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一日目:蜜編 過去 02話

お腹を空かせた彼女を、僕はバイト先に連れて行く事にした。
安く食べさせてあげられると思ったからだけれど、考えてみるに彼女は無一文で、
仕方が無いから、奢ってあげる事にした。
僕は腹を空かせたペルシャ猫を放っておける性分ではないんだ。

「奢ってあげる、その代わり条件が二つある」
「なぁに?」
「名前を教えて。それから、歌を聴かせてよ」

「そうねぇ……」と考え込む仕草をして、彼女は笑った。
答は出ているのにわざと悩んだ仕草をしている、といった仕草だった。
赤信号が青色に代わり、僕らは並んで歩き始めた。
横断歩道の途中で、彼女は言った。

「みく子よ。それから歌は、お安い御用」


【M線上のアリア】過去/02


その時のみく子の食欲と言ったら。
もう目も当てられない。その日の稼ぎが全部飛んでいくかと思った。
いや、飛んでいった。お前どんだけ食うねん、と関西弁でツッコみたくなった。

ジャッキー・チェンの初期の映画に出てくる食堂でのジャッキーのように、みく子は食べた。
しかもその全ての皿を、美味そうに完食する。奢り甲斐があるというものだ。
まぁ、居酒屋の料理だから一品の量は(盛り皿でない限り)意外と少なかったりするし、
油モノは食べずに、あっさりとした料理を選んでいたから、食べ切れないという事はない。

それにしたって女の子にしては、食べすぎだ。
あの細い体の一体何処に、あれだけの量のもずくが吸収されているのだろう。
そして、あれは一体何杯目のもずくなのだろう。
僕は厨房の隅から、みく子が座る席を眺め、一人で感心していた。

「コラ、何ぼぅっと突っ立ってんの!」

突然、背後からの声と同時に、後頭部に鈍痛。
思わず「痛っ」と声を出すと、続けて笑い声が聞こえた。

「まだ忙しい時間帯じゃないから良いけど、何やってんの?」
「何だ、エリカか」
「何だ、エリカか、じゃないよ」

エリカは手に持っていたトレイをくるりと一回転させると、頬を膨らませた。
エリカは僕の幼馴染で、あろう事か今は同じ居酒屋でバイトをしている。
最近、好きな男が出来たとかで、割とテンション高めの日常を送っている。
まぁ、エリカの場合、常に恋多き女だけれど、今回はどうなる事か。

「別に、何もしてないよ」

横断歩道で見付けた女の子を連れてきて飯を食わせている、などと言ったら、
また面倒な詮索をされるのがオチなので、話を適当にごまかして、僕はフロアに出た。
周りの連中はエリカを可愛いなんて言ってるけれど、僕からしたら単なるお節介な女だ。

「飯、食った?」

僕はみく子の席に近付くと、皿を下げるフリをして、さりげなく聞いた。
みく子は満面の笑みで「食った!二日ぶり!満腹!」と言った。

「声が大きい!」
「あ、ごめん、満腹だったもので」
「じゃあ、二つ目の条件、歌を聴かせてよ」
「いいわよ、じゃあ仕事が終わったら、一緒に行きましょ」

みく子が当然のように言うので、僕は言葉を重ねた。

「何処に」
「路上に」

路上に行く、という表現も変だけれど、それは確かに正論で、
僕の仕事が終わるまで、みく子は席に座り続け、仕事が終わる十分前に店を出た。
もちろん、お金は先に、僕が払っておいた。

「蜜、今日A番? もう帰っちゃう?」

タイムカードを押して着替えようとしている僕に、エリカが声をかけた。
エリカと時間が合う時は、一緒に帰るようにしている。まぁ、家が近いから。
だけれどこの時の僕は、これから路上に歌を聴きにいかなければならない僕だったので、
当たり前のように「うん、今日はもう帰っちゃう」と答えた。

「エリカ、B番?」
「うん、まだ四時間も残ってる」
「まぁ、今日はあまり忙しくないし、頑張れよ」

この時、エリカは何かを悩んでいたのだろうけれど、何を悩んでいたのかは解らない。
エリカの事だから大半の悩みは恋に関する事で、好きな男の事で悩んでいたのだろう。
それとも、もっと深刻な……? いいや、それは無い。

店を出ると、息を吐き出した。
息を吐き出すと、それはわずかに白く煙っていた。
少しだけ寒気を伴った空気は、セロファン性の夜空を演出している。

「星、見えないね」

不意に、隣から声がした。
みく子だった。
みく子は星の無い星空を見上げながら、
……ああ、そうか。
まるで信号機を見上げるように星空を見上げながら、
僕の袖を掴んで、こう言ったんだ。

「じゃ、唄いにいこうか?」

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