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六日目:蜜編 現在 78話

鍵を回し、扉を開く。
自宅に戻ると、僕は汚れたスーツを脱ぎ捨て、ジーパンに履き替えた。部屋を荒らされた形跡は無い。しかし「誰かが侵入したな」。独り言。空気が普段と違う。盗聴器でも取り付けられているだろうか。それとも感覚が鋭くなっただけだろうか。そういえば大学に傘を忘れてきたな。どうでも良い事を思い出した。オレンジ色のソファを見る。ソファの横に立て掛けられたままのギター。ミクコの奴、路上ライブ、演奏どうするんだろう。ギターに手を伸ばす。

「恋人との再会は、どうだった?」

ソファから声。気が付くとヴィンセントが座っている。脚と腕を同時に組み、片手で顎を支えると、人差し指でリズムを刻みながら、僕を見て微笑している。もう馴れた。「問題はこれから」
「問題? お前は試験でも受けているのかね」
「ああ、そうだな、試験でも受けている気分だね」
「素直に喜ぶといい。会いたかったのだろう、恋人に」
長袖のTシャツにパーカーを羽織ると、僕は玄関に立ち、お気に入りのスニーカーを履いた。
「何処へ行く?」
「飯」
「腹など減っていないだろう?」
確かに、僕の腹は減っていないが、手の中には千円札が二枚ある。


【M線上のアリア】 現在/78


M字型の巨大な電光看板が見える。
マックス・ドックスは学生達が集まるハンバーガー・ショップだ。
一九四〇年、アメリカ・オレゴン州でホットドック屋台として始まったらしい企業の、最初の店主の名前はリサ・マッキントッシュ。性別は女性。
一九四九年、第二次大戦時、後発の他社がハンバーガーを売り出して爆発的にヒットした事に影響を受け、大量生産のホットドックの販売を開始。続けてハンバーガー業界にも進出。現在では"それなりに"美味しく"それなりに"人気のある店へと成長した。
巨大な電光掲示板にも使われている「M字型のダックスフント」のロゴマークは、他社のロゴマークに似ていると揶揄され、過去には裁判沙汰にまで発展したが、どちらが先でどちらが後かなど、僕等には関係のない話だ。

「フィッシュ・バーガーとバニラ・シェイクください」
「あたしも」
「俺コーラだけでいい」

腕組みして呼吸。前に並んだ三人組の客が注文を済ませる。背の低い可愛らしい女の子の店員が「お待ちのお客様、どうぞ」と声をかけたので、僕は適当な種類のハンバーガーを何個か注文した。店内は暇を持て余した学生を中心に"それなりに"混み合っている。
「……誰が食べるんだ?」大きな紙袋を眺めて、ヴィンセントが呆れたように言う。「別に」
店を出る瞬間、壁に貼られたチラシが目に入る。ミクコの路上ライブ。今、本当に商店街の何処にでも貼ってあるな。心なしか商店街全体が何処か浮付いている気がする。これから何かが始まろうとしている予感に。または、何かが終わろうとしている予感に。自動ドアが開いた。

紙袋を提げたまま飲み屋通りを歩くと、歩行者が増えた気がした。数時間後、ミクコは此処で唄うのだ。まさか今から待っている訳ではあるまい。『呑み処 お松』の前を通ると、灯りが消えていた。暖簾も閉まっている。昨日、デンコさんとカヨリさんは大丈夫だったのだろうか。
店自体に被害が及んでいる風では無い。無事だと良いが、確認する手段は無い。

ゴミ捨て場の横を通り抜けると、存在用途不明のビルが見えた。裏手に回る。路面は濡れており、投げ捨てられた古雑誌の切れ端が、小さな水溜りに浮んでいる。「ほう、猫の餌か」
ヴィンセントの声を背後に、僕は膝を付くと、紙袋の中身を広げた。「……ほれ、腹減ったろ」
此処は猫で溢れ返っている。また増えたか? ミクコが餌を与えていた猫達。ミクコに渡された金を使って飯を買うなら、これしか無いだろう。「悪魔ってのはさ……」言いかけて止める。
「何だ、言ってみろ」
「別に」
ヴィンセントは以前のように、僕の思考を読まない。読めなくなったのかもしれない。多分、既に互いの契約が完成してしまっているから。あとは残りの期間、待っている事しか出来ない。
「悪魔の存在ってのは、何処から発生するんだろうな」
「……ククク、どういう意味だ?」
猫達は紙袋の周囲に群がり、美味そうに餌を貪っている。
「別に」

ビルの隙間からは四角い空が見え、それは次第に黒く染まろうとしていた。夜が訪れる。もうすぐミクコのライブが始まって、それで僕等は一体、何を終わらせようとしているのだろう? 随分と遠くから雑音。車の走行音。話し声。喚き声。僕の存在を知っている奴は、何人いる?

「そろそろ俺は行くぞ、ミツ」

不意にヴィンセントが立ち上がり、羽を広げた。

「……何処に?」
「この辺は継承者の匂いが濃いのでな。恐らく此処に近付いている」
「血の継承者か」

それが悪魔に対して、どういう存在なのかは知らないが、想像は出来る。悪魔は継承者の血の匂いを嫌っている。ヴィンセントが大学で、その匂いを嗅いで逃げた時のように。もしも大学に血の継承者が存在して、この辺にも存在するならば。案外、身近な人間かもしれないな。

案外、身近な人間が、奇妙な存在だったり、特別な存在だったりするのかもしれない。僕にせよ、ミクコにせよ、エリカにせよ、普通の存在とは呼べなかったのだから。普通って何だ。蝶の羽を広げて、ヴィンセントは高く舞い上がった。ああ、僕等の血がナニモノであっても、僕は。

餌を食べ終えた一匹の猫が「にゃあ」と一言、呑気に鳴いた。

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