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三日目:蜜編 現在 59話

"F"の肉体からは生まれながらにして、ソレが欠落していた。
生まれながらにして。人間の手によって故意に生み出されたのだ。生まれた、とは言い難い。未完成のまま、"F"はオレンジ色の培養液の中から取り出された。先天性色素欠乏症。組み込まれる予定だった"C"のテロメラーゼを"E"に全利用した為に、欠落した"F"の全身は生まれながらに白く透き通っており、頭髪さえも白かった。生物としての成長に支障がある訳ではなく、ノートン博士は"F"を一般的な幼児と同じように育てる為に、笠原を観察責任者とした。


【M線上のアリア】 現在/59


「一体、どういう事なのッ!?」

数ヶ月、遡る。"E"の蘇生の翌日、下膨れの婦人が医務室に乗り込んでくるのを、セシルは見た。婦人は派手な(決して趣味が良いとは評価し難い)紫色のドレスに身を包み、ヒステリックな声を上げながら医務室の扉を開いた。斉藤清子。斉藤財閥総帥・斉藤忠義の婦人、その人であった。斉藤婦人は叫んだ。「今すぐ、あの人を連れてきなさい!」

"F"を複製する際に、胚性幹細胞を提供したのは彼女だった。スクリプト――細胞の不老化に興味を持った婦人は、莫大な資金以外にも協力を惜しもうとはしなかった。否、理由はそれだけではあるまい。婦人と父、ジェームス・ニコラ・ノートンが昔から愛人関係にあるという噂は、セシルの耳にも入っていた。その頃にはセシルも「母親は実際に死んだ訳ではない」という真実を聞かされていたから、昔から父と下膨れの婦人が愛人関係にあるという噂を聞く度に、父に対する不信感は募った。「早く、あの人を呼びなさい!」……何故、斉藤婦人が父を"ノートン博士"ではなく、わざわざ人前で"あの人"と呼ぶのか。今ならば、よく解る。

独占欲。所有した気になっているのか。
残念ながら、父の心は一秒たりとも、斉藤夫人などに向けられてはいない。その事実を感じる瞬間、セシルの胸は痛む。父は、今も愛しているのだ、母を。信じるに値しない父。娘を犯し、犯した事さえ忘れる父。それでも父が母を愛しているのだと感じる瞬間、セシルは深く安心するのだ。そして、父を憎もうとする自分に、胸を痛める。早く、母がカエってくると良いのに。

「これはこれは、奥様、お待たせしましたね」

父は扉を開け、医務室に足を踏み入れると、片手を上げた。セシルはベッドの中で、何故か息を殺し、毛布で自分の口元を隠した。「まぁ、そちらのソファにおかけください」父の声。

「随分と呑気ね、貴方。"C"を失ったという事が、どういう意味か、理解なさって?」
「失った訳ではありません。"E"に組み込まれて、ちゃんと生きてますよ」
「そんな話をしたい訳では無いわ。何故、"E"を生かしたのかと聞いてるの。随分、約束が違うわね。"F"は私にくれるはずじゃなかったかしら? "E"を生かしても仕方がないわね、今すぐ駆除なさいな。それとも、まさか貴方、今でも霧島桐子を呼び戻す気じゃないでしょうね?」
「まさか……」言いかけて、父は小さく咳払いをした。

「"E"は、重要な実験体です。現段階で駆除する訳にはいきません。いずれ奥様の役にも立つでしょう。"F"の件であれば、ご心配なく。"C"と同種のテロメラーゼは"D"にも発現しております。時期が来れば、"F"に組み込む事も可能かと……」
「"D"? 初めて聞いたわね。じゃあ、それを今すぐ"F"に組み込みなさい」
「残念ながら現段階では不可能です。"D"と"F"では、性別が違うのですよ。異性間での移植は、まだ不確定要素が多いのです。以後のアクセプトさえも不可能になるかもしれませんし、コギトの干渉値も予想できません。だが、ご安心を。"C"は現在、クレイの中に存在します」
「クレイ? ……まさか、クレイ・ノートン?」

カーテンの向こう側にいる父は、その時、何も言わなかった。
セシルは、只、小さな疑問だけを抱いた。クレイ・ノートン? 初めて聞く名前。
次の瞬間、斉藤夫人の高笑いが、小さな疑問を吹き飛ばした。小さな疑問のままにしておけば、セシルはその後の二十二年間、それ以上の胸の痛みを感じなくて済んだかもしれない。

「自分の息子に"D"を組み込んで、そのまま冷凍しておくなんて!」

斉藤夫人は愉快そうに笑った。
その下品な笑い声が医務室に響いて、思わずセシルは吐き出しそうになった。
息子? 誰? 疑問は猜疑に変わり、そのまま確信に変わった。昔、一夜を共にした男(それは長年、此処に勤めている男だった)から聞いた、研究施設に流れる噂。キリコ・ノートンは男女の双子を出産した。だが男児は生後、間も無く死んだ。ところが実際、その事実を確認した者は、今も昔も存在しない。男児も、その死を確認した者も、何処にも存在しなかったのだ。「単なる噂さ。それに君が存在していれば、僕は満足さ」一夜を共にした男は笑った。

キリコが生んだ双子の噂。
片方はセシル。もう片方は……。「貴方は最高だわ!」婦人の笑い声。
セシルは寝たフリをした。懸命に。父は"E"を死産した自分に、もう興味が無いかもしれない。それでもセシルは存在していたから、秘密を知った事を、父に知られてはいけなかった。

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