこはまだ何かに関わっている。変化は悪いことか? 僕がみっこを独占した気になって優越感に浸っている時代は、とっくに終わっている。それを変化として、それは悪いか。悪いことではない。
 僕が愚かなだけだ。
「悪いことじゃないよ。みっこ。変化は人が追いつけないほど、早いだけなんだ」
 噛みしめるように言った。
「昔、なんて区切りは本当はなかったんだよ。本当は全部が昔だった。流れの中でみっこは出来たはずだった。今のみっこは過去の集大成のはずだった。でも僕が奪ったんだ。もしかしたらみっこ自身の望みなのかもしれない。区切りをつけてしまったんだ」
「え?」
「僕にもよく分からない」
 僕は笑った。
「サクちゃん……。もうすぐ私のライブがあるの。見に来てくれる?」
「うん、大学の掲示板で見たよ。ギター上手くなったんだね」
 瞬間、みっこが頭を押さえて少しうつむいた。僕はみっこがなぜそうしたか分かった。思い出そうとしているのだ。そして、思い出せないに違いない。少しの頭痛があるのだ。あるべき場所に、記憶がなくなっているから。
「上手く……なった。そう、少しね。ライブ開けるくらいには」
「凄いね。うん、少し行くと思う」
「ありがとう。約束よ」
 約束。
 その言葉が僕の中で虚しく木霊した。無性に寂しかった。二つ目の約束。それは一つ目の約束に上書きされた。僕にとって大事だったのは、一つ目の約束だった。記憶はやり直しが利くのか? やり直しが利くなら、なんてチープなものなんだ。そうだ。そんなことなのだ。僕らが行っているのは、チープなゲームではない。何かを失う代わりに、何かを得る。失った何かを得る代わりに、何かを失う。初めはプラスマイナス零だったものが、どうしてマイナスに傾いてしまったのだろう。
「私、行くね」傘を広げながら、みっこが僕を見る。
 また空が光る。
 雷は止まない。
「気をつけて」
 うん、とみっこは答えて駆け出す。どうせ濡れてしまうなら、その方が賢明だろう。早く帰った方がいい。
 僕はどうしたらいいのだろう。どうするべきなのだろう。このまま続けて、果たしてみっこはどうなる? みっこを苦しめることが僕の目的か? 違う。みっこを救うことが目的だった。それが自己満足だとしても、それこそが僕の目的のはずだった。それなのにどうだ。今は苦しめているんじゃないのか。みっこだって健康体の方が良かったに決まっている。昔の体。
 昔の体の方が――
 みっこは何をしようとしている?分からない。
 でも、みっこを救う。望みを汲み取ってあげたい。
 そもそもみっこの病気は何なんだ?
 アクセプト?
「みっこ!」
 僕は叫んだ。コンビニの駐車場でみっこが立ち止まって振り返る。
「みっこ! 僕は変わってしまった!?」
 みっこのパーマに雨が滴っている。
 それを振り払うようにみっこは首を振った。
「ううん、サクちゃんはサクちゃんだった!」
 ああ――。
 その笑顔。
 僕は勘違いを重ねて生きてきただけかもしれない。
 でも、僕は今救われた。今なら、僕はそれで世界に絶えない戦争まで許せる。
 みっこを救うことが目的だった。そう勘違いして生きていく。
 僕は、黙って彼女に手を振った。別れの合図だ。
 みっこも手を前に突き出して振って、そしてまた走り去った。
「ありがとう」
 誰にともなく、呟く。
 雷鳴が代わりに答えるように轟いた。
 それは何か恐ろしい存在と会話を交わすようだった。
 でもそんなの何も怖くない。
 みっこ。
「全部、自然な形に戻してあげる」
 そして、お別れだ。

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