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五日目:蜜編 過去 19話

「解った……契約を結ぼう」

一度は戦争で失ったはずの命。それでも生き延びてしまった命。
何の為に生きているのかを、ずっと考えていた。桐子の為に死ねると思っていた。それは最期の日、あの瞬間にも。だけれど、やはり僕は生き延びた。金魚になり、蛙になり、鼠になり、醜い姿に魂を移されながら、生き延びた。ずっと考えていた。何の為に、誰の為に、生きられるのかと。0に無限大を掛けても1にはならないのならば、桐子。 僕は今、此処に――。

悪魔は肩を揺らして笑った。


【M線上のアリア】 過去/19


悪魔との会話は、まるで時が止まっているようだった。
その間も、慌しく所員達は周囲を動いていたが、僕等に気を留めようとはしなかった。目の前に浮かぶ、あの金髪の少年のカラダに、僕は入っていく。少年の記憶や、意志や、感情は、何処へ行くのだろう。多分、奪ってしまうのだろう、僕が。少年の死の上に、生きるのだろう。

「覚悟を決めたか、羊」

少し訊かせてくれ、僕の記憶は、死の直前に戻ってくるのか?

「否、正確には死の予定日より幾分早く戻る。熟成した葡萄酒は、封を開けた後で、暫らく空気に晒した方が、より旨味を増すモノだ。死の予定日から数えて、22に2を掛けて、2と2を足した数の2倍を引いた数。すなわち死の36日前に、お前の記憶は戻る」

それが22本の"小径"の完成日?

「イエス、死ぬまでには一ヶ月近くの猶予がある」

僕の死の予定日は何時なんだ?

「お前は非常に特異な魂を持っている。目の前にあるカラダ……お前が最期に魂を移動するカラダは、既に8本の"小径"を繋げているし、お前自身が誕生した日というのも複雑だ。最初に人間に生まれた日なのか、最期に人間に戻る今日なのか。だがお前の分岐点は明確だ。人間のカラダを離れた日。金魚が生まれた日。お前の魂の分岐点であり原点。其処がケテルだ。俺は、その日と同じ日を、お前の死の予定日と位置付ける」

僕が金魚になった日……?

「十一月十一日」

言い終えると、悪魔は愉快そうに笑った。
水槽が照明によって照らされ、少年のカラダがオレンジ色に浮かび上がった。電気音。小さく痙攣。続けて僕の脊髄に、柱のように太いケーブルが突き刺される。電流。全てが分解される感覚。緩慢に、急激に、ベリベリと音を立てて意識が離れていく感覚。悪魔よ、聞こえるか。
僕の記憶は、何処へ行く?

「何処へも行かない。只、現在から未来へ、相転移する。水蒸気が雨に変わり、降り落ちて、氷に変化するように。現在は過去に変わり、未来は現在に変わる。只、其処に、降り落ちる。それだけだ。それまでは俺にも、お前にも、触れる事さえ出来ない。現在にポッカリと穴を開けて、そのまま置いておくのさ。22本の"小径"が完成する日、お前はそれを受け取るだろう」

現在が過去と呼ばれる、現在?

「イエス。その現在で、お前は全てを取り戻し、俺も全てを取り戻す。この記憶も、この契約も、その熟成された全てを。俺とお前は、其処でもう一度、改めて、再会するだろう。羊、最期に俺の名を教えよう。そして呼べ。取り戻した先で思い出せ。羊、俺達は共生関係に入った」

名前?

「悪魔と人間の契約関係ではあるが。ならばお前は、俺を人格として認めなければいけない。生物は名前を呼ばれて、初めて本当の意味で生き始めると思わないかね? 羊、お前と俺を分かつ為の名前だよ。名前が俺の命になる。名前を呼べ、羊、それが我が命だ」

命?

「名前を呼べ、羊、それが我が命だ」

電流は全てを分解し、全てを流して往く。跡形も無く。綺麗に。だけれど、其処に何も無かった訳ではない。何かは確実に存在した。存在した事を忘れたくは無いんだ。儚き記憶よ、命よ。流され、埋もれ、消え去っても、其処に存在した事を、僕は忘れたくはない。思い出せ、必ず。何処かで思い出せ。少年の髪が黒く染まって往くのを、僕は見た。瞬間、僕の意識も黒く、黒く、急速に塗り潰されて往った。――刹那、オレンジ色。

何故、"ミクコ"の髪は、オレンジ色に変化していた……?
白化していた肌は薄紅色に染まり……まるで桐子の面影を……まさか!
悪魔の契約に汚染されていた……それは、そういう意味なのでは無いのか……?
気付いてしまった。だが遅すぎる。今は訪れる黒に身を任せるだけ。全てを取り戻す日まで。

「我が名は"ヴィンセント"だ、決して忘れるな」

声が聞こえた。悪魔の声だ。
漆黒に染められていく意識の中で、その声だけは鮮明に。
0に無限大を掛けても1にはならないのならば、桐子。 僕は今、此処に――。
今、此処に1を植え、22本の枝葉を育てよう。

もしも僕等が目覚めたならば、その無限大で、僕等の世界を変えてしまおう。

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