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五日目:蜜編 現在 74話

「蜜クン、お風呂、入らないの?」
「……頭に包帯、巻いて?」
「あ、そっか……」
ミクコは呟くと、少しだけ無理をして笑い、背中を見せた。
「ごめんね」
「……バカ、そういう意味じゃない」
それは細く、小さく、白い背中だった。僕はそれを抱き締めてしまいたかったけれど、止めた。触れると壊れてしまいそうだったし、第一、呑気に抱き締めているべき時では無かった。ミクコは元気に振る舞っているけれど、実際、そんなに余裕は無いはずだ。
「ミクコ……カラコン外してみなよ」
「……え?」
「付けてるんだろ、カラー・コンタクト?」
彼女は一度、僕から視線を外し、泣きそうな目をした後で、また僕を見た。完全に白化した、透き通るような肌。色素の抜けたオレンジ色の髪。なのに真黒なままの左目。白い指を眼球に添えると、右目のコンタクト・レンズを、そっと外す。……もう、そこまで進行しているのか。

ミクコの右目は、真赤だった。


【M線上のアリア】 現在/74


「……その身体で明日、唄う気なのか?」
コンタクト・レンズを付け直し、ミクコは顔を上げる。「……どういう意味?」
「見たよ、商店街のチラシ。明日、唄うんだろ。だけど、そんな体力、今の君には無いと思う。本当は立っているのが、やっとだろ。どうして、そんな無理をしてまで唄いたい?」
ミクコは何も言わない。
「皆にお別れしたいって理由なら、僕は止めるよ」

ミクコの指から、水滴が落ちた。
僕はベッドから起き上がり、一枚のバスタオルを取り出すと、ミクコの頭に乗せる。落ちそうになったバスタオルを、彼女は片手で押さえた。「……聴かせたいから」。タオルの内から、声。
「……思い出しちゃったんだ、色んな事、一気に」
「一気に?」契約破棄の影響か。急速に進行する白化と、記憶の回復。

「どうして歌を唄うようになったのかって、ずっと前に蜜クン、訊いたけど」
「訊いたね」
「思い出せなかったの、どうして唄ってるのか、最初の理由が」
僕は軟らかなソファに座ると、小さく息を吐いた。
「ギターを貰ったから唄い始めたって、君は言ったよ」
「誰かに歌を聴かせたかったのよ、多分」
「誰に?」

ミクコはバスタオルの中から顔を出すと、僕を見た。
「幼馴染に」
成程――何故だか全ての糸が繋がった気がして、僕は天井を見上げた。
「……幼馴染に、君の歌は、聴かせられなかった?」
「うん……それが多分、始まり」
始まりで、多分、終わり。終わらせられなかったままの、終わり。
「……その幼馴染、君の大学にいるだろ?」
「……どうして?」
「何となく」

悪魔と契約している第三者。契約破棄の原因。多分、それが幼馴染。
終わらせられなかったままの終わり。ミクコは記憶を……理由を失くしたまま唄い続けた。
「フタツだけ、質問させてくれ」
「……何?」
「明日の路上ライブは、皆にお別れする為のライブじゃない?」
「……うん」
「もうヒトツ。もし君の契約が無効になった原因が幼馴染だったとして、彼を恨まない?」
「……もちろん」

「そっか」と息を吐き出してで、僕はまた天井を見上げた。
「解ったよ、唄えよ」
ミクコは裸のままバスタオルを乗せて、立ち尽くしていた。
「……彼、だって」。不意に、ミクコは笑った。
「何だよ?」
「……全部知ってるのね、蜜クン……幼馴染が、男の子だって事まで。アタシが悪魔と契約を結んでいた事まで。君はたった数日間で、随分変わったね。ずっと単なる無職だったのに」
「単なる無職って言うな」
ミクコは静かに、だけれど嬉しそうに笑った。
ソファに座り、僕の肩に頭を乗せる。(何故だか、それは、とても自然な行動に思えた。)
「高木博士から聞いたよ……君が悪魔と契約してる事」
「……高木は無事だったのか」
「君が助けに来るんだって思った。覚悟を決めたはずだったのにね」
「アクセプトを受ける、覚悟か」
「校舎前で君の顔を見た時、覚悟が揺れちゃいそうになってね。本当は君が助けに来るのを待ってた自分に気付いちゃって、アタシね……ずるいね……アタシね……」
「……ミクコ」
「やっぱりね……死にたくないんだ……全部消えちゃうの、怖いんだ……」

ミクコは静かに、解れた細い糸のように、小さく泣いた。
もしも僕等の人生が一篇の――映画や小説のような――物語だったとしたら、これは何かを終わらせる為の物語だ。例えば、初恋を終わらせる為の物語だ。蜜にとってエリカとの初恋の。ミクコにとって幼馴染との初恋の。そして光とニコラにとっての……キリコを巡る初恋の。

「死なせない。消えさせるかよ」

もしも人間が死なずにいられるのなら――?
何も終わらせる必要は無い。こんな風に思う必要すら無い。
何時か必ず終わってしまうから、まだ僕は終わらせたく無いんだ。
終わらせたく無いから、こんなに愛しいんだ。

「幼馴染は、明日、聴きに来るかな?」
「どうかな……」
「明日、君は何の為に唄う?」

僕等はソファに座ったまま、暫くの間、まるで動かなかった。
ほとんど時間が止まったみたいに動かなかった。
ミクコが唇を動かして優しく答えたので、再び時間は動いた。

「大切な人達に、伝える為」

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