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五日目:蜜編 現在 63話

足下に巨大な穴が空く。恐れる必要は無い。自ら望んだ事だ。
僕は落下する。同時に大量の記憶の残骸が降って来る。塵とも呼べぬ欠片。欠片が集合し、新たな地形を生み出すように、再び記憶を形成している。僕は誰だ。陥没して――鈍痛。


【M線上のアリア】 現在/63


猫に頬を舐められて目が覚めた。此処は何処だ?
「……ゴミ臭ッ」
小さなビルの裏手。飲み屋通りの奥にある、野良猫達の溜まり場。此処が何処かは解ったが、此処に寝ている理由が解らない。何故、こんな場所で? 「猫……多いな」。独り言。
十数匹の野良猫が、僕を見ている。僕……は誰だっけ? 思い出せない。僕は何者で、何時から此処に寝ていた? 酔ってる? 否、酔ってない。まさかコレが噂の「……記憶喪失?」

すげぇ、本当にあるんだ。混乱と同時に若干、興奮する。自分が何者なのか解らない。なのに記憶を失くした感覚は記憶している。少し前まで、其処には何かが存在したはずなのだ、という感覚を知っている。「……何を忘れた?」。軽い頭痛。だが焦りは無い。晴れ晴れしい気分さえ漂っている。腕時計を見る。デジタル文字で表示された数字は正午を示している。その隣に「FRI」の文字。「金曜日?」……僕は何時から寝ていたのだろう。腹が減ったな。

濡れたアスファルトの上に両手を突いて、フラリと立ち上がる。ほとんど力が入らない。異常な空腹感。五日間くらい、何も食ってない気がする。そもそも何も食ってないという記憶すら無い。こんな時、まず何処へ行くべきなんだろう? 病院? 交番? とにかく腹が減った。

「喫茶店」。僕は一人で呟くと、宛も無く歩き始めた。背後から野良猫達の鳴き声が聞こえる。振り返る。何故、こんなに沢山の野良猫が? 何故、此処で寝ていたのかさえ覚えていない。それなのに喫茶店という単語は覚えているんだな。不思議なモンだ。

僕は驚くほど冷静だ。記憶喪失らしき状態にあるというのに。細い通りに出ると、小さな店が並んでいた。商店街。太陽は真上にある。そこで初めて、僕は自分が随分と汚れたスーツを着て歩いている事に気付いた。何故スーツ……。まさか僕はサラリーマンだったのだろうか。企業間のトラブルに巻き込まれ、暴力的な脅しを受け、瀕死の状態であの場所に棄てられ、記憶を失って目覚めたのでは……。それにしては何処かを怪我している訳でもない。

花の香り――。
花屋の前を通る。店員はいない。白い花。瞬間、柊。
柊が目に止まる。季節的には今時期か、まだ少し早い花かもしれない。
「てんちょ?のあほ?」。店の奥から声が聞こえた。まだ準備中なのかもしれない。

花屋の三件隣に喫茶店。扉を開けて店内に入る。……無意識なんだろうか? 此処に喫茶店がある事を、僕は知っていた気がする。「いらっしゃいませ」――どう見ても高校生のような男の子が挨拶をする。アルバイトだろうか。洒落た店内。奥のテーブルに座る。カウンター席には高価な酒瓶が並んでおり、夜になるとバー営業をしている事を窺がわせる。男の子が水と伝票をトレイに乗せて、近付いてきた。「ご注文は?」。金曜日は高校、休みなのかな?

「……あの、ご注文は?」
「え?」
「あ、ご注文です、何かございますか?」

高校生アルバイトらしき男の子は、何故か申し訳なさそうに言った。

「喫茶店といえばナポリタン」
「……あ、当店、和風喫茶店なので、ナポリタンは置いてないんです」
「え、本当に!?」

確かに店内は所々、和風を感じさせる装飾が施されている。
店の看板には「じゅごん:和風ダイニングバー」とまで書かれている。
仕方が無いので、僕は「和風キノコと海鮮のイタリアン風パスタ」を注文した。
結局、一周回ってイタリアン風なら、初めからそうすれば良いのに。

僕は落下する。同時に大量の記憶の残骸が降って来る。塵とも呼べぬ欠片。欠片が集合し、新たな地形を生み出すように、再び記憶を形成している。僕は誰だ。陥没して――鈍痛。

記憶が無い。不安も無い。意外と何とかなっている。
何故、不安さえ感じないのか、自分の名前を知らないように、理由は知らない。
キノコとパスタを呑気にフォークで巻きながら、僕は思った。……金は持っているのか?
慌ててジャケットの内ポケットに手を入れる。

財布はある。
中身を確認しようとして、気付く。
内ポケットの中……財布の他に、まだ何か入っている。

――通帳と印鑑。

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