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五日目:蜜編 過去 12話

或る時、僕は真黒な金魚だった。

名前は光。記憶はある。実験体として捧げた我が身。目を覚ました時、僕の手足は無くなっていた。否、感覚的には在る。だが人間のそれでは無い。それは優雅に水を掻き分け……泳いでいた。サカナ。僕はサカナになったのだ。何故? 最期の瞬間、僕は何を考えていた?――霧島桐子の目が覚める事。

そこは巨大な水槽だった。表面に反射する影を見て、僕は我が身を確認した。真黒。まさか金魚になるとは考えもしなかった。こんな時、人間であればどんな反応をするだろう。混乱し、発狂し、命を絶とうとするかもしれない。ところが我が身が金魚では、命を絶てる手段が無い。噛み切る舌も無ければ、吊れるような首も無い。切り刻む手首も無ければ、飛び降りる高さも無い。優雅だ、水中は只、優雅だ。それ以上、僕は何も考えずに泳いだ。

人間だけが唯一、自殺をする生物だなんて言うけれど、理由は案外こんなモノかもしれない。オレンジ色の水の中で呼吸をする。まだ馴れない。灯油を敷き詰めた浴槽に浸かりながらタール88mgの煙草を吸っている感覚に近い。何年間、そうしていたか解らない。

僕は水槽を眺める少女の姿に気付いた。
普段、水槽を眺めるのは、色気の無い男性研究員だけだった。
……霧島桐子? 否、幼い金髪の少女。しかし何処と無く、霧島桐子に似ている。

「はじめまして、私はセシル、君は誰?」

僕? 僕は光。声は出せない。だから僕は普段以上に、優雅に泳いでみせた。
少女――セシルは暇さえあれば、水槽を覗いて僕に会いにくるようになった。会いに来るというよりは、単に観察しに来ているに過ぎないのだろうが。それでも目的も無く泳ぎ続ける毎日の中で、少女が会いに来る時間は、ほんの少しの安らぎだった。霧島桐子に似ている少女。

窓さえ無い部屋で、点滴を受ける。傍には桐子。まだ人間だった頃。
僕は、それを思い出した。
桐子、君は今、何処に居る? 止まった時間の中は、どうだ?

寂しくは、ないか?


【M線上のアリア】 過去/12


或る時、僕は真黒な蛙だった。

どうやら魂を移動させられたらしい。信じ難い事だが、実際に人間から金魚になり、今は我が身が蛙なのだから、馬鹿でも理解できる。恐らく僕自身の肉体が変化した訳ではない。これは"魂を移動する実験"なのだ。馴れないカラダ。崩れたバランス。止まない嘔吐感。蛙。

僕は我が身が嫌いだった。
ヌラヌラと青く濡れる我が身が、僕は嫌いだった。声は出せるがゲロゲロと醜く、手足は生えたが短く、場所さえも水槽の中から、小さな箱の中に移動させられた。少女が僕に会いに来る事も無くなった。早く我が身を辞めてしまいたかった。醜い。愚かだ。気持ち悪い。

小さな箱の中にいても、人間達の会話は理解できる。
白衣に身を包んだ若い研究員達が、毎日、僕の様子を窺っている。
「"M2"は順調かね?」
神経質な声。流暢な、それでいて違和感のある日本語。ジェームス・ニコラ・ノートンの声。
小さな箱の中からでは、外の様子は見えない。所員達の会話だけが聴こえる。

「血圧・呼吸・脳波・脈拍・発汗・瞳孔、全て異常ありません」
「……ふむ、両生類への"SNAKE"にも耐えるとはね」

ニコラが自嘲気味に笑ったのを、僕は感じた。
ニコラ……桐子と結婚し、桐子に子を産ませ、桐子を停止させた男。
今の彼の本当の目的を、僕は知らない。ニコラは桐子の病気の進行を止めたかったのではないのか。桐子が停止した今、彼は何を求めようとしている? 「諸君、少し席を外したまえ」

誰もいなくなった研究室に、僕とニコラだけが残された。
「光……」箱の天井から声。見上げると、僕の見下ろすニコラの顔があった。
「君は"キリコ"を失いたくなかったかね……?」
ニコラは何を言っている? 返答したいが、醜い声しか出せない。
桐子を失いたくなかったか? 当然だ。それを奪ったのは貴様だ。

「私も失いたくなかったよ」

醜く鳴く。

「もしも取り戻せるならば」

ニコラは箱を覗くのを止め、僕から見えなくなった。
足音が聴こえる。それから……声。

「近くにいるか?」
「イエス」
「次の願いだ……」

……他に誰かいる!?
先程、所員達は全員、此処から出て行ったはず。
ニコラは穏やかな声(それでいて重たい声だった)で言葉を繋げた。

「魂を次の段階に移せるか?」
「無理だ、此処の記憶も溜まってきた頃だが、まだ足りない」
「そうか……」

ニコラは静かに呟いた。
足音が聞こえ、続けて扉が閉まる音が聞こえた。
無人の静寂が訪れ、僕は醜い喉を鳴らし、また無様に鳴いた。

ゲロゲロ。ゲロ。
ゲロゲロ。ゲロ。

その声は、何処にも響きはしなかった。

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