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六日目:蜜編 現在 81話

全ての絶望と希望を乗せて、六弦は奏でられるだろう。
どちらかを切り売りする事なんて出来ない。初めから終わりまで。
絶望は絶望のまま存在し、希望は希望のまま存在する。其れ等は等価では無い。
只、入れ替わったような気がする瞬間に、僕等は祈るだけなのだ。
昇華するべき何かに対して。


【M線上のアリア】 現在/81


時刻は八時半を過ぎている。
オレンジ色の街灯を中心に、円形の広場から放射状の階段まで若者達が集い、周囲は俄かにざわめいている。彼等彼女等は各々、地面に座り込んだり、店先の壁に寄りかかったりしている。僕は椅子くらいの高さになっているレンガの花壇に腰をおろし、携帯電話を眺めた。着信は0件。階段の上には何件かの屋台が見え、先程から缶ビールを飲んでいる奴をよく見かけると思ったら、そういう事かと理解した。不意に小さな歓声。顔を上げると街灯の照明に重なって、集団を掻き分けてくる影が見えた。――「おまたせ!」

全員が声の方向に首を動かす。フタツの影。ギターを担いだ男と、ミクコ。何故か、僕は立ち上がる。ギターを担いでいるのは大学の先輩か。随分と優しそうな人だ。長い距離を走ってきたのか、少し汗をかいている。ミクコのカラダは今、走れる状態ではない。だが走って来たのだろう。笑いながら「ごめんね、ごめんね」と小さくお辞儀をして、彼女は広場の中央に辿り着いた。何も言わずに、僕を見る。完全に真白な肌が、オレンジ色の照明に染められている。
彼女は無言で寄り添うと、僕の肩に額を預けた。

「……おかえり」

誰にも聞こえないように、小さく呟く。
胸元にミクコの呼吸を感じる。限界なのだ、彼女は。本当は、もう一人では立っていられないほど。だけれど今、僕に彼女を止める事は出来ない。約束したのだ。大切な人達に伝えると。歌を聴かせると。
「……ん」
ミクコは街灯の下に座り、手を伸ばした。大学の先輩を見ている。
彼はギター・ケースを肩から外すと、ミクコでは無く、何故か僕に、それを手渡した。
「後は任せた」
僕の肩に手を置き、彼は言った。
瞬間、何故か僕の脳裏を過ぎったのは、アクセプトと、カバラの契約。受容と継承。
受け入れる事。受け渡す事。そうして脈々と伝えられていくはずの何か。気持ち。感情。心。

(もしも人間が死なずにいられるのなら……)

なぁ、キリコ、聞こえるか。
やっぱり僕には、僕等が永遠に生き続ける事が正しい事だとは、思えないよ。
何かを失い、悔い、悩み、それでも乗り越えてきた何か。戦争で失われてしまった命。それでも生き残ってしまった僕だとか、そんな時代を知らずに生活している、現在の世代。呆れる事は沢山あるし、諦めてしまう事も沢山ある。それでも生きる事に飽きてはいけない。そして最後には死んでいく。それを、僕は受け入れたい。受け止めて、次の世代に受け渡したい。

(……ねぇ、何の為に生きてる?)

受容と継承。僕等の欠損。僕は今、死なないカラダだよ。
だけれど35日後に死ぬだろう。そういう契約を、悪魔と結んだのだから。
救いや願いや祈りは、何の為にあると思う? なぁ、キリコ、何の為にあると思う?
気持ちを、感情を、心を。今、誰かに伝えようとせずに、何時ならば伝えられるんだろうな。
「……ん」
ミクコが僕に、手を伸ばす。だから僕は、ミクコにギターを手渡した。
「はい、みく子」
彼女は口元で、緩やかに笑う。それを僕は、何時までも眺めていたいと思ったんだ。

呼吸。小さな呼吸。誰も知らない乱れた呼吸。
それでも彼女は唄うだろう。調弦する指。「まだ??」。誰かが叫ぶ。
「ごめん。あとちょっと待って。こう……パーマの角度が」
爆笑。調弦を終えた彼女はゆっくりと呼吸を整えると、空を見上げた。
静寂。
そのまま、右手で指を差す。
真黒な夜空。

「集まってくれてありがとう。それじゃあ、今夜の始まりの曲、行きますよ?」

冷え始めた秋の空気が、ピンと張った糸のように。
僕は夜空を眺めた。それは真黒ではあるが、何個かの星が輝いているのが見えた。
只、それはそこに存在している。

全ての絶望と希望を乗せて、六弦は奏でられるだろう。
どちらかを切り売りする事なんて出来ない。初めから終わりまで。
絶望は絶望のまま存在し、希望は希望のまま存在する。其れ等は等価では無い。
只、入れ替わったような気がする瞬間に、僕等は祈るだけなのだ。
昇華するべき何かに対して。

そしてミクコは唄い始めた。

「一曲目……オレンジ」

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