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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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三日目:蜜編 現在 48話

ヴィンセントが立っていた。
誰から食った記憶を元にしたのか、その悪魔が羽織った漆黒の着物は照明に照らされ、その長身から滑らかに振り下ろされた直線的なラインは、力強くも艶やかに輝いて見えた。袖から見える裏地は紅く、日本人離れした(そもそも無国籍な)容姿を随分と粋に見せていた。

バスターは倒れたまま動かない。
長尺塩化ビニルシートが張り巡らされた床の上に仰向けに倒れ一寸とも動かないが、半透明ゼリー状の胸部が呼吸に合わせて大きく上下している。ヴィンセントは己の右手を眺めると、五指を広げ、それを何度か小刻みに振った。「見た目は軟体動物なのに、殴ると固いのか」

ヴィンセントは不敵に笑うと、己の手の甲を舐めた。
「不思議な肉体だな、もう人間ではないのか」
僕を見ようともせず、悪魔的な歩幅で、まだ動かないバスターに近付く。更に遠く左側では、先生が倒れたままだが、ヴィンセントはバスターから視線を動かさない。その目は獲物を狙う猫科動物の目のようでもあったし、人間を食わんとする悪魔の目そのものでもあった。

「随分と勝手な真似をしてくれたものだ、羊を食おうとするとはな」

ヴィンセントはゼリー状の肉体の傍らで膝を曲げると、半透明に揺れる額に掌を当てた。中指を中心にして、切り開くように五指を広げる。「愚かな狼よ、罰を受ける覚悟はあるか?」
バスターの右腕が小さく動いたように見えた。ヴィンセントは花を摘むような表情を見せると、中指を深く、水面のような脳髄の奥に……。瞬、間。

「ヴハァ……ッ!」

突然、バスターは目を開き、右手をヴィンセントの喉元に伸ばした。
右手は鋭角的な槍のように尖り、その軌道は軟体的な鞭のようにランダムな弧を描いた。
一曲線に、悪魔の喉元に。


【M線上のアリア】 現在/48


「……ほぅ」

ヴィンセントは短く呟くと、恐らく本能的に、左手を動かした。
不自然な波形の先端を、正確に捕獲する。バスターの右手は、悪魔の喉に届かない。
「フン……見えているな、愚かな狼よ」
そのまま軟体を握り潰すように、拳に力を込める。ゼリーが砕ける手前のように、バスターの右手が奇妙な形状に圧迫される。「ぐぁぁぁぁぁぁッ!」巨体が苦痛の声を漏らす。

「狼、お前は継承者では無いな? 何故、俺が見える? 一体、誰と契約した?」
ヴィンセントにしては珍しく、流暢に三個の質問を並べる。
否、記憶を切開すれば、わざわざ質問する必要は無い。契約者で無ければ食う事はしないかもしれないが、記憶を覗くくらいは出来るはずだ。それを何故、わざわざ質問する必要があるのか。理由は簡単。ヴィンセントは既に答を知っている。それを言わせるのが"罰"なのだ。

「……いひっひ……悪魔を見るのは五十年振りだな」
「五十年? 随分と若く見えるな、狼。それで、お前が契約した悪魔は誰だ?」
「……契約したのは俺じゃない。俺は契約者からの契約を交わしただけさ……いひっひ」
「成程。重複契約。共有契約。分割契約。随分と親切な悪魔を相手にしたな。それは厄介だ」

ヴィンセントは再び、拳に力を込めた。「名前を言え」
バスターの表情が苦悶に歪み、声に成り切れぬ苦痛の声が響いた。
「……訊かなくても知ってるんだろ、悪魔ならお見通しなんだろ、いひっひ」
バスターは眉間にシワを寄せたまま、無理に笑う。悪魔は更に力を込める。

「まだ知らないさ。まだ見ていない。愚かな狼、お前の口から聞く必要がある」
「嫌な予感がするな……いひっひ」
「今言わない方が、より一層、嫌な予感に苛まれるはずだがね?」

ゼリーが砕ける。
バスターの額から、厭な粘度の汗。
「……解った! 言う!」
バスターの声にも、ヴィンセントは握力を弛めない。

「……悪魔の名前は……コルト」

ギギギギギ。

「……契約者は……ノートン博士」

バスターが言葉を漏らした瞬間、悪魔は唇の両端を、嬉しそうに曲げた。
それは僕が見てきた笑顔の中で、最も悪魔的な笑顔だった。
十六符的に笑いながら、悪魔は言った。

「ククククク……お前もか」

何処かで聞いた台詞。まったく同じ台詞。
僕が初めて記憶を食われる寸前に、悪魔が呟いた台詞。
コルト。知らない名前。ヴィンセントとは別の悪魔。お前もか。五十年前。キリコ。
……キリコ?
頭痛。一瞬。深くは無い。通過。脳の外側から、低く這うようなヴィンセントの声が聴こえる。

「契約した悪魔の名を、第三者の前で言葉にしたな」

続けて、一言。

「罰を受けろ、狼」

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