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三日目:蜜編 現在 57話

「じゃあ……みく子は、もしかして……」
「あのね、」僕の言葉を遮るように、おばさんが声を重ねた。
「蜜ちゃん、ヒトの手によって生み出されたヒトは、幸せだと思う?」
答えに詰まる。どういう意味だ。
「あのね、例えばね……驚かないでね。エリカのマンションで働いてる子達、あの子達はね、全員、お父さんが作ったヒトなの。蜜ちゃん、それって幸せだと思う?」
「……え?」
エリカのマンションを思い出す。似たような容姿の黒人男性。国籍不明。流暢な日本語。容姿端麗なメイドのような警備員。男性的な手。いくら警備員を兼ねているとは言え、女性の手がこんなに骨格的になっているものかと、僕は心配した。変質した手。あれは男性の手だった。

「……作った? 全員を? 爺さんが?」
「ねぇ、幸せだと思う?」
「……解らないよ、幸せかどうかなんて、僕には」

みく子は作られたヒトなのか?
そして、やはり爺さんは、みく子の身体に、キリコの魂を……?
僕の思考を吹き飛ばしたのは、おばさんの声。それは意外なほど鮮明な、告白だった。

「じゃあ、エリカは、幸せかしら?」


【M線上のアリア】 現在/57


二十二年前、セシル・ノートンは命を身篭った。
愛する男性との子供、と呼ぶには程遠い。それは研究者である父からの命令だった。人体実験に使用する為の命。それは身篭る前から"E"という記号で呼ばれていた。父――ジェームス・ニコラ・ノートンは、自身の血縁(正確には、自身と妻との血縁)者の肉体を、実験体にしたいと考えていた。セシルは命を身篭りながら、己の肉体を呪った。流れる血を呪った。

母は自分が生まれた直後に死んだと聞かされていた。
母が残した唯一の形見がお前なのだ、と聞かされて、セシルは育った。

セシルは幼少時代を日本の研究施設で過ごした。周囲は大人ばかりで友達はいなかった。だからセシルは、大きな水槽を優雅に泳ぐ、黒い金魚を眺めている時間が好きだった。父は何時も研究室に入り浸り、セシルの相手をしようとしなかった。それでもセシルは父が好きだったし、会った事のない母さえも好きだった。セシルにとって、無機質にも思える研究施設が、世界の全てだったのだ。幼いセシルは、その世界を慈しんだ。

ところが日に日に、父の様子は変化した。
セシルの大好きな金魚が消えた日、父はセシルの目の前に、死んだ金魚を差し出した。
父の奇行は、セシルが成長するに連れてエスカレートしていった。娘との会話を忘れ、娘の名前を忘れ、娘を亡くした妻と勘違いし、肉体を求めるようになった。

セシルは父が怖かった。
ところが一方で、初めて自分を必要とされている安心を、心の何処かで感じていた。
そのアンバランスな感情は、思春期を迎えたばかりのセシルを不安にさせるに充分だった。
研究施設で生活する若い男性所員達が、セシルの話相手だった。彼等はセシルに好意的な感情を抱いており、それがどのような種類の感情なのか、セシル自身も知っていた。セシルは束の間の不安を忘れようと、何人かの男性所員と一夜を共にした。次の朝、父はセシルを激しく叱ったが、数時間後には忘れている。そしてまた彼女の肉体を、厭らしく求めるのだ。

奇妙な事に、セシルに好意を抱いていた男性所員も、彼女と一夜を共にした事を忘れていた。否、それだけではない。数日前に交わした会話さえ覚えていないのだ。男性不信。当時のセシルを表現するのに、それほど相応しい単語は存在しない。不信感を掻き毟るように、セシルは施設内の男性所員に次々と抱かれた。しかし、やはり誰も覚えていない。奇妙な噂が流れる事は無かったが、セシルは自分で自覚する。己の身は男性所員の性処理の為に存在していると。虚無。それ以外に生きている理由が見当たらない。緩やかに成熟し始めたばかりの彼女の青い肉体は、その実、既に男達の手垢に塗れていた。セシルは手を洗ったが、もう何一つ汚れは落ちない気がした。あまりにも虚しくて、セシルは泣いた。「どうしたの?」

声をかけたのは日本人研究員。男だった。
話した事も無い。日本人女性の血を引くセシルだったが、母に会った事は無く、父の影響から白人男性とばかり話していた。当然、一夜を共にしたのも白人男性ばかりだった。セシルは普段の習慣で、その日の内に日本人男性を寝室に招いた。ところが男は、セシルを拒絶した。激しく叱ったのだ。父のように、叱り終わった後に、抱き締めるような真似もしなかった。只、セシルの行動を叱ったのだ。直感的に、セシルは恋に落ちた。幼すぎる恋である。

だが、それはセシルにとっての初恋だった。
男の名前は安倉。その数年後、セシルと安倉は結婚する。結婚と同時に安倉は施設を辞め、一般企業に就職した。恐らく父の影響を受けたくなかったのだ。結婚生活はセシルにとって素晴らしいものだった。長年に渡る父の呪縛から解放された気がした。ところが――。

二十二年前、セシル・ノートンは命を身篭った。
再び、セシルは我が身を呪った。己の肉体を呪った。流れる血を呪った。
父がセシルの腹に手を当て、命を"E"と呼ぶ度に、寒気がした。過度のストレス。
セシルは命を殺した。故意に、では無い。それは死産だった。それ以上の意味は無い。
確かに"E"は死んだのだ。

「エリカは、幸せじゃないのか……?」

今頃、エリカはパーティーに出席している。
笑っているかな。笑っていると良い。恋人とは仲直り出来ただろうか。
その恋人は"キリシマ"の息子だ。だけれどエリカには、そんな事、きっと関係ない。

(幼馴染のキスよ! 早く帰れば! バイバイ!)

思い出すと、何故か笑ってしまう。深刻な話の最中なのに。
エリカは笑っている。懸命に。今を。恋に恋をしながら。真っ直ぐに愛を求めながら。
「おばさんは今、エリカが生きてて、幸せじゃないの?」
「……ううん、幸せよ」
「僕もだよ」

小さく、笑った。
終わり無く続けられる、深刻な話の最中に。
僕等の過去が何であろうと、おばさんはエリカの母親で、僕はエリカの幼馴染だ。
笑えよ、エリカ。

――死産した"E"は、ノートン博士の手によって蘇生する。
蘇生した実験体のコード・ネームは"E_Reincarnation"……すなわち"Eの輪廻"。
略称は――"エリカ"。

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