スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

六日目:蜜編 現在 79話

ゴミ捨て場を抜けると、既に十人程度の物好きな男女が場所取りを始めていた。
飲み屋通りは細く、路地裏に入ろうものなら一方通行のような狭さになる。その先は円状の小さな広場になっており、何本かの街灯が幾何学的な配列で並んでいる。多分、ミクコは此処で唄うのだろう。時刻はまだ早く、物好きな彼等彼女等は一本の街灯を中心として放射状に広がる緩やかな階段部分でiPodを聴いたり、忙しなく携帯電話を開いたり閉じたりしていた。なので僕は中央に存在する街灯の下に立った。ニコラの関係者が此処に来たとして、これほど目立つ場所ならば手は出せまい。ネクタイを外した二人組のサラリーマンが、不思議そうな顔をして僕等を眺めていく。続けて学生風の男女。「……ちょっと、何、この人達?」
コソコソ話しているのだろうが、残念ながら丸聞こえだ。
「ああ、何か、路上ライブじゃね?」女の問に男が答える。
「そんな事より、そういえば昨日、この辺で発砲事件あったらしいよ」
「ウソ、マジ、ヤバクない?」
「テレビには流れてないし、新聞にも載ってないけどね、俺等の間じゃ話題だよ」
「へぇ、そんじゃ何でニュースになってないの?」
「まぁ、ホウドウキセイだな」
風が吹いて、それはもう完全に秋の風だなと、僕は思った。
オレンジ色だったはずの空は黒く染まり、代わりに街灯にはオレンジ色の灯りが燈った。


【M線上のアリア】 現在/79


「あれ、もしかして?」
背後から突然、肩を叩かれ、振り返る。
「やっぱり三平やん、何しとん、こんなトコで」
「……あ、師匠」
目の前にはカメラを手にしたサイコ師匠が威風堂々と立っていた。
カメラ雑誌でしかお目にかかれないような、随分と立派なカメラを両手で抱えて、緩く開いたシャツの胸元には、これ見よがしに閉じた扇子を挿している。
「何、惚けとんねん。私の美貌に惚けたか。そらしゃあないな」
「……師匠こそ何してるんですか、こんなトコで」
「ツッコめ、三平!」
サイコ師匠は素早く扇子を抜き取り手首を返すと、僕の額をスパーンと小気味良く叩いた。
「私はな、撮影に来とんねん」叩いた事を詫びずに、勝手に話を進める。
「……撮影?」額を摩りながら問う。
「せや、大学の知り合いが今夜、路上ライブするらしくてな。ほら私、写真が趣味やんか?」
「……はぁ」
「んで広報部と掛け合って、私が写真を撮る事になったっちゅう寸法や、素敵やろ?」
さぞかし脅迫めいた掛け合いだったに違いない。
「……要するに、師匠はカメラマンとして、此処に来てるって訳ですか」
「女なのにカメラマンとはコレ如何に、その呼び方、あんまり好かんけどなぁ」
「じゃ……カメラウーマン」「捻りが足らん」「カメレディー」「卑猥だな」「カメコ」「意味ちゃう」

小さく咳払いをして、周囲を見渡す。
「るどん……さんは、一緒じゃないんですね」
「ああ、るどんなら、お志津と一緒に来るんちゃうかな?」
「へぇ……」
安心したような、残念なような、まぁ見付かったら色々と言われるのだろう。

「時に……」と切り出して、サイコ師匠は少し真面目な顔を見せた。
「その後、乙姫は無事に見付かったんか?」
「乙姫……?」
「竜宮城に捕らわれた乙姫。偽名の浦島が助けに行ったんやろ?」
「ああ……」思わず笑う。
「何やねん、その笑い?」サイコ師匠が怪訝な顔で眉を寄せる。
「いや……」片手で謝る仕草。
遠くで小さな喚声。階段の上で誰かが踊っている。周りに数人。暇なのだろう。
気が付けば、先程よりも多少、人が増えている。この後、まだまだ増えるのかもしれない。

「助けましたよ、その代わり、玉手箱も開けちゃったみたい」
「……ほぉ」サイコ師匠は声に合わせて、扇子で自分の肩を数回、叩いた。
「それで? 三平、お前はその玉手箱、どうする気?」大きなアーモンド型の瞳が質問する。
「さて……受け入れて現在を過ごすか、過去に戻るか、未来に進むか、それとも止めるか」
「よう解らんな」
「僕にも、よく解らないんです」
僕は笑った。サイコ師匠は腑に落ちない顔をしながらも、口元で笑った。
人は増える。まだまだ増える。此処にミクコが現れる頃には、何人集まっているだろう。
首を小さく一周させると、サイコ師匠は大きな欠伸をした。

「さて、行こかな。今日は遊びに来た訳ちゃうからな」
「良い写真、撮ってください」
「あ、せや、三平」

言いながら、地面に置いてあった、大きな鞄に手を伸ばす。
ファイル取り出し、ページを開く。途中で手を止めると、何かを抜き取る。
「ほれ、三平」
「ん?」
「写真、こないだ部室に来た時、撮ったやろ?」
「ああ、帰り際」
「それ、あげるわ、ええ映りやろ? まぁ、大事に取っとき」
「本当だ、良い写真ですね」
「腕や、腕」

サイコ師匠はニヤリと笑うと、細い腕を捲くり、軽く叩いてみせた。
そのまま片手を上げ、勢い良く扇子を広げると、小さく揺らしながら背中を向ける。
「その辺におるけど、ライブが始まったら声かけなや、多分めっさ集中しとるから」
「……写真、ありがとうございました」
「気が向いたら、また三平の写真も撮ったるわ」言いながら手を振り、笑う。

夜が、近付いている。
暗闇は急速に接近しているが、尚、まだ世界は明るさを手放そうとはしない。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

≪六日目:ちこ編 11話 | TOP | 六日目:蓮火編 11話≫


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。