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五日目:蜜編 現在 65話

「多分、君の恋人じゃないか?」

『呑処 お松』――僕は"デンコ"と名乗る女性に手を引かれ、事務所と思しき場所の一角に座らされ、何故か額には冷えピタシートを貼られていた。先程「熱は無いな」と言っていたのに、非常に奇妙な行動だ。「"さん付け"を忘れるな」と爽やかに笑いながら威嚇すると、彼女は僕の対面に腰を下した。僕の話を聞き終えると腕を組み、眉間にシワを寄せる。

「まぁ、アタシ等も会ったは無いけどね。君に彼女らしき女がいるってのはエリカから聞いてたし、この"カサハラミクコ"っての、多分、君の恋人じゃないか?」
「……僕の恋人?」
「お待たせしましたぁ」
従業員用入口から、別の声。
大きな紙袋を手に、清楚な雰囲気の女性が駆け込んでくる。
「おかえり、売ってた?」
「記憶喪失の薬なんて売ってる訳ないじゃない……だから色々買ってきちゃった」

先程、僕の額に冷えピタシートを貼った張本人――"カヨリ"と呼ばれた女性は紙袋の中から大量の薬と栄養剤を取り出した。「風邪薬なんて、効くかしら?」


【M線上のアリア】 現在/65


もしも"カサハラミクコ"が僕の恋人だとしても、僕には記憶が無い。隣に座ったカヨリさんが小さな欠伸をする。デンコさんは煙草に火を点けると、わざとらしく彼女を睨みながら「カヨリ、一昨日の夜、金持ちのパーティーに行ってたんだよ、まだ疲れてるんだ」と笑った。
「居酒屋の仕事、放っぽり出して」
「ううん、一昨日はファッションアドバイザーとして」
「はいはい、偉い偉い、デザイナーショップの仕事も頑張りな」
どうでも良いが、まるで緊張感が無い。これでは単なる世間話だ。遠くから包丁が何かを刻む音がする。仕込みの時間なのだろう。ほとんど無理矢理、風邪薬と栄養ドリンクを飲まされた立場としては、どうせならしっかり最後まで話を聞いて欲しい。

「じゃあ"トウヤマミツ"というのも、やっぱり僕の……?」
「……君、本当に記憶失くしてるんだな」
「デンコちゃん、やっぱり蜜くん、ちゃんと病院に連れてった方が……」
「いや……」と言葉を遮ると、デンコさんは机の上に置かれた通帳を指差した。
「中、見てみな」
通帳を手に取り、ページをめくるカヨリさんの呼吸が、一瞬、止まる。

「……な? 異常なんだよ。蜜くんの恋人が何やってる子か知らないけど、その通帳には一千万円以上ある。親の仕送りとかじゃないよ。そこに"JNL"って書いてあるだろ? それ普通に考えたら人名じゃなくて、企業か何かだ。そこから毎月四四万円、振り込まれてる。そういうトコで働いてる子かもしれないけど、この振り込み自体は二十年くらい前から続いてるらしいね」
「最初のページで九百万円が移動されてる……」
「その通帳を、今、記憶を失くした蜜くんが持っている。それが異常なんだ」
「……事件に巻き込まれてる?」
「さぁね、どちらにせよ、迂闊に病院に連れて行ってやる訳にはいかないね」

カヨリさんの手から通帳を奪い取ると、片手でパチンと小気味良い音を響かせながら、デンコさんはページを閉じた。真っ直ぐに僕の目を見る。「蜜くんは、アタシ達が助けてやるよ」
煙草を吸い込みながら、小さく笑う。

「大体、記憶なんてのは曖昧なモンさ。特に自分の記憶なんてモンはね。自分じゃ覚えてる気になってる事でも、まったく記憶違いなんて事がザラにある。一方で自分じゃ忘れてる事を、他人が覚えてくれてる。自分の記憶が自分を作るんじゃないのさ。他人の記憶が自分を作るんだよ。蜜くん、アンタが自分を全部忘れちまっても、アタシ達が覚えてるからね」

煙を吐き出し、また笑う。
「安心してね、蜜くん」……言いながらカヨリさんが、僕の額の冷えピタシートを取り替える。別に風邪でも、熱がある訳でも無いのだが。為すがままに。されるがままに。
「大体、アタシの小学生の頃なんてさぁ、自分じゃ全然覚えてないのに、これがまた、カヨリがよく覚えてんだよ、アタシの小二の給食時間の失敗談とかさぁ……」
「あ、ごめんね蜜くん、覚えてないかもしれないけど、この話、長くなるから」
何故か横目でカヨリさんが謝り、デンコさんは話し続けた。僕は出来るだけ口を挟まぬようにして、その世間話という名の嵐が過ぎ去るのを待った。壁時計の長針が三十分経過を伝える頃に、その嵐は止んだ。「……という訳だったんだよ」
「とてもスリリングでカタルシス満載の良い話でした」
「だろ! 蜜くん、記憶無くても良い奴だな! 勝手に仕事辞めたけど!」
「ちょっと、デンコちゃん……」

デンコさんは豪快に笑いながら、僕の頭を撫でる。「酒、飲んじゃおうか?」
「いやいやいや……」
「仕事前でしょ、もう。飲んじゃ駄目よ」
カヨリさんが制止したが、理由は仕事前だからじゃなく、真面目な話の最中だからでは無いのだろうか。……とは言え何故か、その一連の会話に少しも違和感は無い。自然だ。初めて会ったのに、ずっと前から知っているような、という言葉がシックリ来る。事実、ずっと前から二人を知っているらしいのだが、今の僕にとっては、初めて会った人達と言うに等しい。

「あ、そういえば……」
デンコさんが思い出したかのように言う。
「"カサハラミクコ"……どっかで聞いた事ある名前だなぁ」
腕を組み直して天井を見上げるデンコさんを見て、カヨリさんが恍けた顔で言う。
「みく子ちゃんなら、そこの路地でよく歌ってる子じゃない」
その台詞を聞いた瞬間のデンコさんの表情を、僕は携帯カメラで撮影したいと思った。

「ああ! そうか! 路上のみく子! へぇ、あの子、君の恋人なのか!?」

席を立ち、少し興奮気味に僕の肩を揺するデンコさんに、僕は一言。

「いや、だから僕、記憶ないんで……」

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