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五日目:蜜編 過去 15話

羊は放牧される存在であるべきだ。
そうでなければ狼少年が「狼が来たぞ」と叫ぶ理由が無くなってしまう。羊が放牧されているから、狼が来たら困るのである。羊は守るべき存在である。ならば何故、人間は羊を守る?

民家で飼われる羊とは珍しい。
アメリカで過ごしている僕が、そうだった。僕はニコラの娘夫婦と共に、民家で暮らしていた。民家と呼ぶほど狭くも無いが、豪邸と呼ぶほど広い訳でも無い。異国の田舎町の片隅に、家族は暮らしていた。これが自分達が戦っていた国かと思うほど、呑気な空気が流れていた。


【M線上のアリア】 過去/15


娘夫婦は僕を家族のように(実際には純然たるペットとして)受け入れた。ニコラは建設したばかりの研究施設に入り浸り、ほとんど家には顔を出さない。狭くもなく広くもない家の中で羊を飼うという事は、それを家畜ではなく家族として受け入れている事に他ならない。僕が実験体という事を、家族は知っているのだろうか。主人――安倉は元研究所員だった。知らない訳が無いだろう。妻はニコラの娘。セシル。鼠だった頃の僕に、よく話しかけていた少女。

大きくなったな……と羊の身で奇妙な感慨に耽る。彼女は、僕が鼠だった事も、僕が実験体だという事も、知らない気がする。あくまでもペットとして(家族の一員として)僕に接する。
日本の施設に居た頃からは想像できない。人間に近い暮らしだ。

娘が一人いる。青色の瞳の少女。エリカ。
エリカは研究施設で産まれて間も無く、ニコラより一足先に、娘夫婦に連れられてアメリカに移住した。既に異国での生活に馴れている。というより初めから異国の少女だと言われても違和感は無い。英語も流暢に話すし、日本語も普通に話す。

「Hello! I'm Erica. Who are you?」
エリカが初めて、僕に話しかけた台詞。無論、僕は返答をしなかった。羊なのだから、出来る訳がない。エリカは僕の真黒な毛並に手を埋めると、異国の感嘆符で驚き、そのまま頭を埋めて眠った。その日から僕はエリカの安眠枕になったのだ。

エリカは僕を日本語で「羊」と呼んだ。どうやら、それが僕の名前であるようだった。
家族の一員として受け入れられる内に、此処での生活も悪くないと思うようになった。魂を移動させられる身となって早数十年、そんな風に感じたのは鼠として生活していた時と、現在。

僕が此処で暮らした期間は、半年にも満たなかった。
魂の移動期間が狭まってきている。金魚から蛙を経て鼠まで、とても緩やかだった間隔は、その後の四年間で八種類の動物を移動したように、かなり狭まってきている。ニコラは焦っているのだ、何かを。日本で耳にした所員達の噂話では、原因は斉藤財閥からの圧力。しかし此処での穏やかな生活では、その噂話を耳にする事が出来ない。一体、何が起きている?

或る夜、ニコラは家に顔を出した。見たくもない顔だ。家族は彼を優しく出迎え、共に食事をした。研究が一段落した? その逆。実験の準備が整ったのだ。すなわち――次の魂の移動。

深夜、皆が寝静まった頃、ニコラは僕の元に来た。
僕は起きていた。ニコラがいるからこそ眠れなかったのだ。
「光、聞こえているか……」
ニコラは僕の隣に座り、酷く小さく静かな声で、語り始めた。
「次の"SNAKE"は危険だ……失敗するかもしれん。だが契約は完了したので大丈夫だと思う。日本では無理だった。あそこは食い尽くされていてね……私の責任だが。此処は豊潤だ。人も、記憶も、まだ新鮮なのだ。光、聞こえているか……もしもキリコを取り戻せるとしたら、君はどうするかね? 私は選ばんよ、手段を。悪魔にだって魂を売ろう。そして……」

目を伏せて、ニコラは言い澱んだ。

「子も、孫も、君も、全てを犠牲にするだろう」

立ち上がり、背中を向ける。

「光、君は明日、再び人間に戻るだろう」

扉に手をかけ、立ち止まる。

「私からキリコを奪えるかね?」

扉が閉まり、静寂。

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