スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

六日目:サク編 14話

 修学旅行当日、空は見事な青色を見せた。
「ほらね! 私、晴れ女なの」
 朝、中学の校門でみっこが僕を待っていてくれて、左手を上げて空を示したかと思うと、開口一番そう言った。右手の肩には不気味なネズミのボストンバッグ。ネズミーだ。一体誰か書けばこれほど邪悪な存在が生まれるのだろう。まるで僕らの旅の行方を暗く暗示するかのような笑みだった。あいや、暫し待たれよ。笑み? あれを笑みと解釈していいんだろうか。口から血が滴ってそうだ。あれを笑みと解釈出来るなら、世界はまだ心の余裕に溢れている。
「ほらねって。みっこあれほど不安がってたじゃん」
 僕はネズミーを横目で見ながら答えた。
「あれはもういいの」
「いいんですか」
「いいの」
 みっこがはしゃぐのも無理はなかった。五月の空は真っ青で、修学旅行の荷物が重くて、駅まで乗せて行ってくれるバスは大きくて、竹島先生だって冗談を言い出すくらいで、そして僕は好きな人の隣にいる。これでわくわくしないなら、中学生活なんて放り投げてしまった方がいい。青春。もし僕が大人になってあの頃は青春だったな、と思い出すのは真っ先にこの辺りだと思う。僕の初恋。そう考えてみてから「初恋は結ばれない」なんてジンクスを思い出した。そんなジンクスを考えたのはきっと少年の心を忘れてしまった大人だ。そんな言葉が無垢な少年少女をどれほど傷つけるか分からないのだ。きっと結ばれなかった初恋をした人間が悪かったのだ。そうだ、そう言えば、僕の叔父さんなんかは高校時代から付き合ってた彼女と結婚したし。まだ中学だけど頑張れば、三年くらいは長く持つだろう。何が。何が持つんだ。
「サクちゃん? ポセリ食べる?」
 バスに座って独り妄想する僕の顔をみっこが下から覗き込んできた。可愛い。オレンジ色の髪が僕の膝の上に垂れて、行儀よく並ぶ。みっこは窓際にいる。本当は順番的に僕が窓際だったのだけれど、みっこが無理矢理僕と交換した。手には電車に乗る前だというのに早くもお菓子を持っていた。さっき朝ごはん食べてきたばかりだけど。ちなみにポセリというのは棒状のスナック菓子で、十五センチくらいの細いクッキー状のスナックにドライフードを一度粉末にしたものをまぶしてある。初めに作られたのがセロリ味なのでポセリという名前が通っているが、現在その存在は三種類確認されていて、残りの二つは、シイタケ味、それにピーマン味だ。どこに売っているのかは知らない。みっこだけがその謎の入手経路を持っている。ちなみに僕はその三種類とも大嫌いだ。パッケージには「嫌いなものもバリバリ食べよう」と商業展開をまるで無視したようなフレーズが書かれている。もしみっこと、その、結ばれるようなことがあったら、その合わない味覚だけは改めてもらわなければならない。あとネズミーか。初恋は結ばれないという言葉がまた脳裏をよぎった。
「ごめん、凄くいらない。知ってるでしょ」
「えへへ、知ってる。パセリ苦手なんだよね」
「あと、シイタケと、ピーマンもね」
 そう言って僕はみっこの携行用バッグを指差した。
「すごーい。何で分かるの」
「みっこ、あのね……。おやつは幾らまでだっけ」
「そんな規則ないよ」
 僕らは笑った。お金は幾ら持ってきたとか、隠し財産はどこに隠してあるのとか。そんな話をした。ちなみに持っていける小遣いは規則で決まってて、五千円だ。それはお土産代、自由時間の昼食代を含めて五千円だ。確かに日常を顧みて中学生が一度に使うお金にしたら多いかもしれないけど、修学旅行ということを考えると全く足りないと思う。今日以前、不真面目な男子の間では小遣いをどれくらい持っていくかが話題になった。それから持ち物チェックがあるらしいという噂も聞いた。何でも先輩の中には靴の中に万札を持っていって見つかった猛者もいたらしい。どこから伝わってきたか分からないけど、そんな噂が紛々と流れていた。それがまた中学男子の心を奮い立たせて、パンツの中に持っていったら見つからないんじゃないか、制服のカラーの後ろに挟んでいけば見つからないんじゃないかという話し合いが持たれた。幾らオーバーするか、どこにスマートに隠していくかが偉い男子中学生のステータスだった。
 実際、現在、実行中の男子がいるのだろう。それを思うと密かに笑えてくる。今のところ、先輩が摘出されたような持ち物検査は行わないみたいだ。
 僕は別に真面目というわけでもないが、規定どおりの五千円を持ってきている。
 父親には「京都の美味い酒を買って来い」と言われてもう五千円秘密裏に渡されそうになったけど、その水面下の行動は事前に察知した母の手によって阻止された。父は不真面目な中学時代を送ってきたに違いないから、中学生の気持ちが分かるのだろう。でも制服姿でどうやって酒を買えって言うんだ。修学旅行のメッカだぞ。
「最近ガソリンも馬鹿にならないよね……」
「え、なに?」
「何でもないよ」
「サクちゃん、独り言多いよね」
 みっこがポセリを一つ摘みながら、僕の鼻先に持ってきた
「いらないってば」
 僕がそれを跳ね除けると、「どうせあげないもん」と笑いながら自分の口に持っていく。
「独り言はさ、きっと寂しい人間が言うんだよ」
「サクちゃん、寂しいの?」
「誰も僕を分かってくれない苦しみっていうか……」
「青春みたいね」
 だって青春だもん、という言葉をみっこの顔を見て僕は飲み込んだ。
 バスで行くのはここまで。新幹線が止まる最寄の駅に辿り着く。「あ、着いた」みっこが慌ててポセリをバッグの中にしまいこんだ。クラスメイトがあらかじめ決められた列になって降りていく。ここまで統制して、将来何の役に立つというのだろう。実際の社会はもっとグチャグチャでドロドロで、そこで役に立つのはきっと予め決めておいたことに従うことではなくて、機転を利かすことなんじゃないかと思うと馬鹿らしくなる。立ち上がって列に加わる。左右の席交互に入っていくので、みっことは少し離れる。
「独り言はさ、本当は独りになんかなりたくなかったと思うけど」
 みっこが立ち上がりながら言った。それこそが独り言みたいだった。
 時々、みっこは自分の哲学を見せる。僕は黙って列に並んだ。
 駅構内の少し手広な場所で生徒全員が一度集まる。全く、どこに行っても集合集合、集会集会だ。この分だと修学旅行全体で何度集まるか分かったもんじゃない。先生達は生徒を集めて、その規則正しく並んだ列を眺めるのが好きなのだ。サディスト。最近知った言葉だが、きっと先生達はサディストばかりなのだろう。竹島先生を見た。欠伸をしていた。全く、あの先生を僕は好きだ。何だか近しいものを感じる。ほとばしるような熱意はない。生徒達に好かれているわけでもない。でも、押し付けがましくない。演技っぽくもない。人間として当然のことを当然に思って当然にやっているように思う。そこが好きだ。もちろんだからあの歳で校長になるわけでもなく、教頭になるわけでもなく、学年を任されるわけでもないのかもしれない。出世しているとは思えない。近しいものを感じて、僕は将来を不安に思った。もしかして大学を途中で辞めたり、フリーターになったりしたりする人生かもしれない。
 少し離れて、学年主任の話へ熱心に耳を傾けているみっこを見た。
 せめて大人になっても余裕のある生活はしたいなぁと思う。
 無駄に長い有りがたい話が終わると、一列ずつ改札口へ向かう。ホームに着くとほぼ同時に新幹線が到着した。五分ほど停車しているようだ。素晴らしいと思うのは、新幹線の到着時間まで計算してあの長い話をしていた学年主任だ。それならばもう十分くらい集合時間を遅らせてもいいのではないかと僕は一人思う。いくつかの車両が僕らの学校で独占された。僕とみっこは別々の車両ではないものの完全に離れてしまって、僕の周りには男子しかいない。座席を一つ向かい合わせるように回して、一人がトランプを出した。ババ抜きをするということで、それぞれに等分ずつカードが配られる。ライバルが僕に向かい合っている。彼の名前は小牧という。今思い出したわけではないけど。野球部だけあって、日に焼けた体を持つスポーツマンタイプ、そして坊主頭。僕のところからはみっこが見えるけれど、小牧からは見えない。もうそういう運からして僕と小牧との間には隔たりがあるのだ、と一人満足げに思って鼻を鳴らした。
 みっこは遠目で見るに、バッグから再びポセリを取り出したようだった。友達三人に薦めたみたいだった。そして一人寂しく、ポセリを口に咥えたところを見ると、全員に断られたみたいだ。凄く、不服そうな顔をしている。
「おい」
 小牧が少し敵意を含んで僕を呼んだ。
「お前の番だ」
 手に持っているカードの束をこちらに突き出す。ゲームの行方を何も見ていなかった。どうやら僕が小牧からカードを引くらしい。扇子のように持たれている小牧のカードは、一枚、わざとらしく抜きやすいように一番隅で飛び出しているものがある。このやろう。これは気が抜けない展開になってきた。僕は考えた。小牧がジョーカーを持っているとして、あの飛び出している一枚はきっとフェイクだ。このように見せておけば、僕はその一枚を警戒せざるを得ない。そして彼は考える。僕がその一枚をひくことはないだろう、と。つまりその一枚以外、おそらくは飛び出している一枚の横をサクは取る。飛び出しているカードは彼が扇状に広げた一番隅にあるから、横に配置出来るカードは一枚のみ。そこにジョーカーを配置すればサクは必ず取る。
 という、自分の狙いにはサク程度でも気付いているだろうと、彼は考えている。フェイクのフェイクを見抜くぐらいには、サクの頭は働くだろう、と。そこで小牧はさらに考えるだろう。サクがそこまで気付くということを仮定すると、サクが安心して手を出すのは、飛び出している一枚である。そこにジョーカーを配置すればサクは必ず取る。小牧の考えは、おそらくここまで。これ以上は考えていない、と僕は考える。つまり。
「ここだ!」
 僕は端から二番目に手をかけて、一気に抜き取った。
 ジョーカーではないものは、これだ。
「と、お前は考えている」
 瞬間、小牧が不適な笑みを湛えた。
「何……!?」
 恐る恐るカードを裏返す。
 ジョーカーだった。
 小牧が邪悪な顔をして笑う。
「計画通り」
 恐るべき男だった。部活だけでは、運動だけでは、ない。頭も出来る。そうだ、そう言えば野球部の指針は「文武両道」。テスト前さえ部活を休まないのに、学年のテスト順位では上の中くらいに野球部のメンバーが名を連ねる。恐るべき戦闘集団だ。優勢に立っていたと思っているのは僕だけで、ライバルにとって不足はないということか。いいだろう。僕はみっこをちらりと見た。みっこ、僕を勝たせてくれ。
「続けよう」
 それから僕はトランプに集中する。
 京都までの道のりなんて、あっという間だ。
 楽しく過ぎる時間は短い。いつもなら午前中の授業だけでうんざりしている。でも今日はあっという間に過ぎ去る。いつもこうならいいのに。みっこと楽しく笑って、友達と楽しく笑って、ずっと過ごしていければいいのに。もし、そうやって過ごしていったら、人生が短く感じてしまうのだろうか。それでもいい気はする。無駄に長いよりは、まだ短く楽しい方がいいような気がする。
 僕は、そう考えていた。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

≪六日目:サク編 13話 | TOP | 六日目:サク編 15話≫


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。