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三日目:蜜編 発生 05話

「久し振りね、光クン……」

病棟の廊下で一年振りの桐子を見たのは、高木が人体実験の開始を告げてから、二日後の夕方だった。桐子自身は既に一週間も前から此処に来ていたらしい。会わなかっただけだ。そう、会わなかっただけなのだ、と僕は自分に言い聞かせた。一年振りに見る桐子は随分と痩せて見え、それが彼女の壊れてしまいそうな輪郭を、より際立たせているように感じた。

廊下の窓から、斜に構えたオレンジ色が射し込んでいる。桐子は痩せた。頬は削げ、手足は細く、肌は白くなったが、それは皮肉にも彼女の美しさを強調していた。頭には包帯を巻いている。その全てが、今、オレンジ色に染められている。僕は、只、彼女を眺めた。
桐子には夕陽がよく似合う、と僕は思った。


【M線上のアリア】 発生/05


再会の喜びを分かち合う時間など無い。僕と桐子は現在、互いに実験体として生活する存在に過ぎなかった。のんびりとした会話を共有する時間など無い。たまに廊下で擦れ違う際に、一言二言、交わすだけの関係だった。何故、桐子が? 当然の疑問が湧き上がる。今、僕の話し相手は高木だった。高木は僕の疑問に、小難しい表情で、何時も明確な解答を与えた。

突然、人体実験の開始が決まった要因は、大きく分けて二項目。
一つは資金の問題。人体実験の構想は何年間にも渡って進められてきたが、この研究所には、それを実践するだけの資金が無かった。そこに斉藤財閥が現れた。正確に言うと、斉藤夫人が関与する事になった。これは所内の噂にしか過ぎないが、ノートン博士が桐子と結婚する前に、深く関係を持っていたのが斉藤夫人だった。不倫関係だったのだ。ノートン博士が結婚してから、研究所には表面的な部分で斉藤夫人からの接触が増えた。要するに……

「囲っておきたいんだな」

高木の話を聞きながら、僕は鼻で笑った。少なくとも斉藤夫人には、ノートン博士を手放す気など無いのだろう。ノートン博士としても資金的な協力は喉から手が出るほど欲しいはずだ。己の不倫問題などで研究を無碍には出来まい。斉藤財閥からの豊富な研究資金を確保して、人体実験の構想が具体的に進み始めたという事だ。恐らく、それが一年前。ノートン博士と桐子が結婚した直後。職員・研究員達の「人体実験が始まる」という噂話を、僕はよく耳にした。しかし実際には、こうして一年待たされた。そこには、もう一つの要因が関係する。
戦前の研究資料の中から信じられないモノが発見されたからだ、と高木は言った。

「……それは何?」
「冷凍された四体の新生児です」
「……冷凍? 四体?」
「恐らく戦前にも、多くの人体実験が行われたのでしょう。先の大戦中には、日本では研究こそ止まっていましたが、ドイツとイタリアでは引き続き研究が続けられていました。その頃の実験体でしょう。白色人種の新生児です。冷凍されてはいますが、まだ生きているようです」

高木は聡明でありながら、少々冗舌すぎる面があった。この瞬間も、僕は聞かなければ知らずに済んだ情報を(否、自ら求めた情報の結果ではあるけれど)知ってしまう事となった。
「その辺の事、詳しく知らないな、何の研究をしてたんだ?」
「人体兵器の研究です」
高木は簡単な公式を解くように、一切、何の躊躇も無く、それを言った。そこには疑問・困惑・遠慮といった人間的で情緒的な感覚が欠落していたと言っても良い。人体兵器の研究?
人間を冷凍する意味がよく解らないが、とにかくそれは戦争の為の研究だったらしい。

「だとしたら僕は……桐子は、人体兵器を生み出す為の実験素材なのか?」
「……貴方の役割は、実験に協力して、報酬を得る事ですよ」

立ち入ってはいけない。立ち入ってはいけないのだ。僕は莫大な報酬を得る為だけに我が身を捧げたのだし、僕と桐子は何の関係も無い。それに高木に詰め寄るには、点滴の針が邪魔だった。それ以上、何も問わずに、僕は高木の声に耳を傾ける事となった。高木は話した。

発見された四体の新生児は、それぞれ"A"・"B"・"C"・"D"と名付けられた。
その中から、まず"A"は解凍に失敗し、続いて"B"の解凍は成功した。
"A"は解凍に失敗した検体として研究素材となり、"B"は解凍に成功した検体として研究素材となった。(という事は驚くべき事に、現在"B"は生きているのだ。)"C"と"D"は冷凍状態のまま研究素材となった。何故、桐子のコードネームが"MIX"と呼ばれるのか?
検体"MIX"。
即ち、それは戦後の研究データと、戦前の四体の新生児"A"・"B"・"C"・"D"の実験データを、融合したからに他ならない。霧島桐子は、検体"MIX"になるのだ。……何の為に?

桐子の体は、病に冒されている。
高木が告げたのは、僕の点滴を終え、部屋を出る直前。
ノートン博士とジョルジュ主任の意見が分かれたのも、それが原因だと言った。

ノートン博士は、桐子を生かそうとしている。
否。
桐子を、死なない人間に変えようとしている。

馬鹿げている。
研究者の考える事は馬鹿げている。
それは嘘か真か解らないような、随分と馬鹿げた絵空事だった。
……桐子が死ぬ?
部屋の扉を閉める直前、高木は言った。

「人体兵器は作りませんよ……もう戦争は終わったんだ」

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