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三日目:蜜編 現在 60話

クレイ・ノートンは世界を見た事が無かった。
産み落とされた直後に彼の肉体は冷凍され、そのまま暗い穴に閉じ込められた。暗い穴が何なのか、彼には解らなかった。彼には双子の妹がいたが、彼がそれを知る由は無かったし、妹も兄の存在に気付く事は無かった。どちらが前で、どちらが後なのかも解らない暗闇の中で、クレイ・ノートンは数年間を過ごした。

次に彼が暗闇の中から取り出されたのは、"D"と呼ばれる冷凍された新生児(クレイ自身も冷凍された新生児であったが)の細胞を移植された日であった。何の為に移植されたのかは解らない。意識とも呼べぬ意識の中で、クレイは産声を上げようとしたが、声は出なかった。

生まれる事すら許されず、死ぬ事さえも許されず。
只、延々と続く暗闇の中に、再び彼は戻された。
クレイ・ノートンは世界を見た事が無かった。


【M線上のアリア】 現在/60


"E"の蘇生後、ジェームス・ニコラ・ノートンは次の可能性を示唆する。
動物対人間の"SNAKE"。擬似的なアクセプト。ヒトの魂が動物を経由し、最終的にヒトに帰結する。問題は、動物から受け渡される魂は、人間に移動可能なのか。人間は動物の魂を受け入れるのか。実験対象は"MIX_2"。

この時点で"MIX_2"の魂は、黒い鼠の中に存在していた。ヒトの魂を最終的にヒトに帰結させる為には、充分な年月をかけて、下等生物から人間に近い動物――猿へと緩慢に魂を移動していく必要があった。金魚、蛙、鼠……と段階を経て、最終的に猿対人間で"SNAKE"する方法を取るのが、魂をヒトに帰結させる為の最も有効で現実的な発想だった。当時の研究施設の技術を結集し、"MIX_2"の魂が再びヒトに帰結するまで、必要と考えられていた予想年数は、二十年。ところがジェームス・ニコラ・ノートンは、十年以内に"MIX_2"の魂を半強制的に人間に"SNAKE"するという無謀な計画を発表する。

背景にあったのは、斉藤財閥からの圧力。
斉藤夫人――斉藤清子は、スクリプトによる細胞の不老化に期待していたが、最終的には、より若く、より美しい、別の肉体に自らの魂をアクセプトする事を希望していた。ノートン博士が斉藤清子に約束していたのは、無限分裂寿命細胞を組み込んだ肉体を用意する事。すなわちテロメラーゼを発現させた新生児の細胞を組み込んだ肉体を、彼女に捧げる事だった。

それが――"F"。
斉藤清子にとって"F"とは、己の魂を移動させる為の容器だった。
ところがノートン博士は"C"のテロメラーゼを"E"の蘇生に全利用する。残りのテロメラーゼは"D"――すなわち「クレイ・ノートンの体内に組み込まれたテロメラーゼ」しか存在しなかったのだ。テロメラーゼは人間の体内では22歳時に成長のピークを迎える。要するに22歳以降は、どれだけ年齢を重ねても不老化しない。コギトの干渉を受ける問題は解決していないが、斉藤清子がアクセプト(人間対人間の"SNAKE")するのは"F"が22歳になる頃が望ましい、という見通しは立っていた。二十二年間でアクセプトの技術を確立していけば良い。問題点は一つ。その時点で"F"の体内にテロメラーゼが組み込まれていない事だった。

完全なるテロメラーゼを発現させた四体の新生児の中で、残っているのは"D"のみ。
"D"のテロメラーゼを"F"に移動する。それは当時の技術では不可能だった。異性間でテロメラーゼを移動するとコギトの干渉を受け、以後のアクセプトを難しくするかもしれなかった。しかし資金提供元の斉藤財閥――斉藤清子を納得させるには、クレイ・ノートンの体内に組み込まれたテロメラーゼを、22歳まで成長させる必要があった。ノートン博士は動物対人間での"SNAKE"計画と並行して、クレイ・ノートン(="D")の再解凍・育成を開始する。

この頃、ノートン博士はアメリカに住居を構え、娘夫婦が"E"を連れてアメリカに移住する。
"MIX_2"の魂は、四年間に五種類の動物を経由した。同時期、解凍された新生児・クレイ・ノートンは、機械に管理された地下研究室の中で成長する。驚異的な事に、"D"――すなわち完全なテロメラーゼが組み込まれたクレイ・ノートンの肉体は成長効率が異常に高く、一週間以上に渡って食事を与えなくとも空腹を覚えず、適度な運動を怠った場合にも筋力の衰えは緩やかであり、負傷時の治癒能力も高く、全般的な学習能力、中でも記憶能力に優れていた。(同様の現象は"B"でも発現しており、ノートン博士は「補給を必要としない人体兵器」の可能性を見い出し、その実験体として"B"を利用する事となる)

ノートン博士は、動物対人間の"SNAKE"を強制実行する。この時点で"MIX_2"の魂は、真黒な羊の中に宿っていた。羊対人間での"SNAKE"の成功率は低く、結果は絶望的に見えた。誰もが霧島桐子の悲劇を思い浮かべた。しかし……この絶望的な"SNAKE"は成功する。

実験の成功に際して、研究施設内では不思議な現象が起こった。
所員の大半が、この無謀な実験における、数日間の記憶を失っていたのである。記憶を失くした所員達は、培養液の中で眠るクレイ・ノートンの柔らかな金髪が真黒に染まっているのを、奇妙な面持ちで眺めたという。彼が目を覚ました時、その青色だった瞳も、やはり黒色に変化していた。巨大な水槽から培養液が抜かれ、やがて彼は生み出された。彼――。

こうして"D"を組み込んだクレイ・ノートンの肉体には、新たに"MIX_2"の魂が取り込まれた。ならばクレイ・ノートンの魂は何処へ行ったのか? 生まれる事すら許されず、死ぬ事さえも許されず。結局、クレイ・ノートンは世界を見た事が無かった。"彼"は水槽から立ち上がる。

最後の瞬間、クレイ・ノートンが見たのは、光。
暗闇から抜けるような、鮮やかな光。
只、それだけであった。

新生児のような産声を上げた肉体は、"蜜"と呼ばれた。

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