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六日目:蜜編 現在 80話

サイコ師匠に渡された写真は、何の変哲も無い、僕の写真。
突然のフラッシュに驚きながらも、直前までの大喜利に、少しだけ頬が緩んでいる。
笑っている……という程では無い。あの日は笑っていられるような状況でも無かった。それでも束の間、僕は頬を緩めて、誰かと会話をしていた。その瞬間の、何の変哲も無い、写真。
ニコラの研究室にあった僕の研究ファイルが、もしも此処にあるならば、真黒な羊の写真の次には、この写真を入れておきたいと思った。僕がナニモノだとしても、それが現在の僕だ。


【M線上のアリア】 現在/80


円状の広場には既に二十人前後が集まっていた。遠巻きに階段の上から眺めている若者達を含めれば、それ以上の人数。彼等は他人事を装いながらも、今から何かが始まろうとしている予感に、淡い期待を覚えている。高々一人の女の子の路上ライブに、小さな商店街が、小さなお祭り騒ぎだ。人前でミクコが唄う姿を、僕は長い間、見ていない。彼等がミクコの歌に何かを期待しているのだとして、あまり実感を持てない。僕の知っているミクコは、部屋にあるソファを独占するだとか、好きなおかずは最後に食べるだとか、借りてきたDVDの気に入った場面を何度も観るだとか、歯磨きの時間が長いだとか、電気を全て消すと眠れないだとか、意外と子供っぽいパンツを好むだとか、そういうミクコだ。僕しか知らないはずのミクコだ。

皆が知っているミクコという存在を、僕は知らない。
だとしたら皆が知るミクコという存在は、僕にとってナニモノになるのだろうか。僕だけが知っているミクコと、僕が知らないミクコが合わさって、初めてミクコという存在が生まれるなら、今まで僕が見てきたミクコは、ミクコじゃないという事になるのだろうか。否、そんな筈は無い。
階段の向こうから、着物姿の二人組が歩いてくるのが見えた。

「ああ、いたいた! カヨリ! やっぱ蜜くん来てるよ!」

思わず叫びそうになった。デンコさんが呑気に笑いながら走り出し、その背後をカヨリさんが両手に荷物を抱えながらパタパタと付いて来る。「よう、蜜くん! 無事だったみたいだな!」僕の頭を掴み、抱き寄せる。今更だが意外と巨乳だ。「……コッチの台詞ですよ」
「本当に無事で良かったよ。昨日の発砲事件……あれ君達だろ?」
語尾で突然、声を低くして、耳元でデンコさんが問う。
「……僕では無いけど、うん」息がこそばゆい。
「ちょっとデンコちゃ?ん。荷物が重いわよ?」
カヨリさんの声が聞こえて、僕等は顔を上げた。カヨリさんは何故か両手に数本の瓶ビールと、おつまみの袋を抱えている。僕の前で立ち止まり、息を整える。
「ああ蜜くん、無事で良かった、ちゃんとみく子ちゃんには会えた?」
「馬鹿だな、会えたから、堂々とココにいるんだろ、なぁ?」
「うん、会えました。それより二人は昨日、大丈夫だったんですか?」
「大丈夫っていうか、まぁ何人か変な黒服が店に来たけど、全部追っ払っちまったい」
言いながらデンコさんは豪快に笑う。よく見ると腕に包帯を巻いている。
「……怪我ですか?」
「ああ? いや、季節はずれの蚊に刺されただけさ、そんな事より、」
言いかけてカヨリさんに手を伸ばすと、デンコさんは瓶ビールを一本受け取った。
「今夜は此処で呑むって決めてきたんだ、店だって閉めてきちゃったからね」
「え、大丈夫ですか……」だから店の灯りが消えていたのか。

「みく子ちゃんが路上ライブをするって事は、昨日は二人共、無事だったって事だから」
カヨリさんが笑いながら、おつまみの袋を開けると、デンコさんが手を入れた。
「お店、閉めちゃって大丈夫なんですか?」
「ああ、別に大丈夫だよ、向こうで小さな屋台も出してるしな」
「……屋台!?」「うん、屋台」サキイカを食べながらデンコさんが頷く。
「屋台っても別に大層なモンじゃないよ、酒と、ちょっとした焼き物を出してるだけ」
「そういうのって商店街の許可は……」「貰ったよ」行動早いな、この人は。
「今は板前さんが屋台回してくれてるから、今の内にしこたま呑んでおくのさ」
「また後で戻らなきゃいけないけどね」ウフフ、と形容される微笑みで、若干呑気にカヨリさんは告げた。それにしても二人共、まるで昨日の事を詳しく訊こうとしない。「あの……」
「ん、どしたい?」
「昨日、本当にありがとうございました。あんなに危ない目に遭わせて……」
「何言ってんだ、君は」
「はい、蜜クン、あ?ん……」カヨリさんが半ば強引にサキイカを口に入れようとする。
「いや、あ?んじゃなくて……あんな目に遭わせたのに、どうして何も訊かないんですか」
「いいよ、別に、そういうのは」デンコさんは瓶ビールの王冠を指で弾くと、そのままラッパ呑みを始めた。カヨリさんが袖の中から慌ててグラスを差し出す。何という場所にグラスを。
「あのさ、君が無事で、みく子はもうすぐ此処で唄ってくれるんだろ。それ以上、美味い酒の肴があるってぇのかい? 野暮な話なんざ聞きたかぁ無いよ。不粋な奴ぁ、アタシは嫌いだね」
言い終えると、丁寧に注がれたビールを一気に飲み、ニシシと笑う。
「美味い酒が呑みたいんだ。だから良い奴等に囲まれたい。君の事は好きだぜ、蜜くん」
余計な話をしなければな、と付け加えて、デンコさんはサキイカを頬張った。

良い奴等に囲まれたい。純粋な願望。無垢な展望。
世界を救うのは何時だってシンプルな希望だな、そう思うだろ、ヴィンセント。
デンコさんとカヨリさんが屋台に戻ると、オレンジ色の街灯の下、僕は再び独りになった。
だけれど今、あまり寂しくは無かった。

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