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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:蜜編 現在 44話

「馬鹿げた夢想だ。それは不自然な姿なのだ。人間は神ではない。おおよそ自然な姿とは、神が生み出した姿をそのまま保とうと努力する時に現れるのではないかね。それが不自然な姿に見えるのは、人間が神のように振る舞うからだ。ならば、それは嘘なのだ。だがね……」

「だがね、」と再度繰り返し、先生は一瞬、水槽から目を逸らした。
それから吐き出すように言った。
「だがね、それは研究者という立場にいる者達にとって、この上なく甘美な夢想だった」
衝動を己の右手で抑え付けるように、もう一度。

「それは、甘美だったのだ」


【M線上のアリア】 現在/44


「死なない人間?……一体、何の為に」
先程までの話のように、国家絡みで人体兵器の研究をしていた戦時中に、死なない兵士を開発しようとしたならば、まだ話は解る。否、解りはしないが、思考の道筋は解る。だが爺さん達が始めた行為が、人体兵器の必要が無くなった戦後になって、わざわざ極秘で始めた研究だったのだとしたら、その意図は何か。世界に核爆弾の驚異が知れ渡った後の世界。核爆弾でも死なない人間でも作ろうとしたか? まさか。馬鹿らしい。極秘で始める理由にならない。

「何の為に?」先生は立ち上がると、僕に向き直って眉間に皺を寄せた。
「何の為の理由も無い。何故、研究者は光や音の速度を知りたがる? 地球や、宇宙が生まれた時間の計測など? 何故、料理人は未知の食材を求める? 単に、食べてみたいからではないかね? 単に、知りたいからではないかね? それは甘美な魅惑だと思わないかね? 死なない人間を作る。不可能だ。だからこそ甘美だ。ニコラは口先だけの男だったが、周囲を扇動するのは上手かった。そして、それは国家の指示では無く、極秘で行われる事にこそ、重要な意味があった。欲求だよ。研究者としての欲求。不可能を解き明かす行為への欲求。結局、我々は全員、ニコラの欲求に賛同する身となったのだ」

先生はそこまでを言い終えると、一呼吸おいてから、小さく呟いた。
「死なない人間を作るという行為が、どういう意味かなど、誰も考えなかったのだ」
「……先生」
言い終えた瞬間、疑問。まさかそれが、みく子か? 否、違う。
混乱してきている。僕の記憶。金魚。蛙。鼠。死なない人間。それは多分、みく子では無い。
みく子では無い。それは誰だ。知っている? 知らない。僕は知らない。――瞬間、頭痛。

「"死なない人間"という定義に基づいた創造論は、この時点でフタツ存在した。一つは、発育段階で細胞の成長を止める事。もしくは細胞を意図的に操作する事。そして、その数代後の遺伝子情報を見守っていく事。要するに、人為的な進化。戦前に志野山麺吉の人体実験から導き出された研究結果は、こちらの理論に応用されるようになる。それから、もう一つ……」

先生は僕の目を見る。

「別の容器に、魂を受け継がせる事。その実験体が、」

聞きたくは無い。

「お前だ、蜜」

魂を受け継がせる?
別の容器に?
どういう意味だ。ああ、そうか。
魂を。

金魚。蛙。鼠。それは僕。僕? ああ、僕だ。
覚えてる? 否、覚えてない。何故、覚えてない? 覚えているものか。
金魚だった頃の自分の記憶を覚えてるはずがないだろう。否、覚えているはずだった?
先生は言った。(何処まで思い出した?)僕は覚えているはずだった。だが、覚えていない。
ヴィンセントは言った。

例えばお前が "鳥になりたい"と願ったとしよう。俺はその願いを叶えない。何故ならお前の記憶の中に、お前が鳥に生まれ変わるのに等しいだけの記憶など存在しないからだよ。俺がお前を鳥に変えた瞬間、お前は死んでしまうだろうね。記憶が一個も残らないからだよ。心臓の動かし方さえ忘れてしまう。それでも対価として、まだお前の記憶は足りない。お前は俺に借金しながら死んでいくようなもんさ。

ならば、金魚から蛙になり、蛙から鼠になり、人間になった僕は誰だ? 死人か?
先生は何を言っている? よく解らない。夢物語のようだ。嘘みたいだ。
先生は僕に構わず、演説を続けている。聞きたくない。受け入れる? 一体、何を。
「嘘だ」
「嘘では無い」
「嘘だ」
「実験体は二体。二種類の創造論に応じて、それぞれ割り当てられた」

すなわち、細胞を操作される実験体。
すなわち、魂を様々な容器に移動させられる実験体。

「前者の実験体のコード・ネームは "MIX"」

それは誰だ。

「後者の実験体のコード・ネームは "MIX_2"」

それは誰だ。

「略称は "M2"。蜜、お前だ」

先生は先程、机の上に置いた分厚いファイルを手に取り、ページをめくった。
何種類かの真黒な動物達の写真が並ぶ、ページの最期、新生児。MIX_2。M2。蜜。
みつ。みつ。みつ。真黒な動物達の容器を経て、最期に人間に受け継がされた魂。誰?
……僕。

ならば"MIX"は……みく子? 否、違う。
知っている。否、知らない。どちらでもいい。知らない。
爺さん、あんたは何がしたかったんだ。先生、あなたは何がしたいんだ。

「実験が始まったのは"MIX"が先だった。三ヶ月遅れで"M2"を使った実験が始まる。フタツの実験は平行して進められた。だが、考えてもみろ。貧弱な研究施設と、深刻な資金不足。遺伝子工学という言葉すら無い時代に、そんな代物が成功すると思うかね? "MIX"の実験は失敗した。実験体は植物人間になった。死にはしなかった。……そこで死んだ方が良かったのかもしれんがね。実験体"MIX"は日本人だった。女性だった。名前は"キリコ"」

先生は再び、水槽に視線を移す。

「霧島桐子……結婚後の名前は、キリコ・ノートン」

ほんの刹那、その目を細くした。

「この水槽を泳ぐ、この真黒な金魚が……彼女だ」

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