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三日目:蜜編 発生 01話

透明な液体が閉じ込められた袋を、暫くの間、眺めていた。
袋から伸びた数本の管が、僕の腕に刺さり、透明な液体を供給している。
遠くから機械音が聴こえる。真白な壁の向こう。相変わらず、此処は何も無い部屋だ。

「点滴、終わった?」

不意に扉が開き(否、扉が完全に開く前に)、女の声が聴こえた。
開き始めた扉の隙間から、細長い足と、白衣の裾が見える。
僕は頭を動かし「もうすぐ終わる」とだけ言った。

霧島桐子。
この貧相な研究所に勤める、研究員の一人。
女ながらに研究員としては随分と立派らしく、戦後、アメリカ兵が乗り込んだ研究施設でも、こうして勤務を続けている。まぁ、そもそも、戦争に負けた日本で、今更、何の研究をしているのかは解らない。我々は負けたのだ。意味が無い。僕にしたって、親兄弟は全て空襲で殺され、戦地に赴いた僕自身は生きている。不思議な事実。何故、生きている?

「本当だ、もうすぐ終わりね」
「此処に来て、もう三日も点滴しか打ってないぜ」
「本当ね、もう疲れちゃった? 大丈夫よ、これが終わったら食事だから」

霧島桐子は他人事のように笑いながら、点滴の袋を眺めた。
とにかく我々は、何らかの希望が欲しいのだと思う。今日一日、何かを生み出したという達成感が欲しいのだ。もう、壊す事には疲れてしまった。壊される事にも。奪う事にも。奪われる事にも。国の為に死に、国の為に捧げ、残ったモノは敗北感と、くだらない我がの命だけだ。

何かを生み出したい。何かを手に入れたい。金が欲しい。
得体の知れぬ研究所へ行き、得体の知れぬ人体実験に協力すれば、莫大な報酬を得られると聞いたのは、何ヶ月前だったろう? それで僕は此処に来た。しかし検体になる為には何項目かの試験に合格する必要があるらしく、ここ三日間は点滴ばかり打っている。点滴を打った後には食事をし、軽い運動をしなければならない。その後、血液を採取される。

「今日の飯は何だい?」
「……多分、チキンとオニオンスープじゃないかしら?」
「アメリカ人の味覚が、僕にはわからんよ。熱い味噌汁が飲みたいね」
「あら、それは残念」

窓の外は、今も焼け野原だ。まぁ、此処には窓なんて無いが。
霧島桐子は点滴の傍に立つと、懐中時計を取り出し、恐らくは現在時刻を確認してから、左手に持ったカルテに、何かを書き込んだ。それから、枕に頭を埋めたままの僕に向き直ると「よし、終わったわ、光クン、食事にしましょ」と笑った。


【M線上のアリア】 発生/01


霧島桐子は双子の姉だった。
妹の名は霧島琴乃。だが妹とは面識が無く、たまに廊下で見かける程度だった。
もっぱら僕と関わる人間は、此処では霧島桐子だけだった。
点滴だらけの一ヶ月が過ぎると、僕は検体として合格し、この施設に残る事となった。

「合格しちゃったわね、光クン」
「うん? そりゃまた随分と、残念なお知らせのように言うね」
「別に、そんな事はないけれど、でもそうね、残念なお知らせではないわよね」

その日、僕と霧島桐子は、施設の外に出て、枯れ葉を眺めていた。
決められた時間内であれば、施設の外に出る事は許されていた。とは言え施設の敷地内に限り、だけれど。霧島桐子は白衣の上から薄手のカーディガンを羽織り、枯れ葉を一枚拾うと、それを眺めた。「私達の研究は、正しい道を歩んでいるのかしらね」

「研究?」
「……ん、ううん、何でもないわ」
「君達がどんな研究をしてるか知らんがね、僕は金がもらえれば良いよ」

「お金?」霧島桐子は枯れ葉から視線を外し、少し蔑むような目で、僕を見た。
「ああ、僕は全てを失ったからな。今から失う物は何も無い。あとは得るだけだよ。得る為には金が必要だ。だからこうして、検体になったんじゃないか」
「……それで自分を失うとしても?」
「別に。一度は戦場で死んでいたはずの命だ。惜しくはないね」
「馬鹿ね、君は」

頭上をツグミが飛んでいた。
枯れ葉が音も立てずに落下し、地面に積もっていた。
茶色と赤色の世界の中で、桐子の濃紺のカーディガンは、随分と澄んで見えた。

「だけど」

桐子は言いかけ、少し考え、やはり口に出す事を決めた人のような表情を見せ、それからようやく、その言葉の続きを紡いだ。「……だけど正しい道のような気がするの、博士の理論は」
「博士?」
「ジェームス・ニコラ・ノートン博士は天才よ。まだ結果が伴わないだけで……」
「あ、そ」
名前はよく聞くが、まだ一度も会った事はない。
なのに桐子が博士を褒める時、僕は何だか不快な感情を抱いている自分に気が付いた。
「結果が伴わなかったから、日本は負けたんだぜ」

桐子は僕の言葉には反応せず、只、秋の空を眺めた。
桐子の唇に、ほんの少し、薄く紅がさしてあり、それは薄雲のようだった。
「甘美ね……それが永遠に続くのだとしたら」

僕は枯れ葉を踏んだ。
それは音も無く死んだ命の音だった。
それは音も無く死に、春になればまた、生き返るはずだった。

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