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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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五日目:蜜編 現在 66話

「みく子ちゃんなら明日、路上ライブするみたいだけど?」

僕の額に三枚目の冷えピタシートを貼りながら、カヨリさんは恍けた表情で言う。デンコさんは僕の肩を揺らしたまま「何で知ってんだ!?」と派手に驚いて見せた。
「何でって……最近、色んな場所にチラシ貼ってあるじゃない」
「チラシ?」
「ポスターって言うの? 最近、よく見かけるわよ。商店街の店ならともかく、共都大学の案内板から、マックス・ドックスにまで貼ってあったもの。何だか大々的に宣伝してるじゃない」
「そんな大切な事、何で早く言わない!」
「だって、みく子ちゃんが蜜くんの彼女だなんて、今まで知らなかったもの」
「そりゃそうだけどさぁ!」

まったく話が見えて来ない。カサハラミクコが僕の恋人で、明日は路上ライブ? それで?
身に覚えの無い恋人が路上ライブをやると聞かされても、僕の記憶が戻る気配は一切無い。途方に暮れている間も、デンコさんの手によって、僕の両肩は揺すられ続けている。そろそろ酔いそうだ。「……あの、酔いそうです。あと、それ何の話ですか?」頭を前後に振られながら、長旅に疲れた宇宙人のような声で問う。「僕と一体、何の関係が?」

「君、馬鹿だな! ライブに行けば、みく子に会えるだろ!」
「この通帳の事、訊けるのよ、蜜くん」
「ふぅん……」

別に通帳の事なんて気にしていない。僕の気がかりは、もっと別の部分にあって、どうして僕は記憶を失くしてるのか、という疑問も気がかりとは呼べず、記憶を取り戻したいという焦りも無い。只、自分が誰なのかさえ見失ってる僕は、一体これから何処へ進めば良いのだろう?

何処へ進みたいのかが、解らない。
僕が失くしたのは記憶か? 本当は、もっと別の何か――例えば意味や、目的や、手段――を失くしてしまったのではないか? 何の? 生きる為の。誰が? 「僕の?」否、少し違う。

救いたい人が、救われる為の。




ズンッ。




脳髄を直撃する、鈍痛。



【M線上のアリア】 現在/66


瞬間、目の前が真白になるような感覚。
「どうした、蜜くん?」
「いや……」
遅すぎる――真白な感覚の中で、僕の頭に浮かんだ言葉。"遅すぎる"。何が?
無意識に腕時計を眺める。デジタル文字。FRI。金曜日。「……もう遅すぎる?」だから何が。理由の見当たらぬ焦燥。不安。悔恨。これは何に対する感情だ。見られている……何かに。
何に? 解らないけれど見られている、先程から延々と。僕の脳髄の奥から延々と。誰に?

「遅すぎるって何が? 路上ライブは明日だぞ?」
「ヤバイ……壊れる」
「おい……どうした? 具合悪いのか? おいカヨリ! やっぱり救急車ッ……」
「待って、デンコさん……」

解らない。解らない。何に対する感情なのかが解らない。解らないのに不安だ。心臓が血液を全身に供給している。驚く程の異常な速度で。焦っている? 何に? 解らない。解らない。とにかく。とにかく。とにかく。とにかく……ッ!


「……遅すぎる」


「え?」




ズンッ。




「……もう遅すぎるんだよッ! もう全部が終わった後だ! もう手遅れなんだよ! もう金曜日なんだよ! もう全部とっくに終わっちまってる! 今更、僕には何も出来ないじゃないか! 何にも出来ない! 何も! もう僕には何も出来ないんだよ! 何で出来ないんだ!? 何で出来なかったんだ!? これが僕の望んだ結果なのか!? 何でだよ! 何で遅すぎるんだ!」

何の話だ。よく解らない。よく解らないけれど、僕は吼えた。心の中で渦を巻いているらしき焦燥と、不安と、悔恨を吼えた。自分が何に対して吼えているのかさえ、何も解らない。

「……何だそれ、蜜くん」
「……もう遅すぎる……もう何も出来ないんだ」
「……それ、明日のみく子の路上ライブと、何か関係あんのかい?」
「……僕には何も出来ないんだ」

――瞬間、突風。
肌を打ち付ける衝突音。追随する激痛。頭ではなく頬に、突き抜けるような激痛。
「馬鹿か、君は」
暗闇から声。デンコさんの声。瞼を開く。打ち付けたばかりの掌を、僕の襟首に伸ばす。

「出来ない事を馬鹿みたいに、出来ない出来ない言うんじゃないよ! 出来ない事は、出来ないから、出来ない事なのさ! あれが出来なかった? これが出来なかった? 出来なかった事は、出来なかった事だから、出来なかった事なのさ! そんなに難しい事かい!? 君は何だ!? 出来なかった事を数えながら生きていくのかい!? じゃあ訊くが、何なら出来る!? 今、自分に何が出来るのかを考えろ! 今、考えろ! もう手遅れだ!? 遅すぎる!? ……ふざけるんじゃないよ! そんな仕事を教えた覚えは無いね! 今すぐ出て行きな! そこら中にチラシが貼ってるみたいだから、しっかり自分の行先でも確認しておくんだね!」

デンコさんは襟首を持ち上げると、そのまま僕を引き摺り、出口へと歩いた。「早く帰れ!」
強引に店の外に放り出されると、扉は閉められ、僕は無様に地面に転がった。

「痛ぇ……」

……何だ、今の一連の出来事は? 何だったのか急展開すぎて、よく解らない。
よく解らないから、僕は笑った。寝転んだまま笑った。何故か愉快だった。空は晴れている。
青空には、何も無い。何もだ。何も無い。台風一過の青空には今、秋の雲ひとつ見えない。
まるで何も見えないけれど――。

「……カサハラミクコに会えば良いんだな」

今、記憶を失くした僕に出来る事といえば、それだけだ。それだけならば、それだけを考えていれば良い。僕は立ち上がると、スーツの裾を手で払い、また歩き出した。商店街にポスターが貼ってあるならば、それを見てみよう。曲がり角で後を振り返る。赤い提灯が見えた。それからコッソリ此方を覗いているフタツの影も。僕は静かに、頭を下げる。結局、最後まで、よく解らない人達だった。失ったまま勝手に進んで行く、僕の記憶。それでも感じたのは……。

――「愛」
「……何言ってるの、デンコちゃん」
「愛だよ、最後に必要なのは、突き放す為の愛」
「……蜜ちゃん具合悪そうだったのに、本当にあれで良かったの?」
「具合なんて悪くないよ、あれは逃げようとしただけさ、蜜くん、きっと忘れようとしたんだ」
「……何を?」

真青な上空を、二羽のツグミが飛んでいく。
上昇気流に乗りながら緩やかに、やがて此処からは見えなくなる。
見えなくなっても、それは何処かの空を飛んでいる。只、見えなくなるだけだった。

「そりゃ愛を、だよ」

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