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五日目:蜜編 過去 14話

そして或る時、僕は真黒な羊だった。
鼠を終えた後、四年間に五種類の動物を経由した僕の魂は、現在、羊の中に存在した。
cogito ergo sum――我思う、故に我あり。ルネ・デカルトの言葉だったか。僕の魂が何処に存在しようと、僕が僕を僕だと認識する限り、僕は僕だ。真黒な羊であろうと、僕は僕だ。

それでも考える。何故、僕は此処に居る?
余計な事は考えない方が良い。無駄に深遠な思考は、僕を死に導く。だけれど死ねる方法なんて此処には無い。首を吊るどころか、首を吊るロープを結ぶ事さえ出来ない。食事を拒否しようが、栄養注射を打たれるだけだろう。そもそも羊のカラダを壊したところで、また別の動物に魂を移されるだけだ。僕の魂は望んだ場所に行けず、僕は死ねないのだ。ならば――。

今在る我が身を、受け入れろ。


【M線上のアリア】 過去/14


所員達は、僕を人間だとは思っていない。
僕は彼等の会話を理解出来るが、僕が彼等の会話を理解している事を、彼等自身は忘れてしまっているようだ。否、忘れてしまっている訳ではあるまい。例えばマジック・ミラー越しに会話する場合、鏡の向こう側に誰かが存在する事を想定はするが、実際に目の前に座っている訳ではないから、警戒感は希薄になる。彼等は僕の目の前で、世間話に勤しんだ。

ニコラがアメリカに、新しい研究施設を設立した。この土地は大学になるのだと言う。此処はどうなる? 学生の研究棟として改築され、そのまま残るらしい。一昨年、ニコラは「一般動物に見られる遺伝的病症」なる論文を発表して学界に名を轟かせた。続けて「錐体細胞の波長認識メカニズム」を発表した事によって世界中から喝采を受け、その名を不動のモノにする。今やニコラは世界的権威と呼ばれる身となっていた。アメリカに研究施設を設立するのは、現在のニコラにとっても、アメリカ人であるニコラにとっても、自然な行動に思えた。娘夫婦は一足先に、数年前からアメリカに移住していたので、ニコラ自身の望む事だったのだろう。「……娘夫婦を愛しているのだとしたらな」。僕は心の中で呟いた。

ニコラに愛? 馬鹿らしい。奴ほど独善的な人間は存在しないし、奴ほど自己愛に満ちた人間も存在しない。霧島桐子は何を望んでいた? (結婚するのは正しい事なのかしら。次世代を産み育てるのは正しい事なのかしら。)あの日、確かに桐子は言った。ところが実際、桐子は結婚し、次世代を産み、そこで停止した。ニコラだけが今も生き長らえ、家族と名声を手に入れ、此処を離れようとしている。それが愛か? 誰に対する? 何に対する?

(君は"キリコ"を失いたくなかったかね……?)

蛙だった僕に呟いた、あのニコラの言葉。あれは独り言だったか?
(私も失いたくなかったよ。もしも取り戻せるならば……)
取り戻せるならば? 何をする気だ? 卑怯だ。醜い。汚い。僕だけを動けなくして、こんな場所に勝手に閉じ込めて、僕は桐子を救いに行く事が出来ない。こんなカラダでは取り戻す事が出来ない。ニコラが憎い。ニコラだけに取り戻す権利があるなんて、卑怯だ。僕だって。

僕だって救いたかったのだ、桐子を。

ニコラはアメリカに、羊を連れて行くそうだ。そんな所員達の噂話を耳にしたのは、数日後。何故? 冗談じゃない。敵国じゃないか。僕は何一つ忘れてなどいない。空中戦。 ゼロ戦が素早く旋回して、背後からの射撃。 爆発。落下。炎上。どうして生き残ってしまったのだろう? 何故、今、まだ生きている? 何故、今、まだ生きているんだ!

(光クン、何の為に生きてる?)

救いたい。救う事さえ出来ない。もどかしい程の我が身だ。生き恥を晒せと言うのか、ニコラ。貴様には救えて、僕には救えない愛すべき人を、最期まで見届けろと言うのか。それでも僕は羊だ。単なる真黒な羊だ。拒否する事さえ出来ない。我が身を捧げるのみだ。(誰に?)

出発の朝、僕は小さな檻から出された。数ヶ月振りだった。毎日、薄暗い檻の中で暮らしていたので、見慣れたはずの研究施設内さえ新鮮に見えた。アメリカに渡れば、二度と此処に戻る事は無いのだろうか。解らない。少なくとも戻ってくる頃、此処は大学になっているはずだ。

「博士、今日アメリカに行くんだって!?」

背後から元気な声。羊である僕は、その声に耳を動かした。聞き覚えのある、しかし少し成長した、女の子の声。僕が鼠だった頃に、よく聞いた声。「誰も教えてくれないんだもんなぁ!」。不貞腐れたように笑う。"ミクコ"。僕は振り返る。しかし――。

其処に立って居たのは、想像したのとは、少しだけ別の姿。
少女の肌は記憶よりも色素を若干濃くさせて、緩やかに丸いラインを描いた頬を桃色に染めていた。赤色の大きな瞳はそのままだが、真白だった頭髪は、照明を浴びて淡いオレンジ色に輝いている。そして何より……少女は霧島桐子の面影を、帯びていた。

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