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六日目:サク編 15話

 京都に着いたのは、もう午後に差し迫った時刻だった。
 それはそうだ。あんな集会ばかりしていたら、日が暮れてしまう。一日目はクラスの集団行動になる。僕のクラスは嵐山付近でトロッコ電車に乗る、という。僕は詳しく知らない。詳しく知る必要ななさそうなので、みんなに並んでついていくだけだ。ほとんどの人間は集団行動に自主性は必要ない。二人か三人、リーダー格の人間がいればいい。三十人くらいならそれで十分だ。あとは烏合の衆と化して、無駄な思考することなく、ぞろぞろとついて行くだけでいい。その方がまとまる。僕はそんな言い訳のもと、ぞろぞろとトロッコ電車に乗り込んだ。秋になれば紅葉が見事らしいが、そんな情報を桜も終わった春に言われても迷惑なだけだ。
 迷惑なだけだ、ふん、と僕はトロッコに乗り込んだ。だけど、それでも保津峡の眺めは澄んでいた。素直に綺麗だ、と思った。ガガーリンがきっと宇宙ではなく、人類で始めて保津峡の探索に向かったら、やっぱり「保津峡は青かった」と言うと思う。目から頭に向かって一直線に撃ち抜かれるような強烈な青さ。それなのに自然は僕に対して無関心だ。置いていかれるような孤独感に心を蝕まれながら、まだ目の前に存在する大きさの安心感を同時に得る。僕はまだ宇宙には行ったことはないけど、たまたま宇宙より先にこの場所へ来た。「保津峡は青かった」と言ったって、別に大げさじゃない。たぶん、ガガーリンはここへは来たことないだろう。宇宙の美しさは知っていても、保津峡の美しさは知らない。その点、僕が優勢だ。きっと人間は、こういう美しいものを焼き付けるために、心を持ったんだ。
「桜が咲いてると良かったな」僕は外を見ていた。
 ふいにフラッシュが至近で焚かれた。横を見ると、いつの間に忍び寄ってきたのか座席につかまって揺れながらやっと立ってるみっこがこちらにカメラを向けていた。「なに」「ふふ、黄昏のサクちゃん激写」みっこが嬉しそうに笑った。
「それ、どうするの」
「もしかしたら、誰かに需要があるかも」
「そんなわけないじゃん」
「そうでもないかもよ?」
 トロッコ電車がガタン、と速度を落とす。瞬間、みっこの体ががくんと揺れた。右足を半歩後ろに置いてバランスを取る。僕は手を出そうとして、すぐ引っ込めた。その手を見せまいと思ったけれど、もう隠せない。
「ふふ、ありがと」みっこが優しく微笑んだ。
「何が?」
「何でもないけど。桜、好きなの?」
「いや、別に好きじゃないけど。ちょっと中途半端な季節だよね」
「そうね。だけど青葉も綺麗じゃない」
「まぁ綺麗なんだけどさ。一生に一度の修学旅行なんだからさ、せっかくなんだし京都の桜を見たかったなって思った」
 みっこは少し考えるふうに、自分の右頬を優しく触った。
 瞬きを短い間隔で数回する。長いまつ毛が、それ自体小動物のように飛び跳ねる。
「……サクちゃん。桜見たい?」
「へ? いや、まぁ、せっかくだしね。でももうとっくに」
「そうね。終わっちゃってる。残念ね」
 みっこは悪魔的な笑いを浮かべると、自分の座席へ歩いていった。早すぎる初夏の匂いが、みっこの制服のスカートを揺らす。自分の席に戻って、クラスメイトの一人にインスタントカメラを渡すと、渓谷を背景にピースサインをにこやかな笑顔と共に送った。あの写真欲しいな、と思ったけれど、どうやってもらえばいいのか分からない。
 ――誰かに需要があるかも。
 誰に? みっこに? あれはみっこのカメラだから、みっこは僕の写真を持ってくれるだろう。時々見てもらえるのだろうか。それともアルバムに挟まって、置き忘れられてしまうのだろか。僕がみっこの写真を手に入れたら、机の中に入れておく。やっぱりこの修学旅行が終わったら、一枚くらいみっこの写真を手に入れよう。同じ班なのだし、不自然ではないと思う。何なら、班員で取った写真でもいい。そして机の中に入れておこう。自分の席から、みっこがこちらを見た。目線が合う。(景色が綺麗ね)、というサインを目で送ってくる。僕にだけ分かる。あの視線は(綺麗ね)と言っている。僕は(二人で来たいね)というメッセージと共に視線を返した。しかしみっこは何をどう勘違いしたのか、ポセリを一本取り出して、僕に向かってゆらゆらと振る。(食べたくないよ)と視線を返すと、くすくす笑ってポキリと食べ始めた。もう僕に興味はなさそうだ。
 伝えるというのは難しいものだ、と思う。
 この前、公民館で感じたのは嘘じゃない。このままの関係が続くのなら、このままでいいのではないかと僕は思う。だけど青春は続かないものだ、ということは僕にも分かる。具体的には、たぶん高校からは続かない。確実に別々の高校に行くだろうから。そこでみっこは誰かを好きになるかもしれないし、誰かと付き合うこともあるだろう。それが普通だ。そして誰かと結婚するだろう。僕がその時、側にいれればいいけど、せめてみっこが幸せになればいいなと思った。そしてそんなことを既に思った自分に対して、おいおい、と思った。
 それからクラス写真を撮り、少しの自由時間が入った。僕はなぜか小牧にくっ付いて土産屋をぶらぶらとしていたけれど、これと言って何もない。テレホンカードを買っても仕方がないし、キーホルダーを買ったってどうしようもない。見ると小牧がいなくなっていて、軽く探したところレジで何やら買っていた。
「何買ったんだ。まだ一日目だぞ」
「いや……、我慢できなかった」
「何が」
 僕と小牧が揃って店を出る。ビニール袋から恭しく小牧が竹細工みたいなものを取り出した。
「南京たますだれ」
 ――ああ、店の中でテレビに映ってた大道芸人然の人がやってたあれだ。どうりで小牧がテレビの前から離れないと思った。魅了されていたのか。さては南京たますだれ。釣竿を作ったり、それがすだれに戻ってから柳になったりする。歴史を感じる鮮やかな文化だった。その土産用の安物だろう。僕は両手で顔を覆う。
「お前……、実は馬鹿だったんだな」
「馬鹿じゃない」
 小牧が南京たますだれの一端を持ちながら否定する。どういう構造になっているのか気になるらしい。ふいっと持ち上げた瞬間に、ばらばらと地面に落ちた。「あっ」「あーあー」小牧が慌てて全部の棒を拾うが、今度は元に戻らない。そろそろ自由時間の終了が迫っていた。「行くけど」と言うと、小牧はぐちゃと南京たますだれをビニール袋の中に入れた。後ほど片付けるつもりらしい。その慌てぶりに僕は心の底から落胆を隠せなかったが、それと同時にふつふつと友情を感じたことも隠せなかった。案外面白いライバルだ。ますます油断出来ない。
 僕らがクラスの集合に加わるのを見届けて、竹島が話を始めた。
「はい、静かにして。これからホテルに向かいます。ホテルに着いたら各自、決められた部屋は分かりますね。部屋に荷物を置いて、ロビーに一度集合。その後夕食になります。少しの自由時間の後、この時間に入浴です。班活動になります」
 滔々と竹島が話を続ける。その半分も頭に入らなかったし、別に竹島も僕の頭に入ることを期待してはいないだろう。そういう先生だ。学級委員と、まぁあとはみっこが分かっていればいい。みっこは真面目だし班長だから、僕と違ってその点しっかりと頭に入れるだろうし責任感もある。班のことはとりあえず任せてもいいだろうと思う。隣にいる小牧もいちいち頷きながら聞いているから、とりあえずは安心だろう。ちなみに班の中で係を割り振られない生徒はいない。僕は布団係というわけの分からない係で、ホテル内では室長に次ぐ権力を持ち、みんなの布団を支配する。ホテルという割に畳部屋なので、布団を敷くタイミング、朝畳むタイミングを僕が監督する。そんなものははっきりいってどうでもいい。どうでもいいから率先して僕はそれを選んだ。ホテルの部屋はクラスでだいたい六部屋。二班分の男子と女子がそれぞれ別れて、泊まることになる。班は全部で六つ。消灯は十時だ。
「スケジュールは各自、修学旅行のしおりを見て確認するように」
 と竹島はまとめた。それならば、別に説明は必要なかったと僕は思う。
 乗ってきたバスでホテルに着いた。室長である小牧が鍵を受け取る。小牧は部活に明け暮れて、係の決定にも顔を出せなかったため、一番面倒な役を知らぬ間に任されていた。室長は、もしかしたら班長よりも面倒くさい。夕飯、朝飯、風呂、消灯、先生からの伝達、先生への報告等、時間を管理しなければならないからだ。エレベーターに乗る。「何で俺が室長?」「もう諦めろよ」小牧が溜め息を吐きながら、紫色の透明なプラスティック棒が付いた鍵の鎖を指にはめて、くるくる回した。
「何階だっけ?」
「五階三十九号室。五三九。パンフレットに書いてあったろ」
「そうだっけ」
「お前って、見てるようで何も見てないのな」
 小牧が馬鹿にするように鼻で笑った。誤解のサク。あまり気分の良い数字じゃない。エレベーターが軽率な音を立てて止まる。着替えの入ったボストンバッグを持ち上げた。エレベーターを出て正面には窓があって、五階からの眺めが見えるかと思いきや、ただの隣の建物のベージュの壁が見えた。「壁、近いな」僕が窓に近づく。「まぁこんなもんだろ。修学旅行で泊まるトコなんてさ」小牧が先を歩く。何度か来たことがあるかのように迷いがない。「そっちなのか?」僕が尋ねると、小牧が黙って壁を指差した。三十?三十九号室は左に曲がれという案内が手書きで貼られていた。
「三十九号室は一番奥。眺め、いいかもよ?」
「だといいけどね」
 扉を開くと据えた畳の匂いが鼻腔を刺激した。入ってすぐはフローリングで右手にドアがある。開けてみるとユニットバスが付いていた。「風呂って」「ああ、下に共同ででっかいの、あるって書いてあったよ」小牧が答える。京都まで来て、ユニットバスはない。部屋の前にはふすまがあって、今は開いて、奥の部屋が見えた。六人が泊まるにしては、思いのほか狭い。荷物を部屋の隅に置いて布団を六枚敷いたらそれで面積が埋まってしまうんじゃないか。僕はそう思った。八畳くらいだろうか。もう少し広いか。僕の家のリビングよりは広い。最初は真っ白だったのかもしれないけれど、淘汰されてベージュになったかのようなのっぺりとした壁。左手には池に映る金閣寺の写真が飾られて、それが嫌味にあざとかった。小牧がボスッと部屋の隅に自分の荷物を投げて、窓に歩いていく。
 僕は飼育されている伝書鳩のような気分になった。毎朝、決められた時間に外へ出て行く伝書鳩だ。窓を開ける瞬間、きっとこんな気分なんだろう。飛び出したい。窓の向こうには、大きな空が広がってて、僕は電車がレールに乗るように、その空へ飛び出す。そんな気分だろう。小牧が安っぽい鍵を下に下ろして窓に手をかける。一気に開けた。
 やっぱりベージュの壁があった。
「……こんなもんかな」
「……こんなもんだな」
 小牧が軽く溜め息をついて笑った。僕も乾いた声で笑う。ボストンバッグを小牧の荷物の横に行儀よく並べて、畳の上にペタンと座り込んだ。「何か疲れた……」「じじいめ。まだ予定は詰まってるんだぞ」小牧が自分の荷物を空けた。パンフレットを取り出すのかと思ったら、南京たますだれを取り出して、元の状態に戻そうと考え始めたようだった。

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