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一日目:蜜編 過去 05話

みく子には恋人がいた。
僕がそれを知ったのは、みく子の言葉からではなくて、みく子の歌からだった。
それはみく子の歌の節々から感じられる程度の存在感に過ぎなかったけれど、
僕にとっては大きすぎる存在感で、次第にみく子の歌を聴くのが辛くなった。

それでも彼女が屈託のない笑顔で歌うもんだから、僕は寂れた飲み屋通りの路地まで、
ほとんど毎日、彼女の歌を聴きに行くのを欠かさなかった。
曲と曲の合間に、みく子はよく会話をはさんだ。みく子を囲む十数人と、みく子は会話した。
もちろん全員が声を発する訳ではなくて、黙って話を聞いている者もいれば、
話の途中で立ち去ってしまう人もいるし、みく子と友達同然に話し込んでる者もいる。
僕は只、みく子の話を黙って聞いている一人に過ぎなかった。

「今度ねぇ、花屋でバイトしようと思ってんの」

みく子はカラカラと笑いながら、そう宣言した。
周りの男連中が「へぇ、何処で?」などと、食い付くように質問した。
花屋か。
みく子に似合っているような気がしない事もないが、
みく子は花を売るというよりも、みく子自身が花みたいな子だからな、と僕は思った。
みく子の恋人は、どんな男なんだろう? 花に水を与えられるような男なんだろうか?
もしも僕がみく子の恋人ならば、燦々と浴びせる太陽みたいになれたら良いのに、と思った。

雨が降ってきた。


【M線上のアリア】 過去/05


「きゃあ、雨だ雨だ、今日はもうおしまい!」

慌ててギターをケースにしまうと、みく子は突然の解散宣言をした。
十数人は一斉に立ち上がり、短く声を掛け合うと、一斉にその場から散った。
何となく立ち上がるタイミングを逃した僕は、突然の雨の下に一人だけ取り残された。

「通り雨だろ……」独り言のように呟くと、僕はゆっくりと立ち上がった。
雨に濡れようが、今更関係ないんだなぁ。あとは自分の家に帰るだけなんだから。
溜息混じりに歩き始めようとした瞬間、見慣れた何かが、視界の端に引っかかった。
小さな酒屋の隅(それは先程までみく子が座っていた場所の近く)に、カバンが置いてある。
それはみく子が普段、たすき掛けにしている大きなカバンだった。

酒屋の屋根のおかげで、辛うじて雨を逃れてはいるが、
持ち主に忘れ去られたカバンはほとんど捨て猫のように、ほとんど濡れてるように見えた。
僕はカバンに近付くと、それを拾い上げようとして、だけれどすぐに躊躇した。
みく子のカバンだ、と意識した瞬間、手が動かなくなった。

ザーザーザー。

ゴロゴロゴロ。

カランコロン。

次第に強さを増す雨の中で、みく子のカバンは、みく子自身だった。
雨足は次第に近くなり、遠くでは雷まで鳴り始めた。
風に倒された空缶が転がっている。

バシャバシャバシャ。
いや、近くなっているのは雨足だけでは無い。
路地の向こうから、水たまりを蹴るように走ってくる、誰かの足音。

「ひゃあ! 忘れ物! 忘れ物!」

曲がり角から現れたのは、ズブ濡れのみく子だった。
みく子はギター・ケースを抱えたまま立ち止まると、僕の存在に気付き、呼吸を整えた。

「あれ? 蜜クン、まだいたの?
 ああ、そうそう、コレ、このカバン忘れちゃったの!
 途中で気付いて走ってきたからさ、疲れちゃ……ゲホンゲホン」

台詞を言い切るまであと少し、というところで、みく子は咳き込んだ。
風邪をひいてるからではなくて、単に走って来たからだろう。
咳き込みながら、みく子は恥ずかしそうに笑った。

「それより蜜クン、ズブ濡れだよ? どうしたの?」
「……自分だって」

「アタシはいいの、カバンを取りに来たんだから」と言いながら、みく子は笑った。
酒屋の隅に置き忘れたカバンを大切そうに抱え上げ、手を当て「ごめんね」と呟いた。
瞬間、僕の中の血液が心臓に溜まって、そのまま止まりそうになった。

「……カバンをさ、見てたんだよ」
「ん?」
「カバンをさ、見てたんだ、君のカバンだよ」
「うん」

みく子は濡れたまま、僕の話を聞いていた。
僕は何故だか、どうしても何故だか、泣きたい気分になった。
僕はカバンを見ていただけなのに、そのような気分になっている僕を、奇妙に感じた。

「……そうしたら、何処にも動けなくなってしまった。
 雨が降っていてもあんまり関係なくてね、あとは家に帰るだけだし。
 だけどそれでも、それなのに、僕はココから動けなくなってしまったんだよ」

ザーザーザー。
これは夏の終わりの雨か? それとも秋の始まりの雨だっけ?
どちらだったのかよく解らないけれど、とにかく雨はしばらく止みそうになかった。

「この近くなんだ」

みく子はカバンを肩からかけると、最初にそう言った。

「え?」
「この近くなんだ、ワタシん家」
「うん」
「あのね蜜クン、ズブ濡れだよ」

それからカバンをたすき掛けにすると、彼女は僕を見て言った。

「家、来る?」

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