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三日目:蜜編 現在 45話

真黒な金魚は、巨大な水槽を、素早く旋回した。
彼女が機敏に泳ぐたびに、その尾びれは優雅に揺れた。
だが、しかし。
彼女が泳ぐ為の明確な目標は、何処にも存在していなかった。
彼女は只、泳ぐ為に、泳いでいた。


【M線上のアリア】 現在/45


「霧島……桐子?」

右耳から脳髄に、音速が貫通したような頭痛。
ノイズ交じりの映像。残像。記憶。映像。残像。記憶。音声。音声?
先生が水槽に固定していた視線を、僕へと移す。「思い出したか?」思い出す? 何を?

(……ねぇ、何の為に生きてる?)

痛ッ。何だ今の声は。我が身に何が発生したのか、まるで理解出来ない。
みく子? 今の声は、みく子。心臓に痒み。痛い。痒い。否、違う、この感情は……。

「学務課での話を、少し掘り返そうか」

高木先生の声。
僕は床に手を着き、立ち上がれなくなった。
しかし先生は、立ち上がらない僕には構わず、言葉を続けた。

「私は先程、"みく子はニコラの嘘を、本当に変えた"と言った。しかしより正確に言うならば、ニコラの嘘を本当に変えたのは、キリコだ。キリコは金魚になる事で、ニコラの嘘を本当に変えてしまった。どうして数十年前の金魚が、こうして生きていると思う? この金魚は死なないのさ。金魚が死なない限り、キリコの魂も死ねないのさ。蜜、お前は何も思い出さないかね? あの日、彼女が本当に変えてしまったニコラの嘘を、ニコラはみく子を使って、最終的な真実に変えるつもりなのだよ。蜜、お前は一体どうする気だね? 何の為に此処に来たのかね?」

何の為? みく子を救う為。
爺さん達の昔の事情など、僕は知らない。
なのに、何故、嗚呼!
痛い。痒い。痛い。心臓を取り出してしまいたい。
この感情は……。

「みく子はバイオロイドだ。その本当の目的は……」

アクセプト。
魂の受容。受け継がれる魂。容器。
金魚。蛙。鼠。爺さんの研究室。接近する指。
戸惑いながら笑う少女。エリカ。
何処だっけ。解らない。

コルト。
コルト?

真白。みく子。
真黒。僕。

灰色。世界。
灰色。世界。
灰色。世界。

ノイズ交じりの映像。残像。記憶。映像。残像。記憶。音声。音声?

(……ねぇ、何の為に生きてる?)
(……ねぇ、何の為に生きてる?)
(……ねぇ、何の為に生きてる?)

"MIX"を呼び戻す。
"MIX"を呼び戻す?

心臓に痒み。痛い。痒い。否、違う、この感情は……。

「……何故、泣いている」

頭上から、先生の声。
床に液体。
涙。
何故、僕は泣いている?

切ない。
我が身を裂いてしまいたい。
何故、僕は切ない。
解らない。

「蜜、もう一度訊く。何故、泣いている。思い出したのか」

思い出す?
違う。
恐らくこれは。

喪失。

徹底的な喪失。

喪失した事を知る、圧倒的な喪失。

キリコ? キリコ? キリシマキリコ? 誰だ?
誰だ。キリコ。僕は知っている。知らない。知るはずがない。
キリコキリコキリコキリコ思い出しようがないキリコどうして思い出せないキリコ。
キリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコ。
キリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコ。
キリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコキリコ。
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼亜あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああキリコ。キリコ。キリコ。キリコ。

真黒な金魚は、巨大な水槽を、素早く旋回した。
彼女が機敏に泳ぐたびに、その尾びれは優雅に揺れた。
だが、しかし。
彼女が泳ぐ為の明確な目標は、何処にも存在していなかった。
彼女は只、泳ぐ為に、泳いでいた。

「……僕は、みく子を救いに来た。それだけだ」

「ふむ……」先生はそれ以上、問い詰めようとはしなかった。
爪先だけを使って静かに回転すると、僕に背を向け、再び巨大な水槽を眺めた。
「みく子を救うという事が、すなわち、キリコを救うという事だ」
モーター音。ほとんど無音。永遠に旋回するだけの金魚。


ガンッ。


突然、右側の扉から、音。
学生の研究室に繋がる扉。
派手な音。開く。「しまった」先生が、短く呟く。
扉の奥から、巨体。

「あれぇ、何で研究室に、田所教授がいるんだぁ? いひっひ……」

演技的な声。
下品な空気を周囲に発散させながら、その巨体は言った。
「田所教授、此処はノートン博士の研究室ですよ、知ってますよね、いひっひ……」
巨体が近付いてくる。先生は動かない。代わりに一言、呟く。

「……バスターか」

壊れかけた扉が、閉まる。

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