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五日目:蜜編 現在 72話

「痛たたたた!」

頭に包帯を巻かれながら、僕は大袈裟な声を出した。
「拳銃で撃たれても平気なのに、痛いんだね」
両手でクルクルと器用に包帯を巻きながら、ミクコが小さく笑う。
「そりゃそうだよ、人間なんだから……」
人間。拳銃で撃たれても死なない人間。ほとんど漫画みたいだな。

「……ありがと」

巻く手を休めずに、助け出した時と同じ台詞を、ミクコは静かに呟いた。
安いラブホテルの一室。家に帰るのは危険と判断した僕等は、其処に泊まる事にした。
無論、僕の財布には千円程度しか入っておらず、ミクコが金を出した。通帳と印鑑。ミクコは、あの金に一円も手を付けていなかったんだな。様々な出来事の意味が解りすぎる、今は。

「……蜜クン、少し痩せたね」
「ん、そうかな?」
「うん」

久し振りのような気がするが、まだ一週間も経ってはいない。それでも解るのは、ミクコの肌が、数日前より更に白くなっている事。ミクコの白化は、現在も進行している。
「動いたら上手に巻けないよ……」
「ん、適当で良いよ」
僕等の会話は若干、ぎこちない。それもそうだ。出て行った女を連れ戻しに来た男。問題が解決する前に連れ戻された女。僕等はそれだ。ミクコの目の前で僕は撃たれた。それに関して、ミクコは何も言わない。疑問を抱こうともしていない。ミクコの手を止め、僕は問いかける。

「……君は、何処まで思い出したんだ?」

ミクコは表情も変えず。

「ん……ほとんど、全て……」


【M線上のアリア】 現在/72


只、包帯を巻く。
その頃、霧島桐子が、燈山光に、そうしていたように。

「ほとんど、全てか……」

悪魔との契約者。ミクコは、そうだった。何時から? 少なくとも僕が羊だった頃から。そして今、僕が悪魔と契約している事も、ミクコは既に知っている。白化の原因。それは契約破棄に他ならない。ヴィンセントは言った。

(第三者の手によって記憶を取り戻すなら、それは例外だ)
(……どういう意味だ?)
(例えば俺が食った、羊、お前の記憶をだよ。それを別の羊が取り戻そうとする。何の為に? それは知らぬ。だが、悪魔が食った記憶を、まったく元の状態に戻す方法は一つだ。別の羊が悪魔と契約して、自分の記憶の代償として、お前の記憶を取り戻す。たったそれだけだ)
(……そうすると、どうなる?)
(お前の記憶はまったく元の状態に戻るよ。非常に喜ばしい事だ。だが、そうなった場合、俺とお前の元々の契約はどうなる? お前は俺から得た代償を完全に失う。それが契約破棄だ)
(……何処かで誰かの記憶は食われているのに?)
(当然)

今、ヴィンセントの姿は見えない。あの後、僕等を地上に降ろすと、何処かへと飛び去った。個人タクシーみたいな奴だ。……ミクコの記憶を取り戻そうとした第三者。それも悪魔との契約者。大学の図書室にいた男――三男が、多分そうなんだろう。三男は、ミクコに何を忘れて欲しくなかったのか。多分、恋心。誰かに忘れて欲しくない記憶など、誰でもそんなモノだ。

だが、生まれ付きの白化症状――アルビノを治す為に、ミクコは悪魔と契約を結んでいた。あの汚染された研究施設で。記憶を失くし続けていた。三男の契約によってミクコが記憶を取り戻すという事は、再びミクコが白化していくという事。そして今、ミクコには「ほとんど全て」の記憶が戻っている。それは即ち、ミクコの白化が間も無く完全な初期状態に戻るという事。

僕が鼠だった時、ミクコは笠原の監視の下、隔離されて生活していた。可能な限り人間的な生活を配慮されてはいたが、普通の環境では生きていられなかったのだ。極端に不足していた免疫。本来であれば、ミクコは22歳になるまで――僕の中の"D"が成熟するまで――施設で過ごさねばならなかったはずだ。ところがミクコの免疫は自己回復する。悪魔と契約を結んだからだ。ミクコは施設を出て、笠原が望んでいたように、通常の学校教育を受ける事さえ出来た。しかし十五歳の日に再び"誤作動"する。再び白化が始まったのだ。再び監視された生活を余儀なくされた。だから脱出したのだ。高木の下へ逃げ込んだのだ。

ミクコの記憶は、治した年月と同じ年月を経て、緩慢に戻り始めた。
そして今、最終段階を迎えている。白化が一気に進行し、膨大な量の記憶が戻り始めている。それは何故か? ミクコ自身が契約の初期段階で、膨大な量の記憶を食わせたからに他ならない。残りは分割して食わせていたのだろう。分割契約。コルトの契約。

「蜜クン、見て、お風呂にジャグジーがあるよ」

壁の向こう側から声。
少し落ち着きを取り戻したミクコが、心なしか弾んだ声で言った。
「……ジャグジー?」
「最近、ゆっくり出来なかったからな……お風呂、入ってもいい?」
「ん、いいよ」
「一緒に入る……?」

「何言ってんだ」と笑い飛ばして、僕は少しだけ安心した。
ミクコが笑っていた事に対して。それでも問題の全てが解決した訳ではなく。
――蛇口を捻り、湯を溜める音が聴こえる。初めてミクコに触れた日を、僕は思い出した。
あの日は雨が降っていたな。雨の音が、シャワー音に紛れていた。今は、何も聴こえない。

只、湯を溜める音と、ミクコが服を脱ぐ音、それから僕の心音だけが、聴こえていた。

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