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三日目:蜜編 現在 49話

「罰を受けろ、狼」

声と同時に、悪魔の影が次第に膨張するのを、僕は眺めていた。
悪魔……ヴィンセント自身の姿態は、軟体質なバスターの腕を掴んだまま、一寸とも動作すらしていない。只、影だけが生物のように膨らんでいる。否、膨らんでいるのではない。塩化ビニルの床に落ちた悪魔の影から、八本の腕が生えるのを、僕は見た。節足動物の腕。蜘蛛。

影が変化していく。おおよそ蛍光灯がヴィンセントの姿態をなぞったとは言えない形に、影が変化していく。影が、白目を剥き始めたバスターの影を飲み込んでいく。「ククククク……」
ヴィンセントも、バスターも、動いてはいない。バスターの影も動いてはいない。ヴィンセントの影だけ(否、この形状をヴィンセントの影と呼んでも良いものなのか)が、動いている。

蜘蛛の巣の罠にかけられた蝶を、蜘蛛が食っている。
バスターの影を蝶に見立てるのは割に合わないが、僕にはそう見えた。
やがて悪魔の影が、軟体の影の全てを覆うと、唇から泡を吹きながらバスターは失神した。


【M線上のアリア】 現在/49


「……何が起こった?」

僕の第一声は、悪魔に向けられたモノでも、単に目の前の状況に向けられたモノでも無い。何だコレは? 一体、何が起こった? バスターと呼ばれた学生が研究室に入ってきて、突然背中にケーブルを挿した。それを見て先生は「アクセプトは完成しているのか」と呟いた。バスターの身体が、人間とは思えないゼリーのような質感に変化した。バスターは僕を知っていて、久し振りだと言った。ヴィンセントが現れて、バスターに罰を与えた。契約者は、爺さん?

「……何が起きている? ヴィンセント、何だよ、この状況は!」
「……まだいたのか、羊。お前にのんびりしていられる時間など無いはずだがな」

ヴィンセントは気絶したバスターの腕を放すと、着物の裾を正しながら立ち上がり、面倒そうに此方を振り返った。影は、既に普段の影に戻っている。八本の腕など存在しない。

「説明しろよ、先生はココに来れば全てが解ると言ったんだ、何なんだよ、この状況は!」
「落ち着け、羊、見ていただろう? 身の程を知らない狼に罰を与えただけだ」
「罰? 何だよ、それは。あの変な奴と契約を結んだってのか」
「ククク……それは罰ではないだろう、お前が一番よく知っている」

じゃあ何なんだ、と声を荒げようとした瞬間に、悪魔は言った。
密やかに、だが冷酷で残忍に、死刑を宣告する裁判官より穏やかに、悪魔は言った。

「隷従だ」

今後一生、バスターは無条件に、悪魔達の被食者となる。
対象はヴィンセントだけでは無い。全ての悪魔が、一切契約無しに、彼の記憶を食える。
悪魔達に記憶を食われている事さえ、彼が気付く事は無い。只、永遠に食われ続けるのだ。
今、この研究室で起きた出来事さえ、彼が目覚めた時、既に一切、記憶には残っていない。
最初は普通に生活する事が出来るだろうが、記憶の隷従は続いていく。
気付かぬ内に、ゆっくりと記憶は奪われていく。

彼が廃人になるまで。
悪魔達は、緩慢に、彼を食い続ける。
拒否する事は出来ない。拒否する意味さえ知らないのだから。
此処で起こった出来事の顛末を、ジェームス・ニコラ・ノートンが知る由も無い。

「……それが、隷従?」
「契約した悪魔の名を、第三者の前で口にしてはいけないのさ」
「……お前、そんな事、今まで一言も、僕に教えてくれてないじゃないか」

十六符的に愉快そうに、悪魔は笑った。「大丈夫だ」
何が大丈夫なモノか。人前でヴィンセントの名を溢したら、僕も同じ目に遭っていたのか。

「契約と同じように、隷従にも相応の条件がある。悪魔は紳士なのでな」
「何だよ、条件って」
「契約した悪魔と人間が、互いの名を呼び合っている場合、それを人前で口にしてはならない。何故なら、それは信頼関係だからだ、羊。悪魔と人間が互いの名を呼び合うのは、信頼の証なのだ。それを裏切るから、罰が生まれる。悪魔を裏切る事は許されない」

要するに。

「お前は、まだ僕を信頼してないって意味だな」
「賢いな、羊、その通りだ」

悪魔は僕の額に手を当てると、指を広げて記憶を切開した。

「俺とお前は共生関係に入っている。
 だがお前は、まだ俺が信頼するには頼りない、か弱い羊だ。
 間違えても対等ではない。お前はあまりにも未熟だ。俺が名を呼ぶには幼すぎる」

フン……と鼻息を漏らす。別に悪魔に名前など呼ばれなくても構わない。悪魔に一人前と認めて貰わなくても結構だ。それに目の前の軟体人間のように、隷従なんて悲惨な目に遭わなくて済むならば、むしろ名前など一生呼んで頂かない方が好ましい。

「コイツ……バスターとかいう奴、僕の事を知っていたぜ」

悪魔に額を切開されたまま、僕は視点をずらした。
「知っているだろうな、お前も知っているはずだがな、もう食われている」
「食われている? お前が食ったのか?」
「否、身に覚えはない」

ヴィンセントが食った訳では無い、僕の記憶。
僕はバスターを知っていた? 何処で? 何年前? 何の繋がりで?
ヴィンセントでは無いのなら、誰が食った?(ククク……お前もか)一体、誰が食った?

「……バスターが名を吐いた悪魔だろう?」

床下から声。
仰向けに倒れていた先生が、上半身を起こそうとしている。
先生は激しい頭痛を振り払うように、何度か頭を左右に振ると、此方を眺めた。
バスターが名を吐いた悪魔。コルト。その悪魔が僕の記憶を食った?
何故、それを先生が知っている?

「本物の悪魔か……随分と久し振りに見るな」

「……先生?」
先生には、悪魔が見えている?
何故、先生にヴィンセントの姿が見えている?
悪魔を見る事が出来る条件は……継承者でなければ、一つだけ。

「五十年振りだな……正確に言うと、四十九年振りか……」

瞬間、脳内を通過する映像。
ゼロ戦が墜落していく。黒煙を上げながら、ホタルの群れの中へ。
……何だ、この映像は。壁。薄汚れた染み。天井。点滴。白衣。小高い丘。金魚。

「あの研究所は、汚染されていた……たった一人の手によってな。
 悪魔の契約に汚染されていたのだ……霧島桐子の停止を受け入れられないばかりにな。
 悪魔の力を借りてまで、成功させようとしたのだよ……研究所の全員を犠牲にしてまでな」

霧島桐子。水槽を泳ぎ続ける金魚。

「1を無限大で割ると、0になる。
 昔、お前にそう話した時、お前は理解出来ないと言ったがね。
 私は過去の罪を0にしてしまいたかったのだがな……やはり、そうもいかないらしい」
「……先生?」
「ニコラはBを実験体として使っていた……やはりニコラは、みく子を使ってキリコを……」

四十九年前。
そして今も、悪魔との契約は続いている。

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