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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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六日目:蜜編 現在 77話

柊。魔除けの花。花言葉は「先見の明」。真白な花。
何時の頃からか、彼女がバイト先の花屋から好んで持って帰ってくる花は、真白な柊ばかりになっていた。それが魔除けの花ならば、恐らくその時期から彼女のカラダは、彼女と悪魔との契約を裏切って緩やかな白化を始めており、要するに彼女は"それ"を怖れていた。

やがて真白に飲み込まれてしまうだろう自分を怖れて、彼女は部屋に真白な花を飾った。
彼女は黒に憧れていた。全てを飲み込む黒。白さえも飲み込む黒。暗く、深い穴のような黒に憧れていた彼女は、その実、空虚で、怠慢で、惰性的な毎日を、どのようにして過ごしてきたのか。――唄う事。「そういう場所にこそ、歌って必要だと思わない?」。そう言ったのは彼女で、それを求めていたのも彼女だ。どうして彼女の唄を、人々は聴きたがっている?

白の中で黒を求め、それでも尚、白だ。ミクコは白く、それ故に怖れる。全ての記憶に埋め尽くされながら、真白に。それは完全なる完成であり、完全なる虚無だ。色を求めているのだ。
90395。「クロミクコ」と読むのだと言って、彼女は楽しそうに笑った。ミクコは黒色が好きだった。黒色のビニール袋に描かれた、黒色の不細工なネズミの絵のように。 ミクコは黒色が好きだった。 黒色の服に身を包んで、オレンジ色の長い髪を揺らす彼女が、僕は好きだった。

今、目の前に佇む彼女の肌は白く、髪は白く、アバンギャルドなパーマは濡れて、目は赤く。
それでも彼女が、僕は好きだった。


【M線上のアリア】 現在/77


「じゃあ、また後でね……」

退室時間が訪れ、僕等はホテルを出た。路上ライブまでの時間を、僕等は別々に過ごす事にした。ミクコは夕方から大学の先輩に会う約束をしていたらしいし、僕は一度、自宅に帰って、この汚れたスーツを着替えてしまいたかった。ニコラの関係者が僕等を捜している事は予想できたけれど、今更、あまり怖れる必要は無かった。彼女の髪は真白に染まり、それが最終段階である事を告げていたし、ならば別々に行動する方が安全かもしれなかったし、そもそもニコラが求めているアクセプトの意味は、多分……。

「……路上ライブ、来てくれる?」
「ん? もちろん」僕は意味もなく、何となく笑った。
「……蜜クン、お金ある? ちゃんとご飯、食べてないでしょ?」
「何の心配してんだよ、こんな時に……」

国道沿いの歩道。僕等の横を、車が通り過ぎていく。
ミクコは財布を取り出すと、千円札を二枚、僕の手に握らせた。
「要らないって」握らされた紙幣を差し戻す。僕の心配をしている場合なのか。第一、僕の腹は減っていない。頭の包帯を外してみると、撃たれた傷が、綺麗サッパリ治っていたように。
「要らないって、本当に」
「食べて、ちゃんと」
カラー・コンタクトを着けたミクコの目が本気だったので、僕は渋々、二枚の紙幣をポケットに入れた。「……へへ、お揃いになった」「何それ?」「アタシも今、所持金、二千円」言いながらミクコは楽しそうに笑った。何が楽しいのか解らない。
「だけど小銭もあるから、アタシの方が金持ちだ」
お揃い。別にお揃いを好むような習慣なんて、僕等の恋愛関係には無かった。それどころか彼女には専用のソファがあり、僕が座ると怒られるような有様だった。ところが、今。
「嬉しいのかな」
「……ん?」
「君と、僕の、何かが一緒だ、という事が」
ミクコは楽しそうに笑う。
「お腹空いて倒れちゃったら困るだけだよ」

横断歩道の信号が、青に変わるのが見えた。
赤信号になったら、どうなっちゃうんだろう? 何度でも待つのよ、青信号を。赤信号になる度に青信号を? そしてまた何度でも数えるの。何の為に? そうすれば、お腹が空くからよ。お腹が空いたら、どうすれば良いのかな?「ね、蜜クン。ちゃんとご飯、食べといてね」

彼女は笑って手を振ると、背中を向けて歩き始めようとした。
「……ミクコ!」呼び止める。声も出さずにミクコが振り返る。揺れるアバンギャルド。
「帰ったらさ……家に帰ったら、一緒にスープ飲もう」
「……スープ?」
「インスタントじゃない、時間をかけて、じっくり煮込んだスープ。作るんだよ、一緒にさ。面倒な手間隙かけてさ、作るんだよ、スープ。だから全部が終わったらさ、一緒に帰ろうな、家に」
「いいね、それ」

ミクコは笑うと、再び小さく手を振った。背中。真白に染まっていくミクコ。
白の中で黒を求め、それでも尚、白だ。ミクコは白く、それ故に怖れる。全ての記憶に埋め尽くされながら、真白に。それは完全なる完成であり、完全なる虚無だ。色を求めているのだ。

ああ、そういえば、彼女が唯一、ネットで仲良くなった男の子。
彼の名前も「黒」だった。ミクコはずっと「黒」に憧れていたのだな、と思った。
ミクコと黒ちゃんが一緒に考えていた、新しいビリヤードのルールは何だったっけ?
セブンス・レインボー・スプラッシュボール。それだ。どんなルールなのかイマイチよく解らないけれど、それは世界を素敵な色に染めてくれそうな名前だ、と思った。ミクコと黒ちゃんが、必ずチャットの最後、別れ際に言っていた台詞を、僕は思い出した。

「じゃあ、またな」

ミクコの背中を眺めながら、僕は呟いた。また後で。良い言葉だ。数時間後には、路上ライブが始まる。僕等はすぐに、また会えるだろう。大切な人達に伝える為の路上ライブ。彼女は黒に憧れていた。全てを飲み込む黒。白さえも飲み込む黒。暗く、深い穴のような黒に憧れていた彼女は、その実、空虚で、怠慢で、惰性的な毎日を、どのようにして過ごしてきたのか。

横断歩道の青信号が点滅するのを見て、僕は走った。
そして思った。
大切な人達に何かを伝えたいならば、彼女は生きなければならない。
全てが真白に飲み込まれていく世界の中で、叫ばなければならない。

そういう場所にこそ、歌は必要だ。

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