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六日目:サク編 12話

 ゆっくり、ゆっくりと、僕は変更されていく。
 ゆっくり、ゆっくりと、時間が経つ。
 僕には事実が何か確認する方法がない。
 今は何日目だったろうか。分からない。正直な話、僕には分からない。何をしてから何日目? 何を始めてから何日目? というか、何話目? 何話目? 何話ってどういう単位? 分からない。いつからか随分と過ぎてしまった気がするし、時間通りにやってきた気もする。僕はどこに行こうとしている? 何かを思い出せない。いや、思い出せることはある。正しいことを思い出せない。正確じゃないことなら思い出せる。図書室でのみっこ。コンビニでのみっこ。中学生の時のみっこ。修学旅行の時のみっこ。僕の記憶で正しいのはどれ? そもそも記憶が正しくないことなんか証明が出来ない。そして正しいことも証明出来ない。記憶にあるものは、既にないのだから。どんなに同じに見えて、現在まで連続してきたものだとしても、時間が同じでない限り、同じものは何一つもない。そしてそれは人にも言えて、昔欲しかったものが今更手に入ったところで、自分が変わってしまっているから、それは欲しかったものとは違って見える。だから、本当に守りたかったものは、その時間でなければ守れない。
 時間を戻すことは可能だろうか、と僕は考えた。
 悪魔。完全な力。時間を戻せるならば、全て解決が出来るんじゃないだろうか。でも。でもそれはどうだろう。もしA地点からB地点まで生きて、その間の記憶と引き換えにA地点まで時間を戻してもらう。それは可能だろうか。悪魔との契約は等価でなければならない。それが第一の条件だ。引き起こされる、叶わせることの出来る願いが大きければ大きいだけ、悪魔に受け渡す記憶も増大していく。そして記憶は主に時間の経過によって形作られる。それならば、B地点から、A地点まで時間を戻した時に、もし時間を戻せるのならばだが、悪魔には何を渡すことになる? 時間を戻しているのに、僕のA-B間の記憶は、「あったこと」にしてもらえるのか? 分からない。あいつはアンフェアの塊だが、あいつ自身の中にはルールがあるように思う。「時間を戻す」という願いは、出来るか出来ないかの前に、あいつのルールに背く気がする。
 それに僕は、これ以上、ここまでの道のりを繰り返したくない。
 それならば、同じものは手に入らない。
 ゆっくり、ゆっくりと僕は歩いた。
 色んなことを思い出しながら、歩いた。
 辺りは暗くなっている。
 僕の足は秒針のように、僕を目的地へ運ぶ。僕の頭は、映画みたいに霞がかった映像を流す。何だ、結構覚えてるな、と思った。何だ、悪魔に全部受け渡したつもりで、結構覚えてるな、と思った。少し震えた。覚えているな。覚えている。その思い出自体も偽物かもしれないが、あまり意味のない馬鹿らしい記憶まで残っている。おそらく、馬鹿らしければ馬鹿らしいほど、真実、僕の記憶だろう。僕が歩んできた証だった。僕は、どこにも何も残せていないけれど、僕の中に残っているものは、まだあった。みっことの中学生活とか、半分死んでた高校生活とか。図書室でのみっことの再会がどれほど嬉しかったとか、みっこと肩を並べる男を見て、どれほど苦しんだかとか。記憶は偽物でも、事実は捻じ曲がっていても、僕がそれぞれ感じた感情は偽りだとは思いたくなかった。
 路地裏には、もう人が結構集まっていた。
 いつもみっこは人の中心にいた。そして僕はいつもその輪から離れていた。もちろん僕が他人と馴染めないというのが大きい理由だった。でも、人に囲まれている時、みっこは本当に素晴らしい笑顔を見せてくれる。僕はそれを知っていた。そして僕を見つけると、一瞬だけ、その笑顔を僕だけに向けてくれるのだ。その瞬間が好きだった。みっこはあんなに大勢に囲まれているのに、僕を覚えてくれている。そう思うのが好きだった。それは勘違いだったのかもしれない。でもしっかりと「忘れてはいけないこと」に分類されている笑顔だ。
 僕はいつも通り、人だかりから離れて、近くの壁に寄りかかった。路地裏は広くない。みっこのライブが始まったって、ここなら問題なく聞こえるはずだ。
 これから、みっこのライブが始まる。
 僕の約束が守られる。
 そうしたら――。
 やがて、集まった人がにわかにざわついた。
 初めに見えたのは男だった。あの男は知っている。前、みっこと並んで校内を歩いていたのを知っているから。それとなく見ていたって、僕は記憶している。記憶しているのを思い出して、少し笑ってしまった。なぜ、こんなことを記憶しているんだ。そんな記憶、片っ端からあいつに上げておけば良かった。なぜ「忘れてはいけない」方へ分類されている? みっこがいたからだ。隣にみっこがいたから。
 みっこ。
 見えた。
 人の歓声に応えながら、笑っている。みっこ。やはり、昔のみっこではない。髪型がまず違う。肌の色も違う。一層白くなったかのようだった。アルビノ。いいや、みっこだった。あの笑顔はみっこだった。心臓を焼けた石のように、熱く、重く感じた。血液が端から沸騰した。でも、そこから動くな、と中に重しを置かれたみたいだった。動いたら、なくなってしまうからと言っているようだった。僕は色んなものを無くしてしまったから。みっこ。ここまで、昔に縛られている自分が不憫だった。今でもこんなに苦しい自分が、泣きたくなりそうな自分が、本当に愚か者に思えた。
 でも、この感情をまだ思い出せる。
 僕はまだ、大切にしていたものを守れていた。
 それが、無様に嬉しかった。
 叫んでしまいそうな自分を、必死にたしなめた。
 涙を必死にこらえた。
 だから、動くな。
 今はこれを、大切にしよう。
 みっこはどうなのだろうか。
 気づいてくれているのだろうか。
 みっこは僕のそんな気持ちとは裏腹に、ギターのチューニングを始めた。繊細な指だった。しかも肌が白くなって、酷く脆い動きに見える。でも、みっこは手馴れた手さばきでチューニングを終えた。この中で、たぶん、僕だけがみっこのギターの起点を知っている。あの本を僕が借りた時だ。みっこはそこからギターを練習した。本当に練習をしていたのだ。そして、こんなに人を集められるだけ、ここまで上手くなった。
 みっこの指がチューニングを終える。
 辺りが、吸収性に富んだ静寂に包まれた。これから始まるものを、ひとかけらも逃さないような、そんな貪欲さまで感じる静けさだった。みんなが期待しているのだ。みっこのギターの起点は知らなくても、みっこがどういう歌を奏でるのか、みんなが期待しているのだ。おそらく、何人かは既にみっこの歌を聴いたことがあるのだろう。でも、みんなまるで初めて聴くかのような顔をして、みっこの魅力的な顔に釘付けになっていた。
「集まってくれてありがとう。それじゃあ、今夜の始まりの歌、いきますよ?」
 少しおどけて、みっこが言う。
「1曲目……オレンジ!」
 一瞬――。
 その音。
 その声。
 その一瞬で、僕の中の全てが粉砕された。
 僕は腹を刺されたかのように、胸を撃たれたかのように、首をうなだれた。もうみっこの顔を見続けることも出来ない。ああ――! 僕はずっと聴きたかった。僕はこれをずっと聴きたかったんだ! だから、そう、だからなのだ。だからこそ、僕はここにいるのだ。記憶がなくても、思い出が違っても、僕は理解した。僕はこれを聴くために、ここにいるのだ。何ていう声だ。何ていう歌なんだ。確かにみっこの声だ。でも、体が浮かび上がってしまいそうなほどの威力。みんなの居場所を作り出して、存在を片っ端から認めてくれるような、この絶対的に優しい、何も壊さない強烈な破壊。
 まるで、再生のような!
 僕は雷に打たれ続けるように、歌を聴いた。
 あっという間に二曲が過ぎる。
 一生分の歌を聴いたつもりで、一瞬だった。
 僕は息継ぎをするように、みっこの顔を見た。
 みっこは曲の合間に、みんなに笑顔を振りまいている。
 僕はみっこを、じっと見ていた。
 ギターの用意をする。
 どうやら三曲目に入るようだ。
 次は、どんな曲なのか。
 ずっと終わらなければいい。
 終わらなければいい。
 このライブが終わったら終わったら。
 約束が果たされたなら、僕は行かなくてはならないから。
 みっこは僕がいることを気づいてないと思っていた。でも、そんなことはない。いつだって、みっこは周りの人間に優しいのだ。誰にとっても優しいのだ。だから、周りにどんな人がいるのか、いつも見ているし、知っている。誰にも自然に気遣える。それがみっこなのだ。先ほどの二曲、きっと誰かを思っての歌だ。みっこは、そういう女の子なのだ。
 だから、僕がいたことも、きっと初めから知っている。
 ――ふいに、みっこがこちらを見た。
「あっ……」
 僕は口を開いて、何かを言おうとした。
 でも、何を言うべきなのだろうか。
 まともな言葉なんて出なかった。
 視線が絡まった。
 その笑顔を、僕だけに向けてくれたのだ。僕は息すら止まった。みっこの目を見ているのに、自分が何を見ているのか分からなくなった。なぜ、ここで目線が合うのか分からなかった。ただ、その笑顔を見ていた。どこか、寂しそうな、満面の笑みだった。その一瞬で、僕らは様々な会話をした。僕がなぜここにいるのか、なぜみっこがそこにいるのか。僕は何をしてしまったか。みっこは何をしていたのか。何も分からなかったし、何も聞こえない。でも僕らは互いに許した気がした。そしてお互いに笑った気がした。僕の表情は動かなかっただろう。でも、ここ数年で、一番心が笑った気がした。みっこの目は限りなく優しかった。
 それを見て、僕はなぜか、心臓が冷えていく。
 脈は、しかし加速する。
 悟ってしまったのだ。
 ライブはまだ続く。
 でも、僕には、次で最後だ。
 それが先ほどの視線のメッセージ。
 次の曲はきっと、僕へ――。
 この僕への曲なのだ。
 みっこが口を開いた。
 僕を見て、そして曲名をコールした。
「幼馴染!」

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